鏡
メイに抱き抱えられ、その場を後にする俺たち。
一回のジャンプで、次のツリーハウスへと飛び移り、再びジャンプして、次のツリーハウスへ。
ウィリデは俺の体の上に乗っており、アルフとシルフはそんな俺たちの後を追う様に飛んできている。
目的地まではメイたちに姿を見せ始めたシルフが案内してくれているので、問題ない……問題ないのだが。
「この体勢はどうにかならないかなぁ……!」
「? どうしたの、ユージ?」
「いや、何でもない……。うん、何でもないんだよ?」
なんていうけど、何でもあるんだよ。
抱き抱えられて移動しているのは、メイが橋を落としてしまったが為にだ。
だが、その抱き方に問題がある。
いくら何でもお姫様抱っこはねぇでしょ……!
【お似合いですよ】
フォローになってないし、声が笑ってる様に聞こえるのは俺だけかな!?
【気のせいです】
いや、声が思いっきり笑ってるんだけど!?
ヘルプさんにそんなツッコミを入れた時だ。
「ストップだよ。後はここを駆け上がれば、エリーナがいる牢屋に行けるよ」
シルフの止まる様に言う声が聞こえ、メイが止まる。
ウィリデは俺の上から飛び降りて、俺も立ち上がろうと……アレ? 放す気配がないんですが?
「この先にエリーナがいるんだね。一気に駆け上がるよ、ユージ」
「いや、それはいいんだけど、おろ」
降ろしてくれ、と言い切る前にメイは翼を広げて、飛び立つ。
降ろしてほしいんだけどなぁ……。
【こっちの方が速いのは確かなので、このままでいいと思います】
声が笑ってるヘルプさんが言っても、説得力がないんですが?
まぁ、笑うと言うことも覚えたんだと思えば、良いことだと思っておこう。
ちなみに、飛べないウィリデはアルフが足で掴んで運んできている。
軽々運んでいるのを見る辺り、風そのものであるウィリデは体重がほぼないのかもしれない。
もうすぐ牢屋のある木のてっぺんまで来ようとした時だ。
シルフは何かに気付いたかの様な反応を示す。
「嫌な風の流れを感じるね。さっきまで何も感じなかったのに、この風……肌で感じるだけで気分が悪くなってくるよ」
「大丈夫か?」
「ん? まぁ、何とかね。アンラマンユがいた頃の憎悪の風と比べれば、まだ軽い方ではあるよ。今はだけど……」
シルフはそういいながらも、視線をあちらこちらへと忙しなく動かしており、何かを特定しようとしている様に見えた。
「あ! 見えてきたよ」
「ホントか!」
メイの声に反応し、視線をシルフから前へと戻すと、そこにはエリーナが投獄されている牢屋が見えていた。
無事でいてくれよ……!
すぐさま牢屋の前に降り立ち、メイに降ろしてもらった俺はすぐさま扉を叩く。
「エリーナ! 無事か、エリーナ!」
俺は扉を開けようと手をかけるも、鍵がかかっているためか、開く気配はない。
ここは……!
