晩餐会
「つうことで、行けるか?」
「うん、大丈夫。つまり、いつも通りでいいってことでしょ?」
うん、頭良いくせに、なんでそんな捉え方すんのかな、このキメラは。
まぁ、メイはいつも通りでいいのは確かなんだけどさぁ。
なんて思っていると、誰かが後ろから抱き着いている感覚がする。
というか、背中に何か柔らかいものが当たって……じゃなくて!
「ユージィ、アイツの相手なんてボク一人でどうとでもできるよ~? 向こうがどれくらいパワーアップしたかは知らないけど、ボクの方が実力が上なのは確かなんだから」
「ダメだ。敵がどんな力を隠し持っているかわからないんだ。なら、確実な方法で行くのが一番だよ」
そういって引き剥がそうとするんだけど……うん、やっぱ人間と魔人じゃ、力の差があり過ぎて無理だな。
メイが何やら俺とフィリアのやり取りに反応し、少しムッ、とした表情で近づいてこようとした時だ。
「作戦会議は終わりか?」
レギオンの声に反応し、フィリアも俺から離れる。
皆の視線がレギオンへと向けられ、俺は自然と笑みが零れる。
「律儀に待っていてくれたのか? 少し前のお前にはあり得ないことだな?」
「さっきまでの俺は魂が一つ分少なかったんでな。増えたことにより、理知的にはなったのさ」
「理知的に……ね。まぁ、その余裕がいつまで持つかは、見物だな」
なんで笑みなんて浮かべてんの、俺?
少し魔王化の影響受けてないか、俺?
ちょっと口調が一瞬おかしかった様な気もするんだけど、気のせいだよね?
そんな葛藤をしている俺を余所に、レギオンと戦うべくメイとフィリア、ルフェが前に出る。
スイムやノワールたちは俺とエリーナの護衛に回ってもらうつもりだ。
フェネクスさんも高みの見物と言わんばかりに、こっちに来てるしね。
まぁ、このチーム編成には理由はある。
『黙示録の獣』と戦った場所よりは狭く、大人数で動き回るのは不可能に近い。
そして、今回の作戦の要はメイと言ってもいい。
アイツを確実に倒すにはメイの力が必要不可欠だからだ。
フィリアはレギオンが持つ、風を操る力を無効化してもらうのと魔法や近接でメイの援護をしてもらうためだ。
最後にルフェは補助魔法や防御魔法で二人の援護をしてもらうため。
必要ならば、攻撃もしてもらう。
三人が身構え、レギオンは反応する。
「俺たちの相手をするのに、たった三人か? ナメられたものだな」
「別にナメてないよ。お前を倒すのに、私達三人で十分ってことなんだから」
「『深淵大群』である俺たちに対して、たった三人でか? ハッハッハッ! 笑わせる! 俺たちはこの体に100以上の魂があって」
「それがどうしたのさ」
フィリアの一言と同時に振るった腕から放たれたのは風の刃。
一瞬の行動にレギオンは反応できず、胴体へと食い込み、そこから血が噴き出す。
「『鎌鼬』。もう戦いは始まってるんだよ? 悠長に喋ってる暇なんてないよ」
「貴様ァァ……!」
「『身体強化』!」
「『疾風迅雷・焔』!」
「ガッ……!?」
ルフェが魔法陣を展開し、メイの身体能力を強化、そこに『疾風迅雷・焔』を足すことにより、超高速の移動。
前と同じ……いや、それ以上の轟音が鳴り響き、突風が吹き荒れ、地面が割れ、剥がれていく。
瞬間移動だと言ってもいいほどの移動を果たしたメイの拳はレギオンへとめり込み、風穴を開けて吹き飛ばす。
どれほどの勢いのついた拳なんかは考えたくもないが、風穴ができて、更に吹き飛ぶほどとなると、人間が受けた時には……元がわからないくらいグチャグチャになりそうだな。
「この程度……!」
「で、終わるわけがないんだよ」
フィリアが軽く腕を振るえば、吹き荒れる嵐。
シルフの時からできた、風の猛威を振るう。
あの時と違うことがあるとするのなら、その中には雷が含まれており、嵐の猛威によって動けないレギオンに対し、雷が迸り、アイツの肉体を焼いていく。
「相殺……できない……!?」
レギオンも風を起こそうとしているのか、他の顔が口を開いたりもするも、その風はフィリアの風に対しては無力だった。
いくら同じ力を持っていると言っても、流石に本家の方には勝てないか。
よくよく思えば、アレってスキルだったのか?
