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白き風竜はときをゆく〜ドラゴンに転生した俺の悠久譚〜  作者: やまぐっち
【第四部 銀河の嵐編】神話の始まり

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第130話 最後の生存者

「私が行きます」

ミカサが即座に手を挙げた。

「アーク級の構造を一番理解しているのは私です。それに、姉妹船の同胞たちの最期を……この目で見届けたい」


「……わかった。だが、危険すぎる。俺は船長としてここに残って指揮を執る。ミカサ、君に調査隊の指揮を任せる」

「了解しました。……目標は、より船体の損傷が少なく、内部データが残っている可能性の高い、国連軍の旗艦『ホープ』とします」


 編成された調査隊は、ミカサをリーダーに、観測士官のリオン、そして護衛として数名の精鋭兵士たち。

俺は、ホログラムのままアキラの横に立ち、言った。


『……俺も、ここから見守る。……何かあれば、すぐに飛んでいけるようにな』


 小型探査船が発進し、漆黒の宇宙を滑るように進んでいく。


 目標は、巨大なホープ号の脇腹にぽっかりと口を開けた、戦闘によるものか、あるいは内部からの破裂によるものか、巨大な亀裂部分だ。

俺たちは、ブリッジのメインスクリーンに映し出される、彼らのヘルメットカメラの映像を固唾を飲んで見守っていた。


『……ビーグル2よりアルゴス。ホープ号の船体裂け目に接近。ここから船内へ侵入します』


 パイロットの緊張した声が響く。

探査船は、巨大な鋼鉄の傷口へと、慎重に吸い込まれていった。

船内は、無重力と完全な暗闇、そして不気味な静寂に支配されていた。


 ミカサ、リオン、そして護衛兵たちは、磁力ブーツのスイッチを入れ、カツン、カツンと金属の床を踏みしめながら、ブリッジを目指して進んでいく。


ホープ号の船内は、ジェネシス号以上に異様な光景だった。

至る所が、奇妙な灰色の金属質のつたのようなもので覆われている。

それは植物のようでありながら、無機質な光沢を放ち、船の配線やパイプと融合し、まるで船そのものが生き物のように脈打っているかのようだった。


「……なんだ、これは……?」

護衛の兵士が、不気味そうに銃口を向ける。

「……植物? いや、金属だ。……船が錆びているのか?」


 ミカサが、分析スキャナーをかざす。

数値を見た瞬間、彼女の顔色が変わった。


「……待って。……この物質構成パターン……。まさか……」


 彼女が何かに気づき、叫ぼうとしたその時。

一人の兵士が、何気なくその蔦に触れようと手を伸ばしていた。


「……動くな! 触っちゃダメ!!」

ミカサの絶叫が通信機に響く。


だが、遅かった。

兵士の指先が蔦に触れた瞬間。

シュルルッ!

死んでいたはずの灰色の蔦が、まるで生き物のように蠢き、鋭い針となって兵士の腕に突き刺さった。


「うわっ!?」


兵士が悲鳴を上げ、腕を振り払う。

だが、それは合図だった。


ザワザワザワ……ッ!!


 船内の通路を覆っていた全ての灰色の蔦が、一斉に覚醒し、蠢き始めたのだ。

壁から、床から、天井から。無数の金属の蛇が、鎌首をもたげ、調査隊へと殺到してくる。


「……こいつら、生きているのか!?」

「総員、戦闘開始! 撃てぇッ!」


 兵士たちがレーザーライフルを乱射する。

だが、レーザーで焼き払われた蔦は、瞬時に周囲の金属や瓦礫を取り込み、傷を修復し、さらに増殖していく。


「……くそっ、キリがない!」

「ミカサさん、下がって!」

リオンがミカサを庇いながら叫ぶ。


「……船長! 聞こえますか!」


ミカサが、パニックになりそうな心を抑え、冷静かつ早口で報告する。


「……これは植物じゃありません! アークのデータベースにある、禁断の技術……『自己増殖型ナノマシンコロニー』です!」


「……ナノマシン……!?」

ブリッジのアキラが驚愕する。


「……本来は船の自動修復のために使われるはずの極小ロボットたちが、何らかの原因で制御を失って暴走し、独自の進化を遂げてしまったんです! ……彼らは金属も、エネルギーも、有機物さえも……全てを喰らって増殖します!」


 内側から食い破られたような船の残骸。

その犯人は、この暴走したナノマシンたちだったのだ。

彼らは、この宙域の船を次々と襲い、取り込み、このホープ号を巣として繁殖していたのだ。


「……撤退だ!すぐに船に戻れ!」

アキラが叫ぶ。


「……ダメです!出口が……!」

 モニターに映ったのは、背後の通路が灰色の壁によって完全に封鎖されている光景だった。

ナノマシンは知能を持っているのか、彼らの退路を断ち、袋小路へと追い詰めていたのだ。


 全方向から迫りくる金属の波。

弾薬は尽きかけ、シールドのエネルギーも残りわずか。

絶体絶命。


俺は、ブリッジで歯噛みした。


『……俺が行く!』

俺は、叫んだ。

『……俺が外から船ごと焼き払うか、壁をぶち抜いて助け出す!』


だが、間に合うか?

俺が到着するまでの数分の間に、彼らは飲み込まれてしまうかもしれない。

アキラも、顔面蒼白でモニターを見つめている。


「……くそっ……! 何か、何か手は……!」


 ミカサたちが、覚悟を決めたように身を寄せ合う映像が映る。

灰色の津波が、彼らの頭上に覆いかぶさろうとした、その瞬間。


カッ!!!!


 ホープ号の船内の奥深く、暗闇の向こうから、一筋の青白い閃光が迸った。

その閃光は、正確無比にナノマシンの群れの中枢を貫き、瞬時にして灰色の壁を焼き払った。

ジューッという音と共に、金属の蔦が溶解し、崩れ落ちる。

ミカサたちの目の前に、一本の道が切り開かれた。


「……え……?」

「……なんだ……今の光は……?」

 リオンが、呆然と光の飛んできた方向を見る。

暗闇の中から、カツ、カツ、と重い足音が響いてくる。

磁力ブーツが床を叩く音だ。


 そして、非常灯の薄明かりの中に、一つの人影が浮かび上がった。

それは、ボロボロに傷つき、継ぎ接ぎだらけになった、古びた旧式の宇宙服に身を包んだ、一人の男だった。

 その手には、青白く輝くエネルギーの刃、ビームサーベルが握られている。

男は、ミカサたちの前で足を止めると、ゆっくりとヘルメットのバイザーを上げた。


 そこに現れたのは、白髪混じりの髭を蓄えた、厳しい顔つきの壮年の男の顔だった。

その瞳は、千年の孤独と戦い抜いてきた者だけが持つ、鋭く、そしてどこか哀愁を帯びた光を宿していた。


 彼は、掠れた、しかし力強い声で言った。

真空の宇宙服越しに、通信機を通して。


「……助けは……不要だったかな……? ……若いの」


ミカサが、その男の胸元にある、擦り切れたエンブレムを見て息を呑んだ。


 それは、アークと同じ、数千年前の地球宇宙連合軍の紋章。

そして、その下に刻まれた階級章と名前。


「……まさか……。あなたは……」


彼は、ニヤリと笑った。

「……待っていたぞ。……ずっと、な」


 この宇宙の墓場で、たった一人。

千年の時を、ナノマシンの脅威と戦いながら生き延びてきた、最後の生存者。

伝説の英雄が、今、俺たちの前にその姿を現したのだ。


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