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本能

ルフェはメイに抱えられて、次のツリーハウスへと飛び移る裕司たちを横目で見送ると、すぐにアユムとアイリへと視線を戻す。


「お待たせしました。待っていてくれるなんて、お優しいんですね」

「優しい? ないない。俺がそんな優しさを持ってる様な奴に見えるか?」

「少なくとも、会話する暇を与えてくれたり、本当なら止められるハズのユージさんたちを行かせた辺りを考えますと」

「なるほどなぁ。アンタには優しい奴って思えたのか。魔族の感覚ってのはよくわかんねぇが、俺が何もしなかったのには理由はある」


アユムは床の中から出てきた一本の剣を掴み取ると、ルフェへと投げ渡す。

投げられた剣の柄を掴んで受け取り、一度回転させてから、アユムへと視線を向ける。


「その理由をお聞きになっても? この剣を渡された理由もよろしければ」

「何、アンタを見てたら、剣が得意そうだと思ったんでな。それなら、相手が本気を出せる様に、と思って、渡したまでだ。後、行かせた理由だが、相手の力量がわからないほど俺はバカじゃない。なら、戦力を分散してくれるなら、そうしてもらうまで。強い奴と戦えれば、俺はそれで充分だからな」

「それって、スイム達だけなら勝てると思ってると言うことみゅ?」


トライデントを取り出し、軽く振り回してから構えるスイム。

アユムは笑みを浮かべてみせる。


「いや、そこはどうだろうな。ただ相手してくれるっていうなら、俺が負ける戦いだろうと戦うさ。俺にとっちゃ、戦いってのは最高の遊びだからな」

「……私はアユムのやりたいことに付き合うだけ」

「なるほど、そういうことですか」


剣をゆっくりと構え、剣先をアユムとアイリに向けると、笑みを浮かべる。

だが、その目は笑っていない。


「貴方の人間性は私達魔族に近い様ですね。嫌いじゃないですよ、私は」

「優しそうな雰囲気してたから、魔族にしちゃ変わってるなって思っていたが、その目。性根は魔族と変わらねぇ様だな」

「行きますよ」


開戦の合図と共にルフェの姿がその場から消える。

アイリは驚いている中、アユムの目は右、左と右往左往に動いている。

まるで何かを視線で追いかけるかの様に。


「……見えてんだよ!」


アユムは再び床の中から出現した剣を手に取り、何もいない空間へと剣を振るう。

その瞬間、ガキン! と金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。

誰もいないハズの方へ振るったハズの剣はいつの間にか、その場にいたルフェの剣とぶつかっており、鍔迫り合いの状態となる。


「凄いですね。今の動きを人間である貴方が見切るなんて」

「その顔……アンタが魔族だっていうのがよくわかるよ。魔王ルシファーの妹と言えば、慈悲深い姫様と聞いていたんだが?」


アユムは剣を無理矢理振り抜くことで押し返し、ルフェは後ろへと跳ぶと、ゆっくりと降り立つ。


「えぇ、私は助けを求める者を見捨てるつもりはありません。それが敵だとしてもです。力のない者を守ることは当たり前ですから。あ、今は違いますけどね」

「……慈悲深いのか、魔族らしいのか、ホントによくわからないね、貴方」


ルフェの笑みはいつの間にか、歯を剥き出しにするほどの笑みを浮かべている。

魔族としての戦いへの本能……元は世界の敵だった種族。

歴史がいくら変わろうと、魔族にも優しい人や誰かを愛する者が生まれようと、その性根にあるものは変わらないと言わんばかりの笑み。

それにつられる様にか、人間と相対するからか、スイムも笑みを浮かべて、動き出す。

走り出したスイムに反応したアイリは魔法陣を展開する。


「さぁ、私の舞台で私の人形たちと一緒に踊りましょう? 『人形の行進ドールズポーン』」


魔法陣の中から小さい剣や槍、弓などの武器を持った小さな人形たちが次々と姿を現し、アイリが指を動かすと、各々が持つ武器を構えて動き出す。

周りにいる抜け殻のエルフたちも動き出す。

ノワールがスイムとルフェの後ろに立つと、襲い掛かる抜け殻のエルフたちを睨みつける。


「ウォォォォォォォン!」


魂をなくした抜け殻のエルフたちに対して、雄叫びを上げる地獄の狼。

それだけで発生する衝撃波により、抜け殻のエルフたちは次々と吹き飛び、落ちていく。


「流石ガルムと言ったところか? 今の雄叫びだけで肌にピリピリと来たぜ」

「今の普通の人間なら、戦意喪失をして、失神していてもおかしくないんですけどね」


軽い口笛を吹きながら言うアユムに対して、ルフェは剣を構えて動く。

一瞬でアユムとの間合いをつめて、剣を横なぎに振るう。


「ハッ!」


短い笑い声をあげて、剣を振るい、ぶつける。

甲高い金属音が響いたと同時にルフェとアユムは動き出す。

ルフェは攻める手を緩めず、連続で剣を振るい、アユムはその猛攻を物ともせず、防ぎ、いなす。

アイリは人形の一部を援護に回そうとした時、水の弾丸が飛んできて、人形たちは吹き飛ばされる。

