傲慢の魔王
「フェルシオン……!」
ここが魔王ルシファーが治めるとされている街。
そして、俺が初めて訪れる街となるのだ。
クラウンさんは門番に話をしている辺り、通してもらう様に頼んでいるのだろう。
もう少しで街に入れるのは嬉しいんだが……一つ問題がある。
「ルフェさん、一つ聞いてもいいですか?」
「何でしょうか?」
「このままいくと間違いなく、姫様歓迎ムードなのでは……?」
「そんな大袈裟なものではありませんよ? 道行く人とすれ違いざまに手を振る程度です。他の国みたいに大きな出迎えでもありませんし」
「そうなんですか? 姫様が帰ってきたとなったら、カーニバルとかがある時みたいな人だかりがあるもんかと……」
「私があまりそういうのは好きではないので。コッソリ出て行って、コッソリ帰ってくるみたいな感じなんです。ほら、馬車だって普通でしょう?」
言われてみれば、確かにそうだ。
この世界は貴族とかがこういうの乗ってるんだろうなと考えていたりしたが、なるほど。
確かに王族ならもっと凄い馬車に乗っていてもおかしくはないはずだが、目立たないために他と一緒にしているとはな。
「でも、警護がいる時点で違うと感じるんじゃ」
「騎士と言っても、王族だけを守るのが役目じゃないんですよ? 貴族だって護衛したりもしています」
つまり、大丈夫だと言いたいんですね、わかりました。
あれこれ言って、ここで分かれて、街の中に入っていくつもりだったが、ここまで言われると逃げられないな。
少しするとクラウンさんがこちらへと駆け寄ってきて、ルフェさんを見て頷く。
ルフェさんはそれを見ると、微笑みながらこちらを見てくる。
「お待たせしました。中に入る許可をもらえた様です。改めて言わせてもらいます。ようこそ、フェルシオンへ」
「ユージ、楽しみだね!」
「ん? あぁ、そうだな」
俺はその前に会わないといけないであろう魔王様のことで頭がいっぱいだよ。
大丈夫だろうか? いきなり戦闘とかないよね?
もしそうなったら、瞬殺されること間違いないんだろうな……。
そんなことを考えていると馬車が動き出し、門を潜って、街中へと入っていく。
中へ入ると、目に入ったのは色々な種族と賑やかな街だ。
人間にエルフ、ドワーフや獣人など様々なのがいるのがわかる。
それもヘルプさんによると人間嫌いのハズのエルフが人間と楽しそうに会話をしているのだ。
更にはファンタジーではよく犬猿の仲とも言えるはずのドワーフとも会話をしているのが目に入る。
街の入り口だからなのかわからないが、窓から外を見ていると、やたらと店が多い。
飲食店に道具屋、武器屋や防具屋などがあるのが見える。
中には冒険者らしき装備をしている人たちも目に入る。
「楽しそう……!」
「ピギッ!」
メイは窓から見える景色を興味深そうに見ており、スイムもメイの頭の上に乗りながら外を見ている。
心なしか、目の代わりにあのスライムボディが輝いている様にも見える。
後、メイの視線が主に屋台の方へ行ったりしているのは気のせいだろうか。
いや、食欲旺盛なメイのことだからあり得るだろう。
「どうです? この街の様子は?」
「え? あぁ、そうですね。とても魔王が治めている場所とは思えないほどに活気に溢れていますね。俺が知ってる魔王と言えば、城だけで、周りは邪悪で、強力な魔物ばかり。後は玉座で鎮座しているイメージが主ですね」
「古いですね、それは。今では魔族で、王家ということで魔王と呼ばれるんですから」
「へぇ……」
まぁ、元々は悪魔の王や魔物の王ということで魔王と呼ばれたりもしていたんだし、魔族の王という意味でもおかしくはない。
「ですから、獣人族の王は獣王、ドワーフはドワーフ王、エルフはエルフ王って呼ばれてます」
「なら、人間なら人王とか?」
「まぁ、そんな感じでしょうか。人間の場合は普通に王としか言いませんので」
何だ……人間は普通に王様だけなのね。
だけど、色々な王がいるのはわかったし、ルフェさんの兄が魔王の一人と言っていた辺り、他にも存在するのだろう。
となると、国が結構存在するのだろうか?
