毒舌エルフ
エルフたちに連れられて、ツリーハウスとそれを繋ぐ道を歩く。
通っていく道にいるエルフたちは俺を睨みつけながら、家の中へと逃げていく。
アハハ、なんだこりゃ。
何もしてないのに、なんでこんな嫌われ者の様な視線を受けなけりゃならないんだ?
(人間だから)
それだけの理由でここまで色々な視線を向けられるのも辛いんだけど。
俺自身は何もしてないんだよ? なのに、コレは辛いものがあるんだけど。
(そこは人間たちがやらかしてきた業だとしか言いようがないね)
(あ、そう……。後、思考読むのやめてもらえます? 『念話』で見えてる感じなの?)
(いや、伝えたいこと以外の思考は基本伝わらないけど……ほら、君は顔に出やすいから)
(フゥ)
(だろうと思ったよ!)
もう俺に『念話』いらないんじゃない?
そっちが喋って、俺が考えて返せばいいんだからさ!
なんて思っていると、強い風に煽られて、少し体勢を崩しそうになる。
木々に囲まれているはずの森でなんでこんな強い風が……と思ったが、気付けば俺はいつの間にやら木のてっぺん近くまで来ており、階段を上る先にある一つのツリーハウスを見つける。
窓の部分に鉄格子がついている辺り、恐らく???いや、間違いなくあそこが牢屋なのだろう。
牢屋はここだけなのだろうか? と軽く辺りを見渡してみる。
ここと同じ様に他の木々よりも高めの木が後二本ほどあり、そこにもてっぺんにツリーハウスが作られているのが見える。
牢屋はここを入れて合計三つ。
高いところに作ったのは恐らく、この道以外に逃げ道を作らないため。
人間はおろか、生き物がこの高さから落ちたら、まず助からないだろう。
……なんだろう、メイなら平気そうな気がしてきたけど。
とりあえず、この牢屋のどれかにエリーナがいるに違いない。
後はどうやって、会いに行くかだよなぁ。
「着いたぞ。貴様はしばらくこの牢屋にいてもらう」
「いつまでいればいいんでしょうか?」
考え込むと、たまに周りが見えなくなるのは悪い癖だな……。
声をかけられて、ハッとした俺はすぐさま質問する。
正直、帰す気はないんだろうなっていう気はしている。
と言うよりも、下手すれば死刑になる様な気がしてならないんだけどさ。
「貴様の処遇が決まるまでだ。まぁ、一族の宝である『風の護石』を盗んだんだ。それも人間とくれば、それなりに重い罰が下されると思っておくんだな」
「いや、盗んだって、人聞き悪い」
「いいから、さっさと入れ!」
扉を開けたと同時に後ろにいたエルフに背中を蹴られて、前によろめいて、中へと入る???と同時にゴツン! とと言う鈍い音と痛みが頭に走る。
壁にぶつかった、と言う感じではない。
もし、そうだったなら、ちょっとよろけて入っただけで壁にぶつかるなんて、どれだけ狭い牢屋なんだと言うことになる。
だとするなら、あり得るなら扉が開いたと同時に脱出を図ろうとした同室の人と言うことになる。
ここまで理解すると、当然痛みが頭に襲い掛かってくるわけで。
「いってぇぇぇ!?」
「痛ぁい!?」
向こうも同じ様で、お互い座り込みながら、ぶつけた部分を抑える。
その隙にと言わんばかりに扉は閉じられ、それにハッ、とした相手———声からして女性———はすぐさま扉に近づき、何度も叩き始める。
「いい加減に出してください! 『風の護石』からの反応を感じ取ったんです! あの変わり者の人間が近くまで来ていると! 会いに行かないと」
と言うより、よく聞けば聞き覚えのある声である。
この声の主は間違いなく……。
「未だに俺は変わり者扱いか、エリーナ」
「どう成長したのか、興味が……あ……る……?」
俺の声に反応して振り返ったエルフの女性———エリーナと目が合う。
少しの間、俺とエリーナの間で静寂が続き……。
「あ、ユージじゃないですか。まさか、私に会いに来てくれたんですか? わざわざ捕まって」
「好きで捕まってきたんじゃねぇよ! お前が原因だよ!」
相変わらず丁寧な言葉遣いに所々毒を混ぜ込む奴だな。
やっぱ、助けに来なくてよかったかもしれない。
「私が? 失礼ですが、私は人間とは違い、恩人を売る様なマネはしません。これでも誇り高いエルフですからね」
「人間が恩人とかを裏切るの当たり前みたいな言い方やめてくれる? 全員が全員そういうわけじゃないからな?」
とは言っても、エリーナの言葉に嘘は感じられない。
エリーナは嘘を吐くのが苦手な正直者だと思う。
だって、考えているであろう毒を平然と吐いてくる辺り、そう思うだろ?
