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白き風竜はときをゆく〜ドラゴンに転生した俺の悠久譚〜  作者: やまぐっち
【第三部 覚醒のサイバー・パンク編】神話との対話

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第78話 全世界への目覚め

 俺が示した、古式ゆかしい「騎士の礼」。

 その人間的で理知的な仕草は、全世界に衝撃と興奮の巨大な渦を巻き起こした。

 『新ガイアポリス』のセクター7地区、中央交差点の上空には、さらに増えた報道用の無人ドローンが無数に集まり、蜂の群れのような羽音を立てている。彼らは、アスファルトを砕いて現れた純白の巨竜と、それに銃口を向けたまま固まっている統合平和維持軍との、奇妙で静かな対峙を固唾を呑んで見守っていた。

 世界中のあらゆる巨大ディスプレイ、摩天楼のホログラムスクリーン、そして個人の網膜インプラント端末に、その光景がリアルタイムで映し出されている。


『信じられない……!あの超巨大生命体は、我々と同じ、いやそれ以上の知性を持っているというのでしょうか!?』

『――専門家の見解が入りました! あの前足を胸に当て、頭を垂れるポーズは、千年前の魔法時代における騎士道の「非敵対」の意思表示と完全に一致しています!』

『彼は……いや、あの竜は、我々と対話を望んでいるのでしょうか!?』


 現場の最前線では、司令官のタカギが額の汗を拭いながら、すぐさま次の行動を起こしていた。

 彼はこの千載一遇のチャンス、あるいは一触即発の危機を乗り越えるため、軍に所属する古代言語学や異種生物学の専門家たちを現場へと緊急招集させていた。だが、彼らが軍のヘリでこの封鎖された交差点に到着するには、まだ数十分の時間がかかる。

 その間にも、周囲の緊張は限界まで高まっていく。言葉が通じない以上、兵士の誰かが恐怖に耐えきれずに誤射でもすれば、その些細な誤解が街一つを消し飛ばす悲劇を生む可能性は十分にあった。


 俺は、じれったい思いでコンクリートの地面に顔を近づけたまま、じっと動かずにいた。

 俺の「敵意がない」という意思は伝わったはずだ。だが、そこから先の詳細を伝える手段がない。

 巨大な爪でアスファルトに文字を書こうかとも思ったが、道路を削ればまた「破壊行為」とみなされ、彼らをパニックに陥らせかねない。


(アキラ。あいつはどうした……?)


 俺は、視線だけを動かして、自分が飛び出してきた巨大な縦穴を盗み見た。

 まさか、地下の神殿に置いてけぼりにされて、途方に暮れているんじゃないだろうな。

   

__________________________________


 その頃、地下三十メートルの暗闇の中。

 アキラ、ガストン、シルビアの三人は、息を切らしながら泥濘むトンネルを走っていた。

 ヴァイスが天を穿って飛び去った巨大な風穴を登るのは、装備のない彼らには物理的に不可能だった。そのため、アキラの提案で彼らは「来た道」を全力で引き返していたのだ。


「ハァッ……ハァッ……! なんで俺が、あんなバケモンの後を追って走らなきゃならねえんだ!」


 重い工具袋を腰に下げたままのドワーフ、ガストンが文句を垂れる。


「文句を言う暇があるなら足を動かしなさい! このままここにいたら、いずれ探索部隊に捕まってテロリスト扱いで一生牢屋行きよ!」


 エルフのシルビアが、軽やかな足取りで瓦礫を飛び越えながら怒鳴り返す。


「二人とも、もう少しだ!シールドマシンが見えたぞ!」


 アキラが懐中電灯の光を向けると、そこにはドリルが停止したままの巨大なシールドマシンがあった。周辺には、作業員たちが地震と轟音にパニックを起こして逃げ去った痕跡、放り出されたヘルメットや、倒れたコーヒーの紙コップが散乱していた。


「メインのエレベーターは避難した連中が使って、上でロックされてる! 機材運搬用の非常リフトを使うぞ!」


 アキラが指差したのは、壁沿いにむき出しで設置された、錆だらけの金網のケージだった。本来は人を乗せるものではない、ただの資材用リフトだ。アキラは躊躇なくその無骨な金網の中に飛び込み、手招きで二人を急り立てる。


「冗談じゃないわ、あんな隙間だらけの鳥かごで三銃士メートルも登る気!?」

「エルフの美学には反するかもしれないが、背に腹は代えられない! 早く!」


 シルビアが顔をしかめながらも身軽に飛び移り、最後に巨体のガストンがドスンドスンと足音を立てて乗り込むと、ケージは重みでギシッと不吉な音を立てて大きく沈み込んだ。


「落ちても文句言うなよ!」


 ガストンが太い指で油まみれの起動スイッチを叩き込む。


 ガガガガッ! と、古びたモーターが断末魔のような悲鳴を上げ、太いワイヤーがピンと張り詰める。直後、凄まじい振動と共に、金網のケージがむき出しの岩肌スレスレを擦りながら、猛スピードで地上へと引き上げられ始めた。


 ガコン、ガシャン! と揺れるたびに、錆や小石がバラバラと頭上から降り注ぎ、三人は互いに身を寄せ合う。下を見れば底なしの暗闇、上を見れば遥か彼方に豆粒のような地上の光。生きた心地のしない数十秒間の強制的な垂直上昇。


