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白き風竜はときをゆく〜ドラゴンに転生した俺の悠久譚〜  作者: やまぐっち
【第三部 覚醒のサイバー・パンク編】未来への架け橋

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第115話 星々の守護者

 ミカサの感情が落ち着くのを待って、タカギ司令が優しく彼女の肩に手を置いた。


「立ち話もなんです、ミカサ船長。詳しい話は、我々が用意した場所で。さあ、こちらへ」


 タカギに促され、ミカサは初めてゆっくりと周囲を見渡しながら、アークの船外を歩き始めた。彼女の目に映るのは、驚きの連続だった。

巨大なクレーターの縁に沿って、最新鋭の重機が整然と稼働し、瓦礫の撤去作業を進めている。屈強なドワーフの工兵たちが、掛け声を上げながら巨大な鉄骨を溶接し、その隣では、エルフと思しき研究者が、浮遊する分析ドローンを操って地質の調査を行っている。


 ベースキャンプでは、様々な種族の兵士や技術者たちが、肌の色も、耳の形も気にすることなく、当たり前のように言葉を交わし、共に汗を流していた。

その光景は、ミカサが知る、人種や国家間で争いを繰り返していた地球とは、あまりにもかけ離れていた。


「ここは……」

「デボアラーとの最終決戦の跡地です。ですが同時に、ここは我々人類の希望の始まりの場所でもあります」


タカギが誇らしげに答える。

 彼らが案内されたのは、ベースキャンプの中央に建てられた、プレハブだが清潔で機能的な会議室だった。中に入ると、暖かい飲み物と、彼女の身体に合わせた栄養バランスの考えられた温かい食事が、すでに用意されていた。この星の人々の細やかな配慮が、ミカサの凍てついた心をさらに解きほぐしていく。

 その場所で、統合政府とミカサ船長との間で、正式な会談が行われた。

タカギ司令は、彼女に一枚のホログラム地図を示した。


「……これは、新ガイアポリスの一角、海を見渡せる丘の上に用意した、新しい居住区の計画図です」


そこには、緑豊かな公園や、彼らの文化を尊重したデザインの住居、最新の研究施設などが描かれていた。


「我々は、貴方たちの生活の全てを保証します。衣食住はもちろん、教育、医療、そして市民権も。……貴方たちは難民でも、捕虜でもない。この星の、新しい家族なのです」


 そのあまりに手厚い待遇に、ミカ-サは深く、深く頭を下げた。

そして、彼女は決意に満ちた表情で顔を上げた。


「……タカギ司令。そして、ヴァイス様。……私たちの命を救い、尊厳を守ってくださったご恩、決して忘れません」


 彼女は、懐から一枚のクリスタルチップを取り出した。それは、虹色の光を放つ、美しい記憶媒体だった。


「……これは、我々アークが保有する、全科学技術データのマスターキーです」


その場の空気が張り詰めた。それは、世界を支配できるほどの力を持つ鍵だ。


「……私たちは、これをこの星の人々に提供することを約束します。……対消滅エネルギーによる恒久的なクリーンエネルギー機関。……あらゆる病の根源に介入し、失われた四肢さえ再生させる高度な医療用ナノマシン技術。……そして、重力を制御し、星々の間を渡るための次元航行技術」


ミカサの言葉に、アーニャ博士が息を呑んだ。


「失われた四肢の再生まで……。我々がヴァイス殿の治療に使った軍事用ナオマシンは、あくまで傷の応急処置と強制的な治癒促進が限界。あなた方の技術は、まさに生命の設計図そのものにアクセスするレベルなのですね……」


「はい」とミカサは頷いた。

「この力を、どうか、平和のために使ってください。……貴方たちなら、そして……ヴァイス様が見守るこの星なら、それができると信じています」


それは、この星の文明レベルを、一足飛びに千年先へと進める、まさに神からの贈り物だった。

タカギは震える手でそれを受け取り、誓うように頷いた。

「……約束しよう。この遺産は、未来への光として、大切に使わせていただく」



それからの変化は、劇的だった。

アークの技術は、この星が抱えていた最後の課題をも解決へと導いた。恒久的なクリーンエネルギーはエネルギー問題に終止符を打ち、高度な医療ナノマシンは「老化」という生物学的な限界すら克服する道筋を示した。人々は病や老いの苦しみから解放され、その「健康寿命」は飛躍的に向上。誰もが生涯を通じて若々しく活気に満ちた人生を送れるようになったのだ。


 さらに、次元航行技術の基礎理論は、物理学の常識を覆し、誰もが星々の海に夢を馳せる時代が訪れた。成層圏まで続く巨大な「宇宙エレベーター」の建設も、現実的な計画として始動した。

ミカサの協力の下、残りのクルーたちも少しずつ覚醒し、彼らの持つ高度な知識と技術は、この星の発展に大きく貢献した。人間も、亜人も、そして新たに加わった「地球人」という種族も、互いの違いを認め合い、手を取り合って新しい社会を築き始めた。


