救出 Ⅲ
影に案内されるまま飛び出したのはフェルシオンの外。
影が指し示す方向を見るも、そこに広がるのは草原のみ。
これを考えると、ルフェさんが捕まっている場所は少しばかり遠いかもしれない。
いや、少しならいいが……遠かったらどうしよう。
こうなったら、ノワールの足に頼るしかないよな……。
視線をノワールへと向けると、わかっていたかの様にノワールは既に俺の隣へと来ていた。
とうとうノワールにまで考えが読まれる様になってきたのかもしれない。
魔物にも簡単に読まれてしまう俺の思考とは一体。
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃないな。
「スイム、アルフ」
「うみゅ!」
「キキッ!」
スイムとアルフを呼ぶと、スイムは変身を使い、スライムへと姿を変えて、俺の元に飛び込んできて、アルフは肩へと止まる。
そこでいいのだろうか、アルフは。
ノワールが走り出して、吹き飛ばさなければいいが。
後、爪が食い込んでいて、微妙に痛かったりする。
メイはというと、既に足をワーウルフの足へと変えており、走り出す準備はできていると言う感じだ。
「メイ、今から敵の拠点に乗り込むんだ。それなら、ノワールに乗って、できるだけ疲労がない様に」
「大丈夫だよ」
メイは軽く準備運動をしながら笑顔で答えてみせる。
心配はいらないと言うのが伝わってくるほどに。
「ちょっとやそっとじゃ、私は疲れないよ。だって、私はキメラの魔人だから」
「そう……か」
少し心配だが、本人が大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろう。
メイは俺の仲間の中で一番の戦闘力を持つ存在だ。
だからこそ、もしもの時に力を温存してもらいたいのだが。
いざとなったら、俺も少しは手助けをした方がいいかもしれないな。
まぁ、生活魔法しか使えないから、それをどこまで応用できるかだがな。
今のとこ、『閃光』しか作れてないわけし。
今考えても仕方ないと判断し、とりあえず頭の隅っこにおいておく。
「それじゃ、頼むぜ? ノワール」
「ウオオオオオオオンッ!」
了解の意なのだろうか、遠吠えをするノワール。
間近で聞いた俺たちはすぐさま耳を塞いだが、それでも耳鳴りの様な感覚がまだ残っている。
いきなり遠吠えっていうのはやめてほしいが、やる気十分とわかるから、まぁ、いいか。
そしてノワールが走り出した瞬間に、体に襲い掛かってくる風圧によって吹き飛ばされそうになる。
それをノワールに強くしがみつくことによって耐える。
ちなみに、アルフは案の定吹き飛ばされそうになっていたので、俺が素早く掴んで引き寄せておいた。
後、前より少しスピードが上がっている様な気がする。
体感だから何とも言えないが、流れていく景色を目にしていたら、そう感じたのだ。
もしかしたら、『魔物へのお菓子』を行く前に食べたから、それの影響が出始めているのだろうか?
思えば、ノワールの体躯が少し大きくなっている様にも感じる。
まぁ、少しでも強くなってくれているのなら、それに越したことはない。
しばらく影が矢印を指して案内してくれていたのだが、少し走ってから、影が手の形をして、止まれと言う合図を送ってくる。
「ノワール、メイ! 止まってくれ!」
「わかった!」
「ガウッ!」
俺の声に反応して、メイとノワールは急ブレーキをかけて止まるのだが、その時に俺はノワールから投げ出されてしまい、背中を地面に思いっきり打ち付けてしまう。
「ぐえっ!?」
意外と勢いよく吹き飛んでぶつかると、土の地面でも固く感じるんだな。
そう実感しながら、俺が抱えていたスイムとアルフが心配そうにこちらを見てくる。
俺は大丈夫だ、という感じで微笑むと、二匹は頷いてみせ、アルフは飛び始め、スイムは再び魔人の姿へと戻る。
スイムとアルフが退いたのを確認してから立ち上がると、ノワールが申し訳なさそうに近づいてくる。
「クゥーン……」
「大丈夫だよ。止まれって指示したのも俺だしな。投げ出されたのも仕方なかったことだから、気にするなよ」
「ガウッ!」
「……仲がいいのは良いこと」
「ムルムルさん」
ノワールが元気よく返事をしたと同時にムルムルさんが俺の影から姿を現してくる。
まさか、俺の影にずっと潜んでいたのではないのだろうか?
