エルフの村
裕司が風精の森のエルフたちが連れていかれて、数分が経っただろうか。
裕司はシルフがいるから心配ないとは言っていたが、それでもやはり心配してしまう。
「ユージ、大丈夫かな……」
「シルフさんが傍にいる様ですし、ユージさんのあの感じから見て、何かあったら守ってくれると言う約束はしているとは思いますが」
「うみゅ……それでもご主人様が心配みゅ」
「ガウッ……」
「キキ……」
「ドン……」
「メラ……メラ?」
スイムの落ち込み様につられる様に落ち込んでいくノワールたちだが、ルーフスは何かに気付いたのか、辺りを確認する様に動き始める。
その動きは何か……いや、誰かを探す様な動きである。
ルーフスの動きにスイムは気付く。
「ルーフス、どうしたみゅ?」
「メラ! メラメラ! メラララ!」
スイムに何かを伝えようとしているのか、ルーフスは一生懸命鳴き声を上げる。
メイとルフェは何を言っているのかわからず、小首を傾げるが、スイムは理解している様で頷きながら、ルーフスの話を聞いている。
そして、ルーフスから話を聞き終えたスイムは驚愕の表情へと変わり、すぐにメイたちの方を見る。
「た、大変みゅ!」
「どうしたの、スイム?」
スイムの様子からただ事ではないと感じたのか、メイは聞き返す。
「ウィリデが……ウィリデがどこにもいないみゅ!」
「え?」
「ウィリデちゃんが……ですか?」
スイムの発言にメイたちは驚き、すぐさま辺りを見渡す。
スイムとルーフスの言う通り、ウィリデの姿がどこにもないのだ。
すぐさまメイは遠くを聞き取れる様にウサギの耳へと変更し、聞き耳を立てると同時にノワールと一緒に鼻を動かし、ウィリデのニオイを探す。
周辺から聞こえてくるのは、この風精の森に住むであろう動物や魔物の動く音ばかりであり、ウィリデのものであろう音は聞こえてこない。
だが、ニオイはちゃんと残っている。
風そのものの様なウィリデであろうと、生物として生を受けたのだから、勿論ニオイはある。
メイとノワールは鼻を動かしながら、ニオイのする方向へと歩いていくと、とある場所で足が止まる。
一人と一匹が立っているのは、先ほどまで裕司が立っていた場所である。
その場で二人は何度も鼻を動かして確認すると、顔を見合わせる。
「ねぇ、ノワール。もしかして、ウィリデは」
「ガウッ」
メイの言いたいことがわかっているのか、ノワールは頷いてみせる。
ウィリデのニオイは裕司の元へと向かっており、そして今立っている場所で裕司のニオイと一緒になったの感じる。
シルフのニオイが感じないのは恐らく、風を操作したのだろうが、今は関係ない。
恐らく……いや、間違いなくウィリデは何らかの方法で裕司についていったのがわかる。
「どうです? メイちゃん、ノワールちゃん」
「ここでユージのニオイと一緒になったのを感じる。多分だけど、ウィリデはどうにかしてユージにくっついて行ったんだと思う」
「くっついてみゅ? 後を追って、とかじゃなくてみゅ?」
「ううん、このニオイの感じはユージにくっついて行った感じのニオイだから。もしかしたら、ユージも気付いてないかも。だよね、ノワール」
「ガウッ」
メイの話を肯定するかの様にノワールは頷いてみせる。
鼻が良い二人が言うのだから、確かなのだろう。
だが、ウィリデは自身の契約者である裕司を心配し、付いて行ったのだとするならば、自分たちもここでジッとしているわけにはいかない。
「ウィリデちゃんがユージさんの言葉を無視してでも、付いて行ったんです。私達もここでジッとしているわけにはいきません。この契約の紋章を使えば、契約者の元に導いてくれるはずです」
「え? そうなの?」
ルフェの言葉に紋章にそんな力があるのかと驚愕の表情を浮かべるメイ。
色んな者の魂を捕食してきたメイでも、珍しい『魔物使い』の知識は十全ではなかった様だ。
