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真似る魔物

「まだ寝てるのかな?」

「まだ寝てないのかな?」

「早くお話したいな」

「早くお話したくないな」


声……聞こえる?

瞼をゆっくりと開くと、視界に映り込んできたのは見慣れない天井……ではなく、先ほどの双子の少女の顔が視界いっぱいに飛び込んできて、一気に意識は覚醒。

あまりの近さに目を見開いて、驚いてしまう。


「ちかっ……!?」

「あ、起きた」

「あ、起きてない」

「いや、起きてますけど!?」


先ほどと同じ様に白髪の子が喋れば、黒髪の子が逆のことを言う。

それを理解していても、反応せずにいられないのは仕方ないことだと思うよ、うん。

二人は俺が起きたことを確認したからか、俺から少し離れる。

起き上がれ……ということだろうか。

ゆっくりと上体を起こし、ここがどこか確認するために辺りを見渡す。

見た感じ、どこかの部屋の一室……それも内装的に何処かの屋敷の様に思える。

ゴーストタウンのどこにこんな場所が……? と不思議に思っている時だ。


「「ねぇねぇ」」

「ん?」


ハモって聞こえてきた声に反応し、双子へと視線を向ける。


「貴方の名前、教えてほしいな」

「貴方の名前、教えてほしくないな」

「えっと……どっち?」

「だから、私達は貴方の名前を知りたいの」

「だから、私達は貴方の名前を知りたくないの」


だから、どっちだよ……。

そんなことを思いながらも、恐らくは白髪の子が正しいことを言っていて、黒髪の方がその逆を言っているのだろうと考えた俺は自己紹介をすることにする。


「俺は久遠 裕司だよ。二人は……って、名前はないか」

「うん、私達は魔物。名前はないよ」

「いいえ、私達は魔物、名前はあるよ」


とりあえず、この双子の喋り方は気にしない様にする。

それにしても、魔物……ということは魔人ではないのか。

それなら、一体どんな魔物だと言うのだろうか?

こんな風に困った時のヘルプさん。


【解析は完了しています。解析の結果、魔力反応から見て、死霊系魔物の一つ、『真似る亡霊ドッペルゲンガー』であることが判明しました】


ドッペルゲンガーって……もしかして、あのドッペルゲンガーだろうか?


【ハイ、ユージの知るドッペルゲンガーとは多少違いますが、概ね合っています。誰かの姿を真似て、気に入ったのなら、そのままの姿で過ごす。まぁ、魔物なので、人に襲い掛かりはしますが。それに『真似る亡霊ドッペルゲンガー』のせいで、ありもしない罪を擦り付けられた人も存在したりします】


なかなかに酷いな。

本人のあずかり知らぬところで、悪名が轟いたりするかもしれないんだから。

ということは、この双子の姿も誰かを真似た姿と考えていいのか?


【そうですね。先ほど、ユージが部屋を見回した際に一枚の色褪せた双子の絵があるのを確認しました。そこに描かれた双子と彼女たちは瓜二つ。つまりはコピー元だと思われます】

「え? そんなものあった?」

【ありました。大きくはないですが、視界に入れば、すぐわかるくらいには。壁にかかっていましたよ】


完全に状況把握を優先していたから、気付かなかった。

ヘルプさんが言っていたことを聞いて、俺は視線を壁へと向け、絵を探す。


「あった」


ヘルプさんが言った通り、目の前にいる双子そっくりの絵がそこには掛けられていた。

恐らくはここの屋敷の持ち主の娘と考えるのが妥当だろう。

いつ頃の絵かはわからないが、この双子はもう既にこの世に存在しないのは確かだ。


「「ねぇ」」

「うおっ!?」


いきなり視界に飛び込んでくる双子の顔。

さっきまで絵を眺めていたために、その顔がいきなり目の前に現れると驚いてしまう。

とりあえず、この状況をどうにかしなければならないな。


「まだお話の途中だよ?」

「もうお話の途中じゃないよ?」

「自分のスキルと会話してないで、私達と話をしてほしいな」

「自分のスキルと会話していいから、私達と話をしないでほしいな」


あべこべで言ってくるから、会話がしにくいよな、コレ。

というよりも、俺がヘルプさんと会話しているのが、簡単に看破されたんだけど?