【ユニークスキルだったのは確かです。『風の猛威』と呼ばれるものです。腕を一振りするだけで嵐を巻き起こし、息を噴けば、家々をも吹き飛ばし、拳や足に纏って放てば、鉄の壁をも穿つ風を巻き起こす。まさにそういったスキルでした】
「改めて恐ろしいと思うけど、でしたってことは……」
【ハイ、『精霊人』になったことにより、スキルは進化しているのを確認しました。『嵐の申し子』へと進化しているのを確認。腕の一振りで街をも吹き飛ばす嵐を巻き起こし、息を噴けば巨大な城をも吹き飛ばし、拳や足に纏って放てば、山々をも穿つ風を巻き起こすほどになりました。もちろんですが、威力を変えることも可能ですし、雷を付与することも可能です】
え? 『大気操作』と合わせれば、結構やばくねぇか?
何なら、魔王とやり合えるんじゃないだろうか。
【まだ七人の魔王の方が強いですよ】
魔王の実力って、一体……。
そう思いながらも、何とか立ち上がるレギオンへと目を向ける。
やはりと言うべきか、再生が始まっており、今まで与えたダメージがみるみる回復していく。
「無駄だ……。俺の体は魂で構成されたもの。いくら攻撃しようとも、貴様らの攻撃では魂を完全に消し去ることなどできはしな」
「メイ、今だ!」
「うん!」
レギオンの言葉を遮る様に声を上げ、メイは『疾風迅雷・焔』と『身体強化』のおかげで、一瞬でレギオンの前へと移動。
そして、大きく口を開き、レギオンの体へと噛みついた。
「一体何を……!? こ、コレは!?」
レギオンはメイの不可解な行動に驚きを見せていたが、自身の体に異変が生じ始めたのを感じ取った様だ。
メイはそのまま食い千切り、レギオンの背後で着地。
口をモゴモゴと動かした後、ゴクリ、と喉を鳴らしながら飲み込む。
「う~ん、変わった味? 別に食べれないわけじゃないけど、飽きるかも」
「我慢してくれ」
「わかってるよ。倒すためだもんね。それに一部を取り込んだからか、良い方法を思いつくことができたし」
そんな会話をしながら、レギオンへと目を向ける。
食い千切られた部分は再生しようとしているが、そのスピードは先ほどと比べれば遅い。
予想通り、うまく行っている……!
このままいけば、確実にレギオンを倒せる。
「コレは……一体……!?」
「それは秘密。ただ……次は私が貴方を喰い尽くす番っていうだけ」
メイは舌で上唇を舐める動作をしてみせる。
その姿が妖艶に見えたのは気のせいだと思っておこう。
後ろでフェネクスさんは小さく拍手して、何度か頷いてみせている。
「あの子の持つ力がレギオンの体を壊す可能性のあるものだったってことか。一体、何のスキルかはわからないけど、考えれば答えが見えてきたな。レギオンの体は魂を使い、変質させ、再構築することで生み出しているもの。つまり、魂の体と言っても過言ではない。そして、あの子が食らいつくことによって、その力の一部が奪い取られたかの様な動作になっている。つまり、そこから導き出される答えはただ一つ、捕食系統の能力を所有していると言うことになるね。それも、魂というピンポイントな部分でだ。ということは、彼女が持っているスキルというのは」
「小声で言っているので構いませんけど、レギオンに聞かれない様にしてくださいね?」
「魂を喰らうと言う珍しいスキルで」
「……うみゅ」
「グフッ!?」
語り出したら止まらないフェネクスさんの横腹をスイムが軽く小突いて止める。
そんなことをしている間にメイの尻尾に異変が起きる。
いや、尻尾だけでなく、天使と悪魔の翼も形を変え始める。
尻尾の方が蛇の頭からドラゴンの顎へ。
天使の翼も狼を思わせる様な白い毛並みの顎へと変わり、悪魔の翼の方は鬼を思わせる様な黒い肌を持つ顎へ。
更に髪も集まり、束ねられると、メイの持つ金髪の毛並みのライオンの様な顎へと変わる。
え……なんですか、それ?
なんだか、メイにも顔が増えたんですが?
