風同士
ノワールに行き先の変更を伝えて、俺たちは風精の森へと向かっていた。
その間に風精の森に行く理由、何故そうなったのか、俺にしか見えていないシルフのことをメイたちに説明した。
一応、皆は納得してくれた。
「それにしても、ユージさんにしか見えていないシルフですか。シルフと会うのは初めてなので、一目みたいものですが……」
「う~ん、今は見せる気はないかな」
「ないらしいですよ、今のとこ見せる気は」
「そうですか。いえ、ですが、今のところ、と言っていると言うことは、その内姿を現してくれると言うことですよね?」
「多分ね」
「多分、だって」
「多分ですか……」
あ、多分なんて言うから、ルフェが落ち込んじゃった。
こういう感じで俺がシルフとメイたちの会話の中継をしているわけなのだが、コレがまたメンドくさい。
シルフが言ったことを一々メイに伝えなければならないのだから、見えて、聞こえている俺からすれば、二度手間と言う感じがあって仕方ない。
見せたっていいんじゃないかな。
「ダメだね。ボクは信用している人にしか姿を見せない様にしてるから」
「あ、そう……」
「まぁ、君は護石があるおかげでボクが姿を消していたとしても、見えてるんだけどね。まぁ、それがなくても、君には見せてもいいとは思えるかな」
「え? マジで?」
「うん、マジで。だって、君は考えが顔に出やすいからね! わかりやすいから信用に値するよ」
「だろうと思ったよ!」
エリーナと似たこと言いやがって……!
コイツもアレか? 毒舌タイプの奴なのか!?
「いや、そういう趣味はないけど。君が信用に値する理由を述べただけだしね」
「シルフが何を言ってるかわからないけど、ユージの顔を見れば、何となくわかるね」
「うみゅ」
メイの言葉に同意するかの様に頷くスイム。
なんだか、貶してるつもりはないんだろうけど……気にしない様にはしてたけど、泣きたくなってきた。
「泣きたいときは泣いた方がいいかと思います」
「メラ」
ルフェが微笑みを浮かべ、ルーフスが同意するかの様に体を縦に揺する。
逆にそこまで読まれてしまったら、泣けないし、この年で人前で泣くのは恥ずかしいから泣く気はないのだけど。
そう思っていると、ウィリデが俺の元へと近づいてくると、こちらを見上げてくる。
「ウィリデ、どうした?」
「フゥ! フーフゥ!」
何かを伝えているのだろうか、声を上げているが……如何せん、なんと言っているのかさっぱりわからない。
言葉を喋れる様になる前のスイム状態となっているんだが、何となくシルフに反応している様に見える。
それも視線が心なしか、俺の右肩に居座っているシルフに向いている気がする。
シルフもそれを感じ取っているのか、驚いた様な表情をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべる。
「君、もしかしてボクを認知できる様にしたの?」
「フゥ! フゥ―!」
「よし……少し試してみようかな」
シルフは俺の肩から飛び立つと、別の場所へ移動。
俺は目でシルフを追いかけるが、ウィリデの方へとすぐさま視線を向ける。
メイたちがどうしたのだろうか? と不思議そうに首を傾げている中、ウィリデは確かに視線をシルフが飛んでいる方へと視線を向けている。
そのままシルフは馬車の中を縦横無尽に動き回り、ウィリデの視線はちゃんとシルフを追いかけている。
それを見て満足したのか、シルフは俺の肩へと戻ってきて、再び座り込むと、目を輝かせながら、俺の方へと顔を向ける。
「君、凄い子をテイムしてるんだね! ボクを認知できる様にするなんて。今のボクは風そのものの様な存在になっているんだ。ボクが姿を見せる様にしない限りは特殊な魔眼スキルか、その護石がない限りは姿が見えないはずなんだ。だけど、この子は自分の力一つで認識できる様になったんだよ」
シルフは喜々としながら、どれだけ凄いことなのかを語っていく。
風そのものの様な存在って……精霊はそんなことまで可能なのか。
【いえ、全ての精霊が可能と言うわけではありません。彼女が特殊個体だからこそ、できる芸当だと思われます】
なるほどな……。
スイムの水の体みたいなものなのかもしれない。
と言うことはこのシルフが持つユニークスキルなのでは……?
