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獣の数字は『666』

時間は少し遡ることとなる。

ノワールとアルフを引き連れて走るムルムルは一つの大きな扉の前へと来ていた。

ここに来るまで、裕司たちとは遭遇はしなかったが、道が複数あるところを見ると、恐らくこの先のどれかにいるのだろう。

だが、今はそれを確認する暇はない。

何故なら、この先からルフェの気配を感じるからだ。

それと同時に感じてくる危険な気配……魔剣の気配を。

ムルムルは息を少し吐いてから、ノワールとアルフへと視線を向ける。

二匹は中にある魔剣の発するオーラに当てられてか、少し震えている。

仕方ないことなのかもしれない。

中にあるのは魔剣『黙示録の獣アポカリプス』。

アンラマンユが使ったと言われるほどの魔剣であり、『禁忌タブー』と言われるほど存在自体が危ぶまれる魔剣。


「……君たちは無理ならついてこなくてもいいよ。自分たちのご主人を探しに行くといいよ。ここからは私一人でも構わない」

「! ガウッ! ガウッ!」

「キキキ!」


二匹はついていくと言う意思を表すかの様に鳴き、ムルムルはそれを聞いて微笑む。


「……そう。ユージのテイムモンスターがついてきてくれるなら心強い。じゃあ、行こうか?」


ムルムルの問いにノワールとアルフは頷いてみせる。

肯定したことを確認したムルムルは扉へと手をかけ、押し開く。

中に入ると、奥に儀式用であろう祭壇が一つある。

祭壇の上には未だに身動きが取れないルフェが寝かされており、その前の段差には魔剣『黙示録の獣アポカリプス』を携えた男、ジンが座っていた。

ムルムル達がやってきたのに反応し、ジンは狂気を含んだ笑みを浮かべると、アポカリプスを持ち上げ、肩で担いでみせる。


「ようやく来たのかよ、俺の相手。ロキとメフィストフェレスがもうやっちまって、来ねぇもんだとばかり……いや、アイツ等の言動思い返せば、興味深い奴がいるとか言ってたな……。まさか、強い奴らが全部アイツ等が持って行ったってことかよ! クソ! つまり、俺は雑魚狩りってか!」


