ドラゴン
エリーナと別れて、街を目指して歩き出して、数分後。
今、俺たちは……。
「グルルルル……!」
なんだか、ヘルハウンドよりはちっちゃいが、よく似た黒い巨大犬に襲われそうになっている。
【黒妖犬、成長し、進化した場合、炎黒犬となる】
「この世界って進化があるんだな……。いや、魔物が魔人へと変わるんだし、コレも進化っていうよな……」
「グオオオオオオオ!」
なんて考えてたら、ブラックドックが俺目掛けて走り出し、口を開けて飛び込んでくる。
こうなったら、俺印のきび団子を……! なんて思いながら、取り出そうとした瞬間。
「ユージに手は出させないよ!」
「キャイン!?」
メイの鉄拳がブラックドックの顔面に直撃し、吹き飛ばされる。
そこにスイムが魔法を発動し、『水の槍』を展開し、ブラックドックが倒れた場所へと一斉掃射。
そこから血が飛び散るのが辺り、見事命中したのだろう。
メイがスイムを抱えてその場へと向かい、しばらくしてから、メイがスイムではなく、別の物を持って戻ってくる。
「見つけたよ、あの魔物の心臓!」
「うん、見せつけないでくれ」
「えぇ~」
メイの手にはいうまでもない、ブラックドックの心臓がある。
少しがっかりした様な感じでブラックドックの心臓を一口で食べて、飲み込む。
毎回見せられても、本当に困る。
吐き気を覚えなくなってきた辺り、耐性でもできてきたのだろうか。
そして、ブラックドックを消化してきたであろうスイムがこちらへと戻ってくる。
「それにしても、こっちから会いに行ってるわけでもないのに、よく魔物と会うな……。いや、コレが普通なのか?」
【魔物使いは一人の場合、魔物を引き寄せやすい体質となるため、遭遇率は高い。魔族、魔物は同行していても、関係ない】
「うん、勝手に魔物と遭遇する理由はわかったけど、コレはもはや不幸体質では?」
じゃあ、森であまり遭遇しなかったのはエリーナが傍にいてくれたからなのか?
で、一人になったら、魔物が寄ってくるって……どういう原理ですか、それ。
魔物と遭遇したい時はテイムモンスターだけ引き連れていけばよさそうだけど……う~ん、だけど、来過ぎるのも困る。
メイやスイムが守ってくれるとしても、連続で戦えば疲れてくるだろうし……。
いくらメイが高ランクの魔物であったとしても、疲れを覚えないと言うのはないはずだ。
「ここ、人が通ったニオイがするよ!」
「……ないよな?」
不安になってきた。
なんだか、無限ともいえるスタミナがありそうな気もしてきたぞ、アイツには。
今でさえ、興味津々で動き回っており、遭遇したモンスターは一発で倒すと言う早業。
しかも、心臓を捕食するのを忘れないという徹底ぶりである。
いや、心臓を捕食することによって、スタミナ回復してるんじゃないか、アレ?
「う~ん、どの敵も似た力ばかり……」
メイは魂喰いで捕食した相手の力がわかる様にできているのか。
いや、まぁ、ヘルハウンドの力を理解していたから、そりゃそうか。
だが、ほとんどが被り過ぎて、能力としても登録は不可能。
性質も一度取り込んでいるから、取り込むことさえない。
後はパワーや防御面などが地道に上がっている程度なのかもしれないな。
逆にスイムはメイが倒した後の魔物を取り込んでいっており、そのおかげか、元気が良い気もする。
だけど、捕食関係の力なんてスイムにあっただろうか?
【魔物が魔物を捕食することにより、魔力へと変換される。それによって、魔物は強くなっていく】
なるほど、スイムは自分よりも強い魔物たちを捕食してきているから、段々元気になってきているということか。
なら、魔法を使い始めても何ら、おかしくないのでは……?
【強くなるだけで、知性は上がらないため、魔法を使える様になるわけではない。進化すれば、別である】
「え? そうなの?」
なら、どうやってスイムは魔法を使える様になったんだ?
進化したりしたのだろうか?
