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白き風竜はときをゆく〜ドラゴンに転生した俺の悠久譚〜  作者: やまぐっち
【第三部 覚醒のサイバー・パンク編】不屈の翼

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第98話 科竜の光

 誰もが、息を呑んで戦況を見守っていた。

 ナノマシンによる一時的な回復も、デストロイドラゴンの底知れぬ力の前に、徐々に意味をなさなくなりつつあった。

 兵士たちの犠牲は増え続け、俺の身体も再び限界を迎えようとしている。

 その時。


『―――ヴァイス殿! 今だ! 奴が撃つぞ!』


 タカギの絶叫が、俺の脳内に直接響き渡った。

 デストロイドラゴンが、兵士たちの執拗な攻撃に激昂し、ついにこの場の全てを消し去る最大級の対消滅ブレスを放とうと、口を大きく開けた。

 空間が震え、黒い光が凝縮される。

 そして、その胸のコアを守っていたシールドが、熱を逃がすためにカシャリと音を立てて展開し、無防備な蒼白い核が露出した。

 好機は今、この一瞬しかない。

 だが、俺にはもう、あの強固なコアを破壊するほどの強力なブレスを放つ魔力は残されていなかった。



 ―――地上、野戦指揮所。

 テントの中は、絶望的な空気と、モニターが発する無機質な光に満たされていた。


「ダメだ……! ヴァイス殿のバイタルが危険水域に! このままでは……!」


 オペレーターの悲痛な声が響く。

 その隣で、俺、アキラは血眼になっていた。目の前のコンソールには、地下でスキャンしたデストロイドラゴンの膨大なデータと、ヴァイスに関するありとあらゆる歴史文献、神話、伝承のデータが、洪水のように表示されている。


(何かあるはずだ……! 何か、この状況を打開するヒントが……!)


 俺の指は、まるで別の生き物のようにコンソールの上を踊っていた。

 デストロイドラゴンの装甲強度、エネルギー効率、行動パターン。どれもこれも、表示される数値は絶望的なものばかりだ。

 だが、諦めるわけにはいかない。ヴァイスは、まだ戦っている。俺が諦めたら、誰が彼を救うんだ。

 ふと、彼の言葉が脳裏をよぎった。千六百年前、魔王ゼノンという強大な敵を倒したと。その時、彼は一人ではなかった。勇者カイルという、最高の相棒がいたはずだ。

 トレジャーハンターとしての勘が、囁きかける。答えは過去にある、と。


 俺は、統合軍の巨大な歴史データベースにアクセスし、魔王大戦について検索した。

 一瞬で、何千件もの英雄譚や、真偽不明の伝承がヒットする。ほとんどはおとぎ話として脚色されたものだ。だが、その中に、ごく一部、軍の機密資料として保管されている、古代遺跡から発掘された石版の解読記録を見つけた。


『―――勇者カイル、聖剣エクスカリバーを天に掲げ、白竜ヴァイスの嵐のブレスと融合させし時、聖なる光の槍となりて、魔王の闇を貫きたり―――』


 これだ!

 俺は椅子から転げ落ちそうになるのを堪え、その一文に食らいついた。


 合体技!

 ヴァイスの魔法と、何か別の強大なエネルギーを融合させることで、威力を飛躍的に増幅させる奥の手。

 だが、今は聖剣もなければ、勇者もいない。聖剣エクスカリバーは、魔王との戦いで砕け散り、失われたと記録にある。


(いや……待てよ……? 聖剣の代わりになるものは……あるじゃないか!)


 俺の脳裏に、一つの閃きが稲妻のように走った。

 聖剣エクスカリバー。その正体は、古代文明が鍛えたオリハルコンの剣に、神々の祝福……純粋な光のエネルギーを宿したものだとされている。


 純粋な、光のエネルギー。

 それなら、現代にもある。科学の力で作られた、究極の光が。

 衛星軌道上にある、統合軍の最終防衛システム「神の杖」。惑星規模の脅威に対抗するために作られた、超高出力の衛星レーザー。

 科学の粋を集めた、人類最強の「剣」。


 あれなら、聖剣の代わりになるかもしれない!

 俺は、隣で戦況を分析していた科学顧問の女性に、半ば叫ぶように問いかけた。


「博士! 神の杖のエネルギー特性は!? ヴァイスさんのブレス……風のマナと融合させることは可能ですか!?」

「何ですって!?」


 博士は驚愕に目を見開き、すぐさま部下に指示を飛ばした。


「神の杖のスペックと、ヴァイス殿のブレスのエネルギー波形データを重ねて! 相性シミュレーションを最高速で回しなさい!」


 数秒後、モニターに表示された結果を見て、博士は顔を青くした。


「……無茶よ、アキラ君。エネルギーの性質が違いすぎる。水と油だわ。神の杖は純粋な熱量と光子の奔流、ヴァイス殿のブレスは未知の粒子『マナ』による物理現象。衝突すれば互いに干渉し、拒絶反応で暴走、空中で大爆発を起こす可能性が99.9%以上よ!」