ぶつぶつ文句をたれながらも、血肉の魔剣を構えた時だ。


「この魔力と気配……。まさかムルムルですか!? それとノワールちゃんとアルフちゃんもいるんですね!?」

「……はい。今、助けますのでお待ちください」


ムルムルは自分の手を影に入れ、『影の倉庫シャドーボックス』から一振りの漆黒の槍を取り出す。

鍔となる部分に真紅の宝玉がはめ込まれており、特殊な武器だと言うのが伺える。


「へぇ、その槍もいいなぁ。その槍、魔槍なわけ?」

「……そう。これは魔槍『影の女王スカアハ』。ちなみに私はルシファー様に仕える魔将。相手にとって、不足はないと思うけど? いや、貴方の手には有り余るほどかもね」

「アハ、アハハ! そうかぁ。アンタ、魔将の一人なのかぁ……! そりゃ、俺の手には有り余るかもしれねぇなぁ! 前までの俺だったらな」

「……ん?」


何を言っているのか、この男は、と不思議に思っているとジンはムルムル達目掛けて走り出す。

一体どういうことなのかと不思議に思いながらも、すぐさまスカアハを構える。

剣よりも槍の方が間合いは長い。

これは誰でもわかることだ。

ジンの間合いに入る前にスカアハが素早く振るわれる。

ジンは素早くアポカリプスで防ぐ。

その隙を逃さず、ノワールが素早くジンの真横へと移動し、口に赤黒い炎が溜め込まれる。


「ガァッ!」


放たれた地獄の炎は地面を焼き払いながら、ジンへと襲い掛かる。

ジンは素早くスカアハを振り払い、迫りくる炎へと向き合うと、アポカリプスを構える。

構えられたアポカリプスは迫りくる地獄の炎に反応するかの様に力強く脈を打ち始める。


「おら、前菜だぜ? かき喰らえよ、『黙示録の獣アポカリプス』!」


その瞬間、アポカリプスの刀身は中心から真っ二つになり、顎の様なものへと変貌する。

真っ二つに分かれた中心部には骨さえをも容易く噛み砕いてしまいそうなほど鋭利な牙が並んでいる。

そして、地獄の炎がアポカリプスまで到達し、燃やし尽くさんとアポカリプスが炎に包まれるかと思った瞬間だった。

炎はアポカリプスの顎へと吸い込まれていく。

それはまるで麺を啜るかの様にだ。

その光景にノワールだけでなく、ムルムルとアルフまで驚いてしまうが、アルフはすぐさまジンの真上へと飛び立つと、口から超音波を放つ。


「ッ! 無駄……だぁ!」


炎を喰いつくしたアポカリプスをアルフの方へと向けると、再び顎が開かれる。

喰らうことなど不可能なハズの音をアポカリプスは吸い込み、喰らい始める。

超音波が喰われていくのに、アルフは驚いてしまう。

その様子を見たムルムルは音さえをも喰われたのだと理解すると、黒い魔法陣を展開する。


「……少し溜め込んでた影を使うことになるけど、これならどう? 『影ノ兵士シャドウポーン』」


魔法陣から飛び出してきたのは三つの影。

それが人の形をとると、影でできた剣を手に駆け出していく。

いくら音さえをも喰らったと言っても、実体のない影を喰らえるはずがない。

だが、もしもだ……もしも、自分が考えていることが正しいのなら。

アポカリプスを持つジンに勝つのは難しいかもしれない。

ムルムルは嫌な予感を感じながらも、『奪ってきた影』で作った兵士たちへと視線を向ける。


「アハハ、影の兵士ってか? いいねぇ、面白いじゃねぇか! さすがは魔将だな! 普通じゃなさそうな魔法を使いやがる! しかも、この影……魔法で生み出したってわけじゃねぇな?」

「……まぁね。私の『影魔法』だって、便利じゃないからね」


ムルムルの影魔法は強力な分、他の魔法と違い、無から有を生み出すのは不可能。

どれもこれも、ムルムルが使った『影魔法』は必ず影を媒介として使っていた。

だからこそ、ムルムルは倒してきた敵の影を奪い、それを戦闘用に蓄えてきた。

もしくは倒さずとも、敵だと判断すれば影を奪ったりもしてきた。


「なるほどなぁ。メフィストから聞いていたが、『影魔法』ってのは、影がないと使えないってのは本当なんだな! それにさっき、溜め込んだ影を使うのはもったいない、みたいなこと言ってたよな」

「……そう。だから、貴方の影で補充させてもらうつもり……なんだけど」


言い淀んでしまうムルムル。

そう、『影ノ兵士シャドウポーン』で対応出来るのなら、それだけの相手だと言うことだ。

アレでも、自分が生み出した影の兵士なのだから、Bランクの魔物を討ち取るくらいの強さはある。

そして、この影の兵士たちには物理や魔法をすり抜けると言った、影としての特性を持ち合わせている。

ムルムル自身も『影ノ体シャドウボディ』というエクストラスキルを持っており、スイムの持つ『液体の体リキッドボディ』と同様で物理を無効化する力がある。

更に『影ノ体シャドウボディ』はスイムの『液体の体リキッドボディ』の上位互換と言ってもいいほどで、魔法もすり抜けてしまうと言う特徴を持っている。

だからこそ、ムルムルは負ける気がしない……ハズなのだが、『黙示録の獣アポカリプス』には近づいてはいけないと長年の戦いの勘が叫んでいる。

そして、そのムルムルの勘は当たっていたのだと理解する。


「まぁ、どんな力が来ようと『黙示録の獣アポカリプス』の前じゃ、無意味なんだよ! ユニークスキル『最後の晩餐』の前じゃな!」


影の兵士がジン目掛けて影の剣を振り下ろそうとした瞬間、アポカリプスが横なぎに振るわれる。

剣で影を斬ることなど不可能。そのハズなのに、斬りかかろうとした影の兵士は上半身と下半身で綺麗に真っ二つに斬られており、再び顎へと変貌した血肉剣に影の兵士は吸い込まれ、捕食される。

