新たなるしるべ
”ヴァリス”撃破から数週間後、ラウスはある程度の都市機能を取り戻していた。
そのころになるとラウスガードも元の運用ができるようになっていた。
前回の戦いからまだ傷が癒え切っていない状態で話が舞い込んでくる。
「最近シェイドシフターの様子がおかしいんだ。休眠状態だったものも目覚め始め移動を開始している」
そういって地図の一部を指さした。
指さした先はエアルの山の一角だった。
「まだ完全な目覚めではないらしく動きはゆっくりでまだほとんど動き出したとは言えない状態だが、なぜかみなそろってこの山へ向かっている」
説明をしている中、タリアが口をはさむ。
「その山、聞いたことある。たしか石がたくさん眠ってて私たちの間じゃ「神の山」として崇められてた」
「その神の山にシェイドシフターどもが集まりつつある、あそこには何があるんだ?」
「私が聞いた話だと姿を得られなかったものたちがコアだけの状態で眠り続けてる、とかなんとか……」
話を持ち込んだ人物はふむ、と首をかしげわからないといった顔をしていた。
「わからないが調査してみる必要がありそうだな」
地図を凝視しながらそういう。
その姿を見たタリアはすかさずに言葉を挟んだ。
「神の山なら何度かいったことがあるのでわかります。調査につれていってはもらえないでしょうか」
彼女のまなざしは鋭く、ある種の覚悟があった。
「構わない。むしろ現地の人間がいてくれるのは助かる」
「はい!」
タリアは喜ぶ。
その中でふと、カイはあることを思い出す。
好奇心だけで入ったスラム街、その先にあった”成れ果てた村”。
彼らは今どうしているのか、考えても仕方のないことだった。
そんな考えを巡らせている中、背中をたたかれる。
「何考えてるの?」
背中を叩いたのはタリアだった。
「いや、なんでもない」
悩みを振り払うように地図を見据え、覚悟を決めた。
「俺も連れてってください。コアさえあれば倒せます」
「君たちにも同行できるよう手配しておく。ああ、あとカイ君、君に手紙が届いていた、あとで見ておいてくれ」
新調された制服を着た人物はカイに手紙を手渡しどこかへ連絡をするために立ち去って行った。
「手紙?誰から?」
覗き込みながらタリアはカイに問う。
「この丁寧な手紙、一人しか心当たりがない」
そういって手紙の中身を見る。
手紙にはこう書かれていた。
”この手紙が届いてる頃にはこっちはチャートの最終結果が出てる頃。あなたが言ってたネビュラに物資を送ることも少しずつだけど叶うようになってきたわ。その代わり一つ問題が出てきてね。あのマッドサイエンティストが動き出したわ、あれを止めるには求めたものがどこにも存在しないことを教えるしかない。それを教える手助けをして。あれはそう遠くないうちにアトラスに帰ってきてまた地獄を作る気よ、だから最悪の場合───。”
殺してでも止めてくれ、そう締めくくられていた。
「ずいぶん物騒だね」
引き気味でタリアはそういった。
「これを書いたやつはそういうやつだ。俺も最初はそう思った」
呆れ気味に返す。
「とにかく、神の山かそのネビュラってとこか、どっち行くの?」
「そうだな……神の山は手配に時間がかかりそうだし先にこっち片づけるか」
そんな会話を繰り返してる間に壮年の男性が声をかける。
「話は聞いていたよ。入山にはそもそもエアルの許可も必要だから時間がなおさらかかる。それまでは自由にしてていい、その時はこれで伝える。もっておけ」
カイにとっては見覚えのある鉱石を手渡す。
「これ、”ラジオ”がないと使えないんじゃ」
言い切る前に男性がこう返す。
「知ってるじゃないか。あれぐらいアトラスにもある、向こうで借りなさい」
「貸してくれそうなあてはあるが……」
それではまた会おう諸君、と一言残して男性は去っていった。
「いいじゃん!貸してくれそうな人がいるだけ」
「それがこの手紙の主なんだよ。とにかく冷たくて、会えばわかる」
カイは手紙を開く前に折り畳み、そっとしまった。
「とりあえずグラットへ行こう。場所はわかるから案内する」
飛び出すように出ていくカイ。それを追いかけるタリア。
「ここからだと距離がある、乗せていってくれる馬車を探そう!」
カイはそう叫ぶと呼応するように声が返ってきた。
「どこまで行くんだい?」
その声に気づき声を返す。
「アトラス、市街地まででいい。できればグラットまで送ってくれ」
「また物騒なところに行くねぇ。こちとらあそこには近づきたくないんだ、グラットの手前まででいいか?」
「じゃそこまでで!」
二人は馬車に乗り込み馬車は動き出した。
「それにしてもなんでそんなところへ行こうとするんだ?」
馬車の主はカイたちに質問をする。
「知り合いに呼ばれたんだ」
「そんなところに呼びつける知り合いなんて恐ろしいね、ところで君いいものを持ってるね」
鉱石を見ながら馬車の主はそういった。
「これは大事なものだ」
「知ってるさ。これはあたしたちがいたころにあった”タクシー”ってやつだ。どっちにせよお代はいただくがその鉱石は持ってな。役に立つ」
「”あたしたちがいたころ”……?」
「ああ、どうやらここじゃ”時渡り”と言われてるみたいだね。そしてこうやって動き回るのも珍しいらしい」
笑いながら馬車の主は答える。
「何度か聞いたことがある、今の技術ではできないことができる人たちが突如として空から降ってくる、ってな」
ははは、と一通り笑ったあと馬車の主はこう続けた。
「ここに飛ばされる前にいた場所はいくら探してもなくてね。何か理由があってこうなったんだろうが気が付いたらここにいたようなものでね。どうしようもできないのさ」
馬車の主の声には哀愁も込められていた。
気が付けば知らない場所にいて、気が付けば言葉が通じない。
そんな状況では誰だっておかしくなってしまう。
しかし彼女はそうはならなかった。狂えなかった。
だからここで人を運ぶ仕事をしている。
馬車の主とカイたちは会話を弾ませながらグラットへと進んでいった。
その先にあの村を作るに至った元凶が向かっていることを知らずに。




