属性使い
『月夜ノ衣』を身に纏ったメイの体から闇が溢れ出し、姿を隠していく。
それに反応したメフィストフェレスが素早く闇を纏ったトランプを投げ、その闇を切り裂くが、そこには既にメイの姿はなかった。
驚いた様にそれを見るメフィストフェレスの背後に闇が集まり、その中からメイが飛び出してくる。
気配を感じ取ったメフィストフェレスが振り返る前にメイは月光を構える。
「月技! 『三日月』!」
素早く振るわれた月光は三日月を描く様な線で振るわれる。
メフィストフェレスは闇を展開しようとするが、それは切り裂かれ、メフィストフェレスの胴体を斬りつける。
メフィストフェレスはそれに驚きながら、後ろへと飛躍し、傷口を抑える。
「装備系のスキルは謎が多いゆえに、どういったものかわかっていませんがぁ……その短剣、何か仕組みがありますねぇ?」
「仕組み? 仕組みなんてないよ、この月光には。ユニークスキル『月夜ノ衣』の装備の一つなだけ」
そういって、月光を手の中で回してみせるメイ。
メフィストフェレスに話してはいないが、このユニークスキル『月夜ノ衣』はメイの持つ闇を身に纏った姿。
闇に飲まれぬように、闇を唯一扱うことができるメイの装備スキル。
その『月光』が闇を切り裂けない道理はない。
まさしく『闇夜を照らす月の光』なのだから。
メフィストフェレスは月光や身に纏う『月夜ノ衣』を見ながら、自分の手についた血を舐め、笑みを浮かべる。
「アハ、アハハ! アハハハハハハハ! いいですねぇ! 面白いですねぇ! いいですよぉ! 私を倒すために闇を制御する姿を手に入れたわけですかぁ! 素晴らしいことですよぉ!」
狂った様に笑いながらしゃべるメフィストフェレスにメイが警戒する。
そして、瞬きをして、再び瞼を開いた瞬間、そこにはメフィストフェレスの姿がなかった。
メイはそれに驚きながらも、感じ取れる気配に反応し、振り返る勢いを利用して、そのまま月光を振るう。
ガキンッ! と甲高い金属音を響かせたのは月光と闇を纏ったトランプ。
いつの間にか後ろに回り込んでいたメフィストフェレスが狂ったかの様な笑みを浮かべながら、後ろへと跳び、闇を纏ったトランプを投げて展開する。
「そんなレアなスキルにまで覚醒したんですからぁ、私を楽しませてくださいよぉ? 『踊る道化』!」
闇を纏ったトランプは踊る様に舞いながら、メイへと襲い掛かる。
あの魔法攻撃は一度洞窟で経験している。
装備さえをも燃やし尽くす『獄炎の息』でさえ、消し飛ばせない魔法。
いや、闇を纏い、『拒絶』を発動しているからこその無効化。
だからこそ、対となる『光』の属性がなければ、闇はかわすしかない危険な物……だが、対抗できるのが『光』だけとは限らない。
メイは右手を前に突き出すと、赤と黒が混ざり合った魔法陣が展開される。
そこから溢れ出しているのは闇を付与された黒い炎―――『黒炎』
「飲み込め! 『黒炎』!」
魔法陣から放たれた黒き炎、黒炎は迫りくるトランプたちを飲み込み、次々と跡形もなく消し去る。
『毒には毒を以て制する』という様にメイがした行動は闇には闇を以て制すると言う行動だ。
『浸食の闇』を付与した黒炎で『拒絶の闇』が付与されているトランプを飲み込み、相殺したのだ。
それもメイが扱ったこの魔法は。
「なるほどぉ、複合魔法ですかぁ。『属性使い』だからこそ、できる芸当ですねぇ。本来は複数属性を持つ人が扱ったりするものですがねぇ。まさか『闇』を付与した『火炎魔法』を扱うとは思いませんでしたよぉ?」
そう、メイが行ったのは『複合魔法』という属性を組み合わせて放つ魔法。
『闇魔法』と『火炎魔法』を組み合わせることで、メイは『黒炎』を生み出したのだ。
