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白き風竜はときをゆく〜ドラゴンに転生した俺の悠久譚〜  作者: やまぐっち
【第三部 覚醒のサイバー・パンク編】星を渡る船

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第100話 星を渡る船

 デストロイドラゴンを巡る世界の議論が紛糾する中、タカギ司令は水面下で動いていた。

 彼は、あの地下施設に残された謎を解明することこそが、人類が進むべき道だと確信していたのだ。

 俺の回復を待って、彼は統合政府の上層部を説得し、ついに大規模な合同調査団の結成にこぎつけた。

 そのニュースは全世界に配信され、人々は固唾を飲んでその行方を見守った。「破壊」ではなく「解明」を。過去から目を背けるのではなく、向き合うことを選んだのだ。

 調査団には、軍の科学者だけでなく、世界中の大学や民間企業から、歴史学、考古学、物理学、言語学のトップクラスの権威たちが招集された。もちろん、第一発見者であり、ヴァイスの相棒である俺、アキラも、特別顧問として参加することになった。

 俺たちは出発までの間、ブリーフィングに参加したり、最新の調査機材のテストに付き合ったりと、慌ただしい日々を送った。


「ヴァイスさん、こっちが最新型の地中探査ソナーです。あんたの咆哮の反響波を解析して、地下数百メートルの構造を3Dマッピングできるんですよ!」


 アキラが目を輝かせながら説明する機材は、どれもこれも、俺たちの冒険心をくすぐるものばかりだった。


 そして、出発の朝。

 格納庫前の広大な滑走路には、調査団のメンバーと、彼らを乗せる超大型輸送機、そして山のような機材が並んでいた。

 タカギ司令が、俺に一人の女性を紹介してくれた。


「ヴァイス殿。紹介させてくれ。今回の調査チームのリーダーを務める、科学顧問のアーニャ博士だ。……君が戦っている時、地上で作戦の分析をしていた」

「そうでしたか。あの時は名乗る暇もありませんでしたね」


 アーニャ博士は、俺の巨体を見上げても物怖じすることなく、にこりと微笑んで頭を下げた。


「改めまして、お初にお目にかかります、ヴァイス殿。アーニャと申します。専門は古代考古学とエーテル工学です。……正直に言えば、あなた様にお会いできる日を、少女のような気持ちで待ちわびておりました。生ける伝説と共に歴史の謎を解き明かせるなど、学者としてこれ以上の誉れはありません」

『……よろしく頼む、博士。俺も、あんたの知恵を借りたい』


 俺がテレパシーで応じると、彼女は嬉しそうに目を細めた。

 タカギ司令が高らかに出発を宣言した。


「これより、我々は人類の未知なる過去への扉を開く! 全員の無事と、大いなる発見を祈る! 出発!」


 調査団のメンバーたちが、決意に満ちた表情で輸送機へと乗り込んでいく。

 轟音と共に、巨大な機体がゆっくりと浮上した。俺もまた、再生した翼を大きく広げ、大空へと舞い上がる。

 空は青く、風は心地よい。傷はまだ僅かに痛むが、自由に飛べる喜びがそれに勝っていた。

 数時間のフライトの後、俺たちは再びあの元不毛の大地、今は浄化され、青空が広がる荒野へ到着した。

 かつて戦いで穿たれた巨大なクレーターの近くには、軍の工兵部隊によって既に仮設の滑走路とベースキャンプが設営されていた。

 輸送機が砂煙を上げて着陸し、俺もその横にふわりと降り立つ。


「……空気が、美味いですね」


 タラップを降りてきたアーニャ博士が、深呼吸をして言った。


「かつては死の大地と呼ばれた場所が、あなたの力でこれほど清浄になるとは。……やはり、魔法の力は侮れません」


 俺たちは、以前使った搬出用リフトのシャフトを利用して、再び地下深くへと降りていくことになった。軍が用意した高出力の作業用ゴンドラを使って、人員と機材が次々と地下五百メートルの闇の中へ吸い込まれていく。


