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魂の会話

俺たちは今、フェネクスさんの先導の元、この場からの脱出を目指していた。

フィリアから、あの融合の間に何があったのか、聞こうとしているのだが……。


「お前、なんで小さくなれてんの? しかも、前と同じサイズに」

「え? そりゃ、ボクがスキル『身体調整』を手に入れたからだよ。人と同じサイズから、前の精霊サイズにまでなれると言う優れた能力だよ。流石に『一つ目巨人サイクロプス』とかの様な巨人種ほどのサイズにはなれないけどね」


そういいながら、あの時の妖精サイズで俺の肩に座っているのだ。

まるで、ここは自分の特等席だと言わんばかりに。


「あぁ、それで話だったね。あの時、何があったのかの」

「そうそう! それだよ! 俺、まだかまだかと待ってたんだよね~!」


フィリアの一言にいち早く食いついたのはフェネクスさんだった。

いや、予想できていたと言えばできていたのだが。

先導しながらも、目をキラキラと輝かせながら、フィリアへと視線を向けている。

前みないと危ないと思うんだけど……。


「大丈夫大丈夫! 罠とかはもう全部、俺が溶かしちゃってるからね! あそこに行くまでに! だから、何の障害もないから問題なし! それにあったとしても、俺は『不死持ち』だからね。死なないから大丈夫! さぁ、だから! あの時、何があったのかを俺にも詳しく話を」

「えいっ」

「グフッ!?」


再び暴走し始めたフェネクスさんを止める様に、メイが軽く横腹を突く。

うん、軽く突いた割りにはかなり痛そうにしているけど。

そんなことを思いながらも、フィリアは少し暗そうな表情で口を開く。


「……それじゃ、話そうかな。あの時、融合するまでに何が起きていたのかを」





融合を開始し始め、フィリアとウィリデが風の球体に包まれた中。

フィリアの体は全て魔力へと変換され、ウィリデの肉体の強化、魔人化を開始させていた。

その間に二匹は魂だけの状態となり、向かい合っていた。


「やぁ、ウィリデ。いくら『精神汚染』による人格の崩壊が起きていたとしても、魂の奥底にある君という人格は無事なハズだ。だから、会話くらいはできるよね?」

「フゥ……。確かにフゥは無事フゥ」


魂による会話なのだからか、喋れないハズのウィリデが喋り出す。

その言葉を聞いて、フィリアは満足げに頷く。


「よかった。人格が完全に消え去っていたら、このままボクがこの体の持ち主になるところだったからさ。でないと、ボクを糧にした意味がなくなっちゃうところだったよ」

「フゥ……」


ハァ……? と、首を傾げるかの様な動作をしてみせるウィリデにフィリアはクスリと笑う。


「まぁ、そういうわけだからさ。外では、あの怪物との激闘が繰り広げられている。さっさと融合してしまおう」

「それはどういうことフゥ?」

「そのまんまの意味だよ。さっきも言っただろ? ボクを糧にしたって。つまり、君自身の復活のために死にかけのボクをユージのスキルで形を変えてもらって、君に食べさせたんだよ。で、今はそれによる進化が始まっている。もう魔力も、体も、力も、魂以外の全ては溶けあい、混ざり合い、形を形成し始めている」


フィリアの言う通り、魂の状態で話し合っている二人を余所に、風の繭ともいうべき、この場所で、肉体が形成されて行っているのが伺える。

その姿はフィリアを人間サイズにした様な姿だ。


「まぁ、君は元々スライムだから、性別なんてなかったんだろうけど、ボクの影響を受けて、姿も、性別も、女性になり始めている様だね。まぁ、受け継がせるって意味では、そっちの方がボク的には嬉しいけどね」

「受け継がせる……。そうなると、シルフ様はどうなるフゥ?」

「え? そりゃ、ボクは消えちゃうだけだよ?」

「それはダメフゥ!」


冷静さを感じさせるウィリデが大声を上げ、それに驚いた様に反応するフィリア。


一体何がダメだと言うのだろうか?

死にかけの自分がこの子に力を託して消えていく。

ごく自然のことだとフィリアは思う。


ウィリデはスライムとしての体で首を振るかの様に横に何度も振る。


「シルフ様が消えるなんてダメフゥ。そんなことになったら、主様はきっと悲しむフゥ」

「う~ん、そうかな? 一日も経ってない相手にそんな……。いや、ありえそうだね、彼なら。なんだかんだで、友好的な性格だし。でも、それなら、君が消えた方がもっと悲しむんじゃないかな?」