恐らく、『アルライト』でそんな芸当ができるのは今、メイだけだろう。
メイは楽しそうに笑うメフィストフェレスを余所に黒と緑が混ざり合った魔法陣がいくつも展開される。
「切り裂け! 『黒風の鎌鼬』!」
魔法陣から放たれたのは闇を付与された黒の風―――『黒風』の風の刃。
メフィストフェレスはトランプを取り出すが、トランプでは防げないと直感で判断し、黒色の魔法陣を展開する。
「『全てを飲み込む暗黒』」
メフィストフェレスの目の前に渦巻く闇が出現し、黒風の刃を吸い込んで、攻撃を無力化する。
メイはそれにすぐさま反応すると、右手で何かを掴むような形を作ってみせる。
そこからは黒い雷が手から溢れ出すかの様に迸っており、メイの足元には黒と緑の混ざり合った魔法陣が展開されていた。
その瞬間、左手にも同じ黒い雷が迸る。
「おやぁ? そんな芸当まで」
「撃ち抜け! 『黒雷』!」
両手を前に突き出すことで放たれた二つの雷撃。
地面を抉る様に迸りながら迫る二つの雷撃はブラックホールと激突する。
それを吸収しようとするが、二つの雷撃はブラックホールの闇を貫き、メフィストフェレスへと迫る。
メフィストフェレスはそれに驚愕しながらも、横に軽くステップして黒雷を回避……しようとしたが、足に少し掠り、「ほぉ」と感心したかの様な声をあげる。
着地してから、掠ったことによって怪我を負った足を見て、微笑む。
「あの『全てを飲み込む暗黒』を突破したのか、聞きたいものですねぇ?」
「簡単なことだよ。風魔法の上級、『雷』には『貫通力』がある。そこに闇の『拒絶』と混ぜ合わせれば、吸い込むことを拒絶しながらも、闇を貫く力が発揮されるっていうだけ」
「なるほどぉ。風魔法との組み合わせの時は普通の防御は危険だからと思い、アレを展開しましたが、逆にそれさえをも破る方法を見つけていたとは」
関心したかの様にうんうんと何度も頷くメフィストフェレスに、メイは首を横に振る。
「正直、賭けだった。『切断』に特化した風と闇の『拒絶』を合わせたものでも、吸い込まれてしまったから。なら、『光の様に闇を貫くことができれば?』と考えた結果できたんだよ。『雷』も『光』で出来ている様なものだからね。闇を付与すれば、疑似的な『闇を貫く光』になると思って」
「なるほどぉ。雷は雷光とも呼ばれるほど、光に近い性質をもちますからねぇ。そこを利用するとは……。それなりに頭は回る様ですねぇ」
「コレでも、私はユージのパートナーだからね?」
メイは片手をメフィストフェレスに向けると、メフィストフェレスの足元に黄色と黒の混ざり合った魔法陣が展開され、そこから飛び出してきたのは手の形をした黒い土人形が二つ。
それがメフィストフェレスを中心に渦巻いていき、体を完全に縛り上げると、黒い土の手はメフィストフェレスの頭を左右から挟む。
まるで、いつでもメフィストフェレスの頭を挟んで潰すことができるかという様に。
メイは手を向けたまま、相手を睨みつける。
「メフィストフェレス、これでチェックメイトだよ」
「おやおやぁ……。これで私を捕まえたつもりで?」
「うん。今度は打ち破れないからね」
「それは……どうでしょうかねぇ!」
メフィストフェレスが何かしらをしたのだろうか、笑みを浮かべるも、何も反応が起きない黒い土人形の手に疑問を抱き始める。
それを見たメイは笑みを浮かべる。
「無駄だよ。それは『黒土』……。闇の『吸収』を付与した土魔法。多分、魔力を放出して壊そうとしたんだろうけど、そんなものは『黒土』が飲み込む。逃げられると思わないでよ? 『黒人形の手』から」
