セバスと仲良くピクニック。
剣の動きに身体が慣れて来る。
足元を見ずとも小石や木の枝、草の膨らみを感じ、自分の間合がハッキリと見えて来る。
(まだ足らない。
アイツはもっと早かった、アイツの剣はもっと鋭く、もっと重く、強く、真っ直ぐで美しかった!)
回転する鉈が剣刃の結界を作り、敵の剣を弾き飛ばす。
(もっとだ、もっと早く!もっと自在に!激しくだ!)
速度を上げて鉈が風を切る。
ヤツの立ち構えをイメージし、素早く立木に滑り寄り鉈を振り上げ幹を削る!
鉈の勢いそのままに、踊り子が舞うように身体を回転させた。
ドガガガガガガガ!!!!
足元・腹・首、回転から繰り出される鋭い横薙ぎ。
ルージュが回転する度に木が削れ、回転の速度が上がり一撃の鋭さが増していく。
「死ね!」渾身の力を込めた両手袈裟!
ガッ!
力いっぱい斧を振り下ろしたような衝撃と振動、立木が身体を震わせ、ミシミシベキベキと鈍高い亀裂音が走る。
「チィィィ、しぶとい!」獲物を打ち倒すとどめの蹴り!
高さ5m以上はある野性の生木がブルッと振動し、そしてベキベキと悲鳴を上げて倒れ落ちた。
「はぁはぁはぁ・・・回転連武でもこの程度の威力ですか、身体が小さいってのは本当に厄介ですね」
「お嬢様、あまり音を立てると屋敷の者に見付かってしまいますので、今日はここまでにして戴きます」
「ああ?、、、うん、そうだな、解った」
自分の体力・握力・腕力・脚力がどの程度なのかを把握出来するルージュ、死ぬ前の自分と重ね合わせ、現在の自分を計り直す。
(大体30%か、急がねぇとダメだな)
100%の状態でスタートライン、前の自分を超え無ければ、勝ち目が無い事は解っている。
その為には前と同じ鍛錬では意味が無い、敵に勝てない練習など意味が無い。
「セバス!近いうちに狩りをします。
獲物の解体はお任せしますから、ナイフを研いでおいて下さい」
すでに呼吸は落ち着き、汗と木片と泥が服に張り付いていた。
私は庭師小屋で服を着替え、汚れた服の洗濯と乾燥を任せる。
今日切り倒した木は、後でセバスが枝切りして薪か丸太に加工するだろう。
(解っちゃいたが、アレ以上の酷使かよ。
クククッ、アイツラに合う前に死ぬんじゃ無ぇか私は)
思わず笑みがこぼれる、取りあえず部屋に帰ったらクマを殴ろう。
取りあえずクマのテリーをぶん殴り、日記に
『クマちゃん落としちゃった、大事なテリーの手が取れちゃって、泣いたらウイエが直してくれるって、お姉ちゃんって何でも出来るのね』とか書いて置おいた。
・・・・・・・
私が伐った木はセバスが丸太に加工して陰干しされた、その中から私は適当な太さの枝を数本拾って、鉈を振り下ろす。
「・・お嬢様、一体何を・・」
ガンガンと鉈で枝を削り、先端を杭のように加工する私を遠い目で見ているセバス。
「見て解らないか?」
誰がどう見ても杭を作っているように見える筈だろ?
「・・・私には貴族のお嬢様が拾った木の枝を、鉄の鉈を使って杭を作っているように見えますが」
ヌイグルミ遊びとか、絵本とかを読むような年齢の少女が革手袋で生木を掴み、十分の腕より太い鉈で杭を作る、その光景には違和感しか涌かないセバスだった。
「ウフフッ、ちゃんと見えてるではないですかセバス。もう驚かさないで下さい」
「・・・すみません、その、少し混乱しているようです」
「しっかりして下さいねセバス、わたくし頼りにしているのですから」
その手に握る枝の樹皮を剥ぎ、削って杭を作る。
「申しわけ御座いません、お嬢様が何をしているのかは解るのですが、なんの為に杭を作っているのかをお聞きすべきでした」
「ああコレか?武器だよ武器、獣を狩るには鉈より槍だろ?