となると、やっぱり自白剤的なものと言うことか……。
「あ……」
エリーナは何か心当たりがあるのか、俺から視線を外し、少し考え事を始める。
……まさか、自白剤的なってところを読まれた?
「自白剤、と言われれば、何かされた覚えがあります。ここに入れられて、すぐに誰かがやってきて……頭に手を置かれた辺りから三十分間の記憶がないんです。もしかしたら、その時に洗脳か何かで」
「なるほどね……」
その誰か、が気になるところだが、エリーナ自身からバラしたわけではないんだな。
俺はそれを思うと自然と笑みが零れる。
「急に笑ってどうしたんですか? 気味が悪い」
「お前は俺に毒を吐かなきゃ、気が済まないのか?」
ちょっとイラっとしてきたぞ。
前は森を案内してもらっただけだから、なんてことなかったが……しばらくコイツと一緒にいるんだと考えると、多少はイラっと来るものだ。
で、対してエリーナは笑みを浮かべる。
「そういうつもりはないんですが、つい。数日ぶりの人との会話だからでしょうね。貴方が相手だからこそ、余計に。あ、もちろんこういうのはユージにしか言いませんが」
「……俺、コイツを放って帰ってもいい気がしてきた」
「あぁ、嘘です! 久しぶりの話し相手が嬉しくて、ついついそう言ってしまっただけなんです! だから、見捨てないでください!」
コイツ、意外と寂しがり屋なのか?
俺が外をチラッと見ただけで、俺の足に縋りついてきたのだ。
エリーナのことだから、俺のテイムモンスターが村の外で待っているんだと思っているんだろう。
だが、残念ながら、ウィリデしか連れてこれてない状況だ。
メイか、ルフェがいれば、こういう高いところの脱出も容易いけど……脱獄するのが目的じゃないしな。
「とりあえず、どうするの? と言うより、この子……ここのエルフにしては人間に対して普通に接してくるね」
「まぁ、俺相手だからだと思うけど」
シルフは意外そうにエリーナを見ている。
まぁ、俺を信頼してくれている、と思えば嬉しいとは思えるけど。
「と言うより、いい加減離せ! さっきの嘘だから! どこにもいかないから!」
「え? ホントですか? あ、もしかして、ホントは私を助けに来たけど、それを言い出せないから、そういう態度取りました? 知ってますよ? ツンデレっていうんですよね、そういうの」
「誰がツンデレだ」
やっぱりイラっと来るぞ、コイツ。
バカにする次は属性をつけようとしてくるんじゃないよ。
俺は別にツンデレじゃないから。
とりあえず、事情を説明して、一緒に釈放してもらえる様に協力してもらわないといけない。
そこまで考えた瞬間、さっきまでマシンガントークをしていたエリーナは真剣な表情になり、椅子に腰をかける。
「一緒に釈放してもらえる様に協力、ですか。私を助けに来てくれたのはホントなんですね。捕まったのもわざとなんですか?」
「……わざとではない。村に来たら捕まるかも、と言うことは頭には入れてたけどさ」
「なるほど。村の外で捕まるとは思ってなかったわけですね」
「まぁ、そうだな」
エリーナはどうやら俺の考えが読めたらしく、そのまま話に付き合ってくれる。
俺も近くにあった椅子を持ってきて、エリーナの対面において座る。
それと同時に俺の膝の上に何かが乗る感触———恐らくウィリデのものだ。
俺の膝の上に乗ったと同時に透明になっていたウィリデが姿を現す。
「フゥ」
「護衛ご苦労さん、ウィリデ……で、いいんだよな?」
「フフゥ」
その通りだよ、と言っている様な気がしたので、俺を守ってくれていたのは間違いないだろう。
まぁ、ウィリデがついてきてくれただけでも心強いので、頭を撫でて褒めようかとした瞬間、ウィリデの姿が俺の膝の上から消えた。
いや、消えたと言うよりかは……エリーナによって攫われたと言うべきか。
「なんですか、このスライム! 初めて見ます! もしかして、スライムの変異種? いえ、スライムには変異種も、上位種もいないはずです。と言うことは……新種のスライム!? ウィリデ、と呼んでいた辺り、スイムとは別のスライムですよね!」
「え? あ、あぁ、そうだよ。スイムが魔人化したことによって目覚めた力で生まれたスライムだけど」