鬱陶しそうに、面倒くさそうにアイリはゆっくりとスイムへと視線を向ける。


「邪魔、しないでよ」

「貴方の相手はスイムみゅ」

「……そういえばそうだったね。舞踏会に招待したからには、一緒に踊ってあげないとね? 私達の人形と共に」


魔法陣が展開されると、消された分の人形が再び召喚され、武器を構えて動き出す。

スイムは動き出し、距離を詰めていくと、間合いに入った人形目掛けてトライデントを横なぎに振るい、薙ぎ払う。

弓を携えた人形たちがスイムへと標準を合わせ、矢を放つ。

それに気付いたスイムは防ぐことをせず、接近する人形をトライデントで切り裂く。


「矢に気付いていて防ごうとしないなんてバカなの?」


いくら魔人と言えど、アレだけの矢を受ければひとたまりもないからだ。

勝ちを確信したアイリはすぐさまアユムへと援護を回そうと考えた時だ。


「油断はしない方がいいよ? スイムに物理は意味がないみゅ」

「ッ!?」


その一声に反応し、スイムへと視線を向けると、矢がスイムの体をすり抜けていく。

すぐさま剣や槍などを持った人形で攻撃するも、それらもすり抜けてしまう。

糸から伝わってくる感覚はまるで水を斬るかの様な感覚なのだ。


「……変わったスキル持ってるんだね」

「行くみゅ!」

「……『氷の人形アイスドール』『雷の人形サンダードール』」


スイムが動き出したと同時に二つの魔法陣が展開され、そこから姿を現したのは人間サイズの青と黄色の等身大人形。

先ほどの小さな人形たちと違うがあるとするならば、青色の人形からは冷気が溢れ出しており、黄色の人形には電流が流れている。

スイムもその人形に対して、何か気付いたのか、接近をやめ、足を止める。


「……物理が効かないなら、その体によく効くもので攻撃すればいいだけの話。その体、あの感じからして、水の体だよね? なら、凍らせて砕いてあげる。もしくは電撃を流してあげる」

「うみゅ……!」


スイムは苦虫を噛み潰したかの様な表情を浮かべる。

確かにスイムの持つ『液体の体リキッドボディ』は物理攻撃をすり抜ける特性がある。

魔法もある程度なら無効化出来るが、氷と雷は別だ。

水の体であるが故に凍りやすく、電撃を通しやすい。

人形遣いパペッター』なら、それらを持っていないだろうと考えていたが、読みが甘かった。

人形であれば、『人形遣いパペッター』はどんなものでも操れる。

それが特殊な人形であってもだ。

二体の人形が俯いていた顔をゆっくりと上げ、目を開く。

作り物であるハズの目に生気が宿った様な感覚を覚え、スイムはトライデントを構える。

青の人形———アイスドールはその手に空気をも凍てつかせる冷気を。

黄色の人形———サンダードールはその手に迸る電撃を。

二体の人形は己の属性をその手に出してみせる。


「うみゅ……」


スイムはすぐさま周りへと視線を動かす。

ルフェは未だにアユムとお互い一歩引かずの剣のぶつけ合いを続けており、ノワールとルーフス、フラウムは抜け殻のエルフたちの相手をしている。

一応、エンチャントによって、『雷耐性』をつけてもらっているが、それでもキツイものがある。

やるしかない。

スイムは魔法陣を幾つも展開し、そこから姿を現すのは突起状の氷。


「『氷結の槍アイシクルランス』!」


魔法陣から放たれた突起状の氷はサンダードール目掛けて飛んでいく。

アイスドールに効かないのは予想ができているために、先に一体だけでも壊すと考えたのだ。

だが、アイスドールが前に躍り出て、手を前に突き出すと魔法陣が展開される。

そこから溢れ出すのは冷気。

溢れ出した冷気は空気を凍てつかせながら、氷の壁を作り出し、スイムが放った氷の槍を防ぐ。


「うみゅっ!?」


まさか人形が魔法を使うとは思っていなかった様で、驚いていると、氷の一部分に黄色い光が宿り始め……。

それが何か気付いたスイムはすぐさま魔法陣を展開するも。


「遅い」


氷の壁の一部を食い破るかの様に放たれた雷撃。

光と変わらぬ速度で迫りくる脅威に、スイムは反応が出来ず。


「させません。『魔法障壁プロテクション』」


直撃する一瞬の間。

スイムと雷撃の間に魔力の壁が出現し、スイムへの直撃を防ぐ。

雷撃は見えない魔力の壁に激突し、散布するかの様に消えていく。

アイリは舌打ちしながらも、アユムと剣戟を繰り広げているルフェへと視線を送る。

ルフェとアユムの剣が再びぶつかり、甲高い金属音を響かせたと同時にお互いに後ろに跳んで、距離を取る。


「ルフェ、ありがとみゅ」

「いえ、助け合うのが仲間ですから」


先ほどの笑みとは違い、微笑みを浮かべるルフェ。

二人は再び剣と槍を構え、反応したアユムとアイリも剣とサンダードールとアイスドールを構える。


「ハハハ……! 面白いぜ、姫様よ。アンタが堕天した理由……ずっと謎でしかなかったんだよ。天使が持つ慈愛の心、優しさを持っていながら堕天したのか。兄と共に神に反抗したのか? と思っていたが、違うよな? アンタが神を嫌っているとは聞いたことはない。むしろ、教会の者達と一緒に祈りを捧げることもあると聞いた」