「メイ、頼む!」
「うん、任せて」
メイは鉄の扉へと手を当てると、黄色の魔法陣を展開。
直後、メキメキ! という音と共に鉄の扉が変形していき、やがて小さな鉄の塊となり、地面へと落ちる。
土魔法の応用で、鉄を操ったんだな……。
なんて、関心しながらも、すぐさま俺は牢屋の中へと足を踏み入れる。
そこにいたのは……キョトンと、呆けた様な面持ちでいるエリーナ。
一体どうしたのか? と言わんばかりに小首を傾げる。
「ど、どうしたんですか、ユージ? 声を荒げて、私の名を呼ぶなんて……。あ、まさか私が恋しくて、あんな大声を」
俺はすぐさまエリーナに近づいて、その手を取る。
「え……?」
「よかった、無事で」
「きゅ、急にどうしたんですか? 無事でよかったって……」
いきなり手を握ったからだろうか、どこか恥ずかしそうに、照れた様に頬を染め、目線を右往左往させている。
だけど、この事件の黒幕よりも先にこっちに来れたのはよかったと言うべきだろう。
ルフェの時みたいに連れていかれて、重要な何かのための生贄にされるところだったんだから。
「エリーナ、この村で大変なことが起きている」
「大変なことって……叫び声が聞こえた様な気がしたのは気のせいじゃなかったんですね。一体何が起きているんですか……?」
「黒幕たちが……『悪魔神教』の奴らが行動に出始めたんだ。全員は見ていないが、お前以外のエルフはもう」
「……そうですか」
何処か、こうなることがわかっていたかの様な顔。
もしかしたら、エリーナはこの村の異変に気付いた時から、いつかこうなってしまうのだろうと予感していたのかもしれない。
だからこそ、今の状況を聞いても、受け入れている様な状態なのかもしれない。
エリーナは俺から視線を外すと、後ろにいたメイに気付く。
「メイ、久しぶりですね」
「久しぶりっていうのかな。前から数日くらいしか経ってないよ?」
「数日も経てば、久しぶりですよ」
アレ? 俺の時と違って、口調穏やかじゃない?
やっぱり、俺だけに毒吐いてるよね?
「話で和むのもいいけど、そろそろ逃げた方がいいよ。嫌な感じの気配が一つ、近づいてきていて」
「それはボクのことかな~? この森の~守護精霊様~?」
「シルフ! 後ろだ!」
「ッ!?」
シルフの背後に突如現れた姿見鏡から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
俺の声に反応したシルフは振り返り、自身を掴もうとして鏡から伸びてきた手を上に飛ぶことで回避する。
シルフは姿見鑑に目を向けたまま、その手に風が集まり出す。
やがて、風の威力は強まっていきながら、槍の形へと変わっていき、シルフは手を降ろすと、嵐の槍は姿見鏡目掛けて放たれる。
「『嵐槍』」
放たれたと同時に嵐の槍は空間を貫いていく様な轟音を響かせながら、鏡へと迫っていく。
「あちゃ~。これは~移動用だから~反射は無理かな~。まぁ~新しいの出せばいいんだけどね~」
姿見鏡の中から伸びていた手が魔法陣を展開する。
そこから新たな鏡が姿を現し、嵐の槍が直撃。
その瞬間、鏡が光を放つと、先ほどの嵐の槍がシルフ目掛けて飛んでいた。
シルフはその出来事に目を見開きながら、嵐の槍へと手を向けると、風を操作することによって、嵐の槍を消し去る。
そして、姿見鏡の中から姿を現したのは女性———ニャルラトホテプ
指を鳴らすと出現していた二枚の鏡は姿を消す。
「いや~、こっちの計画が~急に動き出したって聞いて~、駆け付けてきたけど~まさか、君たちもいるなんてね~。いや~……君たちが来たから動き出したと言うべきかな?」
「ニャルラトホテプ……!」
「やだな~、長いからニャルでいいよって言ったよね~? そう呼んでほしいな~」
「敵を愛称なんかで呼ぶハズないだろ」
一瞬だけ間延びしない言い方になっていたが、それも一瞬だ。
コイツの飄々とした雰囲気はよくわからない。
というよりも、ニャルラトホテプがいると言うことは……。
「あぁ~、大丈夫だよ~? メフィと~ロキは~、別件の方に~行ってもらってるからね~。ボク達の計画は~まだまだあるからね~」