それよりもウィリデがどうやって、シルフを認識したのかも気になるな。
「それはその子が風を扱うのに特化したタイプだから、かな。いや、それでも普通はできないんだけど、君さ……この子に特別な何かをしているでしょ? ううん、この子だけじゃない。君がテイムしている子全員に」
「特別な事……まぁ、確かに特別と言われれば、そんなことをしているとは言えるけど」
俺のスキルの『魔物へのお菓子』でな。
【一応ですが、個体名:ウィリデのスキルを調査しましたが、特殊なスキルは見受けられませんでした】
なら、存在自体が関係あるのか?
【恐らくですが、個体名:ウィリデ自身が精霊に近しいからかもしれません。いえ、スライム全般に言えることかもしれませんが】
どういうこと……?
【元々スライムは液体と言う水の物質で構成された魔物です。魔人となった個体名;スイムが『液体の体』を持っているのが良い例ですね。つまり、個体名:ウィリデは風そのものが魔物となった様な存在です。そして精霊とは概念が形を成した存在です。つまり、風の概念である『風の乙女』が自身の力で透明になっていたとしても、ウィリデからすれば、少し方法を覚えれば見えると言うことです】
確かに近いと言われれば近いと言えるな。
そもそも、今まではスライムには上位種も変異種も存在しなかったし、思考そのものも存在しなかったから、こういうことが起こるなんて精霊でも今まで知らなかったんだろう。
「う~ん、ウィリデだっけ? この状態のボクを認識できるなんてなかなかやるね。君にも、君を使役するユージも、ホント興味深いよ」
「アハハ……ありがとさん」
「フゥ! フゥ!」
ウィリデはシルフに褒められたのが嬉しいのか、元気よく跳ね回っている。
その光景を不思議そうに見ているメイたち。
「ねぇ、ユージ。どうして、ウィリデはこんなに跳ね回ってるの?」
「いや、なんというか。ウィリデだけが俺と同様にシルフが見えてるみたいでな。それを褒められたことが嬉しいらしくさ」
「え? ウィリデはシルフが見えてるみゅ?」
スイムは驚いた様な表情をしてから、目を凝らす様にこちらを見てくる。
恐らく自分が生み出したスライムなのだから、自分が見えてもおかしくはないだろうと思っているのかもしれない。
「みゅみゅ……うみゅ……」
あ、あの落ち込み具合は見えなかった感じだな。
可愛らしくシュンと落ち込んでいるスイムをルフェが頭を撫でて、慰めている。
メイの方へと視線を向けてみると、スイム同様に目を凝らして、シルフを見つけようとしているのがわかる。
いくらメイとは言っても、流石にこのシルフを見つけるのは難しいはず……。
「輪郭はぼんやり見えるから、あと少しだと思うんだけど」
「マジで!?」
「えぇ……まさかの二人目来ちゃう?」
俺の思考を読んでの反応なのだろう言葉に思わず驚いてしまう。
シルフもありえないと言う様な表情でメイを見ており、呆けた表情をしながら、俺の方を見てくる。
「君、凄い子ばかりテイムしてるんだね……。ボク、こんな『魔物使い』なんて初めて会ったよ」
「俺自身も驚いてるよ。自分のテイムした奴らに」
さっきまで見えていない様な反応していたのに、急に輪郭が見える程度にはなってきているのに驚きを隠せない。
一体どういう視力……? いや、視力は関係ないか。
どういう目をしているんだか。
とは言っても、メイはキメラなのだから、アレコレ考えても仕方ないかもしれない。
シルフ自身は自力で視えそうになっているメイに嬉しさを覚えたのか、俺の頭の上に腰を掛けると、足をぶらぶらさせる。
恐らくだが、満面の笑みでだろう。
後、足をぶらぶらするのはやめてほしい。
俺の額にペチペチとさっきから当たっていて、地味に痛い。
「あの変わった魔人も凄いなぁ。後、どれくらいしたらボクのことを視認できる様になるのかな? ちょっと楽しみかも」
「俺は逆にアイツの凄さが身に染みたよ」
『魔物へのお菓子』を与えてもいないのに、この成長速度だ。
『魂喰い』が関係している可能性はなくはないけど。
なんて思っていると、木々が生い茂る森が見えてくる。
恐らく……いや、間違いなく『風精の森』だろう。