「それも……そうだけど……フゥ」


逆に言い返されて、ウィリデは言葉を詰まらせてしまう。

だが、それでも……。


「フゥはシルフ様を犠牲にするなんて嫌フゥ」

「君も? ユージといい、君といい……。テイマーとテイムモンスターは性格でも似るのかな?」


フィリアはう~んと、悩むように首を傾げる仕草をする。

とはいえ、どちらかが消えるしかないのは確定していることだ。

いくらウィリデが断ろうと、フィリアは消える気でいる。


「まぁ、君がいくら断ろうと、ボクが消えるのは決定事項なんだよね。だからさ、そんないやいやと言わずにボクの力を」

「……フゥは受け取れないフゥ」

「え?」


受け取ってくれ、と言い切る前にウィリデの言ったことに思わず間の抜けた様な声を上げてしまう。

ウィリデは何かを決意したかの様にフィリアを見る。


「フゥがきっと、シルフ様の力を受け取っても、アイツには勝てないフゥ」

「いいや、それはないよ。ボクの力を受け取れば、君はあの怪物に勝つことが」

「できないフゥ。何となくわかるフゥ」


自分では、あの深淵から来た怪物には勝てない。

フィリアの力を受け継げば、膨大な力が手に入るのは間違いないだろう。

だが、それでも……ウィリデの本能が叫んでいた。


自分では力をうまく扱えず、レギオンに対抗することができない、と。

だが、シルフならばレギオンに対抗することができる。

いや、それ以上の力を手に入れることができる、と。


魂だけでの対話だからか、その感覚を本能的に感じ取ることができていた。

傍らにある体は形成を完了し、後は魂が混ざり合うのを待っている状態となっている。


「それに……そのことはシルフ様も感じ取ってるハズフゥ」

「それは……。いや、ボクは感じ取ってなんかいない。それにそれがどうした? 君だけじゃなく、メイもいるじゃないか。恐らくだが、他のメンバーも来ている頃だろうから、それと協力さえすれば」

「勝てるかもしれないフゥ。それでも、フゥはシルフ様に体を差し出すフゥ」

「なんでそうなるのさ?」


口があれば微笑みながら言っているのだろうと言うのが伺える声色で言うウィリデに対し、フィリアは冷めた様な声を出す。。

飄々とした雰囲気だった彼女からは考えられない冷たい声にウィリデはビクッと震えて、反応する。


「なんでそういうことになるんだよ? ボクは君を助けるために、捕食してもらったのに? それなのに、ボクに体を差し出す? なんでそうなるのさ!? ボクはボクが助かりたいから、こうしたんじゃない! 君を助けるために来たんだよ!?」

「シルフ様がフゥを助けたいと思っている様に、フゥもシルフ様を助けたいフゥ」


お互い助けたい気持ちはある。

だからこそ、どちらも引くことができない。

自分が糧となるべきだと、どちらも思ってしまっているからこそ。


「ユージと約束したんだ。君を助けるって。だから、その約束を破るわけにはいかないんだ。頼むよ、ボクを取り込んでよ」


そっとウィリデを抱きしめながら、微笑む。

フィリアのその言葉にウィリデは体を横に振る。


「無理フゥ。シルフ様、フゥの人格はもう崩壊しているフゥ。今、シルフ様が会話しているのは魂そのもののフゥだフゥ。それに人格は生まれたばかりの赤子の様なものだったフゥ。だからこそ、フゥは今消えることになっても、何も後悔はないフゥ」

「嘘だ。だって、君はユージと、あのスライムの魔人と、他の仲間たちとこれからを楽しみにしていたハズだよ。崩壊してしまった自我は大丈夫。ボクを取り込めば、ボクの意思を補強材として、君の自我を復元させることができる」


だから、ボクを取り込んで―――。


そっと呟いてみせる。

ボクのことを気にしないでほしいから。気にしなくていいから。

だから、早く取り込んでほしい。


コレはただのエゴだ、というのはフィリアもわかっている。

それでも、ただのエゴを押し付けないと、この子はきっと取り込んでくれない。


「じゃあ、このままボクは君の魂と融合を―――アレ?」


何か……おかしい?


そう感じ取ったフィリアは抱いているウィリデへと視線を移す。


融合が始まっている。

始まっているのだが、それはフィリアがウィリデと融合する形ではない。


ウィリデがフィリアと融合する形で、始まり出しているのだ。


そのことにフィリアは驚く。


「ウィリデ!? 一体何をしてるの!? なんで、君が!?」

「フゥは……やっぱりシルフ様に生きてほしいフゥ。だけど、こういっても聞かないだろうから、行動に移させてもらったフゥ」

「こ、行動にって……。ボク達の話し合いで決まってから起こるんじゃ」

「こういうのは……初めての事例だから、シルフ様もわからなかった様だけど、違うフゥ。話し合いで決着をつけるのもありだけど、それは双方がどちらが消えるかを決める時だけフゥ。フゥがやっているのは……魔族らしいこと。弱肉強食……。弱い魂が強い魂に喰われると言うことフゥ」

