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家憑き乙女

「師匠ッ!?」


目の前でいきなり連れ去られた裕司に、思わず声を上げるメア。

まさか、自身たちのテイムモンスターたちに戦闘をお願いしたと同時に、あの双子の魔物に裕司が攫われると誰が思っただろうか。

完全に虚を突かれたことで、メアも、リックも何もできず呆然とすることしかできなかった。


フィリアたちも自身の主がその場にいなくなったのを、紋章から感じ取ったのか、フィリアは腕を振るい、竜巻をいくつか生み出し、魔物の群れへと放ちながら、視線を後ろに向ける。


「ユージとのラインが遠のいたんだけど、何があったの!?」

「あ、フィリアさん! 大変っス! 師匠がさっきの双子の魔物に連れ去られたっス! こう、地面に吸い込まれる様な感じで!」

「連れ去ったって……。狙いはユージだったってこと?」

「連れ去られた以上、そういうことになると思います。まさか、こうなるなんて予想外です。彼の場合、普通のテイマーよりも魔物を引き寄せる体質が強すぎるのかもしれません」


それも魔人の場合、気に入られやすいかもしれないと言う困った体質だ。

あの双子の魔物が魔人と決まったわけではないが、人並みの知力を持っているのは確かだ。

魔物であったとしても、Dランク以上は確定している。

いや、ここ一帯の魔物を統率していたのだ。

Bランク以上なのは間違いない。

裕司を攫った目的は判明していないが、今すぐにでも助けにいかなければならない。


「とりあえず、今はユージさんを探しに行きましょう。魔物の群れはどうな……って……」


裕司の救出を考えながら、視線をフィリアたちの方へと向けて、言おうとした言葉を止めてしまう。

何故なら、百匹以上いたであろう虫や死霊、アンデッドと言った魔物の群れは跡形もなく消え去っていたからだ。

いや、辺りには虫の足や肉片などが飛び散っているのを見る限り、殲滅を終えているのだろう。

いくら精霊人と呼ばれる新種族、伝説の魔狼と名高い『獄炎魔狼ガルム』がいたとしても、大群と言ってもおかしくないほどいた魔物を一分も経たない内に一掃できると思うだろうか。

それも、精霊人であるフィリアは精霊の特性もあるために、この環境は体に合わず、能力ダウンしているにも関わらずだ。

それほど裕司が連れ去られたことに焦っている、ということなのかもしれない。


メアもあの大群を一掃してみせたフィリアたちに驚いているのか、目を見開いている。


「す、すご……」

「キュイ……」


一緒に戦いに参加していたリアスさえ、驚いている。

フィリアは自身の手を開いて閉じる行動を何回かして、体調を確かめながら、リック達へと視線を向ける。


「さぁ、道は開けたことだし、ユージの救出に行くよ」

「は、ハイっス!」

「キュイ!」

「とは言いましても、一体どこに連れていかれたのか」

「大丈夫」


リックの疑問に答える様に、自身の羽に浮かび上がっている契約の証を見せる。


「『契約の証コレ』がユージの場所まで導いてくれるよ。なんていったって契約証明だからね。ユージとのラインがどこら辺にあるのか、わかるからね」


フィリアとノワール、アルフが視線を向けた先。

そこはこの廃墟の町中で一番目立つ大きな屋敷。

元はここの町長か、領主が住んでいたのだろうとわかる屋敷。


リックとメアもフィリアたちが視線を向けている屋敷を見る。


「あそこは確か……この町の領主が住んでいた場所だったところです。ですが、前来た時には、あの中に入ることはできなかったんです」

「え? そうなんっスか? それはどうしてなんっスか?」


リックの言葉に疑問を覚えるメア。

確かにあの屋敷は老朽化が進んでいるが、他の建物の様に壁が崩れていたりする様子はない。

だから、入るにしても、普通に扉から入ればいいのではないのだろうか? と疑問を覚えた。


「僕も屋敷の中に何か珍しい素材が残っているかもしれない、と思って、探索しようとしました。ですが、中に入るために扉を開けようとしても開かなかったんです。もちろん、押したり引いたり、何なら上に持ち上げるのか? とやってみたりもしましたけどね」

「いや、領主の屋敷の入り口がそんな騙し絵みたいな扉なハズないっスよ」

「もしかしたら、あり得るかもしれないじゃないですか」


どんな屋敷なんだ、とメアは思いながらも、その話を聞いていたフィリアは顎に手を当てながら、何かを考えている。


「開かない扉、ね……。死霊系の中には、建物に入った者を閉じ込めて、確実に殺しにかかる類がいるって言うのは聞いたことはあるけど、入れさせないって言うのは聞いたことないね」