【個体名:スイム、種族:スライム】
うん、ヘルプさんが教えてくれたけど、変わってないね。
なら、何故ここまでスイムの知性が上がったのだろうか……不思議だ。
そんな風に考え込み始めながら、歩いている時だ。
「グオオオオオオ!」
「ドラゴンだぁ!」
「なぜ、王都の近くに!?」
「今はそんなことを言っている場合か! お守りするんだ!」
なんか、視線の先で凄いのが見える。
何が起こっているのかというと、五メートルはあるんじゃないだろうかという赤いドラゴンが馬車とそれを護衛しているたくさんの人達を襲っているのだ。
何人かが剣を持って立ち向かうが、斬りつけても硬い鱗に弾かれる様でなかなかダメージを通せていない。
そして、口から炎がチラッと見えたかと思うと、放たれたのは炎の咆哮。
それが立ち向かってきた人達を飲み込み、馬車に迫ろうとした時、一人の大男がすぐさま前に飛び出し、盗賊が使っていた盾よりも大きい盾を突き出し、そこを中心に光の壁が構築されていく。
それによって、馬車や後方の人たちは守られるが、炎が消えると骨まで炭と化した突撃した人達が姿を現す。
さすがAランクモンスター……厄災と恐れられるだけある。
ヘルハウンドのブレスとかが可愛く思えるぞ、アレは。
いや、観察している場合じゃないか。
先ほどの人達の言葉から察するにドラゴンはここら辺で出てくる様なモンスターじゃないということだ。
確かに考えてみればそうかもしれない。
この街道を歩いて遭遇したのはゴブリンやブラックドックと言った弱い魔物ばかり。
ゲームでいうなら、始まりの地の様な場所なのだろうが……そうなると、何故ドラゴンがここに?
そんなことを考えていると、光の壁目掛けて爪が振るわれると、光の壁がバターの様に簡単に斬られてしまう。
そうやって、無防備になったところにドラゴンの口から炎がちらつく。
やばい、再びブレスを放つつもりだ!
俺はすぐさまメイへと視線を移す。
「メイ! 行けるか!」
「うん、大丈夫! 任せて!」
「よし、なら、閃光!」
俺は手を前に突き出すと、光の球体が放たれる。
それがブレスを放つ寸前のドラゴンの目の前まで来た瞬間。
「爆ぜろ!」
俺が叫んだ瞬間、光の球は爆発し、眩い光を放つ。
それによって、ドラゴンは怯み、ブレスが明後日の方向へと放たれたと同時に。
「行くよ!」
メイの足はウサギの様な足へと変化し、腕はオーガの腕へと変化し、跳ぶ。
メイは俺とスイムの目の前から消えた瞬間にはもうドラゴンの顔の横にいて、拳を作り、炎を纏わせている。
「炎の打撃!」
放たれた炎の拳はドラゴンの顔に直撃するも、少し怯んだ様子を見せるが、顔を横に振るうと軽々とメイは押し返されてしまって、吹き飛ぶ。
そのまま地面に直撃すると、砂煙を上げながらも、中からメイが出てくる。
特に目立ったダメージはなく、かなり丈夫なのがよくわかる。
俺はすぐさまスイムと共にメイの元へと向かい、さっきまでドラゴンと交戦していた人たちへと視線を向ける。
「早く逃げてください! 俺たちが相手をしている内に!」
「き、君は……魔物使いなのか……? ということはその子は魔人!?」
「驚いている場合じゃないでしょ! 早く逃げて!」
「! あ、あぁ! すまない、恩に着る!」
大盾を持っていた男が頷くと、馬車を引き連れて、すぐさま走り去っていく。
その際にだが、一瞬チラッとだが、中から女の人がこちらを覗き見ていたのが見えた気がした。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
ドラゴンをどうにかしなければならない。
視線をそちらへと戻すと、一撃を入れられたことによって怒っているのか、標的は俺たちへと変わっていた。
「グオオオオオオオオオ!」
「う~ん、飛び出してなんだけど、今度こそ死ぬかな!」
助けるためとはいえ、飛び出したのはバカな行動だっただろうか。
怖いか? と聞かれれば、速攻で首を縦に振るだろう。
こんな巨大なドラゴンを前にして、恐れるなっていう方が無理だろう。
だけど、体が動いてしまったのだから仕方ない。
今更走って逃げようにも、絶対追いつかれて、食われてしまうだろうし。
メイも目を輝かせて、やる気満々だし……やるか。
【魔物名:赤火竜、危険ランク:A、敵意と殺意があることと懐き度が0のため、テイムは不可能】
そんなことはわかってるよ!
