双子
ゴーストタウンに足を踏み入れて、数分経っただろうか。
俺たちは目的の魔物を探しながら、歩き回っていた。
「キキ―ッ!」
アルフはきび団子をあげてから、余計に元気になったのが目に見えてわかる。
良い兆候かもしれない。
このままいけば、環境のおかげで魔人まで一気に進化する可能性だって出てくるわけだ。
蝙蝠タイプの魔人———吸血鬼とか期待してもいいのかな。
【『吸血鬼』ですか。魔人のみの種族なのは確かですが、歴史的に振り返っても、『吸血鬼』が姿を現した事例はかなり少ないですね。そのため、どのタイプの魔物がなるのか、判明していないのもあります】
吸血鬼はかなり珍しい種族ということになるみたいだ。
でも、俺の知っている限りでは、アンデッドだったり、蝙蝠の様な感じだったりするし、希望を抱いてもいいよな。
それも堕天使と同じ魔人のみの種族なら、かなり強いに間違いないし。
【それは肯定します。今まで姿を現したどの『吸血鬼』も失った部位をも再生できるほどの優れた再生力、大岩をも片手で軽々と持ち上げるほどの怪力、素早い動きを可能とするほどの優れた身体能力を持っていました。それ等は通常の魔人よりも一線を画すほどに】
「高い再生能力を持つのは俺の世界でも聞いた話だな」
他の能力もファンタジー系の話でよく見かける設定だ。
こっちでも、基礎能力はかなり高い様だ、吸血鬼は。
アルフがなってくれたら、嬉しいんだけどな~、という淡い期待を抱きながら歩く。
「それにしても、魔物となかなか会わないっスね~。これだけ歩き回ってるんっスから、何体か出会っていてもおかしくはないハズなんっスけど」
そういいながら、メアはスキル習得のための練習をしている。
だけど、メアの言い分はごもっともだ。
俺とメアの『魔物使い』としての体質、『魔物を引き寄せやすい』体質はリックがいるためになくなっているとはいえ、それでも遭遇しないと言うのはおかしい。
人がいないところには魔物が当たり前の様にいるハズだけど……何故?
リック自身も、この状況を不思議に思っているのか、顎に手を当てて考え込んでいる。
「確かに会わないのは少しおかしいですね。少し前にここに材料採取で訪れた際には何体かのアンデッド系や死霊系、虫系の魔物と遭遇したことはあったんですが、今ではその姿形すらも見当たりませんね。不自然すぎます」
「まさか……悪魔神教?」
俺が行く先々で、悪魔神教の奴らと遭遇していたが、ここにまで来ていると言うのだろうか?
「……まさかな。流石に考えすぎか」
二度あることは三度あるとは言うが、流石に考えすぎだろう。
いくら何でも、アイツ等がこんなゴーストタウンに用があるとは思えない。
となると……まさか。
「リック、前来た時にここら辺に出る魔物のランクはどんなものだった?」
「え? そんなに高いランクはいなかったハズです。強くてもCランクですね。『殺人蜘蛛』や『骸骨戦士』や『怨念亡霊』とかですね」
「なるほど。ん? というより、リックは遭遇したんだよな? Cランクってそれなりに強いハズだけど、倒したのか?」
「まさか。僕はあくまで『錬金術師』ですよ? 戦闘には秀でていません。もちろん、自作のアイテムを駆使して、何とか逃げ切りましたよ」
まぁ、そうだろうな。
これで戦闘にまで秀でた職種だったら、俺は神は理不尽だ、と叫んでいただろう。
だって、『魔物使い』は戦闘には秀でてないのに、『錬金術師』が秀でていたら、酷い話だ。
差別と言っても、過言ではないだろう。
とはいえ、リックがアイテムを駆使して逃げ出すほどの魔物たちが姿を見せないのは確かに不自然だ。
ノワールがいるから、警戒して出てこないのか?
いや、それでも見かけないと言うのはあり得ないだろう。
となると、考えられる可能性は一つ。
「なぁ、リック。ここに強力な魔物が住み着いたから、他の魔物がそれを警戒して出てこないっていう可能性はあるか?」
「……いえ、魔物は相手が自分よりも強い存在だろうと襲い掛かる存在です。それはあり得ません。ですが、その強い魔物が現れたと言う仮説は正しいかもしれません」
「というと?」
「ここにBランクなり、Aランクの魔物が現れ、他の魔物を喰らいつくしたと言う可能性です」
「それは……」
結構やばいのでは?
