救出 Ⅱ
俺たちは城から飛び出すと、ムルムルさんが影から形を成して、姿を現す。
「……来たね。それじゃ、行こう……って、言いたいけど、『合成獣』の魔人はともかく、そこのスライムの魔人の武器は?」
「ないです。魔法が得意だし、杖か何か持たせればいいですか?」
「……杖? 人間の魔法使いじゃないんだから、いらないよ」
「え? そうなんですか?」
「……そう。魔法を使うために、杖や魔導書を必要とするのは人間くらい。と言っても、獣人族は魔法使いにはなれないし、生活魔法と強化魔法しか扱えない。ドワーフも同様で、後は刻印魔法が扱えるくらい」
そうだったのか。
まぁ、確かに獣人族は大体そんなイメージはあったが、ドワーフもとはな。
「エルフは魔法や弓に特化しているけど、近接戦闘するには華奢。だから、戦士や騎士などの前衛職にはなれない。魔族はそもそも職種などない。元が魔物の魔人だったり、悪魔だったり、精霊だったりするから」
なるほど、確かに今までの魔族を見る限り、そういうのがないのは納得だ。
というよりも、メイとスイムを見ればわかったことだろうに、俺よ。
「そして、この制限とかに入らないのは人間。人間はどんな職種にもなれる。ただ、他の種族よりも優れた部分があるわけじゃない。悪く言うなら器用貧乏かな。まぁ、そんな人間だからこそ、人間にしかなれない『勇者』や『魔物使い』なんてあるのかもしれないけど。後はクラウンみたいな『聖騎士』とか、色々」
意外と人間しかなれないの多いな。
思えば、メフィストフェレスがそれは『人間の可能性』だとか言っていたな……じゃなくて。
「いや、それは驚きですけど、早くルフェさんを助けに」
「わかってる。だけど、この世界の必要な知識だから。後、そろそろ話すのキツイ。ここまで喋らないから」
しんどいなら、もういいんじゃないかな!?
とりあえず、早くルフェさんのところに。
「……案内はする。だけど、一つだけ確認を取らせてほしい。何故、ルフェ姫を助けようと思うの?」
「え……?」
「……正直、依頼失敗で終わらせてもいいと思う。君はリオン様に召喚されたとはいえ、それはあの人の気まぐれだよ? 君がそこまでする理由がわからない。だからこそ、聞きたい。君はなぜ、ルフェ姫を助けようとするの?」
それを聞かれて、確かにそうなのかもしれないと思う。
リオンさんが面白いものを見つけたからと言って、俺を召喚した。
あの時は待っていました、という様にも見えたけど、あの人の性格を考えれば、気まぐれだったと言うのも納得がいく。
確かにこの世界に来て、三日目だ。
ムルムルさんからすれば、そんな人間が何故ルフェさんの救出に乗り出そうとしているのかは不思議なんだろう。
リオンさんは恐らく、未来視で何かを見たから、俺に疑問なんて持たないんだろう。
いや、あの人からすれば……自分以外の奴らがどんな行動をしようと疑問なんて持つことはないんだろう。
『傲慢王』という名を冠するのだから。
「ちなみに答えなければ?」
「案内はしない。私の部隊を連れて、救出に向かう。納得の行かない答えもダメだから」
ムルムルさんの言葉は本気だとわかる。
目が物語っているから。
ここでこういう話をするのは、まだ猶予はあるからと踏んでいるからだろうか。
「……早く答えて」
答えて……か。
俺がルフェさんを助けたいと思う理由。
それは……なんだろうか?
正義感? 違う気がする。
依頼だから? これも違う。
友達だから? それはそうなんだろうけど……もう一つ理由がありそうな気がする。
多分あるとするなら……。
「自分でもよくわかりません、じゃ、ダメですかね?」
ありきたりなセリフかもしれないけど、本当によくわかってない。
何故、自分が行かなきゃと思っているのかも。
「……それだけ? 友達だからとかは?」
「あるかもしれません。だけど、他にもありそうで。だから、わからないとしか言いようがないんです」
「……ルフェ姫の『信頼』に答えたいんだと思うよ、その気持ちは」
信頼って……依頼は友達だからという理由だったはずじゃ。
「友達だからこそ、信頼している。だから、護衛をお願いしたんだよ。それを君は無意識で自覚していた。だからこそ、それに突き動かされてる。元から正義感強そうだし」
何気に考え読まれてるよな、コレ。
でも、そうか。
ムルムルさんが言うのなら、そうなのかもしれないな。
「……まぁ、でも、そういうのに突き動かされるのを見てると、君は人間なんだとわかる。良い意味で」
ムルムルさんは自分の影へと手を伸ばすと、その影の中に手を沈めていく。
それに驚いて、思わず目を見開いて見ていると、ムルムルさんは影の中からとある物を取り出した。
「『影の倉庫』。『次元倉庫』ほどじゃないけど、自分の影に収納できるスキル」
【……です】
ヘルプさんが悔しそうな声あげてる辺り、説明しようとはしてたんだ。
というよりも、ムルムルさんって、意外と慣れた人なら、普通に話せるタイプ?
