風の乙女
次の日の朝。
俺はノワールが引っ張る馬車に揺られながら、朝の出来事を思い出していた。
いつの間にか、ルフェによって眠りについていた俺。
目を覚ましたら、ルフェの寝顔が目の前にあったもんだから驚いたなぁ……。
ホントにルフェと一緒に寝ていた様だな。
まぁ、俺が先に寝たからよかったものを、違うかったらどうするつもりなのだろうか。
男は皆狼だとリオンさん辺りから教わらなかったのだろうか……いや、リオンさんは教えてなさそうだなぁ。
【と言うことは貴方も狼と言うことですか?】
いやいや、なんでそういう話になるかなぁ。
まぁ、皆が皆と言うわけじゃないし、俺は紳士だからね。
っていうか、そこまで反応する様になったとは……ヘルプさん。
話し相手に困らないからいいけどさ。
それと肝心のメイたちはと言えば。
「あぁ、メイちゃん。そんなに急いで食べなくてもユージさんがたくさん焼いてくれてますから」
「もぐもぐ……」
「美味しいみゅ~!」
飯食ってます。
俺が朝起きて作った飯を馬車の中で食っている。
料理と言っても、魚に塩振って、焼いただけの簡単なやつだけど。
後はエリーナから貰った食料にパンがたくさん入っていたから、それを出しただけだ。
と言うよりも、ヘルプさんに教えられて初めて知ったのだが、『次元倉庫』に入れているものは腐ることがないそうなのだ。
何でも特殊な空間だからこそ、できることだと言っていたが……そこらへん、もうちょっと詳しく教えてほしかったな。
【特殊な空間は特殊な空間です】
「わかったから。そんな怒った様な声出さないで」
更に人間味増したな、ヘルプさん。
まぁ、変に詳しく説明できたとしても、俺が理解できないから、そういうことでいいのかもな。
さてと、次はどこへ向かおうか。
「クスクス……」
「え?」
小さく笑う様な声が聞こえてきて、それに反応して、辺りを見渡す。
一体どこから声が聞こえてきて……。
「貴方の肩にいたりするかもね?」
「ッ!?」
肩をすぐさま確認してみると、先ほどまで何もいなかったはずの右肩に小人と言ってもいいほどの小さな緑髪の少女が座っていた。
妖精の様な羽を持っていて、澄んだ緑の瞳でこちらを見ている。
「やっと気付いたんだ。少し前から君の肩にいたんだけど、まったく気付かないから酷いよ。あ、ボク風みたいになれるから気付けっていうのが無理あるかな?」
「え……? 誰?」
「ボク? ボクは『風の乙女』。ただのシルフだよ」
「シルフって……」
風の乙女と呼ばれ、風を司る精霊として有名な精霊じゃないか。
【ハイ、彼女は種族:『風の乙女』、風を司る精霊です。精霊は魔族に部類されるので、貴方のテイマーとしての性質に惹かれて……というわけではなさそうですね。精霊には関係ないですし】
え? そうなの?
【ハイ。精霊は魔族として部類されていますが、テイマーの魔を引き寄せる体質にはなびきません。そもそも精霊に出会えること自体が珍しいかと。ゲームで例えるならレアですよ。SSRとか、URとかが付きそうなくらいです】
なん……だと……!?
そうなると、リオンさんのとこにいたベリアルさんも滅多に会えないし、その中でも通常のイフリートよりも特殊だから……スゲェ存在なんじゃ。
いや、それよりもだ。
それほどに珍しい精霊が何故、俺の肩などに居座っているのだろうか。
まさか、運よく遭遇しちゃったとか……いや、待て。
こういう時ほど変なイベントが待ち受けているものじゃないだろうか?
メイたちへと視線を向けると、特にシルフの存在に気付くことはなく、気にせず飯を食っている。
「あ、仲間たちにどうにかしてくれ、とか思って、視線を向けた? 確かに魔人が三体もいるから、ボクでも相手はしんどいけど……見えなければ関係ないよね?」
「え? 見えない?」
「うん、そう」
いやいや、嘘だろ……?
