07森の飯
「おはようです」
目覚めから聞こえてくるのは、サミナーさんの声でした。
私はその目覚ましにもう慣れてきていました。
はい、こんな生活にはよく慣れましたが、唯一慣れていないものがあります。
「アギャァ」
それはドラゴンです。
私はただの新米冒険者であります。
どうやってドラゴンに慣れれば良いのですか?
私がまずそれを聞きたいくらいです。
「よく寝ました……」
しかし、それは我慢するしかないのです。
こんなことを言っているということは私はすでに慣れているのかもしれませんね。
起きるとすでに用意された朝ごはんの匂いや、サミナーさんの早々と着替えている音がしていました。
そんな日常です。
こんな藁のようなものの上で寝ているのも、もう慣れていました。
今日は、町から出てきて一週間が経過した日です。
私たちの生活はとても変わりました。
しかし、貧乏なのは変わらずなのです。
サミナーさんは旅人だったようで、路銀が尽きかけた時に、ギルドで仕事を探していたことから私のメンバーに応募されたようです。
サミナーさんの手持ちも、私のあの日の失態で完全に尽きてしまいました。
「今日から遂に入るのですね、ムスロクの森へと」
サミナーさんの、その目はワクワクに包まれていました。
ムスロクの森、その地名自体聞いたのは三日前の話です。
それはここ一帯では、一番大きな森。
魔物も数えられないくらいで、とても危険な場所であります。
入ったら二度と帰ってこれないというような噂も立っています。
しかし、流石に噂。
実態は道が整備されており、その道を通れば安全という人もいました。
私たちはその森を抜けて、この大陸一番の港を目指しています。
最悪魔物が居たとしても、私たちならきっと大丈夫という楽観的予測を立てております。
しかしこの予測はただの根拠のない自信という訳ではありません。
この一週間、町に寄らずとも暮らしていくには、
いくら食料を買い込んだとしてもきついでしょう。
そもそもそんなものを買うお金はないのですけどね。
魔物を狩って、それを喰らうというそんな生活をしていました。
魔物は一流という品ではありませんが、サミナーさんが料理をしてくれるので、満足の出来でした。
「はい、出来たわよ」
サミナーさんの朝飯を頂いて、今日もスタートです。
「ようやく着きました!!」
テントのような簡易的な日を越せるもので、寝ていました。
そこからはようやくというより、目の前に立てていたんで、すぐですけどね。
昨日、目の前まで辿り着きましたが、夜遅かったこともあり、危険だと判断して入らなかったのです。
「さて、入りましょうか」
森の中は、町の人に言われたように整備された道がありました。
その道を歩いて港へ向かって行きましょう。
そうして、太陽が真上に登る頃になってきました。何かを食べようと思いましたが、魔物を狩ろうとしても、入ってすぐだからでしょうか。
魔物は見たことがないくらい。
魔物の数が少ないのです。
「サミナーさん、何か食べるものないですか?」
「ないに決まってるでしょ!!」
「だったら、魔物を食べましょう」
「えぇ、面倒くさいよぉ」
とりあえず、そんな感じで口約束は取り付けました。
もう魔物を食べることに抵抗がないことはないです。まだ恐ろしいという気持ちはあります。
虫みたいな魔物は無理ですが、獣の肉は食べやすいですし、とても美味しいです。
なんて、思っていましたが、何の進展もせずに、太陽がまた少し傾いてきました。
「ライドル、疲れたよぉ」
などとサミナーさんが言います。
ライドルとは、ドラゴンの名前です。どんな種類かは、とりあえず雷系ということだけは分かりました。
依頼を受けた時、何のドラゴンの巣だったか、説明を受けた記憶はありますが、そこがメインではなかったので、覚えていません。
ライドルばかりに絡むサミナーさん。
可愛い目をしていたライドルを少し睨みつけます。
「ライドルを、いじめないでよね」
「最悪、腹が減ったら、そいつを食えば良いじゃないですか……」
「絶対ダメ」
釘を打たれた私は、魔物を探すことに専念しました。あんなことを言っていましたが、本当にライドルを食べる気はありませんでしたよ。
本当ですよ。
「あれ、ここどこですか?」
気づけばそこは道のないよく分からない場所でした。
「……どこ?」
サミナーさんはまるで素っ頓狂でした。
ここがどこなのか分からないのではなく、私の言葉の意味さえも分かってないようでした。
どこを見渡しても木、木、木。
太い幹で、きっと年輪は百は超えていそうなもの。街や国にあるなら、名地となるであろう幹ですが、ここでは何の目標とならないでしょう。
「さて、どうしましょう」
考える意味はないですが、飯を食べようと魔物を探すことにしました。
どれだけ時間が掛かるのか心配でしたが、すぐにその懸念は解消されました。
「ァギャ」
解決してくれたのは、ライドルでした。
ようやく魔物を見つけてくれたと、そちらを見ると太い幹でした。
適当に鳴いたのではと、思いましたが違いました。
木から目が覗いていました。
木の裏にいたのは、魔犬。それも大型。超のつくほどの大型でした。
ようやく見つけた。食料。
すでに太陽は沈み夕方でした。
「サミナーさん、行きますよ」
戦場はまたしても火気厳禁。
今回も魔力をぶつけるしかありません。
「神より導かれし力よ、我を助けん。一柱となりて、清純を持たん者を撃ち倒せ。純粋魔法弾」
最近ようやく詠唱を覚えました。
この詠唱を教えてもらっている時、隣にいたサミナーさんも初めて知ったことのように聞いていました。
やはり知らなかったようです。
そんなところで、純粋魔法弾は、魔犬の片足へと突き刺さりました。
上がる血飛沫が木に飛び散りますが、血飛沫の圏内にいたサミナーさんはそれも華麗に風魔法で飛ばしています。
マントをひらりと、靡かせて、余裕見せています。
ここから一発で仕留めるのかと私も余裕を見せましたが、魔犬はまだ死ぬ気はなかったようです。
目の前のサミナーさんに目もくれず、私に飛びかかってきました。五体満足ではないのに、一軒は超えられるくらいの跳躍力を見せてきました。
が、それでは隙がありました。
飛んでいる時に、新たに行動は変えられません。
それほど動揺していたのでしょう。
この魔物も。
「暗闇を照らし、この地と空を繋げよ、小華雷魔法」
細い光が空から私のもとに向かってきます。
魔犬の身体を通り抜け、私の直前に来ると魔法は解かれます。
血の匂いがしました。
こうして魔犬は討伐しました。
部位を切り取って、サミナーさんが炎魔法で焼き、美味しく頂きました。
残ったところは明日のためにも保存して行きます。