驚いている俺を余所にメイは笑みを浮かべる。
「貴方は私に少し似てるから。貴方のおかげで自分の持つ力を更にうまく扱える様になったよ。別に部位に拘る必要はないんだってね」
「何を訳のわからないことを……!」
「『一撃強化』!」
「『雷撃の竜巻』!」
ルフェが魔法陣を展開し、フィリアへと強化魔法を付与。
バフがかかった状態でフィリアは片手をレギオンへと向け、雷を纏いながら吹き荒れる竜巻がレギオンへと放たれる。
自身を穿とうとする竜巻に対し、レギオンは両手を向け、耐える構えをしてみせる。
竜巻がレギオンの両手へと到達する。
その瞬間、レギオンの両腕を雷が焼き、竜巻が削り取っていく。
雷を纏う竜巻の威力にレギオンは目を見開き、素早く横へと跳ぶことによってかわし、削られたことによってなくなった、肘より先の手を見る。
再生は始まっているけど、メイによって、魂をいくつか持っていかれたせいか、再生が遅い様だ。
このまま……!
「畳みかけろ! メイ!」
「わかったよ、ユージ。じゃあ、ここで今、貴方を喰い尽くすから」
「ッ!」
驚いているレギオンはメイの一言に反応して、そちらへと視線を向ける。
ドラゴンの、狼の、鬼の、ライオンの……そして、人としてのメイの口がゆっくりと開かれる。
傍から見ていてなんだが……今のお前、怖いぞ。
深淵から来たハズの怪物でさえ、恐怖を覚えたのか、メイが一歩近づく度に、一歩後ろへと下がる。
隣のエリーナも少し震えあがっており、俺の服の裾を掴んでいる始末である。
スイム達魔族や魔物組は何とも思っていないのか、別に普通に見ている様だが。
いや、味方だからこそ、なのだろうが。
「まだ……だ! まだ終わるわけには!」
「急に小物っぽくなったよね、君。最後に取り込んだ奴がそんな奴だったからかな? それにボクが何かさせるのを許すとでも?」
フィリアの一言の次にはレギオンの足は消えた。
フィリアが腕を一振りするのが見えたから、恐らくだが、風の刃を放って、足を切り落としたのだろう。
音もなく襲い掛かる風の攻撃は恐怖でしかない。
足を失ったことによって、バランスを崩したレギオンは前のめりに倒れこむ。
そして、すぐさま顔を上げて、メイの方へと向けて……メイは既にレギオンの前へと来ており、屈んでレギオンの新しくできた顔を覗き込んでいる状態になっている。
それも周りは残りの顎に囲まれている状態だ。
あ、コレ……今まで以上に見るのが怖いシーンのやつだ。
「喰われて……たまるかぁぁぁ!」
「散々魂を喰ってきたんだ。次はこっちが食らう番だ。だろ? メイ?」
「うん。それじゃ、いただきます。『晩餐会』!」
レギオンが咆哮を放つよりも先にメイが頭へと噛みつき、他の顎がレギオンの体に噛みつき、食い千切っていく。
流石にその光景を見ることはできず、目を閉じて、ヘッドホンをして耳を塞ぐ。
それでも少し音は聞こえてくるもので、水を啜る様な音と骨か何か硬いものを噛み砕く音、そして何かをを食い千切る様な音。
エリーナも恐らく、見ない様に目を閉じ、両手で耳を塞いでいるに違いない。
思えば、ヘッドホンに『聴覚強化』のエンチャントがかけられていた様な。
【ユージが発動を意識しない限りは発動しないので、大丈夫ですよ】
それならよかった……。
どれくらい経っただろうか。
五分? 十分? わからないが、肩を叩かれる感覚がして、ゆっくりと目を開くと、そこには満面の笑みを浮かべるメイがいた。
先ほど顎に変質していた、髪や翼などは元に戻っており、尻尾の方も蛇に戻っている。
一応ではあるが、先ほどまでメイとレギオンがいたであろう場所に、メイ越しに覗いてみる。
肉片どころか、骨一つ残っておらず、その地面には何かしらの赤い液体が……うん、気にしないことにしよう。
とりあえず……。
「あ、えっと……。お疲れ様、メイ」
「うん、ありがとう、ユージ。何とか食べることができたよ。おかげで『深淵の咆哮』と『風の猛威』なんてスキルも貰っちゃったよ。あ、後ね、取り込んだ魂を使って、回復する『魂の再生』なんてものも貰っちゃったよ。どれもユニークスキルだし、今まで私が取り込んできた魂の量を考えると、しばらく自分の回復に困ることはないよね」
「は、ハハハ……そうか」
アレ? メイは最早不死身に近いのではないのだろうか?