「あ、見えてきたね。案内する森に行くまで暇かな~なんて、出会う前は思ってたけど、出会ってみたら、面白い人達ばっかでよかったよ。おかげでここまでの道のり、退屈せずに済んだからね」
「アハハ、そりゃよかったよ……」
「特にユージが面白いね。だって、考えが顔に全て出てるんだからさ」
「……なんだ? 風精の森の奴らはアレか? 最後に人に毒を吐くのが当たり前なのか?」
なんだか、泣きたくなってきた。
ここまで来てなんだけど、あのことを思い出すとエリーナを助けに行くのやめようかな、なんて思えてきたぞ。
いや、本当に今更だけどさ。
「そのつもりはないよ。ボクは褒めてるつもりだからね。ほら、面白いから」
「俺からすれば貶してるとしか思えないんだよ」
「フゥ―……」
「何でウィリデはやれやれみたいな反応してんの? しかも、その鳴き声と相まって、やれやれとため息をついている様にしか聞こえないんだけど?」
気のせいだろうか。
少しずつだが、ウィリデの性格が段々出来てきている様な気がする。
最初はスイムに強い忠誠を持つスライムと言う感じだったが、シルフが見える様に努力した結果なのか、何やら感情的なものを感じた。
凄くクールっぽいものを感じ取ってしまった様な気がする。
メイは未だに目を凝らしているし。
「ムムム……! 輪郭は見えるのに。後もう少しなのに……!」
「頑張ってください、メイちゃん」
「メイちゃん、フレフレみゅー!」
「メラメラ!」
「ドンドン!」
しかも、なんかルフェとスイム、ルーフスとフラウムまで応援し出しているし。
アルフは……寝てるな。
あ、ウィリデがまたやれやれと言う様な反応をしている。
コイツ、急に変わったな、ホントに。
【ですが、私には良いことだと思います】
いや、別に悪いとは誰も言ってないけどね。
急に変わったから驚いたと言うか、なんというか……。
「ほらほら、自分のテイムモンスターの変化に戸惑うのもわかるけど、森についたよ。この森は」
「補装された道がないのは知ってるよ。最初、ここに落とされたんだから。馬車は置いていけってことだろ?」
「よくわかってるね。まぁ、それもそうか。ここに来てないとその護石をここのエルフから受け取ってるハズがないもんね」
「そういうこと。皆、降りてくれ。ここから先は歩きで行くぞ」
俺の言葉に皆は頷いてみせて、馬車から降りる。
ノワールから馬車と繋げている金具を外してから、馬車を見る。
思えば、ムルムルさんはこれを『影の倉庫』から取り出していた。
アレに入るっていうことは逆に俺の『次元倉庫』にも余裕で入るんじゃないか?
【試してみる価値はあります。と言うよりは可能です】
「やっぱり?」
このまま置いて行って、戻ってきた頃には盗まれてなくなってましたとかなってたら、洒落にならない。
盗まれたらこれをくれたムルムルさんには顔向けできなくなる。
と言うわけで物は試しに。
パーカーのポケットを近づけ、馬車の一部に当たった瞬間だ。
なんと馬車が俺のポケットに吸い込まれる様に消えていくではありませんか!
……いや、マジで四次元ポケットとか言われても納得できるぞ、コレ。
あの猫型ロボットはいつもこんな感じで色々収納していたのだろうか。
いや、まぁ、向こうには仕舞おうとしているのが大きい場合、吸い込まれると言う機能はなかったけどね。
「『次元倉庫』に入ってよかったね」
「あぁ、ホントにな。これで吸い込まれていく様な機能がなかったら、やばかったな」
入れれるものの大きさが制限され過ぎるからな。
「さてと、それじゃシルフ、案内を頼む」
「OK。いやぁ、それにしても、まさか『次元倉庫』持ちだったとは驚いた驚いた! まぁ、それなら馬車を置いていく心配もなくていいね」
シルフは特に驚く様子もなく、うんうんとその場で頷いてみせる。
まぁ、勇者が使っているのを見たことあるんだろうな。
シルフは俺の肩から飛び立つと、目の前で飛んで止まって見せる。
「それじゃ、ボクが先行するからしっかりついてきてね」
「了解だ、シルフ」
「うん。じゃあ、行こうか? 君に助けを求める、お姫様のところまで」
森に入っていくシルフの後を追う様に俺たちは森の中へと足を踏み入れた。




