弟子
新たに仲間としてフィリアとエリーナを加えて、数日が経った。
エリーナがいるおかげだろうか、魔物との遭遇回数が減って、戦闘ばかりということはなくなったおかげで、街に辿り着くことができた。
フェルシオンの国境に位置する街、『ランガイ』という場所であり、俺たちはその街に立ち寄って、冒険者ギルドに来ていた。
理由は二つ。
一つは新しくテイムしたルーフス、フラウム、フィリア、ルフェの登録がまだなこと。
もう一つはエリーナの冒険者登録である。
俺たちに今後ついてくることになると言うことは、色んなところを冒険することになる。
そうなると、手間な手続きとかをパスすることが可能となる、身分証代わりのギルドカードが必要となる。
そのためにギルドカードを作りに来た。
というわけで、俺は今、追加のテイムモンスターの登録を行っていて、その隣ではエリーナがギルドの登録を行っている。
思えば、受付嬢が俺の連れてきた魔物たちを見た瞬間、一瞬頬が引きつっていたが気のせいだよね。
思えば、門番の人とか、ここに来るまでの通行人の人達もノワールを見て、口をあんぐりと開けていたけど、気のせいだよね。
後、書き終わった紙を渡したら、石の様に固まった様にも見えたが、きっと気のせいだと思っておこう……うん。
「その……お待たせしました。新たにテイムした魔物、魔族の登録は完了しました。ギルドカードをお返ししますね……」
そういって、登録する際に一緒に提出する様に求められたギルドカードが返ってくる。
俺はそれを受け取りながら、一覧に登録されているか、確認するために「観覧」と小声で唱える。
そうやって、ギルドカードに浮かび上がったのは登録されたルフェ達と……冒険者ランクがCに代わっていること。
……ん?
「え? 冒険者ランクが上がってる?」
「ハイ、ここに来るまでの冒険は全てギルドカードに自動で随時更新されていくので、登録ついでに見たのですが……『悪魔神教』との二度の対立、その貴重な情報や、この世界の危機になりうる魔物を二体、討伐しているなどの功績から、ランクを上げさせてもらいました。最初はAランクにしようか、という意見もありましたが……いきなりAランクまで上げるのは、ということでCランクということになりました。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
とりあえず、お礼を言っておく。
う~ん、まさか一気に冒険者ランクが上がるとは思わなかったぞ。
コレでより良い報酬の依頼を受けることが可能となるな、うん。
そんなことを考えていると、俺の肩の上に座っていたフィリアが人間大のサイズへと変わり、背中から抱き着いて、俺のギルドカードを覗き込んでくる。
「おぉ、本当だね~。確かにギルドランクが上がってる。あ、ここにボクの名前もあるよ。いやぁ、今のギルドカードって、こんなに便利になったんだね」
「昔は違うみたいな言い方だな」
「ん、まぁね。ボクが勇者に見せてもらった限りだと、こんな便利なものじゃなかったよ。ホントにただのカードみたいなものだったからね」
昔のギルドカードか……。
少し興味があるなぁ。
そんな風に思っていると、余計に周りの視線が強くなった気がする。
少し横目で確認してみると、その視線は俺の背中に抱き着いているフィリアへと注がれている。
そりゃ、俺の肩に乗っていた妖精の様なものが、いきなり人間大のサイズになれば、誰だって驚くだろう。
俺も初見だったら、絶対驚く。
とはいえ、この物珍しそうに見られる感覚は耐えられたもんじゃない。
まだか? と思い、エリーナへと視線を移すと、翡翠色のギルドカードを持ちながら、こちらへと近づいてきた。
「登録終わりましたよ……って、フィリア様、いつの間に人間大サイズに……」
「登録終わったか! なら、とりあえず街に買い物に行こう! 物資を先に補充しておきたいし、フィリアの服も買いたいしな」
「そうですね。これからどこに行くか、目標を決めてない旅になりそうなので、それなりの物資はいりそうですし、フィリア様の服も必要ですね」
「さり気なく毒吐くのやめてくんない?」
俺でも、目的地を決めるまでは街に留まって、依頼をこなそうとか考えてるよ?
決して、何も考えてないわけじゃないからね?
