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救出 Ⅰ

俺たちが急いで、城の前まで来ると。


「お待ちしておりました」

「来るのわかってた」

「カミオさん、フォルネウスさん……」


城の前には見張りの兵ではなく、魔将であり、メイド長と執事長であるカミオさんとフォルネウスさんがいた。

今の発言から恐らく、俺たちがここを訪れることをしていた。

そう、この二人ではなく、魔王ルシファーであるリオンさんが。


「ユージ様、皆さま。リオン様が玉座の間でお待ちです」

「勿論、私達魔将も全員いる。私とフォルネウスは出迎えで来た」

「う、うみゅ~」


スイムはいつの間にかカミオさんに捕まっており、頬擦りされたり、撫でられたりしていた。

相変わらず、スイムがお気に入りの様だ。

いや、それよりもだ。


「リオンさんのところに案内してもらってもいいですか? 報告が」

「そうですね。それでは参りましょう」

「ついてきて」

「うみゅ~!?」

「スイムが助けを求めてるけど」

「どうしようもできねぇ」


メイがスイムの必死そうな姿を見て、俺の方を見てくる。

本当にどうしようもできないんだから仕方ない。

スイムはカミオさんに抱き着かれたまま連れていかれ、俺たちはその後に続く。

いつもリオンさんと顔を合わせてた、執務室の様な場所は通り過ぎ、城の奥の方へと来ると、そこには一つの大きな扉があった。

如何にも、ここは凄い場所ですよ、と言わんばかりの。

その扉をフォルネウスさんがノックする。


「リオン様、お連れしました」

『入っていいよ』


それを聞いて、フォルネウスさんとカミオさんが「失礼します」と言ってから、扉を開ける。

扉の先には大広間っていうべきなのだろうか?

そんな広い部屋の奥にはゲームとかである様な玉座。

そこに座り込むリオンさんがいる。

そして、部屋の中にはデカラビアさん、ムルムルさん、アムドゥシアスさんと見たことない人が後は六人もいた。

ということは残りの六人が会ったことがない魔将の人達。

リオンさんは俺たちへと視線を向けると、笑みを浮かべる。


「待っていたよ、ユージ」


本当に来ることがわかっていたんだ。

待っていた、と確かにあの人は言った。

きっと、あの人はルフェさんが攫われることだって知っていた。

その先に何が起こるのかも知っている。

この人は『未来視』で全て……!


「さてと、君がここに来た理由もわかってるんだけど、その前に会ったことがない魔将たちがいるだろうから、自己紹介でも「そんなのは後ででいい」ん?」


この人は本当は知っていたんだ、全てを!

妹が攫われたとわかっていても、余裕を崩さない。笑顔を崩さない。

『未来視』で何が見えているかは知らないけど、妹が攫われることまでわかっていたはずだ。


「なぁ、リオンさん。貴方は俺たちが護衛を初めてから、その先で何が起こるか見えていたんじゃないのか?」

「そうだね」

「妹である、ルフェさんが攫われるのも見えてたんだよな? ロキとジンという二人組によって」

「それも見えてたねぇ」

「わかっていて、俺たちに頼んだのか?」

「そうだけど?」


この魔王……!


「この魔王、と思っているだろうから、もう一つ言ってあげよう。俺はルフェの心配なんて、一切してないよ」

「お前……!」

「兄妹じゃないのかって? あぁ、そうだね。俺とルフェは兄妹さ。だけど、捕まる方が悪い。そう思わないかい?」

「ッ! この!」


リオンさんは微笑んだまま話すのに、怒りが爆発し、殴りかかろうとした時だ。

俺よりも先に飛び出した人物がいたのだ。

それはメイだ。


「『雷撃の打撃ライトニングブロー』!」


メイの腕から迸る雷と轟音。

まるで雷が落ちたのではないのだろうかと思えるほどの。

その手を構え、リオンさん目掛けて飛び掛かる。


「やぁぁぁぁぁ!」


メイの雷の拳がリオンさんに到達するかと思われた瞬間、一つの人影が割って入る。


「『破壊の焔ブレイズフレア』」

「ッ!?」


その瞬間、メイ目掛けて放たれたのは真紅の炎。

少し離れている俺たちにも伝わってくるほどの熱気……いや、肌が焼ける様に痛い!


【焼ける様に、ではなく、実際に皮膚にダメージが来ております。刻印強化エンチャントのおかげで、影響は軽減できていますが、それでも所々やけどが出来始めてます。更にいうと赤火竜レッドドラゴンの炎をも軽々上回っています】


マジかよ!?