「……君の答えは面白い。わからないって言って、行動に移す人なんてそういない。だから、合格。これをスライムの魔人に持たせるといいよ」
そういって、渡されたのは槍。
穂先は三又で分かれている槍で、この形状は確か三叉槍と呼ばれる槍だったはずだ。
しかも、なんか青い水晶が柄の先端、石突にはめ込まれており、柄の装飾もサンゴと貝殻で綺麗に飾られている。
コレ、絶対特殊な奴だ。
「あの、コレは」
「……昔戦った水棲系の魔人が使ってた武器。戦利品として手に入れたけど、私とは合わないから。水魔法を得意とするあの子なら、合うんじゃないかと思って」
「水棲系の魔人って……」
「フォルネウスと同じタイプの魔人だと言うこと」
昔戦ったと言うけど、どれだけの強さを持った魔人だったのだろうか?
戦利品として、ということは倒したんだろうけど。
後、何故スイムが水魔法を得意としているのを知っているのだろうか。
「……諜報員をナメない方がいい。それくらいなら、情報を集めてこれる」
「な、なるほど。とりあえず、スイム」
「うみゅ?」
気にしたら負けな気がしたので、スイムを呼ぶことにした。
呼ばれたスイムは俺の方へと近づいてくると、ムルムルさんから貰った三叉槍を差し出す。
「コレ、ムルムルさんからお前にだってよ」
「うみゅ!? うみゅっ! うみゅ~!」
一瞬驚いた様な反応をした後、満面の笑みで受け取り、嬉しいのか、飛び跳ね回っている。
うむ、嬉しそうで何よりだ。
後、スイムがあの三叉槍を手に取った瞬間、青い水晶が一瞬淡く光った様に見えた気がするけど。
【解析完了しました。あの三叉槍は魔槍『海魔ノ牙』と判明しました。ランクは『伝説級』となります】
う~ん、武器にもランクはあるんじゃないかとか考えてたが、あったんだな。
じゃあ、あの時のアポカリプスは……。
【『禁忌』です。存在するのが危ぶまれると言う意味です】
アンラマンユが使っていたとされる武器だし、それなら『禁忌』とされるのなら納得か。
一人納得していると、俺の方へとムルムルさんが近づいてくると、急にしゃがみ込む。
「あの、ムルムルさん? 急にしゃがみ込んで、どうしたんですか?」
「……」
「あの……」
少し長話が過ぎたし、そろそろルフェさんを助けに行きたいのだが。
「……『影ノ誘い』」
ムルムルさんが俺の影に触れた瞬間、影が意思を持ったかの様に動き出し始める。
それに驚いていると、ムルムルさんの体が徐々に透け始める。
「えっ!? ちょっ、俺の影がおかしいんですが!?」
「……私の魔法を使った。『影魔』の魔人だからこそ、使える能力。貴方でいう、ユニークスキル『影魔法』。その影が場所を案内してくれる。私は先に行って、待っている。軽く偵察をしておきたいから。『影移動』」
そのままムルムルさんは地面に溶ける様にして消えてしまう。
今までのアレも、影魔法というもので移動していたのか。
まぁ、元は影の魔物らしいし、それくらいできて当たり前なのかもしれない。
「ユージ」
「メイ?」
急にメイに話しかけられ、反応して、そちらへと向く。
思えば、先ほどのムルムルさんの問いに一番食いつきそうな感じだったのに、静かだったな。
俺が問われているとわかっていたから、何も答えなかったのだろうか?