「それって、一体どういう……!? まさか、自ら魂をこっちに流してる……!?」


フィリアは一体何が起きているのか、考えてから、驚いた様に呟く。

弱肉強食……自然界では当たり前の言葉であり、弱い者は強い者に喰われると言うこと。

魂となったとしても、それは変わりない。

フィリアは元々が精霊という強力な個体でありながら、更にそこから生まれた特殊個体だ。

ウィリデの魂をフィリアの魂に差し出せば、弱い魂は勝手に強い魂に取り込まれていく。


だからこそ、ウィリデは行動に移した。

いくらフィリアが魂を半分以上奪われたとしても、自分よりも強力な力があるのは感じ取れていた。

だからこそ、差し出せば、勝手に取り込まれていくと本能で理解した。


フィリア自身がそのことに気付いていたのなら、ウィリデがやろうとしたことも拒絶はできただろう。

だが、今気づいてももう遅い。

ウィリデの魂はもう消えかけている。


ウィリデ自身は姿が薄れ始めながらも、フィリアへと顔を向ける。

フィリア自身は焦りを顔に出しており、どうにかして止めようとしているが……止まらない。

力が強い故に弱い力を吸収してしまう、という現象が起きているのだから。


「どうして……! ボクは、こんなつもりは……!」

「気にしないでほしいフゥ。力の差を利用したのはフゥだフゥ。だから、もう……受け入れてほしいフゥ」

「そんな……」

「それにフゥは気付いているフゥ。シルフ様だって、主様と出会ってから、もっと生きたいって……主様と一緒に旅をしたいって思ってるフゥ」

「ッ!」


ウィリデの一言に言葉を詰まらせるフィリア。

確かにウィリデに捕食される前に、「ここの問題が解決したら、ユージについていく気だった」とは言った。


フィリア自身も生きたいと願っていた。

それを見抜かれて、否定できるハズもなく。


フィリアはしばらく黙り込んでから、薄笑いを浮かべる。


「ユージにくどいって言ったばかりなのに……。ボクもくどかったみたいだね……。生きたいって願ってたなんて……」

「フゥ……。シルフ様にはこれから先、フゥの代わりにたくさんのことを見て、聞いて、感じてほしいフゥ」

「それは……君のお願いかな?」

「お願いフゥ」

「わかったよ……」


魂だから、涙なんてないハズなのに……フィリアの目の前は霞んで見える。

ウィリデはそんなフィリアを見て、体を軽く揺らしてから、声を上げる。


「後はお願いしますフゥ。シルフ様」

「うん、任せてよ。これから先、君の代わりに色々見て、聞いて、感じて……楽しむからさ。ユージも守り抜いてみせるから。それと……ありがとう」

「フゥ……。それを聞けて、一安心したフゥ。それじゃ、おやすみなさい」


そういって、ウィリデの魂は全てフィリアへと取り込まれて、消え去る。

そして、フィリア自身は奪われてなくなっていた魂がウィリデの魂で補強されたのを感じ取って、形成された肉体へと目をやる。


外ではきっと、ユージ達が戦いを繰り広げている。

早く向かわなければならない。


「それじゃ、行こうか。ウィリデ」


肉体にそっと触れ、中へと入り込み……そして、風の繭は消え去った。





「まぁ、こんな感じかな……。融合なんて、今まで誰もしなかったことだから、勝手がわからなかったけど、ウィリデに先手を取られるなんて思わなかったよ」

「なるほどな……」


あの短い間で、そんなやり取りが起きていたとは驚きだ。

というよりも、魂だけのウィリデが喋れていたこと自体にも、更に驚きだ。

現実じゃ、フゥ、しか言ってなかったし。

というか、こっちの世界にも、『弱肉強食』という言葉があったことにも驚きだ。


「うみゅ……。そんなことがあったなんて、驚きみゅ。でも、ウィリデがそう決めたのなら、スイムからいうことは何もないみゅ」


思えば、ウィリデはスイムを守る騎士のような存在の一人でもあったんだ。

気にしてはいたのだろうが、ウィリデの選択だったのなら、と納得してくれた様だ。

魔族はやっぱり、こういうところはさっぱりしているのだろうか。


「ありがと。まぁ、そういうことがあって、ボクがこうして復活する形になったんだよ」

「なるほどなるほど! 興味深い話が聞けたね! 融合する際に起こる魂同士の対話! 力が弱い魂は強い魂に簡単に取り込まれる! いやぁ、それにしても『融合』かぁ。どんな条件を満たせば発生するのかな? もしかして、ユージのスキルを使わないと発生しないとか? いや、もしくは似たタイプの存在だから? もしくは生きたまま取り込むことで? いや、もしかしたら、魔物と精霊ということが条件の可能性も」

