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新しいメイドさんは仲良し姉妹。

「・・・そんなに緊張しなくてもよろしくてよ?」

 ブラシで自分の髪を梳くウイエに笑顔を向けるルージュ、新しく自分に着けられたメイドはカチカチに身体を強張らせ、慎重に慎重にルージュの髪を撫でていた。


「私は貴女に姉妹のように接して欲しいの、ね?私を可愛い妹と思って下さいませんか?」

 顔を上げ、髪を撫でるメイド・ウイエに笑顔を送るルージュ、そんな少女の動きに震えて髪を離した褐色髪の若いメイドは怯え顔で頭を下げた。

「そ!そんな、滅相も無い」


 脅しておいて優しく接するルージュ、自然体の笑顔と隙だらけの小さい背中からは、自分を圧倒し見下ろしていた者とは思えなかった。


「私、このお屋敷には味方がいないの、だから貴女だけは私の味方でいてね、お願い」

 ルージュは身体を硬直させているメイドに手を伸ばし、顔を近づけて優しく微笑んだ。


「え?・・はい、私などで良ければ喜んで!私はいつまでもルージュ様のお側にいますから」


(・・まだ時間は掛るか、まぁいい、もう少しだろ)


 優しさ・笑顔・そして『貴女だけよ』とみせる弱点、人間を騙すテクニック。

 

(それと同時に自己暗示も掛けて置くか)


 言葉は使う度に変化を起こす。

 自分が良い人間・自分は出来る人間・賢く逞しく頼れる人間、そう言い続ける事で本気で自分がそんな人間だと信じ込み、本心でそのようになろうと行動するようになる。


 今は、口だけで『味方になる』・『そばにいる』と言っているだけであっても、そのうち本当に言葉にした事が当たり前のように思えてくる。

 それはただの勘違いだとしても、何度も繰り返し言わせる事で脳がそのように信じてしまうのだ。


 ちなみに人間を集め『あの悪人を叩け!』そう声を上げさせ、それに追従するように『あの悪人をやっつけろ!』と数人に叫ばせ、同調させる事で人間を操る方法もある。


 人間の脳は直ぐに休みたがり、自分で考える事を放棄したがる。

 そして自分で考える事を止めた脳は、簡単に操り洗脳することが出来る。

 それを知っていれば、人間の思考を操るなど簡単な事。


(だから今は、毎日言葉に出させて自分で言わせる。そして私が優しく接してやれば良い。

それだけでヤツの脳はそのうちに『私を味方する』と口に出すだけで、気持ち良くなるようになるんだよ)頑張れ、ウイエ。


 自己暗示・飴・そして弱い者を守ろうとする庇護欲を刺激してやる。

 動物の本能を巧みに使い、味方にする事で心を縛っていくルージュ。


(毎日の積み重ねが大事なんですわよ、、って)


・・・・・・・・


「わたくし、そろそろ行って来ますわ。お部屋の方はよろしくお願いします」

 昼食後はウイエと遊び、少ししてから部屋を出る。

 彼女のお陰で部屋を荒らされる事も無く、私が部屋を抜け出した後も誰かが来なければ部屋にいたと証言される。


(仮に私の外出がバレて咎められても、ヤツの証言で時間の誤魔化しが効くだろう。

 まったくウイエ様様だ、ついでにクマ公の足止めまでやってくれるんだからな)


 ウイエはルージュの部屋を掃除し、ベットを整え、人形の整理をして貰う。

「私のクマさん、直ぐにどこかに隠れちゃうの。だからお願いね」

 そう冗談っぽく笑い「ふふっ、テリーはお気に入りだから、私すぐにどこかに置いてそのままにしちゃうの、だから見つけたらベットの脇に戻しておいてね」っってね。

 

