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「例えば、どんな積み重ねですか?」
声が上がる。
「そうですね。俺は以前の職場の近くで、時間を見つけては弱い魔物を討伐していました」
「なぜ討伐を?」
「俺は弱い魔物であれば倒せますが、女子供だと弱い魔物でも勝てません」
「ですが、それは兵士に任せておけば」
「そうおっしゃるのもわかります。でも俺は討伐し続けました」
「それでどうなりましたか?」
「兵士や、調理の方など、いろんな方からの信頼を得ました」
「それで治療効果が上がったと?」
「いえ、わかりません。しかし信頼できる治癒士とそうでない治癒士なら、どちらに安心でしょうか?」
皆頷く。
「俺は身体が動く限り、周りの弱い魔物の討伐は続けます。そして冒険者二人にもお願いして、周りの魔物討伐をお願いしています」
「そこまでやる必要が?」
「過剰かもしれませんよね。しかしここは前線。皆さん不安に思った事ないですか?治療中に魔物が乱入してきたらどうしようとか」
「それはあります」
声が聞こえる。
「俺は思います。止血とは、その場の血を止めるだけではなく、今後流れるであろう血も止める事なのではないかと」
メモを取る音が聞こえた。
「あと俺は包帯を毎回確認しています。それで良い状態にした上で、止血を行っています」
「その包帯の確認方法は、教えてもらえるのですか?」
「残念ながら、これは勘的なものでして、お伝えはできないのですよ。それに効果が必ずあると立証されたわけでもない。恥ずかしながら、おまじないのようなものでして」
皆から笑みがこぼれた。
「たぶん大きく違うのは、その程度だと思いますが、何分、自分がやっている事と皆さんがやっていることの違いがわからない。それは現場を見て、随時指導していきたいと思います。ではよろしく」
それから、再び止血の日々が始まった。患者の数は以前の十倍を軽く超えた。
それでも日々、止血をこなした。そしてまた三か月が過ぎた。
「ケラ!順調にやってくれてるな」
カラシンが肩を叩く。
「できる限りの事は」
「しかし数が多いだろ」
「はい」
「まぁでも、君のやってる周辺の弱い魔物討伐。あれは良いな」
「そうですか?」
「あぁとても良い。兵士や関係者の精神の安定につながっているようだ」
「前線ですからね」
「強い魔物は目立つからな。しかし弱いのは意外と気が付かない」
「たしかに」
「どうだ。飯でも食わんか?」
「お供します」
俺達は軍の食堂に向かう。
上司と飯と言っても、特別なモノが食べれるわけではない。
堅いパンと豆のスープだ。
「それでどうだい。仕事は回っているか?」
「えぇなんとか。ところで戦況は?」
「三㎞前進したとはいえ、気が抜けないところだな」
「物資の流れが悪いようですが」
「そうだな。包帯も再利用してもらってるし、豆のスープばかりだ」
「冒険者は前線には加わらないのでしょうか?」
「兵士の給料は安いからな。難しいだろう」
「我らでなんとかできないものでしょうか?」
「我らでか……、権限は多少あるが、何ができるか?」
「兵士への武器の提供とかは?」
「武器の提供、なにか策があるのか?」
「実は私が弱い魔物討伐に使っている短剣が、どうも刃こぼれがしないようなのです」
「刃こぼれがしない?そんな事が」
「お見せします」
俺は短剣を渡す。
「ずいぶんきれいだな」
「実はこの短剣、一年以上毎日使っていますが、手入れしていないのです」
「なんだと?ありえないだろ」
「それがありえるのです。ただ奇妙な剣でして」
「どんな?」
「魔物の血を吸うのです」
「それは奇妙だな。しかし魔物の血を吸わせるくらいで、刃こぼれしないのなら、それは好都合だ。その剣は数が揃うのか?」
「私も行商人から、偶然手に入れた三本しか持っておらず」
「そうか。もし手に入るなら、結構な金で買い取ってもらえると思う。前線で成果を出し続ける兵士とかは、剣の損耗も激しいからな」
「なるほど。ではもし手に入るなら、お取次ぎ頂けますか?」
「あぁもちろん。それはいい手かもしれないな。短剣とは言え、刃こぼれしないのなら、それだけで兵の命が救われるかもしれん」
「それは?」
「あぁ、過酷な前線では、刃こぼれで命を落とす者も少なくないのだよ。血を吸うのは気味が悪いが、それで修復されるなら、それは優秀な剣だ」
俺はしばらく話をし、カラシンと別れた。
数日後、俺は休みを取り、神殿に向かう。
そして五本の短剣を入手した。
俺はカラシンに会いに行く。
「先日お伝えしていた短剣です。これをどうぞ」
「いま持ち合わせがないぞ」
「お渡し頂いて、向こうに値段をつけてもらってください。役に立たないものでしたら、返却くださって結構ですし、もしお気に召すようなら、また探します」
「まぁそうだな。わかった。渡しておこう。魔物の血を吸わせることで、刃こぼれしなくなる剣だったか?」
「それは少し表現が違います。ただ血を吸うわけではないようで、とどめを刺す時に、吸うのです。一度ご覧になられますか?」
「いや私は良い。そうだ君も来い。軍の上層部の人間を紹介する」
「はい」
俺はカラシンについていく。
そこは少し離れた建物だった。
「こちらがローチ大佐だ」
「はじめまして、ケラです。止血長をしております」
「君がケラ君か。この辺りの雑魚の掃除をしてくれているそうだな。助かっている」
「はい」
「それで今日は?」
「実はケラが面白い武器を持っておりまして」
「面白い武器?」
「刃こぼれしない短剣です」
「それは便利だな」
「こちらです」
「なかなかキレイな短剣だ。これは?」
「私が使って一年を超える短剣です。手入れは一切しておりません」
「君は毎朝、弱い魔物を結構な数狩っておるだろう」
「はい」
「それでこのレベル。たしかに良いかもしれないな。なにか裏があるのか?」
「魔物の血を吸うのです」