すると、メイが俺の視線に気づいたのか、小首を傾げながら、こちらを見てくる。
「どうしたの、ユージ? コレ見えてないの? みたいな顔されても、何を言っているのかよくわからないよ?」
「……マジだ」
「いや、君の考え丸わかりみたいだけど? それも的確っぽいけど。そこに何も反応しないの?」
そんなシルフの囁きが聞こえるが、顔で考えがバレてしまうことに関してはもう諦めたので、気にしない。
「あ、そうなんだ。確かにわかりやすいね、君」
ほら、出会ったばかりのシルフにもこんな感じだからね。
だが、メイの反応から考えるにシルフが見えていないのは事実の様だ。
ならどうして、俺だけが見えている状況になっているのか?
「そんなの簡単だよ。貴方が『風精の森』のエルフから貰った物のおかげだよ?」
「エルフから貰った……? まさか、『風の護石』か?」
「そうそう、それそれ」
思い出したかの様に呟いた言葉にシルフは同意するかの様に何度か頷いてみせる。
風の加護がかかったパワーストーン、的なものだと考えていたが、まだ秘密がありそうだ。
いや、あって当たり前なのかもしれない。
アンラマンユが生み出した『黙示録の獣』の呪いを無効化するほどの強力な浄化能力、更には勇者の仲間の一人が身に着けていたとされていたものだ。
何か秘密とか、逸話とかあってもおかしくないだろう。
それがこのシルフと関係していると……?
「珍しくさ、その石の力が発動したから、何かあったのか!? とボクは跳ね起きたわけだけど、起きてみたら起きてみたで、世界は全然平和だし。と思ったら、君が持っているし」
ん? 今気になること言っていなかったか?
このシルフ、石の力が発動したから跳ね起きたとか……って。
まさか、このシルフ。
【恐らくですが、個体名:ベリアルと同様の特殊個体だと思われます】
やっぱり、そういう結論に至るわな。
恐らくだが、この『風の護石』を作った張本人で……。
「間違いない、でしょ? さっきは丸わかりで大丈夫? ってツッコミを入れてたけど、うん。確かに君は考えが全て顔に出る様だね。もう読んでくださいと言わんばかりにね」
「……まぁ、そう考えてたけどさぁ」
もう読まれるのは諦めかけてたけど、また初対面の人……? いや、精霊に言われると少し気にしてしまう。
コレ、もうポーカーフェイスができる様になろうと関係なくね?
【推奨していましたが、私もそう思えてきました】
あ、やっぱり?
ヘルプさんにもこう言われたら、ホントに意味ないんだろうな。
「でも、なるほど。ここまでわかりやすい人間なら、あそこの人間嫌いのエルフが信用してもおかしくはないかも……? とりあえず、興味が湧いたから君に接触したんだ。あ、そういえばまだ名前を聞いてなかったよね。聞いてもいい? ボクは生憎名前がないから、名乗れないけどね」
「……久遠裕司。裕司が名前な」
「おぉ、珍しい名前……とは言わないよ。なるほど、君は異世界人か。変わった格好してるな、とは思っていたけど」
「やっぱり知ってたか」
「まぁ、そりゃね?」
『風の護石』は元は勇者の仲間が持っていた物。
それを作った張本人が勇者と会っていないわけがない。
いや、と言うより精霊は魔族に数えられてたのに、魔王に仇なす者にそういうことをしていいのか?
【あくまで『魔族』として部類されているだけです。テイマーに引き寄せられない理由はそこにあります】
じゃあ、テイムとかは?
【テイムは可能です。『魔族』ですから】
そこは可能なのかよ……。
『魔族』に部類されていたら、何でもテイムできてしまう様に聞こえるんだけど。
【そうですが?】
「そうなの!?」
「うわっ!?」
ヘルプさんの言葉に思わず大声を上げてしまい、肩にいたシルフは驚いて、俺の肩から落ちる。
で、馬車を引っ張っていたノワールも驚いた様でこっちへと振り向いている。
メイたちも驚いた様子でこちらを見ている。
寝ていたアルフも起きているほどなのだから、それくらい大きな声だったのだろう。
いや、今気にすることではないか。
だけど、堕天使であるルフェをテイムできているのだから、精霊や悪魔なんかをテイムできてもおかしくはないのだろう。
いや、ホントに今更だけど……。
そう思っていると、シルフが再び俺の肩まで飛んできて、腰を掛ける。
「ハァ……。急に大声で叫ばないでよ。間近でそんな大声を聞いたせいで、耳鳴りが酷いよ」
「あ~……すまん。じゃなくてだな、お前は俺に何か用でもあって来たのか?」
このシルフ、何かしらのイベントを持ってきたのは間違いない。
俺に興味を持って、と言っていたが、興味を持つことになった理由だってあるはずだ。
だって、滅多に会えない精霊が姿を現して、しかも俺だけしか見えていない状態。
【私も認知しています】
……そうだね。
ヘルプさんと俺の視覚は共有している様なもんなんだから、ヘルプさんもだね。
【正しくは五感です。後は脳や精神など】
うん、なんでそこまで訂正入れてくるのかはわからないけど、脳とか聞いた瞬間、怖くなったから、それ以上言わないでくれる?