【意外と知性は高いのかもしれません。ここは早めにフィリアたちと合流することをおススメします】

「だな。となると」


ここはこの双子をテイムして乗り切るとするか。

仲間も増えるし、悪いことではないハズだ。


【後、すみませんが、そこにいる『真似る亡霊ドッペルゲンガー』で少し気になることがありまして】

「ん? どうした? ヘルプさん」


ヘルプさんの言っていることを気にしながら、俺は手をポケットに入れて、『次元倉庫アイテムボックス』からきび団子を取り出そうとした時。


「お客人様の仲間が来ることはありませんよ」


いきなり聞こえてきた声。

部屋の出入り口へと視線を向けると、そこに立っていたのは狼の様な耳とまっすぐ伸びた尖った二本の角を持つメイド服を着た金髪赤眼の少女がいた。

彼女は一体?


【種族:『家憑き乙女キキーモラ』と判明。精霊の一種で、『家』を司ります】

「マジかよ。精霊って、滅多にお目にかかれないんじゃなかったっけ? フィリアに続いて、二体目と遭遇するなんて」


因みにベリアルさんはノーカンだ。

だって、アレはリオンさんのとこに普通にいる人……じゃなくて、精霊だからな。

いや、それよりもさっき、気になることを言っていた。


「仲間が来ないって、まさか……」

「そのままの意味です。今、中庭の方で私が育てた草木や花々が相手をしております。私は家の精霊『家憑き乙女キキーモラ』。この家は全て私のテリトリーです。この家での戦闘などでは、私は負けることはないでしょう。魔王や勇者が来ない限りは」


マジかよ。

精霊人という種族にさえ進化したフィリアでさえ、自分の相手ではないと言うことなのだろうか?


【多少慢心が目立ちますが、彼女の言っていることはおおよそ正しいかと。何せ、『家憑き乙女キキーモラ』が憑いた家は家内安全、無病息災などが約束されますからね】


ヘルプさんが肯定するのなら、間違いないだろう。

逆に言えば、魔王クラスの様な奴なら、どうにかできる可能性があると言うわけだが……メイでも魔王に匹敵するほどの力はまだない。

リオンさんの妹であったルフェも、ルシファーの名を剥奪されたことによって、大分力が低下しているために、魔王クラスほどじゃない。


【一応、貴方も覚醒中なので、行けるのではないでしょうか。まぁ、戦闘能力がない魔王ですが】

「言うな。悲しくなる」


人の身のまま魔王に覚醒中って聞かされてるんだから、魔王ほどの力なんてそりゃないに決まってるだろう。

何なら、テイマーだから他の人間よりも戦闘力ないからね。


「なので、ここに来ることは……あら?」


キキーモラが言葉を途中で止め、不思議そうに振り返る。

それと同時に屋敷にドカーン! と爆弾か何かかと思わせる様な音が響き渡る。

恐らく、中庭で戦っていると言うフィリアたちが発生源だろう。

魔法を使って、玄関を吹き飛ばしたのか、それとも壁に穴を空けたのか。


「扉を吹き飛ばした様ですね。ドラゴンや巨人の一撃でも壊れないほどにしていたのですが、やはり同じ精霊同士だと、関係ない様ですね」

【恐らく、個体名:フィリアが『家憑き乙女キキーモラ』の加護を上回る威力の風を出したのだろうと思われます。そのため、開かずの扉にされていた扉を無理矢理こじ開けたと思われます。同じ精霊という概念の存在同士だからこそ、できたことかもしれません。個体名:フィリアは精霊人ですが】