こちらにはフィリアとノワール、アルフがいるとはいえ、相手がどんな存在かわからない。
勝てない、とは思わないが、念には念をだ。
どんな時でも、最悪の状況も考えておくべきだろう。
相手は魔物、こちらの常識など一切通じない超常の存在だ。
フィリアも本調子じゃないし。
「後、もう一つ可能性があるとすれば、その魔物がボスとして君臨し、ここの魔物たちを追い出したか、もしくは従属しているかです」
「従属……? もしかして、魔王と魔将の様な関係みたいに?」
「ハイ、そういうことです。そうなると、結構厄介です。このメンバーでここを探索するのは危険すぎる可能性がありますから」
「アタシもそう思うっス。リアスもドラゴンっスから、子供でもそれなりに強いっスけど、そんなボスみたいなのに襲われたらひとたまりもないっスよ。せめて、ここの探索を続けるなら、ここに連れてきてないメイさん達と合流すべきっス」
メアの言ったことにリックが反応を示す。
「そのメイさん達というのは? 他にも仲間がいるんですか?」
「あぁ。魔人が三人に、特殊なスライムが二匹、後エルフが一人な」
「魔人が三人も……!? それに特殊なスライムというのは一体どういうことでしょうか! もしかして、『刻印強化』の時に言っていたスイムという方もユージさんのテイムモンスターですか!?」
「あ、あぁ、そうだけど」
「なるほど、別行動している仲間がいたとは驚きです。それにしても、魔人を三人もテイムしているとは……。やはり、そのスキルはかなり便利なようですね?」
「あぁ、まぁ」
今回はそこまで暴走しなかった様だ。
まぁ、『魔物へのお菓子』のことを聞いたからこそ、それで出来たのだろうと言う結論に至ったんだろうけど。
だけど、メアの言う通り、一旦戻ってメイたちと合流した方がよさそうだ。
ショッピングを楽しんでいるところ悪いけど、こっちの手助けをしてもらおう。
そう思い、ノワールに声をかけようと振り返った時だ。
「もしかして帰るの?」
「もしかして帰らないの?」
「え?」
「声?」
いきなりどこからか聞こえてきた声。
その声に俺だけでなく、フィリアも反応する。
いや、俺たちだけじゃない。
メア達も反応し、警戒する様に辺りを見渡している。
メアに至っては顔を青くし、びくびく震えているし、若干リアスの後ろに隠れる様に移動しているし。
でも、一体どこから声が。
「帰さないよ」
「帰っていいよ」
「だって、気になるもん」
「だって、気にならないもん」
「ユージ! 上だ!」
「ッ!?」
フィリアの声に反応し、上を見上げると、そこにいたのは空中にうつ伏せで寝そべる二人の少女。
双子、なのだろうか。
二人とも顔がそっくりだが、違うところがある。
一人は白い髪を、もう一人は黒い髪を持つ少女。
その双子が空からこちらを見下ろしている。
「せっかく、他の魔物には大人しくするように言ったのに」
「せっかく、他の魔物には大人しくしない様に言ったのに」
「帰ろうとするなんて、ツマらない」
「帰ろうとしないなんて、ツマらなくない」
「え? えっと……え?」
どっちが正しいんでしょうか?
白髪の子が喋り出せば、黒髪の子がその子とは正反対のことを言い出す。
えっと、この状況だと白髪の子の話が正しい方だと判断すればいいのかな?
「師匠、なんであの子たち、正反対のことを言い合ってるんっスかね?」
「さ、さぁ……。俺にも何故かさっぱり。じゃなくて、今気になること言ってたよな?」
「うん、言ってたね。他の魔物に大人しくするように言ったって」
フィリアがそう言って、アルフやノワールに視線を向ける。
その目配せを理解してか、二匹は唸り声を上げ始め、戦闘態勢に入り始める。
「怖い怖い」
「怖くない怖くない」
「そんなに威嚇しなくてもいいのに」
「もっと威嚇してもいいのに」
「双子、でいいんですかね?」
「多分」
「それなら。変わった話し方をする双子ですね。どちらが正しいのかわからないくらいに。とは言っても、先ほどの発言からわかる通り、彼女たちは強力な魔物の可能性があります。翼もなく、常に浮けるところなどを見る限り、死霊系の類かもしれません。人型なので、魔人の可能性があります。気を付けてください」
「マジで?」
てっきり、死霊系は人の形で現れる半透明な魔物だと思っていたけど、どうやら違う様だ。
いや、可能性があると言っているから、違う可能性もあるかもしれないし。
「どうするっスか、師匠? 死霊系なら、リアスは強いっスよ。なんせ、『浄化』の力を持ってるっスからね。死霊系やアンデッド系なんて、イチコロっス!」
わぁ、それは頼りになること。
君が顔を青くして、震えてなかったら、凄く頼もしく見えたんだけどなぁ。
けど、この状況でその力はありがたい。
「どれほど危険な魔物かわからないから、すぐに先手を」
「させないよ」
「させるよ」
「「だから、お願い。魔物さん達」」
瞬間、どこに隠れていたのだろうか、いきなり建物の影から何かが飛び出してくる。
それは魔物。
それも虫やらスケルトンやら、人魂の様なものやらたくさんだ。
今の一言からするに魔物の軍団。
彼女たちの一声で襲い掛かってきたのだ。
「なっ! いきなりすぎない!? というよりどこから飛び出してきたの!? ボクの風の感知をすり抜けるなんて!」
「フィリア! ノワール! アルフ!」
「わかってる!」
「リアスも頼むっス!」
「キュイ!」
俺たちの一言にフィリアたちが前に飛び出し、魔物たちとの交戦を開始する。
その間に俺たちは巻き込まれない様に後ろへと下がり始めた瞬間だった。
俺の両腕が捕まれる感覚がし、下に引っ張られる感覚を覚えたと同時に俺は目の前が真っ暗になった。
「「『幽霊潜行』。さぁ、行こう?」」
最後に聞こえてきたその一言に、俺は意識が遠のくのを感じた。