 かつて俺が、カイルが、そしてルナミリアが夢見た理想郷。それが、予想もしなかった形で、今ここに実現しようとしていた。



 そんな平和な日々が数年ほど流れたある日。

俺は、アキラとミカサと共に、完全に再生された東の大地に立っていた。

 かつて不毛の荒野だった場所は、今では見渡す限りの深い緑の森に覆われていた。風が木々を揺らし、小鳥たちが歌っている。

その中心には、宇宙船アークと、俺がデボアラーと戦った姿を象った、巨大な記念モニュメントが建てられていた。


「……すごいよな。……ほんの数年でここまで変わるなんて」


 アキラが、森の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、感慨深げに呟いた。


「……これも全て、ヴァイスさんと、ミカサさんたちがもたらしてくれた奇跡だ」

「いいえ」


ミカサは、穏やかな風に髪をなびかせながら、静かに首を振った。


「……これは奇跡ではありません。……この星の人々が、自分たちの手で、汗を流して掴み取った未来です。……私たちは、ほんの少し、その手助けをしたに過ぎません」


 彼女は、モニュメントを見上げ、そして俺の方に向き直った。その瞳は、どこまでも優しく、そして何かを決意したような、強い光を宿していた。


「……ヴァイス。……あなたに一つ、提案があります」

『……なんだ? 美味い飯の話なら歓迎だぞ』


 俺が冗談めかして言うと、ミカサはふふっと笑い、それから真剣な顔に戻った。


「……私たちと共に、宇宙へ行きませんか?」


そのあまりにも唐突で、壮大な提案に、俺もアキラも言葉を失った。


「……え、う、宇宙へ……?」


アキラが素っ頓狂な声を上げる。


「はい」


ミカサは、空の遥か彼方、昼間でも見える月の方角を指さした。


「……私たちは故郷を失いました。……ですが、私たちの旅はまだ終わってはいないのです。……この宇宙にはまだ、我々の知らない無数の世界が広がっています」


彼女の声に熱がこもる。


「……デボアラーのような脅威は、まだ他にも存在するかもしれない。……あるいは、別の箱舟に乗って脱出した、地球の同胞たちがどこかの星で助けを待っているかもしれない」

「……私たちは、アークの技術を用いて、新たな恒星間宇宙船を建造する計画を立てています。……失われた同胞を探すために。……そして、二度と我々のような悲劇が繰り返されないよう、銀河の平和を守るために」


彼女は、俺の瞳をまっすぐに見据えた。


「……その旅には、あなたの力と知恵が必要です。……あなたという、異種族との架け橋になれる奇跡の存在がいてくれれば、どんな未知の文明とも、きっと友好を結べるはず」


「……どうでしょう、ヴァイス? ……この星の守護者としての役目は、もう十分に果たされました。……今度は『星々の守護者』として、私たちと共に新しい冒険の旅に出てはくれませんか?」



銀河。

星々の海。


その言葉の響きは、俺の心の奥底で眠りかけていた、原初の冒険心を強烈に揺さぶった。

この平和な世界で、アキラたちとのんびり暮らすのも悪くない。

だが、俺の魂は知っている。俺は、一つの場所に留まり続けるには、あまりにも大きくなりすぎてしまったことを。

そして何より、俺の好奇心は、まだ見ぬ世界を求めて疼いているのだ。


 千七百年以上生きてきたが、俺の知らないことは、まだ宇宙の星の数ほどある。


『……面白そうだな』


俺は、ニヤリと笑った。牙がキラリと光る。


『……いいだろう。……その話、乗ってやろうじゃないか。……この狭い空も、少々飛び飽きてきたところだ』

「やった!」

「本当ですか!?」


ミカサが手を叩いて喜び、アキラがガッツポーズをする。


「もちろん、俺も行くぜ!」


アキラが、俺の足元に駆け寄り、興奮気味に鼻息を荒くした。


「……伝説の竜と、古代地球人と一緒に、宇宙の遺跡を巡るトレジャーハンター! ……へへっ、考えただけでワクワクが止まらねえや! 辞退するなんて言わせないからな!」

『ふん、当たり前だ。……俺の背中の座り心地を知っているのは、世界でお前だけだからな』


俺たちの新たな冒険の舞台は決まった。

この小さな星を飛び出し、無限に広がる星々の海へ。


 そこには、どんな出会いが、どんな強敵が、そしてどんな感動が待っているのだろうか。

風竜ヴァイスの物語は、まだ終わらない。


いや、本当の物語は、これから始まるのだ。

俺は空を見上げた。

風が吹いている。

それは、遥か銀河の彼方から俺を呼ぶ、新しい時代の風だった。



―――第三部・完―――

―――第四部・銀河の風編へ、続く―――



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