ゴブリンだろうと、なんだろうといいから魂を取り込み、ストックし続ける限り、使えるのだから。
取り込んだ力は恐らくだが、メイの魂へと刻み込まれているだろうから、回復のために魂を使っても問題はなさそうだし。
そう思いながら、エリーナの方へと視線を向けると、レギオンの血が残っているだけの場所へと目を向けていた。
その目はどこか、遠いものを見つめる様な感じで。
「……終わったんですね」
「……あぁ、終わったな」
「仲間の魂は……メイに取り込まれたんですね」
「大丈夫だよ。私のスキルは魂を取り込むけど、それは力だけを持った魂だけ。エリーナの仲間たちは私の中にはいないよ」
「……そうですね。貴方は生きた魂を喰らうわけではないですもんね」
正直、俺には違いがわからないんだけど。
だけど、メイが大丈夫だと言うのだから、大丈夫なのだろう。
とりあえず、黙祷でもしておこうかな。
「ユージ」
なんて思っていると、フィリアが後ろから抱き着いてきた。
背中に柔らかいものが当たってるんですが……。
「メイは労って、ボクのことは労ってくれないの? ボクだって、頑張ったんだよ?」
「あぁ、そうだな。お疲れ様、フィリア。それと……生きていてくれて、嬉しいよ」
「……まぁ、うん。ありがとう。戦いも終わったし、ユージ達にはウィリデと何があったのか、話しておかないといけないよね」
「それは外に向かいながらでも、良いと思いますよ」
ルフェが微笑みを浮かべながら、こちらへと近づいてくる。
確かにルフェの言うことに一理ある。
そう思っていると、レギオンの血を回収していたフェネクスさんが反応する。
「それなら、俺が先導して、外への道を案内するよ。新種族にも興味があるし、ウィリデと何があったのか、俺も聞きたいしね。あぁ、出口だけど心配しないでよ。大体目星はついているし、最悪壁を溶かして、穴を空けるから問題なしだよ。さぁ、早く行こう! そして、一体何があったのか、俺にも詳しく、丁寧に! 話を聞かせて」
「うるさい」
「ゴフッ!?」
再び語り出そうとしたフェネクスの横腹をメイが小突く。
スイムがやった時よりも悲鳴が大きいのは気のせいだろうか。
そんなことを思いながら、俺たちは歩き出し、その場を後にする。
少ししてから、その場に鏡が現れて、そこからニャルラトホテプ、アユム、アイリが姿を現す。
「アハハ、アイツ等よくやったな~。あの怪物を倒すなんて」
「とは言うけど~、アユムは~知ってたんじゃないの~? 彼らが~レギオンを~倒すって~」
笑ってみせているアユムに対し、ニャルラトホテプはニヤニヤしながら問いかける。
「ん? まぁな。そういう『道』が定まっていたからな。いや、一応全滅してしまうっていう『道』もあったんだけどな? あの魔将フェネクスが来ている時点でそれは限りなく0に近い形になってたぜ。まぁ、あの融合体が現れるかどうかは不安材料だったが……魔将たちをちょうどいい時間くらいまで道に迷わすのには成功したみたいだしな」
「……やっぱり、アユムが何かしてたんだ。あのまま溶かしながら、まっすぐ進めば、すぐに辿り着けるハズなのに、なかなか辿り着かないから、おかしいと思ってた」
「いくら魔将と言えど、『道』に逆らうことは絶対にできないからな」
アユムはケラケラと笑いながら言っている間にニャルラトホテプは残っているレギオンの血を回収し、懐にしまう。
ゆっくりと立ち上がると、鏡を出現させ、アユムとアイリへと視線を向ける。
「それじゃ~もう行こうか~。ここには~もう~用はないし~」
「……うん、そうだね。ミラルが取り込まれるのは予想外だったけど」
「仕方ねぇよ。あんな実験している時点で、そうなる運命だったんだよ。そういう『道』だったんだよ。ただ……まぁ、どの道にもなかった出来事は一つだけあったけどな」
アユムの脳裏に過ぎるのは体に刻印が浮かび上がり、理性を失くして、暴れ回る禍ツ化したメイ。
(あのキメラの嬢ちゃんにあんな異変が起きる道なんて一つもなかったハズだ。一体……アレは)
不思議に思いながらも、まぁ、いいか。と考えるのをやめる。
あの力に関してはあのテイマーがその内答えに辿り着くだろうと。
自分はそんなのを気にせず、あのキメラと再び戦う時を楽しみにするだけだ。
「じゃあ、またどこかで会おうぜ。キメラの嬢ちゃんにテイマーさんよ」
それだけ言い残して、アユムはニャルラトホテプとアイリと一緒に鏡へと入って消えていった。