俺があれこれ考えている間に馬車が止まる。
「止まった……?」
「到着しましたよ、皆さま」
ルフェさんの言葉に反応すると、馬車の扉が開く。
クラウンさんがどうやら、扉を開いてくれた様だ。
「それではいきましょうか」
「あ、ハイ。メイ、スイム」
俺が呼ぶと、二人は振り返って、椅子から立ち上がる。
スイムは相変わらずメイの頭の上に乗ったままだが。
俺たちはルフェさんの後に続く様に降りると、そこにはクラウンさんともう一人、別の誰かがいた。
そこには肩のところで切り揃えられた赤髪のメイド服を着た女性だ。
「カミオ、迎えに来てくれたのですね」
「ハイ。ルフェ姫がドラゴンに襲われたという報告を聞いてます。それと『異世界人』の『魔物使い』とも遭遇したと」
「相変わらず耳が早いのですね。彼がそのテイマー、ユージですよ」
ルフェさんが俺の方を向いて言ってきたので、自然とカミオと呼ばれた女性もこちらへ視線を向けてくる。
とりあえず、挨拶しないといけないよな……?
「は、初めまして。ご紹介に預かりました……久遠裕司です。裕司が名前なので……。こっちは仲間のメイとスイムです」
「初めまして! 私はメイ、『合成獣』の魔人だよ!」
「ピギッ!」
「!?」
メイとスイムの挨拶に驚いているのだろうか、驚いた様な表情をするカミオさん。
それをルフェさんは「やっぱり、そういう反応になりますよね」と呟いていたのが聞こえた。
そして、しばらくしてから、意識が現実へと戻ってきたのか、頭を下げてお辞儀をし始める。
「初めまして、私はここでメイド長兼魔将を勤めさせてもらってる、カミオと申します。種族は……」
そういうとカミオさんの背中から髪と同じ赤い色の二翼の翼が姿を現す。
「『紅魔鳥』の魔人」
「魔人ということは魔族……!?」
てっきり人かと思っていたが……確かに目をよく見てみれば、獣の様に瞳孔が縦になっている黄色い瞳を持っている。
カミオさんは翼を再びしまうと、メイとスイムへと視線を向ける。
「キメラの魔人と声を発するスライム……今までに見たことない。興味深いのは確か……」
「ピギッ?」
スイムは視線を向けられて反応する。
まるで何か用? という感じで。
その動作に愛らしさを覚えてしまう。
「可愛い」
「ピギッ!?」
カミオさんはスイムを抱き上げて、メイの頭からとると、頬擦りし始める。
それにスイムは驚くが、カミオさんはやめる気配なし。
淡々としている喋り方だな……と思っていたが、意外と女の子らしい一面がある様だ。
元は魔物と言っても、やはり魔人となると、感性とかが変わるのだろうか? わからないけど。
それにしても、魔将とか気になることを言っていたな。
ちょっと質問してみようかと思った時だ。
「カミオ、お兄様はいますか?」
「ハイ、私が報告したところ、『異世界人』を必ず連れてくる様にと。とてもワクワクしてた様子です」
「お兄様なら、『異世界人』と聞けばそうなるでしょうね」
『異世界人』と聞いたら、ワクワクするってどうして?
まさか、勇者と同じ『異世界人』なら、俺を楽しませてくれるよな? 的なことが始まったりするのか!?
もし、そうだったら嫌だぞ、俺は!?
カミオさんはスイムをメイの頭の上に戻し、扉の方へと移動すると、こちらを見てくる。
「案内する。ついてきて。ルフェ姫はどうしますか?」
「私も一緒に行きます」
「かしこまりました」
そういうとカミオさんは扉を開く。
今思えば、ルフェさんに対しての口調と俺たちに対する口調は結構違うな……当たり前か。
「ルフェ姫、すみませんが」
「あぁ、クラウン。ありがとうございました。今日は帰って、ゆっくりお休みになってください」
「ハッ! それでは失礼致します」
クラウンさんは踵を返すと、城の門から出ていく。
俺たちはそれを見送ってから、再びカミオさんへと視線を戻す。
「それではこちらに」
そういうと歩き出し、ルフェさんはカミオさんの隣を歩き出す。
俺たちはそんな二人の後を追う様に続いていく。
中に入るとまず目に入ったのは、ゲームとかで見る様な広いロビー。
初めてこういうの見るけど……凄いよな。
メイも初めて見るからか、キョロキョロと辺りを見渡しており、その目は輝いている様にも見える。
スイムの場合は、馬車の時と同じ様にスライムボディが輝いている様にも見える。
そんな俺たちを知ってか知らずか、二人は先へと行き始め、俺たちはすぐさまその後を追う。
ここまで来て、今更なんだが……このままだと魔王と会うんだよな。
魔族の王っていう意味だからと聞いていても、やはり魔王と聞くと不安にはなってくるものだ。
しかも、ガルーダの魔人であるカミオさんがいるくらいだし……ガルーダってどれほどなんだ?