「でも、ゼロじゃない! ゼロじゃないなら、賭ける価値はある!」

「その0.1%に、この星の運命とヴァイス殿の命を賭けるというの!? あまりに無謀すぎるわ!」


 博士の言うことは正しい。だが、俺は引き下がらなかった。


「博士、千年前、彼らはやったんです!」


 俺はコンソールを操作し、先ほどの石版の記録を彼女の前に映し出した。


「聖剣はただの光じゃない、神聖なエネルギーだ。神の杖の太陽光レーザーも、元をたどれば生命の源。性質は似ているはずだ! ヴァイスさんの風が、光を包み込んで『導く』ことができれば、軌道を制御できるかもしれない! ぶつけるんじゃない、融合させるんだ!」


 俺の必死の訴えに、博士は「論理が飛躍しすぎている」と呻きながらも、モニターに映る傷だらけのヴァイスの姿を見て、科学者としての探究心に火がついた。

「……わかったわ。シミュレーションを継続。爆発を回避し、エネルギーを安定融合させるための『触媒』となるパラメータを探しなさい! 急いで!」


 その時、地下のヴァイスのバイタルサインが急激に低下した。


「司令! ヴァイス殿の生命反応が……!」


 もう時間がない。タカギが最終的な決断を下す。


「アキラ君、君の閃きと、ヴァイス殿との絆に賭けよう。衛星管理部門! 第3象限を周回中の防衛衛星『アマテラス』が、30秒後に射線に入る! それに合わせろ! アキラ君、軌道計算を!」

「はい!」

『―――ヴァイスさん! 俺の声を聞いてくれ!』


 俺は、地下の相棒に向かって、必死に叫んだ。


『……千年前の記録を解析した! ……勇者カイルとの、あの合体技をやるんだ! 「聖嵐の極光ホーリー・テンペスト」を!』


『……何!? だが、聖剣はない! カイルもいない!』


『……聖剣はない! ……だが代わりはある! ……空を見ろ!』


 俺の言葉に促され、地下深くのヴァイスが、天に開いた大穴を見上げた。


 その空から、一条の巨大な光の柱が、デストロイドラゴンのコアめがけて真っ直ぐに降り注いできた。


 静止衛星軌道上にある最終防衛システムから放たれた、超高出力の衛星レーザー。

 天から降り注ぐその純粋なエネルギーの輝きは、かつてカイルが掲げた聖剣の輝きと、どこか似ていた。


『……ヴァイスさん! あの光にあんたのブレスを合わせるんだ! 光の進路上に、横から風を吹き込むように! ぶつけるな、流れに乗せるんだ!』

『……科学と魔法の融合! ……あんたと俺たちの絆の力なら、奇跡を起こせる! 計算は完璧だ、タイミングは俺が合わせる!』


 俺は、モニターに表示される複雑な軌道計算を睨みつけながら、叫んだ。

 地下では、ヴァイスが血に濡れた口元で、ニヤリと笑ったのが、彼のバイタルサインの変化で分かった。


 面白い。

 やってやろうじゃないか。

 千年の時を超えた、聖竜合一技。

 いや、「科竜合一技」とでも言うべきか。

 ヴァイスは、残された全ての魔力と生命力を、喉元の一点に収束させた。


 そして、天から降り注ぐ光の柱、その光線が自身の真横を通過する、コンマ数秒のタイミングを見計らって、渾身の力でブレスを放った。

 白く輝く『テンペスト・ブレス』が、直進する青いレーザー光線に、側面から竜巻のように絡みついていく。


 二つの力が、激しく反発し、暴発しかける。

 だが、ヴァイスの風のマナが、光子の奔流を優しく包み込み、その流れを導いていく。

 科学の光と魔法の風が混じり合い、白と青の美しい螺旋を描きながら、一本の巨大な光の槍へと変貌した。

 その槍は、俺の計算通りに先端の軌道をわずかに変え、ブレスを放とうとしていたデストロイドラゴンの懐へと、吸い込まれるように潜り込んだ。


 ズドオオオオオオオオッッ!!!!

 光の槍は、デストロイドラゴンの放った対消滅エネルギーすらもかき消し、その胸の無防備なコアを、正確に貫いた。



 ―――世界から、音が消えた。

 バシュウウウウウッ……!


 コアを貫かれたデストロイドラゴンの動きが、完全に停止した。


 そして、その巨体の内側から、ひび割れるように光が漏れ出し始める。

 グググ……と、苦悶のような、あるいは解放されたかのような低い音が響く。

 巨大な身体が、足元からゆっくりと光の粒子となって崩れ落ちていく。


 俺は見た。

 最後に、その虚無だった赤い瞳から、ふっと力が抜け、破壊の呪縛から解放された機械が機能を停止する際の、ただ静かで、安らかな光へと変わっていくのを。

 破壊するために生まれ、破壊することしか許されなかった悲しい存在が、ようやくその永い役目から解放され、無に還っていく。


 人類の負の遺産は、人類と竜の手によって、ようやく浄化された。


 俺たちは、勝ったのだ。

 俺と、千年後の仲間たちが、共に。

 俺は、勝利の咆哮を上げる力もなく、その場に崩れ落ちた。

 薄れゆく意識の中で、生き残った空挺部隊の兵士たちが、武器を掲げて歓声を上げているのが、遠くに見えた。

 彼らが俺に駆け寄ってくるのを感じながら、俺は深い、深い安らぎの闇へと沈んでいった。









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