 普段なら大勢の作業員でごった返しているはずのプレハブ小屋の周辺は、不気味なほど静まり返っていた。皆、謎の地震と怪物の出現に怯え、すでに避難シェルターへと逃げ去った後だった。


「誰もいないわね……。アキラ、ここからどうするの? 歩いてあの交差点まで行く気?」

「そんな悠長なことしてる暇はない!軍隊がヴァイスさんを攻撃する前に、俺が間に合わなきゃダメなんだ!」


 アキラは辺りを見回し、そして一台の車両に目をつけた。

 キーがつけっぱなしになって放置されている、建設局のロゴが入った大型のオフロード用作業車だ。


「ガストン!あんた、車の運転は得意だったよな!?」

「はぁ!? おいおい、まさかあれをパクろうってのか!? 俺の罪状をこれ以上増やす気かよ!」

「後で俺が全部買い取ってやるから、今は頼む! ドワーフの度胸を見せてくれ!」

「……クソッ、言ったな! 一番高い酒もつけとけよ!」


 ガストンは半ばヤケクソで運転席に飛び乗り、アキラが助手席、シルビアが後部座席へと滑り込む。


 キュルルルッ、ブォォォォン!!


 重厚なエンジンが咆哮を上げ、オフロード車は泥を跳ね上げながら工事現場のフェンスを突き破り、表通りへと躍り出た。

 街の光景は、まさに阿鼻叫喚の爪痕だった。

 乗り捨てられたエアカーが道を塞ぎ、割れたショーウィンドウのガラスが散乱し、あちこちで火災報知器が鳴り響いている。


「しっかり捕まってろよ! ドワーフの荒業、見せてやる!」


 ガストンは太い腕でハンドルを巧みに操り、放置された車両の隙間を縫うように、歩道に乗り上げながら猛スピードで街を駆け抜けていく。


「きゃあああっ!」


 後部座席でシルビアが悲鳴を上げる中、アキラは助手席でインプラント端末のマップを開き、最短ルートを叫び続けた。


「次の角を右! その先の高架下を抜けたら、中央交差点だ!」

 やがて、前方に重厚なバリケードと、サーチライトの強烈な光が見えてきた。

 統合平和維持軍が敷いた、何重もの封鎖線だ。装甲車が道を塞ぎ、武装した兵士たちが警戒に当たっている。


「おいアキラ! 完全に封鎖されてるぞ! これ以上は無理だ!」

「突っ込め! いや、ギリギリで止めてくれ!」

「無茶苦茶言うなァァァッ!」


 キキィィィィィィィィィィッッ!!!!


 ガストンがブレーキペダルを力一杯踏み込む。ゴムが焼け焦げる激しい匂いと白煙を上げながら、オフロード車は軍の装甲車のわずか数メートル手前で、横滑りしながら停車した。


「な、何だ貴様ら!」

「止まれ! 車から降りて手を上げろ!」


 即座に十数人の兵士たちが駆け寄り、アサルトライフルの銃口を車に向けた。強烈なライトが三人の顔を照らし出す。

 アキラはドアを蹴り開け、両手を高く上げながら車から転がり出た。


「撃たないでくれ! 俺は民間人だ!」

「民間人はシェルターへ退避しろと勧告が出ているはずだ! なぜ封鎖線を突破しようとした!」


 兵士の一人がアキラをアスファルトに組み伏せ、背中に膝を押し付ける。後れて車から降りてきたガストンとシルビアも、両手を上げて固まっていた。


「頼む、話を聞いてくれ! 俺は司令官に用があるんだ! あの竜のことで!」


 その騒ぎを聞きつけ、最前線で竜と対峙していたタカギ司令が、眉をひそめて歩み寄ってきた。


「どうした。こんな状況で民間人がなぜここにいる」

「司令! こいつら、工事車両で強行突破を図りまして……」


 タカギの姿を見た瞬間、アキラはアスファルトに顔を押し付けられながらも、必死の形相で叫び続けた。


「司令! 話を聞いてくれ!俺はアキラ!古代遺跡専門のトレジャーハンターだ!」

「セクター7地下の、リニア中央幹線の工事現場、あそこの地下三十メートルの岩盤の下で、俺はあの竜が眠る千年前の神殿を見つけたんです!」


「……地下の神殿、だと?」


 タカギの眉がピクリと動く。


「そうです!数ヶ月前から古地図と現代の地質データを照合して、あそこに『風竜の聖域』があると確信して潜り込んだんだ。」

「さっき、地下のシールドマシンが原因不明の停止したんです。あれはドリルの刃が、神殿の絶対防壁に当たったからだで、俺がこの遺跡の第一発見者で……そして、あのヴァイスさんと最初に話した人間なんです!」


 タカギは息を呑んだ。

 地下掘削現場での、原因不明のシールドマシン緊急停止と、直後に観測された異常なエネルギー反応。先ほど建設局から報告に上がってきたばかりの現場のトラブル情報と、この泥だらけの若者の証言が、不気味なほど完全に一致している。

 彼は狂人ではない。事実を知る重要参考人だ。


「……ヴァイス、だと?」


 その名前に、タカギ司令の足がピタリと止まった。彼は鋭い眼光でアキラを見下ろし、小さく手を挙げて兵士たちを制した。


「……放してやれ。……詳しく話せ、若者」




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