「……失礼な。不可能ではないけど、偵察はちゃんとしてきた。後、君の影から現れたのは『影転移』っていう影魔法を使っただけ。簡単に言うと影版テレポート。と言っても、私が知っている影にしか移動できないけど」
それって、かなりの数になるんじゃないでしょうか?
誰かの影なんて、常日頃から見れるのだから、きっとムルムルさんのテレポート先は星の数ほどあるに違いない。
「……そこまでない。知っていると言っても、私が触れたことがある影限定になる。君には道案内をつけるために影に触れたから」
「なるほど」
もう考えているだけで会話が成立してて、逆に凄いかもと思えてきたぞ、俺のわかりやすい表情。
それよりも、ムルムルさんが偵察をしてきたと言っていたし、『影転移』を使って、俺の元に来たと言うことは。
「……うん、察しがいいね。ルフェ姫を監禁している拠点の偵察は完了してる。ここから少し歩いたところに入口がある。敵がどれほどいるのかも大体は偵察できてる。その中にメフィストフェレス、ロキ……そして魔剣『黙示録の獣』を所持するジンの姿も」
「あの三人が……!」
厄介なのが固まっているな……。
ムルムルさんがロキとジンの名前を知っているのは驚きだが、メフィストフェレスの情報もいつの間にか手に入れてたほどだから、知っていてもおかしくはないだろう。
だが、少し気になることがある。
「俺たちを待たなくても、ムルムルさん一人で、ルフェさんを助けられたんじゃ? そこまで隠密が得意なら」
「……私も最初はいけるかもとは思ってた。だけど、あの悪魔と魔人……メフィストフェレスとロキは危険だと感じ取った。影に潜んでいるはずの私を。それも潜んでいる影の方に笑顔を浮かべながら、見てきたんだから」
ムルムルさんの顔は包帯で巻かれていて、表情を伺うことはできない。
だが、声色からわかる。
魔将としての、諜報員としてのプライドが傷つけられたと悔しそうにしている。
魔将というのがどれくらいなのかは俺はよくわからない。
だが、あの魔将のリーダーだと言うベリアルさんの強さは凄いものだった。
『属性耐性』を持つはずのメイが炎に焼かれたのだから。
ヘルプさん曰く、特殊な炎だったみたいだけど。
だからこそ、それほど強く、特殊な力を身に着けている人たちなのだろうと思っていた。
そんな魔将の一人であるムルムルさんが撤退してくるほどなんて。
「……強いっていうものじゃない。実力なら負ける気はしない。だけど、なんだろう……。『異質さ』を感じた。危険だ、アレには関わるな、と長年やってた諜報員としての勘が告げた。名前を調べるだけならまだ感じなかった。だけど、正体を探ろうとしない方がいい。そう思えるの。同じ魔族なのに」
「ムルムルさん……」
ムルムルさんが言うほどの『異質さ』を持つあの二人……。
メフィストフェレスは俺たちに興味を持っており、ロキはそれからの影響か、俺をお兄ちゃんなどと呼び、興味を示している。
ロキはともかく、確かにメフィストフェレスからは狂気を感じ、恐怖を覚えたことがある。
だからと言って、ここで止まっているつもりはない。
「ムルムルさん、ここでそんな話をしていても仕方ありません。ルフェさんを助けに行きましょう」
「……そうだね」
ムルムルさんはそういって、軽くため息を吐くと、前を歩き出す。
俺たちはそれに続く様に歩き出す。
「ユージ」
「ん? どうした?」
目的地へと目指している時、メイが声をかけてきた。
視線をそちらへと向けると、いつも以上に真剣な表情をしているメイがいた。
「あの時の悪魔が……いるんだよね」
「……あぁ」
「今度は負けないから。だから、応援してね、ユージ」
「あぁ、頼むぜ」
メイはあの時のリベンジを果たそうとしているのか。
実力ではまだ届かないかもしれないが、それでもあの道化師にいっぱいくわせることができれば上々かもしれない。
他の皆からもやる気を感じるしな。
そう思い、後ろを振り向き、見渡す。
ノワールも、アルフだって、気合十分の様に感じるし、スイムなんてスライムの大群を引き連れて、戦力十分と言わんばかりの……アレ?
「な、なんじゃこりゃああああ!?」
「うみゅ?」
俺の叫びにスイムはどうしたの? という感じで首を傾げる。
いやいや、可愛らしく首を傾げられてもね、コレは誰でも驚くよ!?
だって、スライムの大群を引き連れてるんだもん、スイムが!
【個体名:スイムはスライムたちの帝王である『水帝』であるために、スライムを従えることができます】
何それ!? 帝王の特権的な何かなの!?