「ただ単に老朽化が進んで、扉が開きにくくなってるだけじゃないっスかね?」

「それなら、僕が錬金した道具を使って、開けなかったのはおかしいと思います」

「え? そうなんっスか?」


錬金術師は特殊な道具や薬を作り出せるとは知っていたが、開きにくくなった扉を開く様にする道具まで作っていたとは驚きである。

というより、そんなところに着眼するだろうか、普通。


「ちなみに聞くっスけど、それってどんな道具っスか?」

「え? そうですね。まぁ、先ほど言った通り、老朽化が進んで、開きにくくなった扉や建付けが悪くて開きにくい扉を開けるために使う道具ですね。今は馬車の方に置いてきてますが、見た目は鍵ですよ」

「変わった道具作るんっスね」

「そうでしょうか? 僕が目標とするクニサキ・サラはそういう小さなことも錬金術で解決したと聞いています。だから、僕もそれを見習って、些細なことでも、他の人からくだらないと思われることでも、それを解決する道具を作ってみたりしているんですよ」


そんな話に耳を傾けながらも、屋敷の中に入れないと言う理由について、思い当たる節があるのか、まさかね、と呟く。


「ボクから質問なんだけど、その道具、開ける確率は100%と考えていいのかな?」

「そうですね。今まで使ってきたのを考えると、あの屋敷の扉を開けるのだけは無理だったので、それだけを除けば、100%と言っても過言ではないと思います」

「……なら、そういう道具さえをも無効化する様な奴に心当たりがあるよ」

「ホントっスか!?」


フィリアの心当たりがあると言う言葉に、メアは大きく反応を示す。

フィリアは困ったような笑みを浮かべながら、屋敷の方へと足を向けて、歩き出し、続くかの様にノワールとアルフも屋敷へと向けて、動き出す。


急に歩き出したフィリアたちの後を追う様にメア達も歩き出す。


「それで、その心当たりがある奴って、どういう奴なんっスか?」

「そうだね……。あくまで心当たりがあるって言うだけで、絶対にソイツとは言えないんだけど、それでも聞く?」

「是非、聞きたいです。今後の参考にしたいですしね」

「参考にね……」


参考にしたところで、もしアレなら意味がないんだけど、と思いながらも、口を開く。


「そうだね。これから敵地……と言っていいのかな。そこに乗り込むわけだし、恐らく、だとしても、情報は多い方がいいよね」

「そうっスよ! それに精霊人であるフィリアさんの予想っス! その敵がいるのは間違いないかもしれないっスよ!」

「お、ボクをそこまで評価してくれるなんて、嬉しいことを言ってくれるね。それなら、ボクの予想が間違いないと言うことで、話をしようかな」


メアに持ち上げられてか、気分を良くしたフィリアは得意げに語り出す。


「一応確認だけど、ボク達精霊は何かしらの概念が形を成した存在、というのは知ってるよね?」

「それは知ってるっスよ。代表的なのを挙げるとするなら、四大元素の精霊たちが良い例っスよね」

「僕としては彼らがどうやって生まれてくるのかは興味ありますが、今はその話じゃありませんよね。まず、その話を振ってくると言うことは、あの屋敷にいるのは」

「うん、すぐに察してくれて、助かるよ。ボクの予想が正しければ、あの屋敷にいるのは家の精霊、『家憑き乙女キキーモラ』の可能性が高いんだよね」

「き、『家憑き乙女キキーモラ』っスか!?」


フィリアが予想している名前を聞くと驚いた様な声を上げるメア。


「『家憑き乙女キキーモラ』ですか。また珍しい精霊の名前を聞きましたね。ですが、それを聞くと、あの時入れなかった理由は納得が行きます。『家憑き乙女キキーモラ』が憑いた家は家内安全と言われるほどです」

「まぁ、それが『家憑き乙女キキーモラ』の強みと言ってもいいからね。ボクが風を操るのが得意な様に、彼女たちには『家』というテリトリーがある。家の外では、そんなに強くないけど、『家』というテリトリーにおいては、あの精霊は様々な力を発揮する。泥棒が入ろうものなら、二度と泥棒をしようとは思えないほどにぶちのめすし、何かしらの不幸が、その家の者に降りかかろうとすれば、力を使って振り払う。そして、自身の『テリトリー』に見合わない者が住もうとすれば、力ずくで追い出すしね」