 施設の調査は、慎重に進められた。

 崩落した瓦礫を重機で撤去し、生き残った回線を繋ぎ直して、残されたデータを解析していく。

 アーニャ博士率いる科学者チームが、不眠不休で施設の残骸を徹底的に調査した結果、驚くべき事実が次々と判明していった。


 まず、この施設の建設時期。それは今からおよそ八百年前から七百年前。俺が二度目の眠りについてから二年ほど経った頃の出来事だった。


「……おかしいですね」


 ベースキャンプのテントで、アーニャ博士は首を傾げながら端末を操作していた。


「……この時代の技術レベルでは、こんな巨大な地下施設を建設することすら不可能です。ましてや、アンチ・マナ・フィールドや、高度な生命工学など存在するはずがない。……まるで、数百年、いや数千年後の未来の技術が、ここだけ唐突にタイムスリップして現れたかのようです……」


 統合軍のデータベースにも、この施設の記録は一切残っていなかった。


 そして、調査が進む中、彼らは施設の最深部、破壊されたデストロイドラゴンの格納庫のさらに奥で、決定的なものを発見することになる。


 調査員の一人が、格納庫の奥壁の一部に、不自然な亀裂が入っているのを見つけたのだ。


「博士! ここを見てください! 戦闘の余波でブレスがかすった痕跡があるんですが……この壁の向こう、空洞反応があります!」

「空洞? 図面には載っていないエリアですね……」


 アーニャ博士の指示で、重機による慎重な壁の撤去作業が行われた。

 ガガガガッ!とドリルが唸り、分厚いコンクリートの壁が崩れ落ちる。


 濛々たる土煙が晴れたその先。ライトに照らされた闇の中に、隠されていたさらに巨大な空間の入り口が、静かにその姿を現した。


 そこには、デストロイドラゴンの残骸など比較にならないほど異質で、圧倒的な存在感を放つ巨大な構造物が鎮座していた。


 全長数百メートルにも及ぶ、流線型の金属の塊。

 真空の宇宙空間を航行するために設計された、恒星間航行船スターシップのような形状をしていた。

 その表面は、未知の合金で覆われており、幾何学的な紋様が青白く発光している。


「……なんだ、これは……?」


 アキラが、ライトでその船体を照らしながら、呆然と呟く。


「……宇宙船……? まさか、異星人の……?」


 そして、俺はその船体の中央付近に、一つのエンブレムと、その下に記された文字を見つけた。

 その文字を見た瞬間、俺の全身に、雷に打たれたような衝撃が走った。心臓が、早鐘を打つ。

 その文字を、俺は知っていたからだ。


 いや、竜としての俺の知識にはない。だが、俺の魂の奥深くに眠る、遠い遠い、忘れていた前世の記憶が、それを強烈に覚えていたのだ。


「……どうしたんだい、ヴァイスさん?」

 俺のただならぬ様子に気づき、アキラが心配そうに尋ねる。

「……この文字が、読めるのかい? 古代語か何かか?」

『……ああ』

 俺は、震える声で答えた。

『……これは、俺の故郷の言葉だ』

「……故郷?」

 アキラはきょとんとした。

「……だって、ヴァイスさんの故郷は、この星のエルロード山脈のはずじゃ……」

『……違う。……もっとずっと遠い……。星の彼方だ』

 俺は、その文字を読み上げた。

 それは、俺がレンとして生きていた、あの世界の言葉。

 英語だった。

 そこに書かれていたのは、ただ一言。


『―――EARTH(地球)』


 その瞬間、俺の頭の中で、全てのパズルのピースが、音を立てて繋がったような気がした。

 この世界の、異常な技術発展の速さ。

 千年前のロストテクノロジー。

 俺という、異世界からのイレギュラーな転生者。

 そして、この地球製と思われる、未知の巨大宇宙船。

 デストロイドラゴンは、この船の技術を解析しようとした当時の人類が、誤って生み出してしまった怪物だったのか、


 この世界は、俺が思っていたよりもずっと複雑で、そして俺の前世、地球と、深く、深く繋がっているのかもしれない。


 デストロイドラゴンとの戦いは終わった。

 だが、それはこの世界の本当の謎、そして俺自身の運命の謎に迫る、新たなる物語の始まりを告げる鐘の音に過ぎなかった。

 俺は、その文字から目を離せなかった。

 懐かしく、そして切ない、故郷の名前。

 なぜ、それがここにあるのか。

 その答えは、この沈黙する船の中にあるはずだ。


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