そういって、ギルドカードをポケットを経由して『次元倉庫』へと送る。
フィリア自身は俺がギルドカードをしまうと同時に再び妖精サイズへと変わり、俺の肩に乗っかっている。
俺たちはギルドを出て、歩き出す。
「さてと、買い物に行くのはいいが……大人数で移動するのもアレだし、各自自由行動にしよう」
「自由行動ですか?」
ルフェは反応を示し、俺は頷いてみせる。
「あぁ。大人数で動く必要もないしな。あ、フィリアは服を買いに行ってからな。その服装で人間大サイズになれば、色々とやばいから」
「う~ん、ボクは別にこの格好で困らないんだけど……。でも、まぁ、ユージ以外にエッチな目で見られるのは嫌かな~、確かに」
「俺は別にそんな目で見てなんか」
「胸をチラチラ見ていたのに気付かないとでも思ってたの?」
気付かれてた……。
そういうのに、女の子は敏感だって聞いたことはあるけどさ……。
というよりも、俺以外にはって、どういうことだよ。
俺はいいのかよ。
「もちろん、ユージになら見られたって構わないよ? それに今のボクは肉体も持つことができたから、ユージが望むなら、ボクは夜の相手も」
「それ以上言わないでくれますかね?」
フィリアの言葉を遮る様に言ってから、俺はため息を吐く。
というより、肉体を持つことができたから……って、どういうことだ?
【そのままの意味ですね。前にも説明した通り、精霊は概念が形を成した存在です。そのため、精霊の体は魔力で生成されている、精神体と言ってもいいでしょう。ですから、精霊には寿命はありませんし、食事も、睡眠も必要ありませんでしたし、生殖器官もありませんでした。ですが、肉体を持った今では別です。彼女は魔人となったことで肉体を得た今、食事も睡眠も必要になり、生殖器官も出来ました。ということはです……子供を】
「あ、もう意味が分かってきたから。大丈夫だから」
【……そうですか】
シュン、と落ち込んだ様な声で反応するヘルプさん。
いや、だって……ねぇ?
それにしても、この街に辿り着くまでに野宿でできる食事を美味しそうに食べていた理由がわかった気がする。
「これが食べるっていうことかぁ……いいね!」なんて言いながら食ってた理由を今、わかった気がする。
でも、食事も睡眠も必要なかった頃の方がフィリア的にもよかったんじゃないのか?
「いやいや、それはそれで辛いものだよ? 何せ、これといった娯楽がボク等精霊にはないんだから、悪戯するとかして、暇を潰すしかなかったしね。肉体を得た今じゃ、食事も睡眠も、ましてや疲れを感じることさえ楽しいからね。後は……気になる異性を捕まえるだけかな」
とりあえず、俺の思考を読んで、耳元で何か言っているフィリアの軽い冗談を聞き流し、メイたちへと視線を向けた時だ。
「あ、あの! そこの変わった格好の人、待ってほしいっス!」
「ん?」
後ろからかけられた声に反応して振り返る。
声かけてきた人物———活発さを感じさせる綺麗な赤い髪をツインテールにしている少女が肩で息をしながら、走って近づいてくる。
一体何事? と思いながら、少女へと視線を向けて……俺は固まる。
何故、固まったのか? その理由は少女が連れている一つの存在にある。
「ハァ……! ハァ……! よかったっス、まだ遠くに行ってなかった様で……」
「キュキュイ!」
少女の声に同意するかの様に声を上げたのは、少女の傍らを飛んでいる小さめの竜だ。
俺が固まった理由はこの竜にある。
サイズ的に元の世界にいた鷹の様な大型の鳥くらいのサイズの白竜。
そこまでは良い……。
ドラゴンがいるんだぞ……!?
男だったら、ドラゴンと聞いたら、興奮しないわけがない!
前にレッドドラゴンと遭遇したけど、あの時は色々あって、そんな暇はなかったし。
俺だって、テイムしたいと思っているドラゴンをこの子は連れているんだぞ……!?
