お姫様
「いや、いいですって! 別にお礼をしてもらいたくて、助けたわけじゃないし!」
「いえ、そういうわけにはいきません! 姫様は必ずお礼をしたいと申しておりまして!」
「本人が気にしなくていいって言ってるんだから、いいでしょう!?」
「そういうわけにはいきません! どうか、お会いするだけでも!」
アレから数分、言い合いが続いている。
俺は断っているのが、大男の人が退こうとしないのだ。
こっちは何度も断り、向こうはしつこく誘う、ただこれの繰り返し。
王家としての、とかあるんだろうけど、このままいくと嫌な予感しかしないから行きたくない。
絶対このまま王家の何かに巻き込まれる様な気がしてならないのだ。
それなら断って、そそくさと退散するのが一番なのだが……頑固だよ、この人!
「俺が断ったって伝えれば、大丈夫でしょ!?」
「いいえ、そうとは限りません! 連れてこなかったら、打ち首かも……!」
「そんな暴君なの!?」
「いいえ、お優しい人です! ですが、万が一! 億が一の可能性があるかもしれないじゃないですか!」
「大丈夫ですよ! 貴方がネガティブすぎるだけです!」
「こういうでしょ? あまり怒らない人が怒ったら……怖いって!」
「貴方さっきまでドラゴンのブレスを防いでいた人ですか!? ホントに!」
全然違うんだけど!
なんでこんなにネガティブ思考な人があんな凄い防御魔法を使えるんだよ。
それよりも逃げるためだ……閃光を使おう。
俺が手に魔力を集中させるが……出てこない。
「アレ? なんで……」
【魔力が足りません】
ここに来て、魔力切れだとォォォォォ!?
魔力消費が少ないんじゃ……あぁ、きび団子を何個か作ってたっけ、俺。
平原を歩いている時も何個が作って、予備を用意したじゃないか……。
そりゃ、足りないだろうな。
じゃないよ、どうするよ……この状況。
っていうか、魔力切れになったら、精神的にしんどいとかあったりしないのか?
もしくは魔力がもう……! みたいな感じは。
【使い慣れてないためか、魔力を感知する感覚が乏しい模様】
「ハイハイ……そういうことね」
もうそういうパターンだろうなとは思ってたけど、そういうこととはね。
すると、いきなり手を握られる感覚がして、確かめてみると大男が俺の手を掴んでいた。
「へ?」
「ハイと言ってくれましたね! ありがとうございます! それでは早速向かいましょう!」
「え? いや、さっきのはそういうわけじゃ」
「それでは参りましょう! 貴方のテイムモンスターたちも!」
「ちょっ!? 話を聞けよ!」
大男は俺の話を聞かず、手を引っ張って歩き出す。
俺は止まろうと足に力を入れるが、止まるどころか地面の土を抉りながら進む始末。
この人、力強すぎるだろう!?
急いで振り返り、メイとスイムへと視線を向けると、ドラゴンを食べ終えた二人が普通についてきているのが見える。
助けを求めようと思ったところで気付く。
もし、助けを求めたら、コイツ等は容赦なくこの人を倒す……どころか、殺してしまうんじゃないだろうか?
そうなるのを考えてしまうとお願いするのはやめておこう。
だからと言って、どうにかして逃げないと……待てよ?
きび団子は俺の魔力で作ってある。
そして、一度これを食べればどうなるのかという疑問をヘルプさんに聞いたことがある。
『魔力へと戻るだけ』と言っていたはずだ。
なら、失った魔力はきび団子を食べれば、元に戻すことができるということじゃないのか!?
なんか馬車らしきものが見えてきているけど、断っているのだから、逃げだすのが先決!
俺はコッソリポケットからきび団子を取り出し、袋を逆さまにして、中に入っているきび団子を口へと放り込もうとした時だ。
「!」
なんと、いつの間にか近くに来ていたスイムが飛びつき、きび団子を俺の手から掻っ攫っていくと、袋ごと捕食し始めてしまった。
スイム……お前、何してんのさ。
そんな俺を知ってか知らずか、スイムは嬉しそうに食べながらついてきている。
メイが羨ましそうにこちらを見ているが、今はそんな場合じゃない。
このままでは、何かしらのイベントがァァァァァ!