「あの時の問いの答え、友達としてじゃダメだったの?」
やっぱり、何か思っていたのか。
空気をある程度読むくらいには成長したんだな。
そして、終わったからこそ、あの時の曖昧な俺の答えに疑問を覚えたのかもしれない。
後、俺の影がフードを引っ張ってくる……鬱陶しい。
今はメイの疑問に答える時だ。
「別にダメじゃなかったけどさ。それだけじゃ、ムルムルさんが納得するとは思えなかったからな。だから、わからないって答えちまったんだよ。あの時言った様に、俺自身もわかっちゃいなかったしな」
「どうして? 友達を助けたいからっていう理由だけでも、立派だと思うよ? それで納得しないなんて、おかしいよ」
「誰もムルムルさんが納得しないとは言ってない。だけど、俺って思ってることが顔に出やすいからな。それを言ったとしても、他にあるんじゃないか、とか言われそうだったからさ」
実際に、人の表情を読むのが苦手なムルムルさんがわかるほどだ。
俺自身が思っていることが顔に出やすいのはもうよくわかっている。
「……ユージはルフェを友達だからこそ、助けたいんだよね?」
メイの目にハートの紋章が浮かび上がり始める。
俺の本心を覗こうとしている。
そんなことしなくても、俺が思っていることは簡単に表情に出るのに。
初めて会った時の様に、その目で俺の心を覗こうとしている。
【恐らく、不安から来ることかと。それと、もしかしたらですが】
「わかってるから、静かに」
きっと、メイの納得いく答えじゃなかったら、俺はメイとの契約を切られ、喰い殺されるだろう。
契約すると言うことは、逆に破棄も可能なハズだからな。
それが俺からだけしかできないのか、向こうからもできるのかは謎だがな。
きっと、もうすでに俺の考えを覗いているのかもしれない。
俺が思っていることを見ているからか、わかっているね? と言わんばかりに、口を開き始め、構えを取り始める。
いつでも噛みつけるようにと。
スイムやノワール、アルフが不安そうに俺とメイを交互に見ている。
「こう、魔族ってメンドくさいのばっかりなのかね? いや、俺たち人間もそう変わらねぇか」
「そんなのどうでもいいよ。早く答えて」
「ムルムルさんに答えたのが答え、では?」
「喉を噛み千切る」
仲良くなったなぁ、なんて思ってたが、期待を裏切ればそうなるか。
メイがついてきた理由だって、俺が良い奴だから、だったかな。
「そうだよ。だから、私はユージについてきたんだよ?」
そういえば、メイは『魔物へのお菓子』につられたことはあったが、アレを与えても、一度敵意を出して、懐き度を消したほどだ。
なら、本当についてきた理由は俺の心を覗いて知ったからだ。
後、俺の影、頭を叩き始めるし……鬱陶しい。
急いでいるのはわかってるから! 俺もルフェさん早く助けに行きたいから!
俺だって、なんだかんだ言ってルフェさんを友達と思ってたから、助けに行くに決まってるじゃん!
後はムルムルさんが言ってた、信頼にこたえたいから!
だから、メイへの回答を……アレ?
気付けば、メイは口を閉じており、飛びつく構えも解いていた。
逆に笑顔を浮かべ、俺へと近づいてくる。
よく見てみると、その目のハートの紋章は消えていた。
「ユージの本心は聞けたよ。ムルムルもそれを言っても、納得したと思うのに。ユージは深く考えすぎ」
「え? 俺の本心?」
いつ、俺は口にして……あ。
あの時かァァァァ!
俺の影に対して、思ってたことが、そのままメイに読まれていたんだ。
だからこそ、メイはそれを読んで、笑顔になったんだ!
「やっぱり、ユージは良い人。白い心の持ち主だよ。だから、一緒に助けに行こう?」
「そうだな。早くルフェさんを助けに行かないとな……よし」
メイからの信頼を再び得たことだ。
俺は一度自身が使役する四体の魔物たちを見る。
この面子なら、問題はないだろうが、一応。
俺は『次元倉庫』から、きび団子を四つ取り出すと、メイたちに渡す。
「行く途中で食べといてくれ。向こうで何が待っているかわからないからな」
「わかった。だけど、そろそろ別のも食べたいな。コレ、おいしいけどさ」
「材料が手に入ったらな。それじゃ、案内頼む」
影は頷くかの様に縦に大きく頷くと、こっちだと言わんばかりに移動を開始した。
俺たちはその影を追いかけ、走り始めるのだった。