【解析完了。種族名:『白子竜』。危険度ランクはCランクに分類されます。ユニークスキルで面白いものを感知しました。『竜王の血』を確認しました】
なんか気になるユニークスキルを検知してるんだけど……後で聞くとして、今は同じテイマーであろう、この子だ。
「えっと……俺に用事?」
とりあえず、俺で合っているのかの確認は必要だよな。
もしかしたら、他の通行人に対して叫んでいた可能性もあるし。
少女は両手を膝の上に置き、上半身を前に倒した状態で肩で息をしながらも、息を調えようとしているのが伺える。
そして、息が整ったのか、勢いよくあげられた顔には凄いものを見つけたと言わんばかりの興奮した様な表情を浮かべ、目を輝かせていた。
「ハイっス!」
少女は満面の笑みを浮かべ、頷いてみせる。
え? なんで俺に用事?
「あの、少しお伺いしたいんっスけど、ここにいる魔物や魔人たちって、もしかして」
「え? あぁ、一応俺のテイムモンスターだけど」
「やっぱり、そうなんっスね!」
「うおっ!?」
少女が求めていたであろう答えを言った瞬間、次は鼻息を荒くしながら、近づいてきた。
近い……凄く近いです。
この子の顔が目と鼻の先にあるんだけど?
少しでも前に動けば、唇同士がくっついてしまいそうなんですけど!?
蒼く綺麗な瞳に、俺が映り込んでるのさえ見えるほどだからね。
「アタシも『魔物使い』なんっスけど、ギルドで貴方を見かけて、急いで追いかけてきたっス!」
「え? 何でっスか?」
「口調移ってるよ、ユージ」
あれ、本当だ。
メイに指摘されなきゃ気付かなかった。
アレだけ、『っス』って、連続で聞いてりゃ、口調移るってもんだよ。
とりあえず、気を取り直して。
「それで、なんでですかね? 追いかけてきた理由を聞いても」
軽く咳払いをしてから、訪ねた瞬間、少女が深々と頭を下げる。
「どうか! どうかアタシを弟子にしてほしいっス! お願いしますっス!」
「え? やだ」
「即答っスか!?」
いや、理由を聞いたのに、いきなり本題らしきものを言われても困るんだけど。
そりゃ、理由も聞いてないものはすぐ断るに決まってるだろ。
なんて思っていたら、少女が俺の腰に腕を回し、泣き縋る様に引っ付いてきた。
「ど、どうしてっスか、師匠!」
「師匠ちゃう」
思わず関西弁出ちゃったんだけど。
「アタシ、どうしても師匠の様な熟練な『魔物使い(モンスターテイマー)』から、教えを請いたいんっス!」
「いや、別に俺は熟練のテイマーではないし」
「そんなご謙遜を! その若さで魔人を四体テイムしていて、更には変わったスライム二体、希少種の『紅眼蝙蝠』に……えっと、この巨大な狼は……」
「……ガルムだけど」
「が、『獄炎魔狼』っスか!? あの伝説の!? ほ、本物!? す、凄いっス! やっぱり、師匠はただ者じゃないっス!」
「ただ者だよ。後、師匠じゃないって」
なんだか、また変なのに絡まれたなぁ。
コレ、人の話を聞かないタイプだわ。
「それに魔人も堕天使の人以外見たことないタイプっス! もしかして、新種!? 師匠、凄いっス! これはもう一番弟子として、頑張るしかないっスね!」
「俺の話聞いてる? 師匠でもないし、弟子にした覚えもないけど?」
「いいや、なるので、間違ってないっス!」
「え? 確定事項なの? 俺の意思は?」
一々ツッコミを入れておかないと、話が淡々と進みそうで怖いよ、この子。
こういう時はだね、三十六計逃げるに如かずだよ。
「メイ、とりあえずこの子を」
「ユージにくっつきすぎだよ」
いう前に少し頬を膨らませ、少し不機嫌です、という感じのメイが持ち前のパワーで少女を無理矢理引き剥がす。
少女もいきなり引き剥がされたことにキョトン、としていたが、メイを見た後、俺を見てくる。
「師匠~……!」
「いや、だから師匠じゃないし、泣きそうな声で言っても承諾しないから。後、これでも俺はテイマーとして、一週間ちょい程度だから」
「え!? そうなんっスか!?」
「そうなの」
よし、コレで弟子入りさせてくれ、なんていうことはないハズ。
「それを聞いて、余計に弟子入りしたくなったっス! たった一週間ちょいでこれほどのテイムをして……! 更には魔人や伝説の魔狼まで! きっと、コツがあるんっスよね! ぜひとも、伝授をお願いしたいっス!」
「アレ?」
おかしいな、思ってたのと違うぞ?