【わかりました】
こういう時は物分かりいいのにな……。
まぁ、話は逸れたが、そういう条件も揃っている以上、何かしらのイベントがあると俺は予想しているのだが。
そして、聞かれたシルフは笑みを浮かべながら頷いてみせる。
「まぁ、そうだね。ボクが君の前に姿を現したのは、それが使われたからというのもあるけど、もう一つ。それの元持ち主なのかな? その人の願いが聞こえたからだよ。『あの変わり者の人間に会いたい』と言う願いが聞こえてさ」
「それで人間嫌いのエルフが会いたがっている人間がどんなのか興味を持った、と?」
と言うよりも、あのエリーナが俺に会いたがっているとは思えないんだけど。
最後まで人を貶していった奴だぞ?
確かに近くを通りかかったら、この護石が教えてくれるから、会いに行くなんて事は言っていた気がするが。
だけど、『願う』ほどって……何かあったのか?
「あったよ。願った張本人が誰か確認するためにボクは見に行ったからね」
やっぱり、エリーナの身に何か起きているんだ。
だからこそ、願った……と考えるべきなのだろうか。
俺たちに助けを求めていると考えてもいいかもしれない。
【何故、先ほどから曖昧な答えなのですか?】
だって……エリーナだしな。
少ししか一緒に居なかったが、最後まで人に毒を吐いてた奴だから、人間である俺に助けを求めているとは到底思えないんだよな。
むしろ、これで駆けつけたら、また毒を吐かれる様な未来しか見えないんだけど。
「まぁ、それはないんじゃないかな? ボクが見る限り、君に助けを求めている……か、どうかはわからないけど、会いたがっていたのは確かだし」
「……そうか」
どうしてだろう。
この世界の人達全員に読心術か何かがついている様にしか思えなくなってきたぞ。
だけど……そうか。
「なぁ、エリーナに何が起こっているのか、教えてくれないか?」
「うん? もちろん、教えてあげるよ。彼女は今、牢獄に入れられているのさ」
「牢獄に……? なんで?」
もしかして、毒舌のあまり罰として放り込まれたとか。
「ではなさそうだね。理由はまたそれかな」
「『風の護石』が?」
再びシルフが指さしたのは風の護石だ。
思えば、コレは長の一族が……とかっていう話だったな。
まさか、コレを俺に渡したから?
「そういうことだろうね。無くしたとあっただけでも、大変なのに、それを人間に渡した、なんて言えば余計にね」
「まさか、正直に言ったのか、アイツは?」
「言ったんだろうね。言ってなかったとしても、バレたんじゃないかな? 結果、投獄されて、判決待ちっていう感じかな」
「エリーナ……」
もしかして、そうなることをわかっていて、護石を渡したのか?
バレたら、投獄されて、重い厳罰があるだけだとわかっていながら……?
もし、本当にそうなのなら。
「シルフ、俺を風精の森にある、エルフの里へと案内できないか?」
「……もちろん、できるよ。だって、そのためにボクは君の元に来たんだからね」
「なら、頼む」
「うむ、頼まれた」
「ユージ」
シルフが笑顔で頷いたと同時にメイから声をかけられ、それに反応する。
メイたちが不安そうな顔で俺の方へと見ている。
気のせいだろうか、その目は大丈夫か? 正気か? と問いかけている様な気がする。
「どうしたんだよ?」
「ずっと一人でぶつぶつ言ってたから、大丈夫かな? と思って」
「うみゅ……。ご主人様、一人にしてたから、寂しくて独り言でも言っているのかなって」
「もし、それならすみません。ユージさんを仲間外れにして……」
「あぁ……」
そういえば、シルフは俺とヘルプさん以外には見えてないんだっけ?
俺はため息をつきながらも、メイたちに何があったのか、そして次に向かう場所への説明を始めるのだった。