「そうなんっスね。アタシ、家に住む人を守ってくれる優しい精霊だと思ってたっス」

「まぁ、『家憑き乙女キキーモラ』が憑く条件も二種類あるって聞くけどね。その住人を気に入って、別のところに行こうと最後まで憑いて行くタイプも居れば、その家が好きで、家そのものに憑いているタイプもいる。恐らく、今回いるのは後者じゃないかな。例え、廃墟となっても、この家と最後までいると決めた『家憑き乙女キキーモラ』だと思うんだよね」


まぁ、前者も別の理由であり得そうだけど、なんてフィリアは思いながら、その話をしている間に屋敷の門前へと到着。

意外と話し込んだみたいだな、と思いながらも、門に手をかけて、開ける。

門の方は特に問題はない、と判断したフィリアは中へと入っていき、庭の方へと視線を向けると、廃墟の家とは不釣り合いなほど緑や花で溢れていた。

これを見る限り、予想は当たっていると感じたフィリアは庭の中を抜けて、扉の方へと向かおうとした時だ。

扉が独りでに開いたことに、フィリアたちは反応をして、足を止める。

メアに至っては、いきなり独りでに開いた扉に少し怯えた様な反応を見せた。


コツ、コツと奥から響いてくる足音に一同は警戒を示す。

そして、足音の主が扉の中から姿を現す。


頭に狼の様な耳とまっすぐ伸びた尖った二本の角を持ったメイド服を着た金髪赤眼の少女。

その姿を見たフィリアは予想が当たったことに困った笑みを浮かべる。


「できるなら、当たってほしくはなかったんだけど。予想通り、君だったんだね。キキーモラ」

「私と似た気配を感じ、顔を出してみれば、なるほど。貴方も精霊ですね。それにその容姿、サイズや少し気配が違う点がありますが、貴方は『風の乙女シルフ』ですね? いえ、元、と言った方がよろしいでしょうか?」


キキーモラと呼ばれた少女は無表情でフィリアへと視線を向けた後、ノワールやアルフ、メアにリック、リアスという順番で視線を向ける。


「変わった方々が訪れた者ですね。それにこの環境です。風の精霊である貴方には、とても居心地が悪い場所だと思うのですが?」

「まぁ、そうだね。調子が悪いったらありゃしないよ。早くこの場所を立ち去りたいけど、その前に。ここに連れてこられたボクの主を返してほしいんだよね」

「そうっスよ! ここに師匠がいるのは知ってるっスからね!」

「主……? 師匠……?」


誰? と一瞬考え込んだキキーモラだが、すぐに誰か合点がいったのか、あぁ、と納得が行った様な声を漏らす。


「あの子たちが連れ帰ってきた彼、ですね。変わった格好と気配の人間の。貴方が主、ということは彼はテイマーということですね」

「そういうこと。君んとこのゴースト? か何かわからないけど、そこの双子にいきなり連れていかれて困ってるんだよ。だから、返してほしいんだけど」

「……それはできない相談、ですね」

「それは一体どういうこと?」


キキーモラの一言にフィリアは目を細め、キキーモラを睨みつける。

いや、それだけじゃない。

ノワールとアルフも、その一言で何が起こるのか理解したのか、唸り声をあげ、警戒態勢に入っている。


「あの子たちが彼を欲しがっているからです。そして、頼まれたからです。彼を奪いに来るものを追い払ってほしいと」

「奪いに来るって、人聞きが悪いんじゃないですか? ユージさんは物ではありませんし、勝手に攫ったのはそちらで」

「私には関係ない。あの子たちが望むなら、それを叶えるだけ。『家憑き乙女キキーモラ』として」


そう言って、腕を一振りした瞬間、周りの植物たちがざわめき、その中から蔦が伸び、花が意思を持ったかの様にフィリアたちの方へと向く。


「これより侵入者を撃退、もしくは排除します。庭の植物たち、頼みましたよ」

「待て! キキーモラ!」


フィリアが屋敷の中へと消えていこうとするキキーモラを追おうとすると、目の前に蔦が伸びてきて、道を塞ぐ。

フィリアは足を止めると同時に扉は閉められ、扉や窓に蔦が幾つも絡みついて、強固に補強される。

その光景に舌打ちしながら、周りの植物へと視線を向ける。

キキーモラの力によって、意思を持った植物たちは、命令を実行するためにフィリアたちに牙をむいた。

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