「えいっ」

「ゴフッ!?」


また興奮気味に喋り出したフェネクスさんに対し、再びメイが横腹を突くことによって止める。

まぁ、この空気であの癖は不謹慎だよな。


最早お約束と言っていいほどになった光景を眺め、フェネクスさんは突かれた場所を擦りながらも、一つの行き止まりのところに辿り着く。

俺は不思議に思い、少し覗き込んでみると、そこの床には魔法陣が描かれていた。

恐らく、外に出るための転移魔法のものだ。


「さぁ、ここを出れば、森の外に出られるよ」

「え? そうなんですか?」

「あぁ、そうだとも。そこは俺のスキルで確認したから間違いない」


この魔法陣……もしかしたら、アユムの?

何故、こんなところに……と、不思議に思うが、アユムのことだ。

ここで野垂れ死にをさせたら、次再戦できないから、みたいな理由で置いていった気がする。


「さてと、俺はここで君たちとはお別れだ」

「え? そうなんですか?」

「あぁ。俺はもう少しさっきの部屋を調べておこうと思ってね。レギオンは喰われてなくなったが、『深淵大群』なんて呼ばれるくらいなんだ。もしかしたら、アレだけじゃない可能性があるからね。今後の対策のためにね」

「なるほど」


確かに対策さえできれば、再びレギオンが現れることが起こっても対処はできる様になるだろう。

そういうことなら……と、俺たちは魔法陣の上に立つ。


「それではフェネクスさん、お世話になりました。貴方がいなければ、ここに辿り着くことはなかったと思います」

「どういたしまして。まぁ、君たちのこれからの旅が安全であることを願っておくよ。姫様も気を付けて」

「えぇ、ありがとう。フェネクス。それでは」

「バイバイ」


メイが手を振って言うと、魔法陣から光が放たれて、視界を遮る。

やがて、魔法陣からの光は収まり始め、それが消えると、俺たちは森の外に立っていた。

外は日が傾き始めており、夕方になろうかとしているのがわかる。

また明るいし、少しでも進んでおくか?

そう思いながらも、『次元倉庫アイテムボックス』から馬車を呼び出す。


「ノワール、元気あるか? 少しでも、先に進みたいんだけど、行けるか?」

「ガウッ!」


問題なし、という様に吠えたノワールに礼を言って、頭を撫でながら、馬車と繋げる。


「皆、乗ってくれ」


俺がそういうと、新たにフィリアを含めた皆が馬車へと乗り込むのを確認———とは言っても、フィリアはずっと俺の肩に乗っているのだが―――してから、エリーナへと目を向ける。


「エリーナ、お前はこれからどうする? 俺たちは行くけど。もし、よかったらだけど、俺たちと来るか?」

「……そうですね。貴方がどうしても、というのなら、一緒に行ってあげないわけでもないですよ? まぁ、貴方は私がいないとダメな様ですから、仕方なくついて行って」

「よし、じゃあな。エリーナ」


相変わらず人を馬鹿にするな、コイツ。

ノワールに歩く様に指示を出し、エリーナを置いて動き出す。

エリーナは言葉を遮られたからなのか、しばらくの間固まっており、少し離れてから。


「ちょ、ちょっと! 待ってくださいよ! ユージ! ここは『お願いします。エリーナさん』と言って、旅の仲間に加えるところだと思いますよ!? 聞こえてますか、ユージ!? ちょっ! 私も一緒に行きます! 仲間に入れてほしいですから! おいていかないでくださーい! 乗せてくださーい!」


なんか叫びながら、後ろから走ってくるエルフがいる気がするが、無視。

さてと……次はどこ行こうかね。

そんなことを思いながら、空を少し見上げるのだった。





フェネクスはレギオンと戦っていた先ほどの場所に戻ってきており、辺りを散策していた。


「特に目立ったものはなし。収穫もレギオンの血くらい……。いや、色々面白いもの見れたからいいかな」


そういいながら、試験管に入ったレギオンの血を見ながらも、とあることを思い出す。


「思えば、ここに向かう途中に危険な気配を感じたけど……アレって一体」


少し悩むような動作を見せながら、笑みを浮かべる。


「あの気配は大分変わっていたけど、あの『合成獣キメラ』の子からのだった。一体ここで何が起こったのか……。興味深いけど、まぁ、とりあえずリオン様に報告しに戻らないとね」


そういって、フェネクスは翼を大きく広げて歩き出した。

翼から放たれた超高熱の熱がその場を溶かし始め、研究所を破壊していく。


「まぁ、学者としてはこれから何が起きるのか、楽しみにさせてもらうとしよう」


フェネクスは笑みを浮かべながら、その場を後にした。

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