「ルフェ姫! お連れしました!」
「ご苦労様、クラウン」
そういって、馬車の扉が開いて出てきたのは綺麗な銀髪の美少女。
腰まで伸びた綺麗な髪は太陽に光に当たると綺麗に煌めき、ルビーを思わせる綺麗な真紅の瞳でこちらを見てくる。
黒いドレスの裾を少し摘み上げて、馬車から降りると、こちらに近づいてくる。
「初めまして、魔物使いさん」
「ど、どうも……」
笑みを浮かべた少女……ルフェと呼ばれていただろうか。
見た感じ、俺と同じ18くらいの子に見えるが……。
「ドラゴンに襲われた時はどうしようかと思っていたのですが……護衛は人間で事足りるかと思っていたんですが」
「アハハ……ん?」
護衛は人間で事足りると思っていたって……どういうこと?
「やはり魔族を連れてくるべきだったでしょうか。お兄様の言う通りに……」
魔族を連れてくる……?
この人、姫様なのに俺と同じスキルでも持っているのか?
いや、エリーナが言っていたな。
この世界は人間、魔族、エルフ、ドワーフ、獣人によって成り立っているって。
なら、種族として認められているなら、普通に雇っている可能性もあるんじゃ……。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はルフェ……。ルフェ・ルシファーと申します」
「お、俺は久遠 裕司……こっちはメイ、そしてスイムです」
「メイだよ!」
「!」
メイは元気よく声を上げ、スイムはアピールする様に飛び跳ねる。
いや、それよりもルシファーって……俺の世界だと凄く有名な魔王の一角だけど……まさかね。
「あ、言い忘れましたね。『異世界人』にはわからないと思うので一応。私は魔王の一人、現『傲慢王』の妹になります」
「あ、魔王の妹さん。へぇ、魔王の……魔王!?」
ルシファーって聞いてて、もしかしてとは思っていたけど、本当にそうだったのかよ!
いや、っていうか、なんで俺が異世界人だって……。
「不思議そうな顔をされてますね。なぜ、自分が異世界人だとわかったのか? と」
「え? は、ハイ」
「簡単です。その答えは貴方の恰好です。この世界にはない服装と装備をしていますから」
「あ……」
思えば、エリーナも似た様なこと言ってたな……。
どうやら今の服装とヘッドホンがある限り、俺は異世界人だと丸わかりらしい。
いや、だからと言って困ることはないし、この格好が好きだからしてるんだけどさ。
「それにしても、何故異世界人が? まさか、勇者……はないですね。真逆の力を持っているんですし」
「何か、そのノリ……少し前で見た覚えがあるんだけど」
主に森であったエルフさんとのやり取りで。
でも、魔王がいるなら、勇者とか呼び出して対抗するんじゃ……?
それに人間が魔族に付き従っているっていうのも気になる。
普通は敵対する様なもんじゃないだろうか。
いくら五つの種族で成り立っているとしてもだ。
「まぁ、勇者なんて召喚されるわけがないんですから、巻き込まれたというのもなさそうですね」
なんか気になること言っていたよな。
勇者なんて召喚されるわけがないって言ったよな?
魔王がいるのに勇者の召喚はされない……なぜに。
そうしているとクラウンと呼ばれていた大男がそっと、フェルに近づく。
「姫様、そろそろ」
「そうですね。これ以上はお兄様に心配をかけますし……。そうですね、ユージ。お礼をしたいので、一緒
に来てもらえますか? もちろん、馬車に乗ってもらっていいですよ」
「いえ、俺たちはお礼なんて……。ただ街に向かおうと」
俺が視線を向けて、少し遠くに見える街を見ると、ルフェさんは微笑む。
「なら、目的地は一緒ですね。私達の王都に向かうようですし、それならちょうどいいじゃないですか」
「アハハ……やっぱり?」
いや、城らしきものが街にはあるな、とは近づく度に思っていたけどさ。
まぁ、方向的にも街……じゃない、王都に向かっているのはわかっていたけどさ。
だからと言って、ついていったら、絶対面倒なことが起きるに違いない。
「さぁ、行きましょう? メイとスイムはもう既に乗られていますよ?」
「え!?」
俺はルフェさんの言葉に反応して、馬車の方へと視線を移すと、そこには確かにメイとスイムがいた。
それもメイとスイムはどこかワクワクした様な感じで待っているのだ。
「メイ!? スイム!? なんで乗って」
「乗っているの見たことあるから! 一度乗ってみたかったの!」
「! ピギ!」
嬉しそうに言うメイとそれに賛同するかの様に飛び跳ねて、声を発するスイム……え?
今、俺なんて思った?
確か、スイムが『声を発してる』って思ったよな……?
「更に成長したのか……!?」
【種族:スライム】
「予見した様に答えるんじゃないよ」
ヘルプさん、答える速度が速くなって、上達してきているのは嬉しいけど、悲しいことはあまり言わないでよ。
それにしても、何故急にスイムが声を発せたのかは気になるな……。
というよりスライムに声帯なんてあるのか……?