「お嬢様ったら・・本当にヌイグルミが動き出すのかと思いましたわ」

「そんなことが有ったら、とっても素敵ね」

 私は笑顔のまま彼女の手を握り、「もしそんな所を見つけたら、誰にも言わず私だけに教えてね、お願い」

 そう言って私は窓から部屋を出た、さてこれからは鍛錬の時間だ。



・・・・・・・


 木々が茂る薄暗い林の奥、人目を避けた獣道を進むと、わずかな木漏れ日の中、半径数mの開かれた空間に少女が居た。


 小さい手に重い鉄の鉈を持ち、獲物の重さに逆らう事なく腕・肘・肩を基点に円を描き振る斬撃。

 演舞のような足捌きの中、鉈の刃が左右に円を描いて踊る。


 少女の使う鉈は無骨で荒々しく、あまりにも彼女の手には不似合いな鈍器だった。

 だがそれを細腕の少女が易々と操り、彼女は刃の軌跡を描いていた。


(何と言う動きだ、、、天才、それ以上か)

 

 [天賦の才]それは歴史の転換期に産まれ、神が人々の道標となる人間に与えた神の才能だと言う。


 洗練と優美、自在で有りながら風雅、人を魅せる剣技の真髄。


「・・・お見事です、お嬢様。

 まさかお嬢様にこの様な才が御有りとは」

 自らも戦場に立ち、幾多の屍を作り生還して来たセバスは、自分の武技が他に劣る物とは考えた事は無かった。

 だが目の前で見せられた少女の剣技は全くの別物、次元の違いを思い知らされる。 

 

「才・・だと?・・そうか、お前達にはそう見えるのか」


 グギュン!

 苛立ちのままに振る渾身の斬撃が目の前の木を打ち、深々とその幹に鉈がめり込み突き刺さった。


「突っ立った木の一つも断ち切れない程度の剣だぞ?」


 ルージュが武器を手にしたのは数巡目の私、最初は小さなナイフだった。

 酔った[客]に殴られ、蹴られて、反射的に握っただけの小さいナイフだ。


 客の太った腹に着いた小指の先ほどの傷、その対価は顔の形が変わるほどの折檻だった。

 その次ぎは小銭を盗む為に使った瓶だ、男の頭を重い瓶で殴り、捕まって牢屋行き。


 生き物が殺せるようになったのは、農家の男に拾われた時だ。

 ニワトリ・ブタ・猪や兎・狐も殺して肉と毛皮に別ける技術を知った。


 人が殺せるようになったのは、今から6巡目?7巡目くらい前だろうか。

 

 そして人間を[上手く]殺せるようになったのは、つい最近だ。

 

 世界に愛されたヤツら、産まれた時から恵まれたヤツ等。

 血筋・運命・幸運、全てを持ち合わせたヤツ等をブッ殺し、生き残る為。

 殺され無い為に血ヘドを吐いて鍛えた技。


 爪が割れ手の皮が破れ、靴の爪先が赤く染まっても剣を振り、足捌きを身に付けた。

 たった80年ほど、死んでも死んでも諦めず、必死に足掻き続けた程度の剣。


 本物の天才がたった10年程度、努力をしただけで破れる程度の弱者の剣だ。


(まだ足らない、これじゃあまだ、アイツを殺せない・・?)


「すまない、抜け無くなった」全く、しまらない。


 刺さった鉈を木槌で叩き、ぐりぐりと刺さった箇所を広げて引っこ抜く。


「お嬢様、本当の天賦の才とは、必要な時が来れば目覚める物だと聞き及びます。

 今はまだその時では無いだけだと・・・」


「剣とは主人が望んだ時に敵を斬る物だ。

 私が望んだ時に目覚めぬ才など有っても意味が無いだろ」


 私は目覚めぬ才能に頼りはしない、必要なのは私が求めた時に敵を殺せる狂気と暴力だ!


 魂に刻まれた痛み屈辱憎しみ怒り、骨を軋ませて筋肉が悲鳴を上げても磨き高めた殺しの技術だ。

 鉈の重さを使って振回しただけの剣、そんな物にどれ程の価値もないだろ。

 

 (そうだな、少し早いが狩りでもするか)

 殺しの感覚を思い出す、そっちの方が私には重要な事だった。 

洗脳方法とか・・学校や会社でも、社訓やら朝礼やらで『会社の為に』とか『笑顔で元気に』

とか『皆様の為』『お客様は神様』とか毎日言わせて脳をバグらせ、使いやすいように思考を染める。

ああ、愛社精神、、、洗脳社会は恐いなぁ。

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