続いて、残りの二体がジンに斬りかかるも、アポカリプスの顎が巨大化し、影の兵士二体が口の中に入った瞬間、顎は閉じられる。

バリボリ、と実体がないはずの影を咀嚼するかの様に動かされる顎。

そして、捕食を終えた顎は元の血肉剣へと戻り、さっきよりも力強く脈を打ち始めているのがわかる。


「……嘘。影まで食べるなんて……。コレが『禁忌タブー』とされる、アンラマンユが生み出した武器の力?」

「アハハ、そうだぜ! この『黙示録の獣アポカリプス』はどんな存在、力だろうと喰らいつくしちまうんだよ! こいつの持つユニークスキル『最後の晩餐』でな!」

「……『最後の晩餐』」


聞いたことがある。アンラマンユが世界を滅ぼすために、生み出したと言われる『終わりの力』の一つ。

『最後の晩餐』―――メイの持つ『魂喰いソウルイーター』などの捕食能力の頂点であり、ありとあらゆるものを捕食し、終わらせる力。

アンラマンユの最高傑作と言われる『終わりの力』の一つが『終末捕食』である。

いくら『魔将』と呼ばれるムルムルであっても、今回ばかりはやばい。


(……『最後の晩餐』は『暴食王』である『ベルゼブブ』様の捕食スキルと良い勝負をするかもとはルシファー様から聞いたことはある。だけど、危ないのはあの魔剣だけ。魔剣にさえ気を付ければどうにかできる)


ムルムルは自身の魔槍を片手で持つと、投げの体制へと入る。

急な投擲の体制にジンはアポカリプスを構え、警戒する。

何故、ムルムルが急に投擲の構えを取ったかは、ジンの知る由ではない。

だが、魔槍を投げようとしている……それ自体に何か意味があるのだと察することはできた時にムルムルが跳躍する。


「……穿て! 『影の女王スカアハ』!」


投擲された魔槍は寸分の狂いもなく、まっすぐとジンの心臓目掛けて飛翔する。


「投げたっつうことは、それにより発動する力があるってことだよな? なら、アポカリプスで喰って」

「『分裂』」


ムルムルの呟きに反応するかの様にジン目掛けて飛翔している魔槍スカアハは空中で『二つに分裂する』。

更に二つから四つ、四つから八つと次々と増えていき、最終的には百本近くの魔槍と化す。

ジンも流石にそれは予想外だったのか、降り注ぐ無数の魔槍の中で自身に当たる物だけを素早く判別し、アポカリプスを振るい、次々と喰らっていく。

弾かれていない魔槍達は次々と地面へと刺さっていく。

ノワールはすぐさま援護しようと考えたのか、口に炎を溜め込むが、ムルムルが手を前に出して静止させる。

包帯で顔を隠しているために表情はわからないが、目は焦りどころか、余裕さを感じる。

その間にもジンは魔槍を喰らっていき、降り注ぐ魔槍の内の一本がジンの影の腕に突き刺さる。

直後、影と同じ場所に刺さったかの様な穴が開き、ジンの腕から血が噴き出す。


「なっ……!?」


それによって少し態勢を崩すも、再びアポカリプスで喰らっていく。

だが、魔槍はその間にジンの影の両足、両腕に次々刺さっていき、全てを捌き切る頃にはジンの両腕両足は槍が刺さったかの様な穴がいくつもできており、そこから血が流れ出てきている。

ジン自身は何が起こったのか、まったく理解できず、目を白黒とさせている。


「何……が……!?」

「……よいしょ」


ムルムルは『影の女王スカアハ』を一本抜くと、『影の倉庫シャドーボックス』へと収納し、残りの魔槍は影となって消えていく。

いくら魔剣を振るおうとジンは人間だ。

これほど腕や足などに穴が開けば、力が入らないどころか、立つこともままならないだろう。


「……いてぇ……なぁ……!」


読み通り、ジンは立っていることがままならず、両膝をついてしまう。

ムルムルは影のナイフを生成し、ジンに近づくと、喉元へと突き付ける。


「……チェックメイト。貴方の敗北は決定だよ。いくら強力な魔剣を持とうと、その力に見合う実力を持ってなければ意味がないよ」

「チェック……メイトだぁ……!? ふざけんなよ! 俺はこの魔剣を唯一扱える」

「……それがどうしたの? 扱えたとしても、その実力じゃ私には勝てない。諜報員とはいえ、これでも魔将だよ? 最初は魔剣の力には驚いたけど、結局は実力が見合わなければ振るっても意味がない」

