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白き風竜はときをゆく〜ドラゴンに転生した俺の悠久譚〜  作者: やまぐっち
【第四部 銀河の嵐編】神話の始まり

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第117話 希望の船出

 タカギはそこで言葉を切り、別室で固唾を飲んで成り行きを見守る青年の写真をスクリーンに大きく映した。まだ若さの残る、しかし意志の強い瞳をしたアキラの顔写真だ。


「……そして、この前人未到の計画を率いる総責任者として、私はアキラを強く推薦する」


その瞬間、議場は大きなざわめきに包まれた。


「アキラだと?」

「英雄であることは認めるが、彼はまだ若すぎる!」

「軍の指揮経験も、政治的手腕もない一青年に、我々の未来を全て託すというのか、タカギ司令!」


タカギは、その喧騒を手で制した。彼の声には、絶対的な確信がこもっていた。


「そうだ。彼だからこそ、託せるのだ。彼は、デボアラーとの戦いにおいて、ヴァイス殿との絆を力に変え、我々を勝利に導いた。だが、私が彼を推薦する理由はそれだけではない。彼の持つ、歴史への深い造詣と、既成概念に囚われない柔軟な発想。そして何よりも、種族や立場の違いを超えて人心を掴むその不思議な力。それこそが、どんな歴戦の軍人や老獪な政治家にもない、この未知なる旅に不可欠な資質だと、私は確信する!」

「我々大人が失いかけている、純粋な好奇心と、他者を信じる心。それこそが、彼の最大の武器なのだ」


 タカギの熱のこもった演説に、議場は再び静まり返った。誰もが、その言葉の重みを噛み締めていた。

最後に、ミカサが静かに立ち上がった。彼女の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。


「……皆様。私たちは、かつて故郷を失いました。……それは、私たちが外の世界に目を向けず、自分たちの星の中だけで完結しようとした結果です。……その過ちを、私はこの星で繰り返したくはありません」


彼女の声は、か細いが、議場の隅々まで凛と響き渡った。


「……どうか、皆様の子供や孫たちの未来を、考えてみてください。彼らが、私たちのように故郷を追われることなく、無限の可能性が広がる宇宙へと羽ばたいていく未来を。……アキラ君と、そしてヴァイス様になら、私たちはその夢を、未来を、安心して託せます。彼らは、希望そのものなのですから」


 彼女の涙ながらの訴えが、最後の決め手となった。最初に反対したドワーフ王が、大きく、そして深く頷いた。それに続くように、他の代表たちも次々と賛同の意を示していく。


 やがて、議場は万雷の拍手に包まれた。それは、過去のしがらみを乗り越え、この星の全ての民が、一つの未来へ向かって心を一つにした瞬間だった。


別室のモニターでその様子を見守っていたアキラは、ゴクリと喉を鳴らし、自らの掌に滲む汗をスーツで拭った。「総責任者」という言葉の重みが、ずしりと両肩にのしかかる。だが、それは決して不快な重圧ではなかった。

 仲間たちの信頼と、この星の未来への期待。その全てを背負い、必ずやり遂げてみせるという、熱い決意が胸の奥から湧き上がってくる。


 こうして、地球の超科学と、この星の魔法の根源たる俺の力を融合させた、人類初の「有人深宇宙探査船」を建造する計画が、正式に始動した。

新ガイアポリス宇宙港のドックは、歴史的な船出を前にした独特の熱気に包まれていた。


 純白の船体に青いラインが描かれた最新鋭の小型シャトル。そのタラップの下では、見送りに来たタカギ司令が、フライトスーツに着替えたアキラの肩を固く掴んでいた。


「……アキラ君。……改めて言う。この星の未来を、君とヴァイス殿に託す。……無茶はするな。だが、お前ならやれると信じている」

「はい、司令。必ず、最高の船を造ってみせます。そして、最高の土産話を持って帰ってきますよ」


 固い握手を交わし、タカギが少し離れた場所で見守る中、アキラは隣に立つミカサに視線を移した。彼女もまた、体にフィットしたフライトスーツに身を包み、その理知的な表情をわずかに高揚させている。


「ミカサさんも、大丈夫ですか? その……地球人として、また宇宙へ旅立つのは……」

「ええ、平気よ。それに、今度は独りじゃない。……貴方や、アーニャさん、そしてヴァイス様がいる。それに……」


彼女は、空を見上げた。

「帰るべき場所が、この星にはあるもの。……だから、これは絶望の旅じゃない。希望の旅よ」


 そこへ、一台の車が猛スピードでドックに滑り込んできた。運転席から飛び出してきたのは、白衣をはためかせた小柄な獣人の女性だった。


「はぁ……はぁ……ごめんなさい! 研究所の最終データバックアップに手間取っちゃって!」


息を切らしながら駆け寄ってきたのは、天才科学者のアーニャだった。


「アーニャさん!もう来ないかと思いましたよ。置いていっちゃうところでした」

「あら、ひどい! 私がいなければ、クルーたちの健康管理はどうするつもりだったのかしら?」


 アーニャはぷんぷんと尻尾を振りながらも、すぐにいたずらっぽく片目をつぶやいた。


「研究所の引き継ぎは大丈夫でしたか?」とミカサが尋ねる。

「ええ、なんとか。私の弟子たちが優秀で助かったわ。でも、あの子たちったら『先生がいなくなったら寂しい』なんて泣き出しちゃって。お土産に、未知の宇宙植物のサンプルを約束させられちゃった」

『……相変わらず、せわしない小娘だな』


 俺がテレパシーで茶々を入れると、アーニャはにこりと笑った。


「ヴァイス様もご健在そうで何よりですわ。この10年で、貴方の自己修復能力の基礎理論はほぼ解明できましたが、本番はこれからですもの」


彼女の瞳が、知的な好奇心にきらりと輝く。


「未知の宇宙放射線や、高次元空間が貴方の魔力や肉体にどんな影響を与えるのか……。考えるだけでワクワクしてきますわ。ふふ、最高の共同研究者……いえ、大切な旅の仲間ですものね。しっかりデータ、取らせていただきますから」

『……やれやれ。科学者というのは、どの世界の者も変わらんな』


アキラ、ミカサ、アーニャ。そして俺。

デボアラーとの戦いを潜り抜けた仲間たちが、再びここに集った。その視線は、期待と少しの不安を乗せて、遥か上空、月の軌道上へと向けられていた。


「よし、全員揃ったな」


アキラが、仲間たちの顔を見渡し、力強く宣言した。

「出発だ。俺たちの、本当の冒険を始めよう」

彼らはタラップを上がり、船内へと姿を消していく。シャトルのハッチが閉まり、噴射の衝撃が足元から伝わってくる。俺は船外で翼を広げ、青白い魔力の輝きを放ちながら、銀河へと続く最初の一歩を踏み出したのだった。



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