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白き風竜はときをゆく〜ドラゴンに転生した俺の悠久譚〜  作者: やまぐっち
【第四部 銀河の嵐編】神話の始まり

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第125話 眠れる庭師

「……わからない。でも、答えはあそこにあるはずよ」


ミカサは、コロニーの中でひときわ巨大なメインドームを指差した。

俺の巨体では、とてもドームの中には入れない。


『俺はここで待機する。ミカサ、お前たちだけで行ってこい。通信は繋いでおく。何かあれば、この扉ごと破壊してでも助けに行く』


俺は、ビーグル号と繋がっている通信機を通して、彼らにそう告げた。


「了解。気をつけて、ヴァイス」


 ミカサは俺の巨体を一度見上げると、決意を固めた表情でクルーたちを率いてドームへと向かった。

メインドームの入り口と思われる巨大な円形のエアロックゲートは固く閉ざされ、下半分は完全に砂に埋もれていた。

 屈強な護衛兵たちが最新鋭のレーザーカッターで焼き切ろうとするが、アークの船体と同じ超硬度合金で作られているのか、高出力のレーザーを浴びても表面がわずかに変色するだけで、傷一つ付かない。


「ダメです! 我々の機材では歯が立ちません!」

「くそっ、これじゃ中に入れないじゃないか……」


 絶望的な声が漏れる中、ミカサが静かに前に進み出た。


「……待って。私にやらせてみて」


 彼女はゲートの中央にある、今はもう光を失った認証パネルに、自らの掌をそっと押し当てた。彼女の手の甲に埋め込まれたアークの識別チップが、微かな起動音を立てる。

ゲート全体が、うっすらと青い光を放った。


『……生体認証スキャン。……アーク級船長権限コード、『ミカサ・アスカ・コードウェル』を確認。……ようこそ、船長』


 合成音声が響き渡る。だが、ゲートは開かない。


『……警告。マスターセキュリティが作動中です。当コロニーは現在、長期休眠モードにあり、緊急時以外の外部アクセスは許可されていません』

「緊急時以外の…? ならば、緊急時だということをどうやって証明すればいいの?」


 ミカサが問いかけるが、AIからの応答はない。ただ、冷たい警告メッセージが繰り返されるだけだった。


「ダメか……。船長権限だけでは、扉は開かないみたいだ」


 クルーたちの肩が、がっくりと落ちる。

俺も、外からその様子をモニター越しに見守っていた。科学の扉は、科学の鍵で開けるのが筋だろう。俺の魔法が介入すべき場面ではない。彼らが自力で道を見つけるのを、信じて待つことにした。


 ミカサは諦めなかった。彼女は一度パネルから手を離すと、自らのフライトスーツの胸ポケットから、一枚の古いドッグタグを取り出した。それは彼女の父親の形見であり、アーク船団計画の最高責任者の一人であった人物の認識票だった。


「……ならば、これでどう?」


 彼女は、そのドッグタグに刻まれた微細なQRコードのようなものを、認証パネルにかざした。それは、単なる身分証明ではない。アーク計画の最高レベルの機密情報にアクセスするための、物理的なマスターキーの一つだった。

パネルの光が、青から黄金色に変わる。


『……第二認証キー、『アーク計画最高評議会』議長コードを確認。……セキュリティレベルを最高位に移行。……ようこそ、議長代理。マスターセキュリティを解除します』


 その言葉と共に、AIの警告音声が止んだ。

ゴゴゴゴゴ……という重々しい駆動音と共に、数千年間閉ざされていたゲートが、砂をこぼしながらゆっくりと内側へとスライドしていく。


「開いた……!」

「船長のドッグタグに、そんな権限が……!」


 クルーたちの驚きの声が響く。ミカサ自身も、父が遺した小さな形見が、これほどの力を持っていたことに驚きを隠せない様子だった。


『……よくやったな、ミカサ』


 俺の労いの言葉に、彼女は「ええ」と短く応えると、決意を固めた表情でクルーたちを振り返った。


「行くわよ。何が待ち受けていても、怖気つかないで」


 暗く静まり返ったドームの中へ、彼らはライトを片手に足を踏み入れた。

『アキラ、聞こえるか? 俺もホログラムで同行する。中の様子をリンクしてくれ』


 俺はアルゴス号にいるアキラに指示を出し、彼らのヘルメットカメラと俺の視覚を繋いだ。俺の意識の一部が光の粒子となり、ミカサたちの後を追うように、開かれたゲートの中へと滑り込んでいく。


 ドーム内に入った瞬間、俺たちが踏み込んだ床のパネルから光のラインが走り、天井の非常灯がチカチカと明滅し始めた。予備電源が、俺たちの生体反応を感知して再起動したのだ。

通路の奥から、先ほどと同じ無機質な機械音声が流れてきた。


『―――ようこそ、議長代理。並びに、後継者たち。中央制御室へ案内スル』


 光のラインが、俺たちを導くように奥へと伸びていく。警戒しながらも、俺たちはその光に従って進んだ。

 たどり着いたのは、ドームの中心部、巨大な球状の空間だった。その中央に、巨大なホログラムの光球が、心臓のように静かに明滅している。


『―――我ハ、自律型惑星テラフォーミングシステム「ガイア・プライム」。……コードネーム「庭師」』

『―――コノ星ハ、遥カ昔、地球ヨリ飛来シタ探査船団ニヨッテ発見サレ、未来ノ移住地トシテ改造サレタ「約束ノ地」ナリ』

「あなたが、ガイア・プライム……」


 ミカサが、目の前の超知性体を見つめて問いかける。


「……ならば聞きます。なぜ、テラフォーミングは終わっていないの? この星は、なぜ今も不毛のままなのですか?」

『……計画ハ、失敗デモナイ。……タダシ、成功デモナイ』


ガイア・プライムは淡々と答えた。

『当初ノ計画デハ、数百年デ緑化ヲ完了スル予定デアッタ。ダガ、コノ星系ノ主星ガ放ツ予測不能ナスーパーフレアト、コノ惑星固有ノ強力ナ磁場ノ影響ニヨリ、初期ニ散布シタ微生物コロニーガ幾度モ壊滅。計画ハ大幅ナ遅延ヲ余儀ナクサレタ。シカシ、我ハ主ノ最後ノ命令ニ従イ、二千五百年ノ間、絶エズ環境ノ再構築プロセスヲ継続シテイル』


 その言葉に、俺たちは衝撃を受けた。

この赤い大地は、失敗した廃墟などではなかった。気の遠くなるような時間をかけて、少しずつ、少しずつ地球と同じ環境へと近づけようとしている、その途方もないプロセスの真っ只中だったのだ。


「……二千五百年もの間、たった一人で……この星を耕し続けていたのね……」


ミカサが、感嘆と畏敬の念を込めて呟いた。




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