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93.

遅くなりすみません。よろしくお願いいたします。

「早く言わないか、ロックフォード。」


 話を中々切り出さないガロンに痺れを切らした女王が催促の声を上げる。しかし彼からは切れ者宰相らしい、いつもの歯切れの良い返答はなかった。


「ガロン・ロックフォード!!」


 その声に漸く観念したのか低い唸り声を上げた後、ガロンは語り始めた。


「………妻、ターニャはイーリア侯の口車にのせられて、危うく女王陛下を貶める片棒を担ぐところでした。その……ローダス・イーリアに息子、シーザーは女王陛下に殺されたと聞かされたそうで………。実は陛下は10年前からルルドール殿下と繋がっていて、その隠れ蓑としてシーザーはうまく利用されただけだと。


 そして婚約してロックフォードのバックアップを手にしたのち、息子をわざと疫病に感染させ、ワクチン投与を遅らせたのだと。四年経って 自分の地位が揺るぎないものになった頃、シーザーが他界したのも予定通りのシナリオだったと……」


「全部デタラメに決まっているじゃないか!!アビーはそんな事、絶対にしない!!」


 ガロンの告白にいち早く反論したのは女王ではなく、ルルドールだった。清廉潔白の彼女の性格は誰よりもルルドールが知っていた。


「勿論解っております、全てが偽り話だという事は。そもそも息子との婚姻を女王陛下にお勧めしたのは私でございます。冷静に考えればイーリアの話が矛盾だらけであることは妻だって気付いたはずです。ですが、一人息子亡き後、誰にも気付かれず、ひっそりと生きていく事しか許されなかった孫が、フォスが不憫で誰かを恨まずにはいられなかったのでしょう。その心の闇をローダス・イーリアに上手く利用されたのです。


 私がしっかりと家族に気持ちを向けていたなら、もっと早くフォスの存在に気付いていたでしょう。しかし私は自分の息子ですら、二の次、三の次にしてきた男です。婚約者でありこの国の王である陛下を裏切り、他の女性との間に成した子など、私ならば秘密裏に始末してしまうかもしれない。妻やロックフォード家の者にそう思われても仕方ない仕打ちを、私は知らず知らずのうちに家族にしていたのでしょうな。」 


 フッとガロンは自嘲気味に口元を歪めた。


「私がもう少し家族を顧みていたら妻もあんな気持ちにならなかったのです。本日も共に登城をと申しておりましたが、体調が思わしくなく、女王陛下にご迷惑をおかけするわけにはいきませんので、連れて参りませんでした。」


「奥方は病気なのか!?」


「はい。幾年も気を張っていたからでしょうか、私に秘密を打ち明けた直後から体をこわしております。」


「それは心配だな。くれぐれも大事にしてくれ。」

  

「おそれいります。」


「してローダスは奥方に何を要求したのだ?」


「………女王陛下は色欲に目がくらみ、ラドハルト国の若い王子と結託して、イール国の為に女王陛下と婚約した宰相の一人息子を殺したのだと、貴族の間に噂を広め陛下の信頼を失墜させろと言ってきたそうです。あやつはもし言う通りにしなかったなら、フォスの事を世間に暴露するとも………」


「なんて酷いでまかせを!!僕はなんて言われても構わない。でもアビーへの中傷は許さない!!アビーは身の保身の為にシーザー殿と婚約したわけじゃない!全てはイール国の為だと分かっているくせに!ローダス・イーリアめ!!」


 ルルドールが珍しく激昂する。彼自身幼少の頃、卑劣な人間達から幾度となく危険な目に遭わせられてきた。しかし彼はその都度冷静に判断し、あらゆる手を使い相手をねじ伏せてきた。勝利の法則は冷静な判断力のみ。しかし、アビゲイルの事となるとその鉄壁の壁は脆く崩れさってしまうのだった。


「ふっ。女王陛下、ルルドール殿下は貴女の事になるといつもの冷静さはどこかへ吹き飛んでしまうようですな。」


 ガロンが苦笑いしながら女王に言う。


「ふふ。そこがルルの良いところなんだ。それで奥方はどうしたのだ?」


「はい。妻、ターニャはイーリアの脅迫に一時は屈しそうになりましたが、あやつの突然の訪問を不信に思った我が家の執事が機転をきかせ、アルブレイに知らせを出したのです。彼はすぐに妻もとに駆けつけ、冷静な判断が出来なくなった彼女を諭してくれたのです。アルブレイのおかげでターニャは正気に戻り過ちを犯さずに済みました。

 

 そして、その時彼は思ったそうです。ローダス・イーリアに全てが露見してしまったからには、もう隠し通すことは不可能だと。妻の悲しみと怒りで曇ってしまった心を晴らすためにも、フォスの存在を私に話す時が来たのだと。


 間もなく、アルブレイに促された妻はとうとう私に秘密を打ち明けたのです。息子シーザーの隠された事実を。」


 ガロンはフォスの方に顔を向けると、不安げに彼を見つめる少年を安心させるようにそっと頷いた。


「しかしまさかイーリアが私の名を騙り、ルルドール殿下に刺客を差し向けたり、舞踏会で陛下のお命を狙うとは思ってもおりませんでした。しかし妻がイーリアに弱味を握られ、脅される事態を引き起こした事、これは全て私の落ち度でございます。罪は私にあります。」


「いいえ。いいえ、違います。女王陛下!罪は父や母、祖父母それに大伯父に秘密を守ることを強いてしまった私の存在にあるのです。罪は私だけにお与えください。幸い私はシーザーの子ではありますが、ロックフォード家の人間ではありません。私はこの通り何も持っていないちっぽけな存在です。陛下に差し出せる物といったら、この命だけでございます。父母そして私の為に真実を隠し通してくれた私の身内の不敬の罪を償うため、女王陛下にこの命を捧げます。」


「フォス!何を言っているんだ!おまえは黙っていろ。女王陛下、子供の戯れ言でございます。ど、どうかお忘れください!!」


 フォスの必死な告白を遮るようにガロンが慌てて取りなそうとする。しかし


「……いや、フォスの言う通りだ。父親の名を継ぎし子、フォス=シーザー・ロックフォード。私からそなたの亡き父に対する罰を言い渡す。そなたの言う通り、この罰は必ずそなたに受けてもらうとしよう。」


「じょ、女王陛下。お待ちください!!罰は私に!」


 ガロンがアビゲイルにすがるように懇願するが、それをルルドールが遮った。


「ロックフォード殿、最後までアビーの話を聞きましょう。」


「しかし……」


「大丈夫ですよ。」


 渋るガロンにルルドールは笑顔を見せた。そんな彼を尻目に女王が裁きを下す。


「フォス=シーザー・ロックフォード。亡き父、シーザーに代わり、我が裁きを受けよ。」


「はい、謹んでお受けいたします。」


フォスは膝を折り、女王の前に跪いた。


「へ、陛下!!」


「ロックフォード、少し静かにしていろ。ではフォス、そなたの父、シーザーの私に対する不敬罪の裁きを言い渡す。」


 皆が固唾を飲んで女王の次の言葉を待ち構える。ことロックフォードにしたら、やっと巡り逢えた孫の一大事だ。蒼白の顔を隠すこともなく、琥珀色の双眸でアビゲイルを祈る気持ちで見つめていた。




「シーザー・ロックフォード、そなたとの婚約は破棄させてもらう」



 女王は声高らかに宣言した。


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