「そこまでうまく活用できるとは……。頭がいい、というだけではありませんねぇ? 貴方、戦いの才能でもあるんでしょうねぇ。得たばかりの力をここまで使いこなせるのはなかなかないことですよぉ?」
メフィストフェレスが愉快そうに笑いながら言うのを見て、メイは突き出していた手を何かを掴むかの様にすると、メフィストフェレスの頭を挟んでいる二つの黒土の手が頭を潰さんという感じで挟む力が強くなり始める。
それによって、メフィストフェレスの頭は悲鳴をあげ、メキメキという音を立てる。
だと言うのに、それに構わず笑顔を浮かべているメフィストフェレス。
「アハハ! どうしたのですかぁ? 早く潰せばいいじゃないですかぁ! もう貴方の勝ちは確定しているんですよぉ? どうして潰さないんですかねぇ?」
「お前には聞くことが残っているから。ルフェとユージはどこにいるの。ここからどうやって行けばたどり着けるの? それを教えろ!」
「なるほどぉ。情報を聞き出すために、あえて殺さずにいると言うことですねぇ。いいでしょう。まぁ、私をここまで追い込めたんですぅ。教えてあげますよぉ? あ、ですがぁ、その人間様のいるところは私にも流石にわかりませんのでぇ、お姫様の場所だけでも」
「それでもいい。それならユージは自力で探すから。早く教えて!」
メイは空いている手で月光を手に取り、刃先をメフィストフェレスへと向ける。
「おぉ、怖いですねぇ。そこまで焦らなくとも、教えて差し上げますよぉ。まぁ、私、悪魔なんで、勝てた人用にサービスを用意するのが好きでしてねぇ?」
「そんなのはどうでもいい! 私の言ったことにだけ答えて!」
「だからぁ、今からそれを話そうと……イタタタタ! わかりましたよぉ! すぐ教えますのでぇ、頭を潰すのやめてもらえませんかねぇ? あ、どのみち潰すから関係ないですねぇ」
「……」
メイは無表情で手を閉じる様な動作を取ると、メフィストフェレスの頭が更に悲鳴をあげ始める。
それでも笑顔を崩さないのは何かあるのか、ただ死さえをも楽しむほど狂っているのか。
だが、メイには関係ないことだ。
「さてとぉ、お姫様の場所ですがねぇ、あちらに扉があるでしょう?」
メフィストフェレスの視線の先に顔を向けると、確かに扉がある。
「あそこを出て、まっすぐに行けばお姫様がいる部屋に辿り着けますよぉ?」
「ホントに……?」
疑問を含んだ目でメフィストフェレスを睨みつける。
「えぇ、本当ですよぉ? だから、私、悪魔として勝てた人用にサービスを用意していると言ったではありませんかぁ。それがお姫様の元まで一直線の道なんですよぉ! 後、人間様の方ですがぁ、ロキさんに攫われた以上、帰ってくる保証はありませんが「メイ!」おやぁ?」
「ユージ!?」
聞き覚えのある声にいち早くしたメイは視線を声が聞こえてきた方へと向ける。
そこには裕司とスイム、ルーフス達三匹の姿があった。
それにメイは笑顔を浮かべて駆けだすと、裕司に飛びついて抱き着く。
「おっと……!」
「無事でよかった……ユージ。あの子の様に戻ってこないんじゃないかと思って……」
「アハハ、心配かけてゴメンな。でも、スイム達がいてくれたおかげで何とかなった……というべきかな」
メイはそれを聞いて、隣にいるスイム達へと顔を向ける。
「スイム達がついていてくれたんだね」
「うみゅ! メイちゃんたちの代わりにスイム達が護衛したみゅ! けど、最後はリオンさんに助けてもらったみゅ……」
「スイム、言葉が……。ううん、それよりもリオンが?」
あの時、妹を助ける気はないと言っていた男が何故……。
メイは不思議に思っている間に、裕司はメイの変化に気付く。
「メイ……お前、恰好が。なんで忍者……つうか、くのいち?」