「ハイ。紋章の形は変わっていますが、効果は一緒だと思われます。ですから、紋章が教えてくれる道を辿って行けば、ユージさんの元に辿り着くことは可能かと思います」
「知らなかったみゅ。紋章にそんな力があったなんて……」
「元々『契約』を表すものではありますが、契約者との『繋がり』を表すものでありますから、どこにいるのか、教えてくれる様にもできているんですよ」
「メラァ……」
「ドォン……」
ルフェの説明に関心するかの様に声を上げるルーフスとフラウムは感心したかの様な声を上げる。
そんな中、メイはルフェの説明を聞きながらも、とある一つの疑問が思い浮かんでいた。
それはメフィストフェレスと戦っていた時、聞こえてきたあの声だ。
「ねぇ、ルフェ」
「どうしました? メイちゃん」
「テイマーとの契約の紋章には本来使いこなせていない力を契約者との繋がりを利用することによって、使える様に形を変えてくれる力があるの?」
「え?」
急な質問に首を傾げるルフェ。
メイの言っていることがよくわからない、と言う感じである。
「あの、使いこなせていない力を紋章を利用することで使える様にするって、どういう?」
「そのままの意味だよ。私、『属性使い』を持ってるけど、闇と光は使いこなせないでいたんだ。それで、ルフェを助けに行ったときに、メフィストフェレスと戦ってた時に不思議な声が聞こえてきて」
メイはそこまで言うと、闇が足元から出現し、体全体を包み込む。
その闇が消えると『月夜ノ衣』を身に纏ったメイが姿を現す。
「この装備スキルが生まれて、闇を扱える様になったんだけど、これも紋章のおかげなのかな?」
「……いえ、そんなこと聞いたことありません。そもそもコレは契約の証としての役割を持つだけで、扱えない力を補うための機能はないはずです。と言いたいところですが……」
そこまで言うとルフェは自身の右翼に浮かび上がっている紋章へと目をやる。
普通のテイマーたちとは違う紋章だとは思っていたが、もしかしたら、特別な何かがあるのかもしれない。
『魔王』の素質を持つテイマーの紋章なのだから、可能性はないとは言えない。
「もしかしたら、この契約の紋章はユージさんの『魔王』の力の一端なのかもしれません。だからこそ、メイちゃんにその力を補う機能が働いたのかもしれません」
「ユージの『魔王』としての力の一端……」
メイは『月夜ノ衣』を解除しながら、自身の手の甲にある紋章を見る。
『魔王』としての力の一端が働いているのだと言われれば、確かにそうなのだろうと思えてくる。
それだけわかれば十分だ、と考えると、メイは皆を見る。
「とりあえず、ユージを追いかけよう。バレない様にコッソリとね」
「なら、気配と音を消す魔法を使いますね」
『祝福者』を持っているために、強化をつけるのが得意なルフェは魔法陣を展開し、皆に強化をつける準備をする。
「『消音』『気配消去』」
ルフェがそう呟いた後、魔法陣が一瞬だけ淡く光り、そして消える。
「完了です。それでは皆さん、行きましょうか」
ルフェの言葉に皆は頷いて、紋章の繋がりを頼りにユージの後を追う様に歩き出すのだった。
*
エルフたちに連れられて、森の奥へとやってきていた。
結構深いとこまで来てる様な気がする。
少なくとも、俺が落ちてきたところよりも奥なのは確かだ。
「落ちてきたってどういうこと? まさか、こっちに来た時、空から降ってきたとか?」
「……その通りだよ。こっちに連れてこられたと思ったら、空の上から地面に真っ逆さまの状態だったんだよ」
「へぇ~、そうなんだ。生きてるっていうことはあそこにいた誰かに助けてもらったのかな? いやぁ、ボクもその瞬間を見たかったなぁ」
シルフさん、アンタ俺に対して遠慮と言うものがなくなってきてませんかね?
