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96.

よろしくお願いいたします。

 ここまでの道のり、自分で馬に乗りアムダルグまで行けるとアニスは言ったのだが、不足の事態に備えてやはり馬車での移動となった。


「どんな事があろうと、私が君を必ず守るから。」


「ソル、ありがとう」


 馬車にはアニスと彼女の傍を片時も離れようとしないソルシアンが乗り、馬車の周りをジェイル率いる護衛部隊が控えていた。ドルフは先に周囲の安全を確認しながら母国へと繋がる道を偵察していた。


 そしてこの宿屋で合流を果たしたのだが…


「この先は私が最初に帝都に入り、皇帝陛下に謁見を申し出る。君らはこの場所で待機していてくれないか?」


「は?なんでだ?私が父上に会わなくてどうやって話をまとめるつもりなんだ?」 


「逆に聞きたいが、君があのアムダルグの皇帝を上手く説得出来るとでも、まさか本気で思っているわけじゃないよな?」


『ソルシアン、今回の件はそなたに全て任せる。しっかりとあの女王に気に入られるのだぞ。』


『承知しております、父上。必ず私が女王もイールも、そしてラドハルトも手に入れてみせましょう。』


 出国前、確かに父、アムド2世とはそんな約束をした。だが状況が変わった。もうソルシアンにはアニス以外を娶るつもりは全くなかった。


「うっ!じゃ、じゃあ、おまえなら父上を、あの皇帝を落とせる手立てがあるというんだな?」


「……ふっ」


 ジェイルはソルシアンの問に答えることなく、不遜な笑みを見せた。


「お、おまえのその、人を小バカにした態度が前々から気に入らなかったんだ!!いい加減にしろっ!!」


「ああ、ごめんごめん。他意はないんだよ。ええと、手立てだったね。……私がアムダルグの赤毛の姫君を貰い受けると言ったら皇帝はどうでるかな?」


「は?」


「君は頭だけじゃなく、耳まで悪いのか?ナターシャを私の妻に迎えると言ったんだよ。」


「おまえっ、やっぱり!!」


「くっくっく……おや、気付いていたんだね。そうさ。私は6年前のあの日から密かに彼女を狙っていたんだよ。そろそろ行動を起こそうかと思っていたところに君が騒ぎを起こしてくれたというわけさ。」


「あの時のおまえの顔、今でも鮮明に覚えているぞ。皆に責め立てられる妹を、お前は獲物を狙う獣のような目をして見つめていたよな!」


「ソルシアン、少し君を見直したよ。よく観察しているじゃないか!エライ、エライ!!」


「おまえに褒められても嬉しくもないわっ!!それでおまえが妹に結婚を申し込んで、一体なんで父上が私達の仲を認めてくれるというんだ?」


「ふ。どうせ今回のことだって、イール国を我が物にするとか、ついでにラドハルトもとか言っていたんじゃないのかい?」


「えっ?なんでそれを……」


「君らの考えている事なんて、手に取るように解るよ。要するに欲深な皇帝はイールもラドハルトも手に入れたいわけだ。ところで君はクラーロ商会の資産がどれくらいのものなのか知っているか?」


「さ、さあ。そもそも私がアニスに出会ったのは偶然だ。クラーロが大財閥なのは知ってはいたが、資産までは把握しているわけがない!」


「はあー、これだから甘やかされて育ったぼんぼんは……よくそんなんでイールの女王を手にいれようなんて思ったものだ。ザック・クラーロの個人資産はそんじょそこらの貴族より遥か上をいく。もしかしたら国王級レベルかもしれん。皆、彼の見かけに騙されているがクラーロこそ、ビジネスに関して言えば、誰よりも非情になれる男なのさ。」


「そ、そんなに凄い人なのか?我が義父上は!」


「正直私がアムド二世なら、イール国王ではなくとも、クラーロ家との繋がりが出来るなら、喜びはしろ、怒りはしないのだがね。クラーロはこの大陸だけでなく、海の向こうの国々とも繋がりを持っている上、我が国にもユノール国にも鉱山の採掘権を保有している。そんな世界を股にかける大財閥と姻戚関係になれるんだぞ。野心を持つ者なら願ったり叶ったりじゃないか?」


「じゃあ、父上は反対しないのかっ!?」


 赤い瞳を希望でキラキラと輝かせ、ソルシアンが歓喜の声を上げた。


「さあね。私は彼じゃないから分からんよ。」


 ガクッ


「おまえなー!!」


「君の思考は本当に短絡的だな。皇帝が今回望んだのは、武に秀でているイール国を思いのままに操る事。そしてアムダルグ、イール合同の軍事力により、ラドハルトに圧力をかけ、自国に有利な外交を進める事。ざっとこんな感じだろうな。」


「あ、ああ。その通りだ。」


「要するにその方法が平和的手段でも構わないわけだね。」


「まあ、そうだろうな。父上だって別に好き好んで血を見たいわけじゃない。誤解されると嫌だから言っておくが、我々民族は確かに好戦的ではあるが、非道な人殺しではない。」


「解っているさ。私の産みの母は皇帝の従妹だからね。私にもアムダルグの血が流れていることは君だって知ってはいるのだろう?」


 ラドハルトの王子三兄弟の出生には秘密があった。ラドハルト国王はアムダルグとの繋がりを持つ為に前皇弟の孫娘にあたる、侯爵家の娘を娶った。いわゆる政略結婚になる。


 国王リカルドはこの王妃を愛そうと努力をしたが、彼女との溝は埋まらぬまま、王妃は出先で事故に遭って帰らぬ人となった。……彼女の愛人と共に


 この前代未聞の出来事は一時は心中ではないかとも噂されたが、真実は闇の中であった。そしてこの話はリカルドの命令で他言無用の戒厳令がしかれ、その後一切誰も口にする事はなかった。


 王子達の秘密、それは王太子のアルドと次男のジェイルは前王妃の子どもであり、ルルドールは後の王妃の子どもである事。だがそれも現在では誰も語る事はない。何故ならアムダルグから来た自由奔放だった王妃は、とっくの昔にその存在すら貴族からも国民からも抹殺されており、彼らの中には今も昔もラドハルトの王妃は自分の命を賭してまでルルドールを産んだ、ララドール王妃ただ一人だったからだ。


「ああ、知っている。おまえの実母は私の母の姉上だからな。事実はどうであれ、父上はラドハルト王を未だに恨んでいるぞ。」


 アムド2世は従妹であり幼馴染みでもある、少女を昔から愛しており、成人した彼女を妻に迎えた。だからその最愛の妻の姉を幸せに出来なかったリカルドを許せなかった。しかも娘のナターシャが引き起こした事件のせいで、その相手に頭まで下げなくてはならなかった。


「それこそ、周知の事実だろうさ。だからこその私なのだよ。」


「は?」


 全く理解できないといった風なソルシアンに仕方なさげにジェイルが説明を始めた。


「私はナターシャと結婚したらこの国に移住するつもりだ。」


「ええっ!?そんなことラドハルト国王が許すはずないだろ?第一、父上がおまえと妹との結婚なんか認めるとでも思っているのかよ?」


「ああ、思っているとも。」


「おまえ、なんでそんなに自信満々なんだ?」 

 

 ジェイルはまたまたソルシアンがムカつくような笑みを見せたのだった。




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