というよりも、危険度が示されてる……その知識を得たから、自動的にバージョンアップでもしたのか?
わかりやすくなったから、助かるけどさ。
「グルル……!」
低い唸り声の様なものが聞こえたかと思うとレッドドラゴンの口から炎がチラッと見える。
オイ、まさかブレスを放とうとしているんじゃないだろうな?
メイが放ってみせたヘルハウンドの炎とは明らかに火力が違うのはわかる。
「ブレスが来るぞ!」
「任せて!」
「メイ!?」
メイは翼を広げて飛翔し、上へと急上昇していく。
レッドドラゴンの視線は俺たちの方からメイの方へと向けられ、首も上へと向く。
標的が変わった……? いや、違う。
元々、メイに殴られたのだから、標的は最初からメイだったんだ。
それがわかっていたからなのか、俺とスイムを巻き込まないために上へと逃げたのだろう。
だが、それでもメイが危険なのは変わりない。
メイはそのまま空中で停止し、翼を広げてみせると、目の前に魔法陣を展開する。
「行くよ! 焼き払え! 『炎の息吹』!」
「グオオオオオオ!」
魔法陣から放たれたのは紅蓮の炎。
それがまっすぐレッドドラゴンに迫る中、口に溜め込まれていたいた炎が咆哮として放たれる。
あの時見た咆哮と変わらない勢いと熱量で、メイの炎魔法とぶつかり合う。
だが、鬩ぎ合うわけでもなく、メイの魔法が簡単に打ち消され、そのまま咆哮がメイに命中する。
「め、メイ!」
俺は無事なのかを確認するために名前を呼ぶ。
正直、契約が切れていない感覚を感じるので、メイは生きているだろう。
だが、アレほどの……街一つを簡単に焼き払えそうな攻撃をくらったんだ。
いくら魔人と呼ばれる強力な存在になったメイでも、アレは一溜りもないはずだ。
炎が消えると、そこから姿を現したのは……服が焼け焦げたメイで、そこまで怪我を負っている様には見えない……なんで?
【個体名:メイにエクストラスキル:属性耐性と属性使いを感知。魂喰いをし続けた結果、全ての属性を身に着けたことによって、手に入れた模様。この耐性と全身に水の膜を張ることにより、ダメージをほとんど軽減させた模様】
メイ、スゲェ!?
そして、ヘルプさんの進化具合もスゲェ!