「何が言いたいんでしょうか?」


笑みが再び変わり始めるルフェに、アユムはニヤッと不気味な笑みを浮かべる。


「天使が持つハズがない欲望。慈愛に溢れていながら、戦いと殺戮を好むと言う天使が持つハズもない側面を持っていた。故に、アンタは兄と共に追放されたんだろ?」

「私がその様な矛盾を持つ者に見えますか?」

「あぁ、見えるね。そんな笑顔で言われたら、肯定せざるを得ないさ」


アユムの目に映るのは優しい笑みを浮かべるルフェではなく、歯を剥き出しにするほどの笑みを浮かべる姿。

あのとき、ジンのことを助けようとした優しさ、死んだときに感じた悲しみは確かにルフェの本心であった。

そして、今目の前の敵との戦いを楽しみ、殺そうとしているのも、ルフェの本心……いや、本能でもある。

慈愛の心を持ちながら、戦いと殺戮を楽しむ側面を持つと言う矛盾を抱え持つ堕天使。

だが、そんなことは関係ないとルフェは一度剣を回転させる。


「だから、なんですか? どちらも本当の私です。ユージさんは戦いを楽しむ私のことは知りませんが」

「……へぇ。なら、あの人がそれを知った時、貴方に怯えるんじゃないかな?」

「あり得そうですね。ですが、ないと断言させてもらいます」

「そんなの……」

「ハイ、私の勝手な想像です。妄想ともいわれるでしょう」


アイリが言おうとしていたことをわかっていたからか、遮る様に喋り出すルフェ。

確かにそれはルフェの勝手な予想、想像だ。

だが、それでも……きっと、優しい彼なら。


「受け入れてくれると私は信じています。だって、私達は友達ですから」


優しい笑みへと戻ったルフェを見て、アイリは舌打ちする。


「チッ……。信じていれば、受け入れてもらえるの? 友達だから、受け入れてもらえるの? それだけの理由で、うまくいくなら……私はこんなことにはなっていない」

「? それはどういう」

「……貴方達が知る必要なんてない。アイスドール、サンダードール」


二体の人形が動き出し、お互い手を向け合うとその間に冷気と電撃を集まり始める。

アユムは何かに気付いたのか、足に力を入れて空高く跳び、太めの木の枝の上に乗る。

謎の行動に出始めた二体の人形に二人は首を傾げ、抜け殻のエルフたちの対応をしていたノワールとルーフス、フラウムも反応して振り返る。


「一体何を……」

「もうちょっと楽しみたかったが……アイリが気にしてることに触れちまったせいで、それは終了みたいだな」

「気にしてることみゅ?」

「そう。まぁ、才能が有り過ぎるのも悩み物っていうことだよ。それじゃ」

「さようなら。『氷雷の踊りアイシクルボルト』」


二体の人形がルフェ達目掛けて何かを放つ。

それは所々に四角い面が複数作られた氷の球体。

その中にあるのは迸る雷。

放たれたと同時に二体の人形は姿を消し、アイリも魔力の糸を上へと伸ばし、木の枝に絡めると、上へと勢いよく引っ張られていき、その場から姿を消す。

それと同時に雷の輝きが増していき、どんどん膨れ上がり……そこまで見て、ルフェは気付く。


「皆さん! 私の元まで来てください!」


あの雷を内包した氷は謂わば時限爆弾の様な物であり、雷の威力を増幅させる装置の様な物。

色んなところに四角い面が作られていたのは雷がそれに当たり、鏡によって跳ね返る様に乱反射させるため。

中で乱反射を続ける雷の威力は増していき、自分たちのところまで到達する頃には強力な爆弾の様な雷となる。

ルフェの叫びに反応したスイム達はすぐさまルフェの元まで行く。

皆が来たことを確認したと同時に両手を床に叩きつけ、魔法陣を展開する。


「『守護結界ガーディアンシールド』!」


盾を模した魔力の結界がドーム状に展開されていくと同時に氷の時限爆弾は砕け、雷の轟音と氷の破片が飛び散る。

そして、足場となっていたツリーハウスの床は雷の威力に耐え切れず、崩壊し、大きな音を立てながら崩れ去る。

その様子を見ていたアユムはやれやれと言う感じで、アイリは鼻で笑う。


「フン……」

「まだまだ楽しみたかったが……まぁ、仕方ねぇか。アイリの気にしてることに触れたわけだし。さてと、あの姫様がギリギリ結界を張っていたのを見る限り、まだ生きてるだろうが……あのエリーナっつう、エルフの元に向かった奴らの方を見に行くか」

「うん……」


アユムは持っていた剣を投げ捨てると、アイリを背負いあげ、その場から姿を消す。

エリーナの元へと向かった奴らは今どうなっているのだろうかと楽しみにしながら。

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