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白き風竜はときをゆく〜ドラゴンに転生した俺の悠久譚〜  作者: やまぐっち
【第四部 銀河の嵐編】神話の始まり

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第119話 アルゴス号建造

 会議室の扉を開けると、油と葉巻の混じった独特の匂いが、俺たちの鼻を突いた。

部屋の中央では、一人の小柄だが岩のように頑強そうなドワーフが、葉巻をふかしながら俺たちを睨めつけるように出迎えた。顔の半分を覆う見事な赤茶色の髭、油にまみれた作業着、そして腰にはスパナや得体の知れない計測機器がじゃらじゃらとぶら下がっている。


「……おう、遅かったじゃねえか、若造ども。待ちくたびれて髭が一本白くなっちまったぞ」


 彼は豪快に笑うと、ズンズンと歩み寄り、アキラの肩を挨拶代わりにバシッと叩いた。


「痛っ!?」

「ひ弱だなあ、総責任者が聞いて呆れるぜ! これじゃあ宇宙の荒波は渡れんぞ? ……ワシの名はボルツ。ボルツ・アイアンハンマーだ。ドワーフ族一の機関士エンジニアよ。金属加工とエンジンの調整なら、神様相手でも負ける気はしねえ」


 ボルツは、俺の巨体を見上げると、ニヤリと歯を見せて笑った。


「……へっ、それにしてもデカいな、竜の旦那。あんたのその鱗、最高にいい素材だ。こいつを船の装甲に一枚剥がさせちゃくれねえか? もちろん、ちゃんと許可はもらうがな!」

『……手加減しろよ。俺の鱗はタダじゃないぞ』


 俺が返すと、彼はさらに大きく笑った。

 その横には、静謐な空気をまとったエルフの女性が立っていた。長く銀色に輝く髪、森の湖のように深い瞳。


「……お初にお目にかかります、ヴァイス様。私はエルウィンと申します。エルフの森より、生命維持システムと環境構築のアドバイザーとして参りました。この船を、ただの鉄の箱ではなく、緑と生命の息吹に満ちた『第二の故郷』にすることが、私の役目です」


 アキラ、ミカサ、アーニャ、ボルツ、エルウィン。そして俺。

 種族も、専門も、性格もバラバラな俺たちが、一つの夢のために、この月面の基地で奇跡的なチームを結成したのだ。俺たちは、このルナ・ベースに拠点を据え、来る日も来る日も議論を重ねることになる。


 会議室の巨大な窓の外には、青く輝く母星と、建設途中の巨大な船の骨格が見えていた。


「……まず、この船の心臓部、推進システムからだ」


 アキラが、ホログラムで投影された設計図を広げ、熱弁を振るう。


「……ヴァイスさんの風の魔力は、ただの物理的なエネルギーじゃない。デボアラー戦で見せたように、あれは空間そのものに干渉し、歪曲させる力を持っている。この原理を、アークの重力制御システムに応用すれば……既存のワープ理論を超える、全く新しい超光速航法が可能になるはずなんだ!」

「……ふん、理屈はわかるがな」


 ボルツが、太い腕を組み、口ひげをいじりながら唸る。


「そのデリケートな魔力エネルギーを制御するエンジンを、どうやって作るというんだい? 通常の合金じゃあ、ヴァイスの魔力密度に耐えきれず、一瞬でメルトダウンだぞ。ドワーフ秘伝のアダマンタイトを使ったとしても、冷却が追いつかん」

「……それなら、古代エルフが使っていた『世界樹の循環システム』が応用できるかもしれません」


 エルウィンが、静かに手を挙げて発言した。


「……マナの流れを、金属のパイプではなく、植物の葉脈のように有機的なパターンで船体全体に分散させるのです。そうすれば、一点にかかる負荷を極限まで減らし、船体そのものを一つの巨大な『杖』として機能させることができます」

「……なるほど! バイオメタルと魔法回路のハイブリッド構造か!」


 ミカサが目を輝かせて反応する。


「それなら、アークの自己修復ナノマシンを組み合わせれば、損傷しても自動で回復する『生きた船体』が作れるわ。アーニャさん、いけるかしら?」

「ええ、理論上は可能ですわ」


 アーニャがデータパッドを高速で叩きながら答える。


「ヴァイス様の細胞構造を応用すれば、船体の自己修復を促進する特殊なナノマシンを培養できます。船が傷つくたびに、ヴァイス様のように自ら治癒していく……まさに夢のような船になりますわね」


 科学と魔法、そして竜の力。

 異なる文化、異なる技術が、一つのテーブルの上でぶつかり合い、そして融合していく。

 俺もまた、彼らの熱意に応え、自らの魔力波形や身体構造のデータを惜しみなく提供した。


『俺の翼の被膜構造を見てくれ。風を受けるだけでなく、魔力を効率よく推進力に変えるための微細な溝がある。これをエンジンの放熱板に応用できないか?』

「!! これだ……! このフィン構造なら熱問題を解決できるかもしれん!」


 ボルツが、俺の翼の拡大図に食い入るように見入る。

 俺のアドバイスに、技術者たちが一斉に計算を始める光景は、まさにこの星の新しい時代の象徴だった。


「推進システムの話ばかりしているが、ヴァイスさんの『居住空間』はどうするんだ?」


 議論が白熱する中、アキラがふと口にした。


「あの巨体だ。まさか船倉に閉じ込めておくわけにはいかないだろう?」

「それなら、船体下部に専用の多目的ハンガーを設けるのがいいでしょう」とミカサが提案する。「小型艇の発着にも使え、緊急時にはヴァイス様がいつでも船外へ出撃できる。天井高は最低でも100メートルは確保したいわね」

「寝床はどうする? 竜は硬い床でも平気なのか?」

『……気遣いは嬉しいが、クッションなどはいらん。母の巣も、ただの岩肌だったからな。落ち着ける広ささえあれば十分だ』

「わかった。なら、床材は熱や衝撃に強い特殊セラミックにしよう」


 そして、船の名前を決める会議では、さらに議論が紛糾した。


「『フェニックス』はどうだ? 我々の文明の再生を象徴する名だ」

「いえ、ここはやはり『ホープ(希望)』でしょう」

「『ヴァイストリオン』なんてどうです? ヴァイス様と勝利ヴィクトリーをかけて」

 アーニャの案に、俺は思わずホログラムの姿で眉をひそめた。





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