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よろしくお願いいたします。
「私はシーザー・ロックフォードの不実な行いに対して、婚約破棄を申し出る。ふふふ。一国の王が婚約者に振られたのでは面目が立たないからな。しかも子までいたとなれば、私は皆の笑い者だ。ゆえに私が婚約を破棄したのは七年前だ。よいな。そして………」
アビゲイルは机の上に置いてある手紙を封筒の中から取り出し、広げて確認する。そしてそれを皆に見えるように裏返してみせた。
「イール国国王である私がシーザー・ロックフォードとロザリー・ランバートの婚姻を認めた書類だ。すでに司教枢機卿、ハロルド・アルブレイのサインもある。これは七年前に二人の婚姻を私が正式に認めた事になっている。」
そこには二人が夫婦だと認める文章と女王、そして司教枢機卿の直筆のサインが記されていた。この書類は疫病がこの国を飲み込む以前の貴族の婚姻に必要だった物だ。王の許可なく結婚できる今ではとんと見かけなくなったが、貴族の中には未だにこの古きしきたりにこだわり、あえて女王に願い出てくる者も少なからずいた。
「ガロン・ロックフォード。これでフォスの存在を隠すことはなくなった。あとはそなたが認める番だ。そこにある、フォス=シーザー・ロックフォードはそなたの孫であり、正当なロックフォード家の跡取りか?」
「……ほ、本当にいいのですか?」
女王の命令通り、彼女の発言を静聴していたガロンが、まるで幽霊でも見るような顔で女王を見つめながら口を開いた。
「いいもなにも。これを認めるという事は、世にシーザーは婚約者を裏切る不実な男だと公表する事だぞ。当分ロックフォード家への風当たりも強くなるだろう。美談が醜聞にとってかわるのだからな。」
「いいえ、事実でございますから。シーザーは婚約者を捨てて他の女に走ったろくでなしということです。しかしきっと本人もそれを望んでいることでしょう。まあ、今頃あの世で頭を掻いているやもしれませんが」
「ちがいない。ふふふ」
「……女王陛下、感謝いたします!本当にありがとうございます!!晴れて我が孫、次代のロックフォード侯爵を堂々と世に披露することが出来ます。これで妻やアルブレイの肩の荷も下りることでしょう。フォス、何をしている。早く女王陛下に御礼を申し上げないか。」
フォスはアビゲイルの足元に跪いたまま俯き、肩を震わせていた。彼の俯く床の上にはひとつふたつと小さな水滴が落ちてくる。
「……夢を見ている様です。」
ゆっくりと頭を上げ女王を見上げる、ガロンと同じ色の小さな瞳にはキラキラと歓喜の涙が光っていた。
「そなたと話しているとまるでシーザーと話をしているようだ。姿かたちはロックフォードの血筋そのものだが、中身は、魂はシーザーとそっくりだよ。」
「本当ですかっ!?」
「ああ、家族を想う心も、その柔らかな笑顔も本当にシーザーにそっくりだ。」
フォスは嬉しそうに少しはにかんだような笑顔を見せた。
「良い跡取りが出来たな、ロックフォード。」
「おそれいります。身内贔屓になりますが、フォスはとても優秀です。必ずやこの国のお役に立つでしょう。なあ、フォス。」
「はい!!女王陛下、私は必ずこの国に役立つ男になります。陛下へのご恩は絶対に忘れません!」
頬を赤く染め、一生懸命話をする少年に女王は破顔する。
「ふふふ。フォスは頼もしいな!期待しているよ。」
アビゲイルの言葉にフォスは耳まで赤く染め、羨望の眼差しで女王を見つめた。
「「ちっ!!」」
突然フォスの耳にふたつの大きな舌打ちが聞こえた。不思議に思った少年はそちらを向いたとたん短い悲鳴を洩らす。
「ひぃっ!!」
……幼い少年の目に飛び込んできたものは、二人の男が鋭い目をして彼を睨んでいる光景だった。一人はすでに三十路を過ぎた立派な男。かたや一人は成人したての若々しい男だ。あまりの形相に恐れをなしたフォスは思わずアビゲイルのドレスの後ろに隠れてしまった。
「ん?フォス、どうした?」
アビゲイルは突然フォスがブルブルと震えながら自分の後ろに隠れた事を不振に思い、少年が目で追っている方向に視線をやった。
「二人とも、いい加減にしろっ!!」
………大人げない二人に女王は渇をいれたのだった。




