第99話 戦いの後、そして新たな謎
デストロイドラゴンとの絶望的な死闘が終わり、俺の意識が次に戻った時。
俺は見慣れない、無機質な白い天井を見上げていた。
いや、天井というにはあまりにも巨大すぎる。遥か高くに鉄骨が組まれ、無数のライトが俺を照らしている。
そこは、俺が最初に収容されていた、あの人工島の巨大格納庫だった。
俺の巨体は、格納庫の床に横たえられ、身体のあちこちには太いケーブルやパイプが接続され、様々な生命維持装置が取り付けられていた。
ピッ、ピッ、ピッ……という電子音が、俺の心拍を刻んでいる。
『……気がついたか、ヴァイスさん!』
俺の巨大な頭のすぐ横、床に設置されたスピーカーから、聞き慣れた懐かしい声が響いた。
アキラだった。
彼は片足にギプスをはめ、松葉杖をついていたが、その瞳は心からの安堵と喜びに潤み、輝いていた。地下で俺が作った風の繭のおかげで、高速射出の衝撃から身は守られたものの、着地の際に少し足を捻ってしまったらしい。
彼の隣には、タカギ司令も立っている。彼もまた、数日間の徹夜で刻まれた深い疲労の色を隠せない様子だが、その表情は憑き物が落ちたように晴れやかだった。
『……ここは……?』
俺はテレパシーで問いかけた。全ての力を使い果たした身体はまだ鉛のように重いが、思考ははっきりしている。
「統合軍の医療施設だよ。……あんた、10日間も昏睡状態だったんだぜ。……正直、もうダメかと思ったよ……」
アキラの声が震えている。
10日間。俺はそれほど深く眠っていたのか。
「……よくぞ生還してくれた、ヴァイス殿」
タカギ司令が静かに言った。
「……貴殿と、我が兵士たちの勇気が、この世界を救ったのだ。……言葉では言い尽くせないほどの、感謝を」
彼は帽子を取り、俺に向かって深々と頭を下げた。一国の軍隊を指揮する男の、最大級の敬意。
俺は、ふと疑問に思った。
『……俺は、地下五百メートルにいたはずだ。……どうやってここまで運んだ?』
俺の体重は数千トンある。しかも、あんな瓦礫だらけの地下深くから、どうやって地上へ引き上げ、海を越えてここまで運んだというのか。
「……それが、本当に大変だったんですよ」
アキラが松葉杖に寄りかかりながら、苦笑いした。
「統合軍の総力を挙げた『救出作戦』です。……まず工兵部隊が三日三晩かけて、あんたが空けた大穴をさらに拡張して、安全な搬出ルートを確保しました。それから、大陸中の大型クレーンと、軍の最新鋭の大型輸送ヘリを二十機も連結させて、まるで巨大なビルを一本釣りするみたいに……そーっと、そーっと吊り上げたんです」
タカギが補足する。
「世界中から技術者と資材を集めた。君を助けたいという一心で、誰もが不眠不休で働いてくれたのだ。誰一人として、文句を言う者はいなかったよ」
その光景を想像し、俺の胸が熱くなるのを感じた。
俺一人のために、世界が動いたのだ。
デストロイドラゴンの消滅は、全世界で確認された。人類は、未曾有の危機から救われた。この勝利は全世界で熱狂的に報じられ、その中心にいたのは伝説の竜ヴァイスと、彼と共に戦った統合平和維持軍だった。
俺と人類は、千年の時を超え、再び共に戦い、共に勝利した。この出来事は、俺と人類との間に揺るぎない絆を生み出した。もはや俺を怪物と呼ぶ者はどこにもいなかった。俺は、この時代の真の守護者として、全ての人々に認められたのだ。
それから、数週間の月日が流れた。
俺の傷の回復は、軍の最新医療技術(ナノマシン治療)と、俺自身の驚異的な生命力によって、医師団が舌を巻くほどの速さで進んだ。
その間、世界は安堵と、そして新たな謎への好奇心に満ちていた。テレビやネットでは、連日「プロジェクトD」の特集が組まれ、歴史から抹消された超技術の存在について、様々な憶測が飛び交っていた。
「デストロイドラゴンの技術を復活させ、人類の新たな力とすべきだ」と主張する過激な勢力。「二度とあんなものに手を出すな、歴史の闇に葬るべきだ」と訴える慎重派。
世界は、手に入れてしまった禁断の果実を前に、どうすべきか決めかねていた。
ある晴れた午後、俺は回復訓練として格納庫の周りをゆっくりと歩いていた。アキラも、すっかり治った足で俺に付き添っている。
「しかし、本当に大騒ぎだよな、世間は。デストロイドラゴンの技術を復活させろって言う過激な連中もいれば、二度とあんなものに手を出すなっていう慎重派もいる。意見が真っ二つだ」
『ふん。人間の歴史はいつもその繰り返しだ。力に憧れ、そして力を恐れる』
「まあね。でも、今回はちょっと違う気もするんだ。みんな、あんたが命懸けで守ってくれたこの平和を、どうすれば続けていけるのか、真剣に考えてる。……俺も、その一人だけどさ」
アキラはそう言うと、少し寂しそうな目で、かつて戦いのあった東の空を見上げた。俺たちの戦いは終わった。だが、巨大な謎が、まるで置き土産のように残されている。
俺たちの、本当の冒険は、まだ終わっていないのかもしれない。