ウチの兵力はスライムです! とでもいえばいいのか!?
「……これは凄いね。いつの間にこんなにスライムが集合したの?」
「し、知りません。気づいたら、スイムが引き連れていて……」
「……ということはスイムの種族としての力? スイムはスライムでの初の魔人。ということはスライムの頂点。従うのも当たり前ということかな」
スイム、恐ろしい子!
しかも、気のせいだろうか。
スイムの後をついてくるスライムたちの中に何匹か、赤、緑、黄色のスライムが混じっている気がするんだが。
普通のスライムたちは一回り大きくなっている様な……?
【確認しました。『水帝』のエクストラスキル『水帝の恩恵』により、本来は存在しないはずのスライムの上位種をスライムから生み出すことが可能となった模様。結果、『ファイアスライム』『ウイングスライム』『ランドスライム』の誕生に成功した模様。ちなみに普通のスライムたちは『水兵』になっています】
「なん……だと……!?」
思えば、スイムの『水帝』としてのスキルをよく見た覚えはなかった。
もしかして、スイムって凄い奴?
「スイム、凄い! 色とりどりで、とても綺麗だよ!」
「うっみゅ!」
えっへん! とでもいったのだろう。
凄いだろ! と言わんばかりに胸を張って、しかもドヤ顔。
可愛らしいから、イラっと来ることはない。
リオンさんがやったら、イラっと来るけど。
でも、確かに凄い力だ。
「……戦力が増えるのは喜ばしいこと。スライムとはいえ、スイムが従えているのなら、それなりの知性があると見てもいい。なら、少しは期待できる」
「一応スライムの上位種が作られ始めてるんですけど、いいんですか?」
「……いずれ、スイムの様な魔人が生まれれば、生まれることだったってことだよね? それなら問題ない。それに新しい魔物が増えたところで、どうにかなるほど、やわじゃない。この世界も、この国も」
「なるほど……」
確かに進化があると言うことは、それとは別に新しい魔物だって、どこかで生まれているかもしれないと言うことだもんな。
魔物が当たり前にいる世界だからこそ、言えるんだろうな。
だが、これほど戦力が増えたのなら、確かに乗り込むのも難しくはないはずだ。
すると、ムルムルさんの足が止まり、身を低くし始め、俺たちにも手で屈むよう合図を送ってくる。
それに従って、俺が身を低くし始めると、メイたちも俺に倣ってか、屈み始める。
「……見て」
ムルムルさんが指さした方へと視線を送ると、そこにあったのは一つの洞窟。
その入り口を見張っている者が二人。
「あそこがそうなの?」
「……うん。一見、普通の洞窟にしか見えないけど、奥はダンジョンの様になってる。恐らく、人工的に作られた」
メイの問いにムルムルさんは頷く。
人工的に作られたのなら、奴らがアジトの一つとして、作ったのだと納得がいく。
なら、あそこにルフェさんやメフィストフェレスたちが。
「……行くんだね?」
「ハイ、もちろんですよ。ルフェさんを助けないと」
「例え、君たちが勝てるかわからないメフィストフェレスやロキがいても?」
「それでも、私達は助けに行くよ。ルフェを!」
「うみゅ~!」
「ガウッ!」
「キキッ!」
メイの言葉に続くかの様にスイムにノワール、アルフが声をあげる。
後ろにいたスライムたちも小さく跳ね始める。
それを見たムルムルさんは笑みを浮かべると、俺を見てくる。
「頼もしいね。君の仲間は。君も」
「俺はただのテイマーですから。俺にできることなんて少ないかもしれないですけど、期待に応えられるように頑張ります」
「……わかった」
ムルムルさんがそういった瞬間、溶け込むかの様に地面へと消えていき、次の瞬間、洞窟の方から何かが倒れる音が聞こえてくる。
そちらへと視線を向けると、首から血を流し、絶命している先ほどの見張り二人。
そこで血が滴るナイフを持って、立っているムルムルさんの姿が目に入る。
いつの間にか移動し、素早く見張り二人を排除した様だ。
……え? 凄い一瞬だったんだけど。
さすが諜報員というべきか、魔将というべきか。
俺がそう思っていると、ムルムルさんが来て、という様に手招きをした後、洞窟へと先に入っていく。
「よし。それじゃ、俺たちも行くか!」
俺はメイたちの方へと振り返り、そういうと笑顔で頷いてくれる。
俺たちは走り出し、急いでムルムルさんの後を追う。
今からルフェさんを取り戻すための戦いが始まるのだと感じながら。