なるほど。

同じ精霊同士ならば、力が上回れば、相手の力を打ち破ることができると言うわけか。

それを考えるならば、特殊個体であり、守護者として、君臨していたフィリアに軍配が上がる可能性が高い。


「久しぶりの侵入者です。それも厄介と言っていいほどの。追い返すのは難しいと予測されるので、排除してしまいましょう」

「排除って……!?」

「四大元素の一角『風』を司る『風の乙女シルフ』だったとしても、『家』という私のテリトリーでは、私に勝てないと言うことを教えてあげましょう。それではお嬢様方、行ってまいります」


軽くお辞儀をすると、キキーモラはその場から姿を消す。

瞬間移動か、何かを使ったのだろうか。


【いえ、そういうわけではない様です。この家そのものは彼女の領域なので、どこにでも移動することが可能な様です。そうですね、まるでホラーゲームの敵キャラの様に】

「その例え話は聞きたくなかったな」


ゲームやってたら、どこから!? って言う感じで驚かされたのはいい思い出だよ。

だけど、このままだとフィリアたちが危ない。

とりあえず、当初の目的通り、『魔物へのお菓子モンスタースイーツ』を使って、この場を乗り切ることにして。


「ねぇ、遊ぼう?」

「ねぇ、遊ばないでおこう?」


きび団子を『次元倉庫アイテムボックス』から取り出す前に双子に両腕を掴まれてしまう。

死霊系の魔物だからなのだろうか。

その手から伝わってくる体温は冷たい。

いや、それどころじゃない。


「あの、遊ぶのは構わないんだけど、その前にさ」

「何して遊ぶ? 何して遊ぶ?」

「何して遊ばない? 何して遊ばない?」

「トランプあるよ? ボードゲームあるよ?」

「鬼ごっこする? かくれんぼする?」

「珍しく逆言わないと思ったら、体動かすか、動かさないかの方で言ってるよ」


結局は逆の事を言い合うんだな、この二人は。

それよりも、今は二人のテイムを。


【いえ、待ってください、ユージ。今は遊び相手をしてあげるのが得策かと】

「急にどうしたんだよ、ヘルプさん? 遊ぶなら、テイムした後でも」

【確かに構わないかもしれません。ですが、『家憑き乙女キキーモラ』が現れる前に言っていた私の言葉を覚えていますか?】

「確か、この双子で少し気になることがあるって言ってたな」

【ハイ、その通りです。その気になる点が少しテイムするのを待ってほしい理由となります】

「なるほどね」


なら、ここはヘルプさんの言う通り、遊び相手になってあげるのが得策か。

何か大変なことに気付いているっぽいしな。

でも、どうしてテイムを待ってほしいと言うんだろうか?


【先ほど言おうとしましたが、そちらの『真似る亡霊ドッペルゲンガー』の気になるところは一体で二人に真似れていることです】

「ん……? どういうこと?」


一体で二人に化けれるっていうことがおかしいと言えばおかしいけど……何かしらのスキルを持っていると考えてもおかしくはないと思う。

分身とか、そういう風な。


【いえ、そういうことではなくて。前情報が足りませんでしたね。『真似る亡霊ドッペルゲンガーというのは本来二体一対の魔物なんです】

「え? そうなの?」

【ハイ。それにはちゃんとした理由がありまして。真似る際に片方は肉体や身体能力などを、片方は精神や魂などをコピーする役割があります。こうして、二体が一つになることによって、コピー元そっくりに真似ることができるのです。一体で肉体も魂も真似るなんて、かなりの負荷になりますからね】

「なるほどね。この話の流れからすると、あの双子は……」

【ハイ、反応は一体分だけ。つまり、それぞれがあの双子に真似れていると言うことになります。絵だけを見てのコピーなので、姿形だけ真似ていると言われれば、そうなのですが。それでも、魂や精神のコピーを担当する方も肉体を真似ることができていると言うことはおかしなことなんです】


だからこそ、ヘルプさんがテイムを待ってほしいと言ったのか。

もしかしたら、もしかしなくてもだけど……この双子———いや、ドッペルゲンガーにも何かしらあったりする?

不思議そうにこちらを無垢な瞳で見てくる双子に対し、俺はヘルプさんからの言葉に苦笑を浮かべるしかなかった。

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