ヘルプさんが俺の考えを訂正するかの様に言ったことに驚きを隠せない。

メイへと視線を向けると、真紅の炎に飲み込まれてしまう。


「うぐっ……! うあああああああ!」

「メイ!?」


メイが真紅の炎の中から弾き飛ばされたかの様に落ちてくる。

すぐさま落下地点へと急ぎ、メイを受け止める。


「大丈夫か、メイ!?」

「うっ……。うん、何とか……」


とはいうが、メイの体の所々から煙が少し上がっている。

属性耐性を持つメイがダメージを受けるなんて。


「ふ~ん、アタシの炎を耐えるんだ。やるじゃん。だけど、ルシファー様に手を出そうとしたのはいけないなぁ」


そういったのは真紅の炎を放った張本人。

一言でいうなら、炎と同じ真紅の女性。

腰まである長い髪は燃え上がる炎を表すかの様な真紅の髪。

そして、髪と同じ真紅の瞳が俺たちを見据えてくる。


「メイの属性耐性を貫くなんて……」

「へぇ、その子、属性耐性なんて珍しいもの持ってんだ? だけど、アタシには関係ない。アタシは魔将ベリアル。魔将たちをまとめるリーダーなんてやってるよ」

「ベリアル……!?」


俺の世界では、結構有名な悪魔だぞ。


【個体名:ベリアル 種族名:『炎魔精霊イフリート』と感知。彼女は魔族の一角、精霊の上位種、炎と破壊を司る『炎魔精霊イフリート』の様です】

「イフリート……!?」


これもまた有名な精霊じゃねぇか……!

それでも、上位種だからと言って、ここまで。


【魔王ルシファーに仕えていると言うのもあるのでしょうが、彼女は恐らく、同族の中でも逸脱した力があったと見ています。あの炎も通常の『炎魔精霊イフリート』は持っていません】


なんか、色々とやばい気がする。

その時、先ほどの熱を感じ、視線をそちらへと向けると、ベリアルさんがこちらへと手を向け、掌には真紅の火球……いや、最早太陽だと言っても、納得してしまうほどの炎の球を作り出していた。


「さて、耐えたのは褒めてあげるけど、コレで終わりだ。アタシたちの王に手を出したんだ。死を持って償え」


ベリアルさんが放とうとした瞬間、その真紅の太陽が白や黒、緑など様々な色が入り混じった様なマーブル模様の何かに飲み込まれる。

その何かは例えるなら……混沌。

そうとしか言いようがないものが真紅の太陽を飲み込み、かき消したのだ。

打ち消されたことを確認したベリアルさんは顔を後ろにいるリオンさんへと向ける。


「そこまでしなくていいよ。ユージの怒りはどうやら、メイが飛び出したことで引いてたみたいだし」

「どうして止める? あの魔人は貴方を殺そうとしたんだ。死罪で当たり前だと思うんだが?」

「じゃあ、俺が許す。まぁ、そもそも彼らじゃ、俺に指一本触れられやしないからさ」


だろうな。

今の混沌、というべきだろうか?

リオンさんは魔王というだけあって、複数のスキルを所持している可能性がある。

実力も考えると余計にだな。


「さてと、落ち着いたところで自己紹介でも、っていう雰囲気ではなさそうだね。とりあえず、俺の妹、ルフェが連れ去られたわけだが、どうしようか?」

「俺たちが助けます。リオンさんは動く気がないんですよね」

「うん? まぁね。これっぽっちも動く気もないよ。だって、心配なんてしてないし、する気もないからね」

「そうですか。メイ、立てるか? 大丈夫か?」

「うん、何とか」


メイは少しふらつきながらも立ち上がり、それを確認した俺はリオンさんへと視線を向ける。


「じゃあ、俺たちはこれで失礼します。無礼を働いて、すみません」

「う~ん、気のせいかな? 心のこもってない謝罪の様に聞こえるけど、まぁ、いっか!」

「それでは」


そのまま踵を返して、歩き出そうと思った時、いきなりムルムルさんが目の前に現れる。


「ムルムルさん?」

「……行くのはいいけど、敵がルフェ様をどこに連れ去ったのかわかってるの?」

「わからない。だけど、そんなに遠くへ行っては」

「能力次第ではわからないかもね~」


後ろから聞こえてきた声に反応し、振り返れば、そこにはいたのは犬耳を生やした茶髪の女性。

いや、尻尾もあるみたいだな。

もしかして、この人は獣人族なのだろうか?


【いえ、彼女は魔族と感知しました】


魔族なのかよ。

一体、どうやって見分けろというのだろうか。


【彼女の手と足をよく見てください】


手と足?