「わからないけど、急に頭に声が聞こえたと思ったら、スキルを手に入れたんだ。っていうよりも、ユージも瞳の色が変わってるけど……」
「あぁ……こればっかりは俺もよくわかってないんだが、『魔王』の才能があるとか。そういうのが関係しているんじゃないかと思う」
「ほほぉ、人間が『魔王』ですかぁ?」
『!』
聞こえてきた声に裕司たちは反応して、拘束している黒土が崩れ始め、自由になるメフィストフェレスが目に入る。
それにメイは驚いた様に目を見開く。
「嘘! 拘束を解除した覚えは」
「あぁ、コレは私のスキルでやっただけです。私のユニークスキル『暗黒』でね。闇を操るスキルなので、それを利用して無効化させてもらいましたぁ。いやぁ、攻撃はともかく、拘束とかならこれでどうにかできるものなのでねぇ」
『暗黒』……それを聞いて、メイは理解した。
メフィストフェレスの『闇魔法』は何かしらから派生して生まれたものだと考えていたが、その答えが『暗黒』と呼ばれるユニークスキル。
それによって、あの時の毒だって無効化したと言うわけだ。
メイはやはり『光』じゃないとダメかと考えながらも、身構えると、スイムもトライデントを取り出して構え、ルーフス達も戦闘態勢へと入る。
それを見たメフィストフェレスは両手を上にあげ、降参というポーズを取る。
「今回は私が負けたのですから、これ以上戦う気もありませんよぉ。それよりもお姫様の元へと向かわなくていいんですかねぇ? いくら、魔将が向かっているとはいえ、早く行かないと……獣に喰われてしまうかもしれませんよぉ?」
「それは一体どういう『GAAAAAAAA!』ッ!?」
そこまで言った瞬間、聞こえてきた雄叫びに反応し、耳を抑える裕司たち。
それを聞いたメフィストフェレスが楽しそうに笑い出す。
「アハ、アハハハハハ! 目覚めましたねぇ! 『獣』がぁ! 後はお姫様を生贄にすればぁ、アンラマンユが復活しますかねぇ?」
「! クソ、急ぐぞ!」
それを聞いた裕司はメフィストフェレスは後回しだと考え、走り出そうとすると、メイが教えてもらった扉へと近づく。
「ユージ! 皆! こっちから、ルフェのところに行けるよ!」
「ホントか! よし、わかった!」
「また会いましょう、人間様……いえ、ユージ様、メイ様」
「俺は会いたくもないな!」
そういうとユージ達は扉を抜け、まっすぐ続く一本道を走っていく。
そして、やがて見えてきた開かれている扉の元へと飛び込むとそこには呆然と立ち尽くすムルムルと傷を負ったノワールとアルフがいた。
何かを見上げるかの様にムルムルを気にしながらも、すぐさまノワールとアルフへと近づく裕司たち。
「ノワール! アルフ! スイム、二匹に治癒魔法を!」
「うん!」
「私も手伝う!」
スイムとメイは魔法陣を展開し、ノワールとアルフの治癒を開始する。
それを確認した裕司は立ち上がって、ムルムルへと視線を向ける。
「ムルムルさん、ルフェさんはどこにいるんですか」
「……」
「あの、ムルムルさん?」
何かを呆然と見つめるムルムルに不思議に思い、裕司はそちらへと視線を向けると、そこには形を変えつつある血肉。
いうならば、獣……姿がどんどん形作られていく。
やがて、血肉から毛が、牙が、鱗などが生え始め、姿を変えていく。
七つの豹の頭に、口はライオン、前足は熊、胴体と後ろ脚は竜の体と翼をもつ異形の獣。
「グル……GAAAAAAAAAAAAAAAA!」
姿を現した異形の獣は雄叫びを上げるのだった。
月夜ノ衣を読みでツクヨミに変更しました。
次回は何が起こったのかを、ムルムル達の視点で書こうと思います。
それではまた。