【ありません】
ないのに声を出すとは一体……。
最早生命の神秘だと言われても納得いくぞ。
「どうしました、ユージさん? 早く乗ってくださいな」
「え? あ、あぁ……じゃなくて! いいですって言って「早く乗ろうよ、ユージ!」ちょっ、メイ!?」
メイに手を引っ張られて、そのまま馬車へと乗せられる。
それを見て微笑んだルフェさんが乗り込み、扉が閉まると動き出す。
あぁ、なんでこうなるんだ……。
俺の魔物を引き寄せやすい体質が働いたが故の運命なのか?
いや、というより魔王の妹っていうルフェも魔人なんじゃないのか?
【個体名:ルフェ・ルシファー、魔物名:堕天使。魔人としての種族と感知。危険度Sランク】
「What!?」
ヘルプさんから出てきたルフェさんについてのステータスというべきだろうか。
それを聞いて思わず叫んでしまう。
つまり俺たちが向かわなくても、やろうと思えば、この人一人でどうにかなったというわけだ。
まぁ、魔王の妹なんだから、これくらい当然かもしれない……。
そして、俺の叫び声に反応していたのか、ルフェさんも、メイも、スイムも不思議そうにこちらを見てきている。
しまった……。
いきなりSランクと遭遇したことで驚きの声を上げてしまった。
「どうしましたか? ユージさん。いきなり大声を出して」
「ピギギ!」
「ユージ、大丈夫?」
「あ、だ、大丈夫。問題ないから……」
いや、全然問題ないわけじゃない。
これ……ドラゴンに引き寄せられたっていうより、ルフェさんの方に引き寄せられたんじゃないだろうか。
【強い方に引き寄せられる可能性は大かもしれません】
なんて、メンドくさい体質なんだ!
これ下手すれば、変なのに遭遇するぞ、絶対!
自ら死にに行こうとしている様なもんだよね……。
どうにかならないのか、この体質……。
【どうにもできません】
投げやりだよな、コレ。
「それにしても、スライムが声を発しているなんて驚きですね」
俺が脳内でヘルプさんとあれこれ会話している間にルフェさんが不思議そうにスイムに触っていた。
スイムはこそばゆいのか、プルプル震えている。
「魔法を使えるスライム……というのは珍しいですね。スライムには上位種や亜種も存在しないので。何より声を発しません」
「ピギギ!」
「どういう風に育てたら、こうなるのでしょうか……」
ルフェさんはスイムを触りながら、俺へと視線を向ける。
やめてください。
期待した様な目でこっちを見ないで!
俺だって、知らないんだから!
気付いたら、スイムが知性を得て、魔法を使って、最終的にはピギ! だけど、声をも発し始めたんだから!
俺だって、気になっている謎なんだけど!
ヘルプさん、何か知らないのかな!?
【現段階ではわかっていません】
ヘルプさんでも無理だったか……!
ルフェさんはスイムに触りながらも、メイも興味深そうに見る。
「メイさんも変わった姿をしておりますね。悪魔と天使の翼を持って、腰からは尻尾の様に蛇が生えていて」
「あぁ、まぁ……一応、キメラの魔人なんで」
「キメラですか!?」
やっぱり、そういう反応になるよね……エリーナがそうだったもん。
ルフェさんは驚いた様にメイに近づき、観察し始める。
「キメラが魔人化……? あり得ません。色んな魔物や動物の力を掛け合わせたせいで、魔人の姿では抑え込めないほどなのに……」
「あぁ……それはちょっとした知り合いから聞きました。何でも、魔王の一体が生み出した魔物だとか……」
「ハイ……。とある一体……と言っても、古代の魔王なんですが、キメラを生み出したんです。複数の魔物や動物の力を掛け合わせ、それを兵として扱うために。その途中で魔人の実験もあって……」
「そこらへんも聞きました。その魔王って……?」
結構やばめの魔王っぽいけど、気になるな。
「古代の魔王……。この世全ての悪が形を成したことによって生まれたと言われたほどの魔族……。『邪悪王』『アンラマンユ』です」
「アンラマンユ……」
それが古代の魔王であり、キメラを生み出した者。
「勇者召喚によって、召喚された勇者の光で倒されたと言われていますけどね。その勇者も『異世界人』でして……と、色々語りたいところでしたが、もうすぐ王都に到着ですね」
そういわれて、窓から覗いてみると、確かに街の門へと来ていた。
メイとスイムも興味深そうに見ており、俺はルフェへと視線を移すと、ルフェは笑みを浮かべる。
「ようこそ。数多の種族が住む、『傲慢王』が治める街……『フェルシオン』へ」
こうして、最初の街の前へとやってきたのだった。




