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76.

 ルルドールから『お許し』をもらったクリストファーは、自国から乗ってきた愛馬がカサンドラの宿屋、『シモン亭』の主の計らいでイール城に届けられた知らせを受け、城の厩まで来ていた。  


「おまえたち、久しぶりだな。元気だったか?」


 ルルドールの白馬・ビクターと彼の漆黒の愛馬がピカピカに磨かれ、元気そうに嘶いた。


「……なんかおまえたち、ピカピカだな。それに太ったんじゃないか!?」


 そう、この二頭はそれはそれは大切にされていた。毎日取れたて新鮮野菜や干し草を腹一杯食べ、散歩がてらの乗馬では広い湖に連れていかれ、綺麗にブラッシングをしてもらえた。馬の彼らでもちょっと帰りたくない気分にさせられる、「シモン亭」はそんな素晴らしい宿屋だった。


 クリストファーが久しぶりに会った二頭の変わりっぷりに、あんぐり口を開いていると、何頭もの馬の蹄の音が背後から聞こえてきた。振り向くと、ユノールの国章が入った服を着た騎士たちがこちらに向かって馬を引いて歩いてきていた。その中の一人がクリストファーに気付き、会釈をした。


「貴方は確か、ラドハルト国の」


「はい、クリストファー・ディオスと申します。ところでユノールの方々は帰国されたと伺いましたが、どうされたのですか?」


「…実は、そのつもりだったのですが、女王陛下が襲撃されたとの情報が…それで急遽舞い戻った次第です。」


「そうだったのですか。それで、クライブ殿下はどちらに?」


「それが、私たちに手綱を渡したと思ったら、城の中に走って行ってしまわれました。よほど女王陛下のことが……っとこれは失言でした!申し訳ございません!!」


 女王とクライブの仲の良さは誰もが知ってるる。現に、ワクチン開発に一番協力的だったのもこの男だった。今回の婚約話も、もしかしたらイール国内では、クライブが本命の出来レースだったのではないだろうか。だから他方から見たら邪魔者はルルドールなのかもしれない。


 全く、どこまでも我が主の邪魔をする!そんな気持ちはおくびにも出さず、クリストファーは釘を打つ。


「構いません。クライブ殿下は女王陛下の幼少よりのお知り合いだとうかがっておりますし、遠縁とはいえ血の繋がりもある、言うなれば親族であらせられる方。きっと女王陛下の夫となる我が主の心強い味方になってくださるでしょう。」


「は、はあ……」


 少し言い過ぎかとも思ったものの、各々の立場をはっきりさせておく必要性を感じたからこその発言だった。こと男女間の話に絶対はない。やっと両想いになったばかりの、幸せ一杯の二人に横槍を入れる邪魔者は、早いうちに排除しなければ面倒な事になる。


 しかも、相手はクライブだ。亡くなった王子の親友かつ、女王の幼馴染みにして、最大の協力者。クリストファーはこの男とルルドールに沢山の共通点を感じとっていた。どこがどうとは言葉ではうまく説明できないが、二人は「似ている」のだ。


 とにかく早くクライブの後を追わなくては。クリストファーはそれと気付かれぬように、さりげなく挨拶をした後、騎士たちから自分の姿が見えなくなったのを確認してから、猛ダッシュで女王の私室を目指したのだった。


 すれ違う人々が何事かと振り向くとほどのスピードでクリストファーは走った。ややあって、城の内部、王宮に続く大きな扉が見えてくると、その近くにハアハアいいながら屈みこんでいる宰相を発見した。


「ロックフォード様!クライブ殿下はどこですか?」


「そ、それが、あと一歩のところで逃がしてしまいました……面目ない…」


 息も絶え絶えに頭を下げる宰相の近くにクリストファーは膝を付いた。


「とにかく女王の部屋まで参りましょう。さあ、私の背に乗ってください。」


「かたじけない!頼みます、クリストファー殿。」


「しっかり掴まっていてくださいよ。」


 そう言うと開け放たれた扉の向こう側にクリストファーはスタートダッシュ決めたのだった。



 美しい中庭を越え、そして女王の私室の前に到着してみると、扉は開いたままで、中には困惑する女王を夢中で抱きしめるクライブと、それを少し離れた場所から人を射殺すような鋭い瞳で男を睨み付けているルルドールが、まるで三文芝居の昼ドラの一場面のように佇んでいるのだった。



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