「俺の実力が足りてないと言うのか……!?」

「……うん」


歯を食いしばりながらも、ジンは血走った目でジンを睨みつけ、ムルムルは頷く。


「……元は邪悪王アンラマンユが振るったとされる武器の一振り。魔王が振るった武器なんだから、人間がこの魔剣の性能を十分に引き出せるとは思えない。勇者ならともかく」

「ふざ……けるな……!? 悪魔神教の幹部に、俺なら振るえると言って、渡されたんだぞ!? 俺なら……!」

「……悪いけど、多分騙されたんじゃないかな? だって、『黙示録の獣アポカリプス』の力がアレだけだとはとても思えな……ッ!?」


そこまで言った瞬間、ムルムルは背後から感じた殺気に反応し、その場から素早く飛躍する。


「流石に気付かれちゃったか~。流石は魔将ムルムルというところかな~?」

「……貴方は?」


ムルムルは着地した後、自分が立っていた場所へと視線を向ける。

そこにいたのはどこか、のほほんとしているマイペースさを感じる灰色の髪を持つ女性。

眠たそうな目つきな女性は、妖しく見える紫色の瞳でムルムルを見る。


「ボクの名前~? ボクの名前はニャルラトホテプだよ~。長いからニャルとでも呼んでよ~。後は悪魔神教の一人かな~?」

「……そんなの聞かなくてもわかる。ここの突入したメンバーは知ってるから」

「まぁ~、そうだよね~」


のんびりした喋り方にムルムルは調子が狂いそうだと思いながらも、影のナイフを構える。

新手が来たと言っても、ジンはもう戦えない。

こっちはノワールとアルフがいるので、負ける確率は限りなく低いはずだ、とそこまで考えて違和感を感じる。

ノワールとアルフの姿がさっきから見えないことだ。

不思議に思い、ムルムルは視線だけ動かして、周りを確認し始める。


「あ~、もしかして~、この子たち探してますか~?」

「え?」


ニャルラトホテプが指を鳴らした瞬間、ドサッ! と何かが倒れる音が二つ聞こえてきて、反応して振り返ると、そこには傷だらけのノワールとアルフが倒れていた。

ムルムルはその光景に目を見開く。

一体何が起こったのか? 二匹はいつの間にボロボロなったのか? 先ほどまでいなかったのに、一体どこから現れたのか?

不思議に思いながらも、今は戦闘中だと振り切ると、影のナイフを構えてすぐさま身構える。

ジンは助かったと言わんばかりに笑みを浮かべる。


「助かったぜ、ニャルラトホテプ。危うく殺されるところだったぜ」

「もう~、しっかりしてよ~、ジン君。君がいないと~『黙示録の獣アポカリプス』を使えないんだから~」

「あぁ、すまねぇな。ちょっと油断してよ」


ジンは立ち上がろうとするが、やはり足に力が入らないのか、立てないでいる。


「ニャルラトホテプ、ちょっと手を貸してくれるか? 立てなくてよ」

「あぁ~、大丈夫だよ~。立たなくてもね~」

「オイオイ、そんなこと言うなよ。あの魔将は俺をコケに」

「だって~、次の役目を果たしてもらうんだからさ~、君には~」

「は? 次の役目? 俺は何も」


そこまで言った瞬間、ムルムルは息をのむ光景を目の当たりにする。

何故なら、魔剣『黙示録の獣アポカリプス』が持ち主であるはずのジンに顎となった刀身が向いていたのだ。

ジンも言葉を途中で止めてしまうほど目の前の光景が理解できず、目を白黒させている。


「お、オイ? 『黙示録の獣アポカリプス』? なんで、俺に牙を向けて」

「それが~、君の次の~。ううん、最後の役目だからだよ~?」

「は、はぁ!? 何言ってんだよ!? 最後の役目!?」

「うん~、そうだよ~。君は~『黙示録の獣アポカリプス』の血肉となるんだよ~? なんでかって言われる前に言うとね~、君が~『黙示録の獣アポカリプス』の『666人目』の使い手にして『666人目』の生贄だからなんだ~」