俺はてっきり、「なんだ、熟練じゃないんっスか。お騒がせしましたっス。じゃあ」みたいな感じで去ってくれると思ってたんだけど。
もしかして、さっきの言い方からするに……テイムの方法を知りたがってらっしゃる?
「そう思うと、スキルのおかげだなんて言えない……」
はてさて、どうしたものか……。
どうにかして、諦めさせる方法があるハズ。
「そこの貴方」
「お、なんっスか! エルフのお姉さん!」
「ユージに弟子入りしたいそうですね?」
「ハイっス! エルフのお姉さんはユージ? 師匠の仲間なんっスよね! ぜひとも、一緒に説得をお願いするっス!」
まさか、エリーナ……そこで俺に対する毒を吐くことで、その子を引かせると言う作戦で。
「見る目ありますね、貴方。えぇ、私もユージは優れたテイマーだと思うんです。まぁ、フィリア様を厭らしい目つきで見ていましたが、腕はなかなかだと思いますよ」
「やっぱり、そうっスか! 後、そんな目してたっスか?」
「いや、毒吐くとこ違うだろ! 後、誰が厭らしい目つきだ!」
思えば、テイマーとしての部分は認めてるんだっけか、エリーナは。
「毒吐くとこが違う……? は! そうでした! そもそも、ユージはフィリア様だけでなく、私やメイたちのことも、舌で嘗め回すかの様な目でじっとり見てくる変態」
「やっぱ、お前連れてくるんじゃなかった!」
こっちのイライラが上昇するだけなんですけど!?
今すぐぶん殴っていいかな、アイツ!?
男女平等パンチ! とか叫びながら殴っていいかな!?
「というわけで、師匠!」
「師匠ちゃうって」
「是非とも、師匠のそのテイムの秘密を伝授してほしいっス!」
「伝授も何も、言っちゃなんだけど、これは俺のユニークスキルによるもので」
「師匠のユニークスキル!? ぜひとも、教えてほしいっス! ユニークは『伝授』は無理っスけど、そこから派生したスキルを『伝授』させてほしいっス!」
「いや、だから……スキルを『伝授』?」
この世界にスキル伝授みたいなものがあるのか?
ユニークは個人が持つ特別なスキルだから、確かに無理だろうが、そこから派生したスキルを『伝授』させることができる?
【ハイ、職業スキル以外のユニークスキルは個人が持つ特別なスキルなため、伝授は不可能ですが、自身の弟子に、その派生スキルを伝授させることは可能です。職業スキルもユニークの場合は伝授は不可能です】
「なるほどね……」
それを聞くと、この子を弟子に取るのはありかもしれない。
このスキルのおかげで、魔物をテイムしやすいのはあるが、その分大所帯となり、悪目立ちしそうである。
だが、逆に他にも似た人がいるとなれば、話は別になるだろう。
まぁ、それでも、多少は目立つかもしれないが、大分マシな方にはなるハズだ。
ただでさえ、この街に入る時の視線もきつかったし。
「どうしますか、ユージさん?」
「うみゅ……ご主人様、スイムは良いと思うみゅ。ここまでお願いしてるし」
「ん~、そうだな。スイムの言うことに一理あるし、『伝授』を聞いて、少し考えが変わった」
「ということは!」
次の一言を期待するかの様に目を輝かせる少女と相棒の子竜。
「あぁ、いいよ。こんな俺でよければ、君にスキルを伝授してあげるよ」
「ありがとうっス! 師匠!」
「キュキューイ!」
少女は嬉しそうな声を上げ、子竜も嬉しそうに声を上げる。
あ、そういえば名前。
「あ、名前っスか? 思えば、まだ自己紹介がまだだったっスね! アタシの名前はメリアス。メリアス・ラグルニアっス! 仲がいい子からはメアって呼ばれてるっス! よかったら、そう呼んでほしいっス! で、こっちはアタシの大事な相棒、リアスっス」
「キューイ!」
「これからお世話になるっス! 師匠!」
少女———メアは花が咲いたかの様な満面の笑みを浮かべた。