「だろうな。アレだけがアンラマンユ唯一の復活方法っていうハズないもんな」
アンラマンユが一体どんな魔王だったかなんて、俺にはわからない。
だが、自身が復活できる様に幾つもの方法を残しているのは確かだ。
メイたちの方へと視線を向けると、既に戦闘態勢に入っている。
俺が指示を出せば、いつだって飛び出せるだろう。
ニャルラトホテプのスキルは『鏡』ということくらいしかわかっていないし、実力も未知数。
こちらが人数では上だと言っても、勝てる保証はない。
それでもエリーナを助けるためには……。
「やるしかない! メイ! ウィリデ! アルフ!」
「任せて!」
「フゥ!」
「キキ!」
「ボクもやっちゃうよ」
メイが駆け出し、アルフは扉からすぐさま飛び出して上空を取り、ウィリデは魔法陣を展開して、援護体制。
シルフもニャルラトホテプ目掛けて特攻を仕掛けていく。
「ボクが~……手を出すほどじゃないでしょ? おいで、『幻影の鏡』」
魔法陣が展開されると、そこから姿を現したのは二つの姿見鏡。
そこに映し出されるのはメイ、そしてもう一つの鏡は方向からして、シルフ。
まさか、移動系の能力を持つ鏡じゃ……。
「ないんだよね。ボクのスキルも、結構応用が利くものだからね。さぁ、おいで。ボクの使い魔達」
瞬間、二つの鏡から人影が飛び出してくる。
新手か! と警戒するが、飛び出してきた二人の人物を見て驚く。
何故なら、鏡の中から飛び出してきたのは……メイとシルフなのだから。
「えっ!? 私!?」
「ボク!? 一体どういう!?」
鏡から飛び出してきたもう一人の自分たちに驚くメイとシルフ。
驚いている二人を余所にメイ? とシルフ? は拳を突き出して、正拳突きを放ってくる。
メイとシルフ二人も反応し、同じ様に正拳突きを放って、ぶつけ合うことにより相殺する。
シルフの方では嵐が吹き荒れたかの様な風が発生した音が聞こえたし、この牢屋も結構揺れた。
メイとメイ? の拳はぶつかり合ったまま、ピクリとも動かないのを見ると力も同等。
『鏡』から連想するのなら……映し出した相手を姿、能力共に丸々コピーして、鏡像を生み出すと言う感じか?
その代わり、感情やら知能やら持たないみたいな感じで。
「お~、ユージ君だったっけ~? その通りだよ~。ボクのユニークスキルは『鏡』でね~。これが
また便利なんだよ~。移動にも使えるし~、攻撃を反射できるし~、こうやって相手をコピーできるしね~。他にも色々あるんだけど~、そこはまだ秘密かな~」
「余裕だな……。俺たちに倒されるとは思わないのか?」
「思わないね~。今の君たちくらい~、束になっても負ける気はしないよ」
さっきまでの陽気な声とは違う冷たい声。
笑みを浮かべている辺り、本当に自分の強さに自信があるのかもしれない。
虚の魔物の一人と名乗っていたことを思い出す。
ロキだけでも、アレほどの強さがあるんだ。
ニャルラトホテプのあの自信も……確かなんだろう。
それに『鏡』のスキルもまだ一部しかわかっていないし、敵は今、ニャルラトホテプ一人じゃない。
「はぁ!」
「……」
メイと鏡像のメイの拳がぶつかり合い、衝撃波が発生する。
それによって、牢屋が揺れる……っていうか、このままぶつかり合ったらやばい。
下手をすれば、この建物と木の方が先に壊れてしまう。
ウィリデに援護させるべきだが……無理だ。
メイは『属性耐性』と『属性使い』を持っており、シルフは風そのものを操ることが可能なために効かない。
なら、敵うかどうかはわからない。
だけど、ウィリデとアルフでやるしかない……ニャルラトホテプを!
「ユージ……」
「エリーナ、下がってろ。ウィリデ! アルフ! やるぞ!」
「フゥ!」
「キキ!」
「へぇ~。あの二人は~自分の鏡像で~手がいっぱいだから~、その二体で~ボクに挑むんだ~。いいよ~、やってみなよ~。下等な魔物二体で虚の魔物が一体———『虚像』である、ボクに勝てるならね」
ニャルラトホテプは余裕の笑みを浮かべながら、自身の種族を言い放った。