【魔物名:紅魔鳥、通常危険度Aランク。個体名:カミオ、魔人となったことにより、Sランクと感知】
なん……だと……!?
元からガルーダは危険な存在の様だが、それが魔人となれば、それほどまでになるのかよ……。
Sランクが基本的に魔人に当てはめられるというのは確かなようだな……。
まぁ、魔人となれるほどの強い個体へと進化しているのだから、それくらいで当たり前なのかもしれないが。
「ユージ、難しい顔してるけど、大丈夫?」
「え? あ、あぁ。いや、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」
メイが心配そうにこちらを見てきており、スイムも心なしか、心配している様に見てきている気がする。
カミオさんについて、考えていたのが表情に出ていたのだろうか。
あぁ……エリーナの言う通り、表情に出やすいみたいだな、本当に。
まぁ、そのおかげで信頼を築きやすいと考えれば、いいかもしれないけど……。
再び視線を前へと戻すと、ちょうど二人が足を止めたので、俺たちも足を止める。
そして、横を見てみると、そこにあるのは一つの扉……ここに傲慢王のルシファーがいるのか?
すると、カミオが扉をノックする。
「ルシファー様、ルフェ姫がお帰りになられました。魔物使いの人間も一緒です」
『あ、入っていいよ。もちろん、カミオもね』
「ハイ。それでは失礼致します」
そういうとカミオさんが扉を開き、ルフェ姫が次に入ってから、俺とメイ、スイムもその後に続く様に入っていく。
中に入ると執務室の様な部屋であるのが伺え、その中心にあるデスクに座っている男性が一人いた。
その男は髪が左半分が白髪、右半分が黒で、服装は白と黒のコーディネートのモノクロだ。
男は顔を上げると左が黒、右が白のオッドアイでこちらへと視線を向けてくる。
「お帰り、ルフェ。ドラゴンに襲われたと聞いた時は心配したけど、無事で何よりだよ」
「ただいま、お兄様。ご心配をおかけしてすみません。ですが、こちらの魔物使いのユージのおかげで助かりました」
ルフェさんの説明を聞いた男……いや、ルシファーさんというべきか。
ルシファーさんはこちらへと視線を向けると、ジーッ、という効果音が聞こえてきそうなほど見てくる。
「君、『異世界人』の様だね? カミオから聞いてるけど」
「あ、ハイ。確かに異世界から来たってなりますけど……」
「それで、『魔物使い』としての能力を持っている?」
「持っているって言えばそうですけど、こっちへ来る際に貰ったっていうべきでしょうけど」
急にどうしたんだろうか……。
まるで何かを確かめるかの様な問い質し方だけど……。
「一つ聞きたいんだけど、こっちへ来る際、どんなことが起こった? 変わった物とか手に取らなかった? 例えば、ゲームとか」
え……なんでゲームのこと知ってるんだ?
この世界にゲームがとてもある様には見えないが……。
「答えてくれるかい?」
「は、ハイ。確かにこっちに来る際……わかるかどうか知りませんが、ゲームのパッケージを手に取って、裏面を読んだ瞬間、穴に落ちて、スキルを貰って、この世界に来ました」
「そうか……そうか」
それを聞いたルシファーさんは何度か頷き始める。
一体どうしたのだろうか……というより、ゲームパッケージの事を理解できているのだろうか?
だって、ルフェさんやカミオさんは何それ? みたいな顔してるし、メイとスイムはなぜか静かだし……魔王の前だからかな?
何度か頷いてから、真剣な表情で俺を見てくる、ルシファーさん。
「ユージ、だったね。俺は魔王の一人、傲慢王の『ルシファー』なんだけどね……。君に俺から言いたいことがあるんだ」
「え?」
「嫌だと言っても聞いてもらうよ!」
「拒否権もないんですか!?」
なんという人だよ……と思ったけど、思えばこの人、傲慢の魔王だったね。
そして、ルシファーさんは立ち上がって、こちらへと近づいてくると、両手を俺の肩の上に置くと、満面の笑みを浮かべる。
「ようこそ! 『異世界人』の『魔物使い』、ユージ! この世界に招いた者として、妹を助けてくれたお礼として、精一杯のおもてなしをさせてもらうよ!」
「あ、アハハ……って、え? ちょっと待ってください。今、なんて言いました?」
「え? 精一杯のおもてなしを」
「その前!」
「妹を助けてくれたお礼として」
「もう一個前です!」
「この世界に招いた者として、だけど?」
「ど、どういうことォォォォォォォ!?」
ルシファーさんが笑顔で言い放った一言に俺は叫び声をあげるしかなかった。