弓でも良いが、今の私に弓矢は難しいからな。それに木の枝ってのは乾かして削るまで、物になるかどうか解らないからな」だから数本作って置くんだよ。
皮を剥がして乾かしたら枝が曲ったり割れたり、虫喰いが有ったり変な所に節があったりする場合がある。
その為に数本作って実際に使って見る、そう私に教えたのはセバスお前だったはずだよな?
「お嬢様・・私にはお嬢様に非凡な剣の才が有ると拝見しました、なので技を磨くのであればそちらを伸ばすべきでは」
『力を欲するならば、まず使える武器を伸ばすべき』それが戦術の基本
鉈の重さを利用した剣舞、鉄刃の結界を作り出す技、無駄の無い足運び、彼女にはまだ納得の行くレベルでは無いらしいが、それならば余計に剣の腕を磨くべきだと。
「ああセバス、セバスよ。違うんだよ。
少し見せたのが悪かったか・・・私の剣武は1度忘れろ。
その上で言うが、剣の腕なんてのは私の目的の前には殆ど意味が無いんだ。
私に必要なのは戦いに勝つ力・敵を殺す技だ。
剣技なんてのは、戦いの中じゃぁ敵を殺す技の一つに過ぎない。そうだろ?」
本物の天才、剣を握るだけで巨人を倒せる剣鬼、自分の背丈を超える岩を斬り、鎧兜の騎士を真っ二つにする剣豪、そんなバケモノが世の中にはごろごろいる。
そんなインチキ野郎をブッ殺すのに、『剣技で真っ向勝負!』とか馬鹿だろ?
「ですが・・お嬢様の持つ才の事とは別にしたとしても、自分の持つ力で最も使える武器を鍛える事は強者の常識です。
才の無い技を幾つ磨いた所で、勝つのは結局の所、最も自分に適応した技・武器を一つ極めた者だと思いますが」
(・・・チッ、それが解ってるから、才能の無い私はガラクタを掻き集めて必死に天才共に一泡吹かせようって・・はぁ・・)
「いいか良く聞けよセバス、私は剣での勝敗は考えていない。
それどこか真剣勝負なんてクソだとも思っている、要は敵を殺す事、それさえ出来れば手段なんてなんでも良いんだよ。
毒だろうと罠だろうと策だろうと、女を使い金を使い権力を使い、密偵を使い裏切り者を作り親兄妹恋人召使いに毒を盛らせ、疑いを掛け、闇討し、敵が勝ち誇るその瞬間に背後から背中に一太刀浴びせる。
それで敵を殺せりゃ私が剣を持つ必要すらねぇんだよ、解るか?」
どんな剛剣だろうと神技だろうと関係無ぇ、必要なのは細くて頼りなくても敵を必ず殺す悪意、猛毒の針だ。
「私は戦いで生き残り、勝つ為なら、棍棒だろうとペーパーナイフだろうと何でも使うぞ?お前は違うのか?」
「・・・」
私を利用し、顔を変え名前を捨て、身分を捨てて公爵家に潜り込み、何年も耐えたお前がソレを解らないとは言わせない。
「そうだろ?」
「・・そう、でした。お嬢様。
私はお嬢様の輝くような剣閃、舞い踊るような太刀筋を見て、私は戦いの本質を忘れていたようです、申しわけございません」
(この屋敷に潜り込んで数年、一度も忘れたことは無いと、自分では思っていたのですが。
どうやら自分でも気付かぬうちに気が緩んでいたか。
戦いの本質、『目的を果す為には手段は選ばない』そんな事すら忘れてしまうとは)
セバスの顔が暗く引き締まる。
(その顔だよセバス、お前の本当の顔は)暗殺者・復讐者の顔だ。
「なら良し、って事で出かけるぞ」
出来立ての杭・手槍を持ち、林の奥に進むルージュ、その後ろには自分のすべきことを思い出し、暗闇を背負うセバスを連れて。