「ど、どういうことだよ……!?」


ジンは恐怖で体を震わせながら、ニャルラトホテプを見る。

やれやれと言う感じでため息を吐くと、満面の笑みを浮かべる。


「察しが悪いね~、ジン君はさ~。獣の数字は『666』くらいは聞いたことあるでしょ~?」

「こ、古代の石碑に記されていたと言われる謎の数字、だったよな……?」

「それはね~、この『黙示録の獣アポカリプス』のことを言っていてね~? 『彼の獣、『666』の数字を持って、魔剣より真の姿を現し、終焉を与える者として世界を滅ぼさん』ってね~。つまりさ~、『666』人の使い手が『666』人の生贄を喰わせることで~、復活するっていうことなんだよね~。いや~、ここまでの~道のりは~長かったよね~」

「そ、それなら俺じゃなくても、あそこのルシファーの妹を与えれば!」


そこまで言った瞬間、ジンは「ひっ!」と短い悲鳴をあげる。

ニャルラトホテプは変わらず満面の笑みを浮かべているのだが、ジンはなぜか名状しがたい何かを感じ取り、恐怖を覚えたのだ。

ムルムルも何か感じ取っているのか、息が少し荒くなっている。


「ダメですよ~。あの姫様は~アンラマンユ様の復活に~使うんですからね~」

「な、なら! 俺以外の奴を!」

「ダメですよ~。だって~『666』人目はこの魔剣の持ち主じゃないいけないとされているんだからさ~。もちろん、それまでの持ち主『665』人も同じだったよ~。だから、今までの~奴らと~同じ様な~君に持たせたのにさ~。君みたいに~、何でもかんでも斬っちゃうような奴にさ~」

「……そういうこと。なんで彼があの魔剣を持つことを認められたのか、不思議でならなかった。理由はそういうことだったんだ」

「ハイ~。魔将さんの考えている通り~、それまでの『665』人の血肉を喰らってもらうためなんだ~。この子は~何でもかんでもすぐ殺すって考える奴だったからさ~」

「嫌……だ……! 嫌だ……!」

「ッ! ムルムル!」

「……ルフェ姫は優しすぎる。今まで665人もの命を奪ったんだ。当然の報い……とは言いたいけど、獣というのが復活するのは困る。すぐに」

「させないよ~?」

「ッ!? 鏡……!?」


動き出そうとしたムルムルの目の前に姿見の鏡が出現する。

壁のつもりなのか? と考えながらも、影のナイフを突き刺して割ろうとした直後、背筋に悪寒が走る。

あの鏡を攻撃してはいけない……。

何故か、そう感じたムルムルは攻撃を中断し、素早く後ろへ飛ぶことで距離を取る。

ニャルラトホテプは惜しい! という感じで指を鳴らす。


「惜しいな~。攻撃していたら~魔将を倒せたかもしれないのにな~」

「……鏡のスキル。それが貴方の力?」

「まぁ~、そんなものだとでも思っていただければいいかな。それじゃ、食べちゃえ~! 『黙示録の剣アポカリプス』~!」

「い、いやだぁ! たす」


助けてと言い切る前に開かれていた顎は閉じられ、ジンを捕食する。

見えないながらも、何が起こったのか理解したのだろう。

ルフェは助けられなかったと悲しそうな表情を浮かべる。

確かに665人もの命を奪ったことは許されないことだろう。

だが、それでも……あの悲痛な叫びを無視することはできなかった。

そして、『666』人目の使い手にして、『666』回目の『666』人目の命を、血肉を喰らった『黙示録の獣アポカリプス』はドクン! と心臓が鼓動を打つかの様に動き出す。

その鼓動は少しずつ大きくなっていき、血肉の大剣は少しずつ異形の獣へと姿を変え始め、そこから出てきた七つの頭が口を開く。


「GAAAAAAAAAAAAA!」


放たれた咆哮。それにムルムルは耳を塞ぎ、異形の獣はどんどん姿を形作っていく。

ムルムルはその光景をただ眺めることしかできなかった。

そして、そこに裕司たちが駆け付け、現在に至るのだった。

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