後、さり気なく思考を読むのやめて、ホントに。
にしても、エルフの村に着いた後は本当にどうするか。
「シルフ、良い考えは」
「脱獄だね~」
「いや、それダメだから」
シルフが無計画だと言うのはわかった。
いや、まぁ、認めた者以外に姿を見せる気がないのだから、交渉を考えているはずもないか。
まぁ、エルフたちの態度を見る限り、交渉も難しいかもしれないけど。
どうにかして、信頼を得る?
いや、コレも無理だろう。
そもそも人間を嫌っているため、俺を自由に行動させてくれるはずもないし、間違いなく牢屋にぶち込まれる。
そのぶち込まれた先にエリーナがいたとしても、その後どうするかがないと。
「だから、脱獄」
「俺も言ってやろう。だから、ダメ」
このシルフ、脱獄以外進めてこないんですが?
本当に勇者に『風の護石』を作って、渡した精霊ですか?
こう、そういうのって神格化した様な存在だから、普通ではできないことをやってのけるくらいは。
「神格化した覚えはないかな~。あくまでボクは特殊個体の精霊なだけだし」
「……風の精霊なら、思考を読まない様にすると言う空気を読まないかな?」
「風の精霊だからこそ、空気を読んで会話しているんだよ」
花が咲いた様だと例えてもいいほどに満面の笑みを浮かべるシルフだが、俺からすれば、その笑みに少しイラっと来る。
完璧におもちゃにしてるよ、この精霊。
「オイ、貴様。さっきからぶつぶつと何を言っている? 変なことでも考えているんじゃないだろうな?」
「独り言が多いだけですよ」
シルフに対してボソボソと話していると、やっぱり不自然に見えるよな。
とは言っても、これ以上話をする必要もなさそうだけど。
【『風の乙女』から『念話』を受信しました。『念話』での会話を承認しますか?】
え? 何それ?
承認したとしても、俺そんなスキル持ってないんだけど。
【私を媒介にすれば、『念話』での会話は可能ですが、どうしますか?】
マジか。
流石ヘルプさん、精神系スキルならほとんどできるんじゃないだろうか。
【えっへん、と言っておきましょう】
とりあえず、今のはスルーしておいて、媒介できるのならお願いしようかな。
【……了解しました。『念話』を承諾、開始します】
うん、声のテンションが下がった辺り、少し拗ねたね。
そして、ヘルプさんの声と変わる様に聞こえてきたのはシルフの声。
(やっほー? 聞こえてる?)
(聞こえてるよ)
(よかったよかった。『念話』を飛ばしたら、『少々お待ちください。念話の許可の確認中です』なんて聞こえ始めるから、驚いちゃってさ)
(アハハ……)
まぁ、俺に精神的干渉を起こすスキルや攻撃は自動的にヘルプさんがガードしてくれるからな。
だからこそ、『念話』だろうと防いでしまうのだろう。
味方からのそういうのは無効化しない様に頼んでおこうかな。
【かしこまりました】
……言うまでもなかった様だ。
普通に思考を読んで、承諾してくれたしな。
(それでどうしたんだよ? 急に『念話』なんて飛ばしてきてさ)
(いやぁ、コソコソ話してたら怪しまれるでしょ? だから、話をするために繋げたんだよ)
(フゥ……)
(ホント、フゥ、だよ。なんで会話するためだけ……に……?)
(だって、ボクが暇なんだもん。それくらいいいでしょ?)
なんてシルフが言っているが、ちょっと待ってほしい。
シルフの言葉に大袈裟な、と言ってやりたいところだが、ちょっと待ってほしい。
今、俺とシルフ以外の声なかった?
声っていうよりも、鳴き声……それも聞き覚えがある鳴き声だ。
このクールっぽい感じを思わせる鳴き声は……。
(ウィリデ!? なんでウィリデの声が)
(なんでって、仲間外れにしたら可哀そうかなって思ってさ)
(ハァ!? どういうこと!?)
