冗談
「それは面白い冗談だ」
「実際お目にかけたほうが良いかもしれません」
「そうだな。私が試してみよう」
俺達は、前線近くまで行き、魔物を見つけた。
「それでこれでとどめを刺せばいいのか?」
「はい。多少気持ち悪さはありますが」
「私は大佐だぞ。そうそう気持ち悪くは感じまい」
大佐は魔物に瞬時に接近し、
首をはねる。
(どくん)
短剣は流れる血を吸い込んでいく。
「はは。これは確かに気味が悪い。しかし面白い剣だ。しばし使って良いか」
「はい」
そう言うと、大佐は笑いながら、魔物の中に突っ込んでいく。
三十分ほどして、血まみれになりながら、大佐は戻ってきた。
「この剣は良いな。すごく良い。何本ある?」
「五本は用意できます」
「ワシ用に一本欲しいところだが、ガマンしよう。前線に五本導入しよう。いくらだ」
「使っていただいて値を決めていただきたいかと」
「そうだな。じゃあとりあえず、通常の短剣と同じ額を支払おう。それで三か月使ってモチが長ければ、それに応じて支払う。それでどうだ」
「はい」
「数は入るか?」
「少し難しいかと、探してはみますが」
「そうか。では三か月後、こちらもぜひ欲しいようなら、また声をかける」
「はい」
軽く挨拶をすませ、俺達はセンターに戻る。
「ありがとうございます」
俺は頭を下げる。
「いや。こちらこそだ。あれで怪我人が減る。少しは休みも取れるだろう」
「そうですね」
俺はまたいつもの生活に戻る。
魔物を討伐し、包帯にヒールをかける。
それを繰り返した。
三か月が経ち、大佐がやってきた。
「大佐。お久しぶりです」
「あぁ止血長。元気だったか」
「はい」
「それであの短剣なのだが、通常の短剣の十倍だそう。できるだけ集めてくれ」
「わかりました。可能な限りやってみます。どうだったのか、感想を聞かせてもらっても」
「ワシの笑顔を見てわからんか?」
大佐はぎこちない笑みを浮かべてみせた。
「ぎこちないとしか……」
「ははは。武人というのは、笑顔が苦手でな。まぁ十倍出して、できるだけ集めてくれ。こんな言葉は軍部は口に出さんよ。それでわかるだろ」
「はい。私はただ感想が聞きたかっただけです。できる限り探させていただきます」
「これは前の金額への上乗せだ。取っておいてくれ」
「はい」
「それであの短剣」
「はい」
「他の軍の連中には流すな」
大佐は声を潜める。
「わかりました」
「うむ。困ったことがあれば、なんでも言え。ワシがなんとかしてやる」
「それであれば、探しに行くのに、休みを頂きたいと思います。こちらの調整が必要ですが、そうなった時は、是非お力添えを」
「あぁそうか。うむ。わかった」
大佐は帰っていった。
俺は現場を見て回る。
皆のレベルは問題ない。
近くの魔物討伐も問題はない。
私は地図を手に入れ、
近くの元神殿を探した。
馬車で数日のところに、三か所ほど見つかった。
倉庫の包帯の備蓄を確認する。
約二週間分。
俺はその包帯全てにヒールをかける。
準備は整った。
皆を集めた。
「ここ数日、皆のレベルを見せてもらった。想像以上に上がっていて、驚いた。
これであれば、十分任せることができる。
現在ある約二週間分の包帯は、私が全て確認した。
私はしばらく出るので、後は頼む」
「あのどちらに行かれるので?」
治癒士の一人が声を上げる。
「重要な調査だが、軍の秘匿事項に関わる可能性があるので、詳しくは言えない。
ただここから馬車で、数日のところにいるのは確かだ」
「連絡は?」
「一応冒険者を護衛に連れて行く。その者達を通じて連絡は取れるだろうが、基本連絡はつかないと思って欲しい」
皆はざわついた。
「ははは。君達は試験失格だな。いいか。これは君達が、俺抜きでできるかの試験でもある」
場が静まる。
「いいか。私が普段やっている事はなんだ?」
「見回りと討伐と包帯の確認です」
「そうだ。止血をやっているのを見たものは?」
「以前は行われていましたが、今は見ません」
「そうだろ。最近見回りで注意されたものは?」
皆顔を見合わせる。
「いないだろ」
皆頷く。
「討伐は俺がいなくても十分に回っている」
皆頷く。
「つまり包帯さえ、問題なければ、私には役目はないとも言える」
「そんな事は……」
「ははは。ありがとう。でもな実務レベルでは、実際そうなんだ。だから俺は別の意味で、また止血を行う」
再びざわつく。
「俺は思います。止血とは、その場の血を止めるだけではなく、今後流れるであろう血も止める事なのではないかと」
皆頷く。
「今日はまだいるから、気になることがあったら、言いに来てくれ」
「はい」
その日、質問しにくるものはいなかった。
少し寂しくもあったが、心強くもあった。
俺は大佐とカラシンに報告し、
ラスボラとアカヒレに信頼できる冒険者を紹介してもらった。
翌朝俺は冒険者と共に、馬車で神殿に向かう。
冒険者には、護衛任務ではあるが、前線ではなく、魔物と出会う可能性は低い。
それに俺自身が多少戦える。
探し物があるから、どちらかというと、荷物持ちだとだけ伝えた。
馬車の移動は、腰は痛いがのんびりとしたものだった。
数日かけて近くの神殿についた。
まず冒険者に中に敵はいないかを探索してもらう。
中はボロボロだった。
ただ短剣は二十本ほど見つかった。
「その短剣がお探しの?」
冒険者は目を細めた。
「いや。これが目当ての短剣かどうかはわからない」
「というと?」
「似た短剣は多いのだが、特殊な調査をしないと。見分けが付きにくいんだ」
「価値があるものなのですか?」
「私は価値があると思っているさ。しかしね。世界の価値というのは、思っているだけでは変わらない。わかるだろ」
「調査というところですか?」
「あぁそうなるな。まったく学者にとって、調査とは金がかかる」
「私達はそれで稼げるのですから、ありがたいですがね」
「ははは。そうだね。この短剣がハズレでも、君達が美味しいご飯を食えるなら、使った金も無駄じゃないってことさ」
冒険者達は笑った。