「スイムが魔人化!? あの時のスライムが!? いえ、それよりも気になるのはスライムが魔人化したと言うことです。 一体どうやったんですか!?」
「え? えっと……」
コイツもエルフなんだな、って思えてきた。
思えば、別れる少し前もメイやスイムをもう少し調べたいと言う様な感じではあったけど。
まぁ、だからこそ『風の護石』を連絡用に渡してきたんだろうけどさ。
知的欲求が強い、と言うのは本当の様だ。
エリーナに関しては生物に対しての知的欲求が強い様だ。
興奮気味にウィリデを上げたり、下げたりして重さを確かめたり、色んな方向から確かめたりとしている。
で、ウィリデはと言うと、アレだけ振り回されたり、触られたりしているのに、嫌そうな素振りどころか、抵抗することもなくジッとしている。
まるで『ジッとしておくから早く終わらせてくれる?』と体現している様である。
アンタ、COOLすぎませんかね。
「アハハ! やっぱりエルフはこうじゃないとね。まぁ、この子のは行き過ぎだけど」
「こうじゃないとって、一体どういうことだ?」
エリーナの様子を見ていたシルフの言葉に俺は反応する。
まるでここのエルフたちはエリーナみたいではないと言っている様で。
「言葉通りだよ。ここのエルフたち、昔から閉鎖的ではあったんだけど、ここまで完全に閉じこもっている様なタイプではなかったんだよ、元々は。それこそ、エリーナみたいな子が村を出ていくことだってあったよ。だけど、いつ頃だったかな。数十年前くらいから、ここのエルフたちはどんどん閉鎖的になっていって、気付けば村に引きこもる様になって、ああいう知識に欲深い子も出なくなった。それがツマらなくて、見守るのもバカらしくなって、ボクは眠りについたんだけどさ」
「……数十年前に」
「うん。いつ頃かは忘れちゃったけどね」
結構有力な情報を聞き出せたぞ。
ヘルプさんの予想通り、数十年前に何かが———人間をあそこまで嫌うほどのことが起こった。
もしかしたら、それは『悪魔神教』が関与しており、今の状況を作り出しているのだとしたら?
だとしたら、何のために奴らはエルフたちを引きこもらせる様にしたのか?
そして、一体どんな手を使って、そこまで閉鎖的にさせたのか。
『悪魔神教』の中でそんな風なことが出来そうなのは、俺が知っている限りだとメフィストフェレスか、ニャルラトホテプだ。
いや、あの二人はまったく関与していない可能性もある。
それに『悪魔神教』が関与していたとして、数十年もかけて、一体何をしているのか?
様々な疑問が浮かび上がってくるが、閉鎖的になった、と言う情報以外ないので、答えは浮かび上がってこない。
情報を集めるにしろ、『悪魔神教』がいるか探るにしろ、まずはこの村で行動できるための交渉と釈放をお願いしなければならない。
そのためにも、エリーナの協力は必要不可欠……なので。
「いい加減、俺の話を聞いてくれないか?」
「緑色のスライム、そしてこの見た目に、この子から感じる魔力の感覚……まさか、風のスライム……って、なんですか? 今はこの子を調べるのに忙しいので、話はあとにしてください」
「いや、さっきまで話を聞いてくれようとしてたよね? なんで俺睨まれなきゃならないの?」
軽くため息を吐くと、ウィリデはエリーナの手から離れ、俺の膝元へと戻ってくる。
エリーナは「あっ!」と叫んでいたが、ウィリデの行動を見て何か思ったのか、少し残念そうにしながらも、再び椅子に座る。
「その子が貴方の話を優先してほしい、と言う様な感じの行動をしたので、仕方なくですが、ユージの話を先に聞いてあげます」
「仕方なくってなんだ? 仕方なくって」
再び毒吐き出したぞ、コイツ。
だけど、ウィリデのおかげで話を進めることが出来そうだ。
俺はウィリデを軽く撫でてあげると、ビクッと一瞬だけ反応する。
だが、一瞬だけで後は受け入れてくれた様で、俺にそのまま撫でられている。
「では、何の話をしましょうか。まずは釈放してもらえるかどうかでしょうか? もしくはもっと別の……この村に起きている何かでしょうか?」
エリーナは俺が考えていることを見透かしているかの様な目で、こちらを見てきていた。