まさか、離れた場所にいるウィリデに念話を繋いだっていうのか!?
(いや、そうじゃなくてさ。いるよ? ボクと君のすぐそばにいるよ?)
(え!? どこに!?)
俺は辺りをキョロキョロと見回し、ウィリデの姿を探す。
だが、見回す限り、目に映るのはエルフたちとシルフ、そして森の木々のみ。
ウィリデの姿なんてどこにもない。
「オイ、貴様。何をキョロキョロとしている!」
「あ、いや……アハハ~、ちょっと嫌なこと思い出して、それを振り払う様にしてたんですよ~」
「本当か? 怪しいな……」
やばい、怪しまれてる。
ウィリデがいることに驚いて、思わず辺りを見回してしまった。
そりゃ、俺が何かをやらかそうとしているんじゃないかと怪しまれて当たり前だろう。
そう思っていると俺の足に何かが当たる。
それもスライムの様な弾力があって、柔らかい感触の様なものが……まさか?
(ウィリデ?)
(フゥ)
やっと気付いた? みたいな鳴き声に聞こえるのは俺だけだろうか。
足元に視線を向けてみるが、そこにウィリデの姿はない。
だが、確かにウィリデが俺の足に触れている感覚がある……どういうことだ?
(風の力を使えば、それくらいは可能だよ。自分自身を透明化させるなんてね。この子、やっぱり才能あるよ。ボクほどとは行かなくても、透明化の風のエクストラスキル———『風化の衣』を覚えるなんてね)
(エクストラスキル!?)
いつの間にエクストラスキルを……。
【可能性があるとするならば、『風の乙女』の持つユニークスキル『透化の風衣』を真似た結果だと思います】
マジで……?
だけど、ヘルプさんが言うのならそうなんだろうな。
まぁ、そうやってスキルが増えていくのは俺も嬉しいけどさ。
ウィリデは意外と勉強熱心なのかもしれない。
このままシルフと一緒にいれば、風のスキルや魔法とか、色々学べるかもしれない。
なんて思っている時だ。
「オイ、着いたぞ」
リーダー的なエルフの男の声に反応すると、目の前に広がったのはエルフの村。
木々の上に家———ツリーハウスがたくさん建てられており、家同士は行き来可能な様に橋がかけられており、そこをエルフが行き来しているのが見える。
エルフの村はどんなものだろうとは思っていたが……なるほど、危険な森の中だからこそ、木の上に家を作って生活しているのか。
そして、一人のエルフがこちらの姿を確認すると、声を上げ始め、他のエルフたちも反応して、こちらを見てくる。
どことなく、俺に対しては嫌悪感や蔑んだ様な視線を感じるが。
余程、ここのエルフは人間嫌いが酷い様だ。
だって、エルフの子供たちからさえも、そういう目で見られてるんだから。
エルフは人間嫌いが多いとは聞いたけど、ここまで多いとは……。
【人間嫌いは多いとは言いましたが、多いだけで人間に友好的なエルフも多いです。嫌いの方が少しだけ多いですが】
だろうな……。
【とは言っても、村のエルフ全員がこれほどなのはおかしいかと。エルフは知能が高い分、知的欲求が強い種族です。だからこそ、外の世界に興味を持つ友好的なエルフだっているはずです。どんな村でも、十人以上は必ず出ます。ですが、ここは……】
全員が人間嫌いで不自然と言うわけか。
そう聞かされると確かにそう思える。
と言うことはここも何か……いや、もしかしたら『悪魔神教』が関与しているかもしれないと言うことか。
【そういうことになります。それもつい最近ではありません。閉鎖的だと言っていたのを考えると、もう数十年前からと言う可能性があります】
「用心に越したことはないってことか……」
「また何を独り言を言っている。早く歩け」
俺は背中を押され、俺を連行するエルフたちの後に付いて行く。
恐らく、またここで『悪魔神教』との何かが起こると言う予感を感じながら。