ヘルプさんに言われて、俺はその女性の手と足へと目を向けてみると、そこにあったのは人の手ではなく、犬の手足である。


【獣人族の場合は動物の耳と尻尾を持った種族なのですが、獣系の魔人は手足が人の手足ではなく、その元となった獣の手足となります。それで見分けた方がいいかと】


なるほど、そういう違いもあるのか。

獣人族と獣系の魔族との見分け方は理解できたけど……この人、誰? いや、魔将の人なんだろうけど。


「あ、誰だコイツ? みたいな顔してそうだから、自己紹介しておくね! 私の名前は『ナベリウス』! 魔将兼警備隊隊長なんてしてるよ。あ、ちなみに種族は『三ツ首魔犬ケルベロス』の魔人なんだ」


よろしく! と元気な挨拶をしてくるが、俺たちは一応、リオンさんに危害を加えようとした奴らなんだけど。

普通に挨拶していいのだろうか?


「問題ないわい! リオン様が気にしとらんと言ったのじゃしな」


次に話しかけてきたのは立派なヒゲを生やした紫色の髪をしたムキムキおじさんだ。

瞳の瞳孔もナベリウスさんやカミオさんたちみたいに獣の目をしている。


「おっと、ワシとしたことが自己紹介がまだじゃったの! ワシの名は『マルバス』! 魔将兼教導官をしている。種族は『魔獅子ライオネット』じゃ!」


しかも、一言一言の声が凄く大きい……!

つうか、教導官って、デカラビアさんと同僚ってことか。

というよりも、もう思っていること読まれ過ぎだよな、俺。

ムルムルさんはやってきた二人を見てか、ため息をついて、額に手を当てている。

まるで頭が痛いと言っているかの様にだ。

思えば、この二人とムルムルさんって、性格が真逆だよな?

あ、苦手な相手だから、ため息をついて、頭を押さえているのか。


「ハァ……。少し二人は黙って。話が進まない」

「えぇ? でも、気になるし」

「そうじゃの! ワシも実は心配での。姫様が小さい頃から見守ってきたからの~」


よかった、心配している人……というより、魔族もいてくれた様で。

ムルムルさんが次は両手で頭を抱えだしている辺り、凄くイライラしているのかもしれない。

布を顔に巻いて隠しているから、わからないけど。


「……もう無視しよう」


あ、無視しようって言ったぞ、この人。

しかも、ボソッと小声で言ったぞ。


「……ユージ、私は恐らくルフェ姫を連れ去ったであろう場所を知っている」

「本当ですか!?」


その言葉に俺はムルムルさんに詰め寄る。

それに反応してか、ムルムルさんはそんな俺に対して一歩後退る。


「……ま、まぁ、恐らくだけど。それでも行く?」

「恐らくでも構いません。確かめてみないことにはわかりませんから」

「……そうだね。なら、案内するよ。リオン様、いい?」


少し小さめの声だが、リオンさんに聞こえているのだろうか?

不思議に思い、リオンさんの方を見てみると、こちらにサムズアップを向けていた。

つまりは行ってよしと言うことだろうな。


「……了解は出た。なら、私は先に城の外で行く。くれぐれもその二人を連れてこないで」

「えぇ~! どうして!?」

「それを聞いたら、ワシも行くに決まっておろう! 奴らはきっとたくさんいるぞ!」

「……それくらい私だけでもどうにかできる。だから、ナベリウスとマルバスは来ないで。それじゃ」


ムルムルは床に溶け込むように消えていくと、その場から姿を消した。

影による移動って、便利そうだな……なんて思いながら、再びリオンさんを見る。


「というわけなので、そんじゃ」

「うん、バイバイ。後、ホントに段々態度悪くなっていくよね。気にしてないけど」


アンタの行い次第だよ、魔王様。

俺たちは再び踵を返し、外で待ち合わせているムルムルさんの元へと向かうのだった。





ユージ達が去った後の謁見の間。

そこでリオンは再び目に時計の紋章を浮かべてから微笑む。


「さぁ、これから君がどうするのか、楽しみだ」

「君、というと、あの人間か?」


ベリアルはリオンの言葉に反応したのだろう、聞き返すと、リオンは頷く。


「何か見えているんだな。まぁ、何が見えているのかは聞かないが」

「その方がいいよ。俺が見えているのはあくまで『可能性の未来の一つ』だからね。確実に起きる保証はないしね」


リオンはどんな未来を見たのかわからないが、笑みを浮かべてみせる。


「どの『可能性』を引き当てるか、本当に楽しみだよ」


リオンは窓のある場所へと移動し、覗き込むとちょうどユージ達が飛び出していくのが見えたのだった。

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