もうナレーションさんって言おうかな、コレ。
というよりも、メイはそこまで考えていたのだとしたら、俺より頭がいいかもしれない……。
レッドドラゴンはダメージがほとんど通っていないことが気に入らないのか、憎らしそうにメイを睨みつける。
「次はこっちの番だよ! 絶対、君の心臓を食べてみせるからね!」
「やっぱり、それが目的か……」
やる気満々だった理由もわかった気がするよ。
だけど、コレでもし、本当にレッドドラゴンの心臓を食ったのなら、メイは一体どうなるのだろうか。
なんか、凄い勢いで強くなりそうな気もするが……。
そんなことを思っている間にメイの両腕は羽毛に包まれた鋭い爪を持つ物へと変わる。
そして、足元に魔法陣を展開すると、メイの足元に風が集まり、雷が迸り出しているのに気付く。
「『疾風迅雷』」
轟ッ! という音が聞こえた瞬間には、もう既にその場にメイの姿はなかった。
「グオオオオオオオオオオオ!?」
それと同時に聞こえてきたレッドドラゴンの叫び声に反応する。
見てみると、メイがいつの間にかレッドドラゴンの額に腕を突き刺していたのだ。
やはり、大きさの差があるからか、その腕は脳に到達していなかった様だ。
とはいえ、レッドドラゴンの強固そうな鱗をどう貫いたのかと思っていると、メイの手は突きの形を取っていて、爪と指先から雷が迸っているのが見えた。
それによって貫通力を上げ、一瞬で消えてしまう様な高速移動の魔法の突撃と組み合わせることで、レッドドラゴンの額を貫いたとみていいだろう。
レッドドラゴンは未だに額にいるメイを振り落とそうと首を横に振り始めると、メイは足を虫の様な足に変え、それによって引っ付いているのか、足だけだというのに振り落とされる気配がしない。
虫が壁に引っ付ける様な特性でも持っているんだろうか。
メイはそのまま穴ができた額に手を当てると魔法陣を展開する。
「迸れ! 『雷撃』!」
雷の様な轟音が鳴り響くと同時にさっきまで暴れていたドラゴンの動きが止まる。
そして、白目を向くと、そのまま横に倒れ始め、メイはそこから飛び降りると俺の隣で着地する。
広げていた翼も畳み、倒れたドラゴンを見ると、嬉しそうに近づき始め、手をマンティスブレイドの手へと変える。
「心臓を貰うね!」
そういうなり、胸元辺りから開き、中へと入っていく。
ちなみに俺はその時に目線を逸らし、メイが戻ってくるまでしばらく待つことにする。
スイムも嬉しそうにレッドドラゴンに近づいて行った辺り、食べ始めているだろう。
思えば、さっきの人達は無事だろうか……。
先ほど逃げていった方向を見てみると、先ほどいた大きな盾を持つ男がこちらに走ってきているのが見える。
「おーい! 無事ですか!」
「貴方はさっきの……」
「どうやらご無事で……!? レッドドラゴンを討伐されたのですか!?」
「え、えぇ。まぁ、俺じゃないですけど」
そういって、レッドドラゴンの方へと視線を向けると、ちょうど心臓を見つけてきたメイが嬉しそうに眺めていた。
あの巨体にあった大きな心臓で、メイはそれに噛みつき始めている。
俺はあまり見てたくないので、さっ、と視線を逸らす。
大盾の男の人もメイを見て、唖然としている辺り、魂喰いはやはり珍しいスキルなのだろう。
「あの、魔人が」
「気にしないでください。メイのスキルが原因なので」
「す、スキルが……ですか?」
「ハイ。あのドラゴンを倒したのも、俺の友達のメイですが……」
俺がそう説明すると、さっきまで唖然としていた男はすぐさま真面目な顔で、俺を見てくる。
「そうですか。いえ、ですが、おかげで助かりました。もし、貴方方が駆け付けてくれなければ、我々はあのドラゴンに殺されていたでしょう。あの方も一緒に……」
「そんな、大袈裟な」
まぁ、魔物と遭遇しやすい体質で、偶然出くわした様なもんだろうけどな。
それよりもあの方って一体どういうことだろうか。
誰かを護衛していたとは思うが、あの数……まさかね。
「大袈裟などではありません。Aランクの魔物にはそう簡単に勝てるものではありません。それを魔人一体で討伐してしまうとは……。ぜひ、お礼がしたいと申されているのです。魔物使い殿」
「え? どうして、それを」
「その手の甲の紋章……。多少変わった形をしていますが、魔物と契約し、使役している証ですよね。それを見れば、一目瞭然です」
そういや、紋章があったんだっけ……。
まぁ、手袋して隠したところでスイムやメイを連れていれば、俺が魔物使いだとバレるだろうし、変わらないか。
それよりもだ。
「お礼をしたいって……まさか、あの馬車に乗っていた人が?」
「ハイ、ぜひ姫様がお礼をしたいと言っております」
うん、まさかとは思っていたが、姫様ときたか。
もうね……一言言えるとすればね、テンプレだな、オイ!
この時、俺は魔物を引き寄せる体質以外もあるんじゃないかと思った。
う~ん、王道しか書けないよ、本当に。
とりあえず、それではまた次回!




