72.
「ルルドール殿下、痛み止めをお持ちいたしました。お加減はいかがでしょうか?」
「ありがとうございます。熱も下がり、肩の痛みもそれほどではありません。ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません。」
「それはようございました。お食事の用意も出来ております。どちらでお召し上がりになりますか?」
ガロンの問いにアビゲイルはチラッとルルドールを見た。
「そうだな、ルルの体調次第だが、朝食は大事をとってこの部屋で摂ろう。」
「かしこまりました。ではこれから用意をさせて頂きますのでしばしお待ちください。……それと、先日お約束しておりました件ですが、私の為に陛下のお時間を少し下さいませんか?」
「……分かった、いつでもいい。日時はそなたに任す。」
「出来ましたら陛下の伴侶となられるルルドール殿下にもご同席頂きたいのです。今回の事件にも無関係ではございませんし、何より私もお二人に真実をお伝えしたいのです。」
「……ルル、どうする?」
「僕もアビーと一緒に話を聞きたいよ。ロックフォード殿、体の具合も良くなりましたからいつでも大丈夫です。」
「では、明日の午後でもよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない。ルルもいいか?」
「うん。」
「ありがとうございます。……それでは食事の準備に入らせていただきます。」
そう言うとガロンは頭を下げて退室していった。
「アビーはロックフォード殿が何を隠しているのか解る?」
「いや、皆目見当もつかないんだよ。彼ほど、彼の一族ほど、この国に忠誠を誓う者たちを私は知らない。彼の一人息子のシーザーもそうだったが、イール国の為だったら命をも惜しまぬ者たちだ。」
「……シーザー・ロックフォード……。アビーは前に同志だって言っていたけど、どんな男だったの?」
「そうだな、……とても穏やかで優しい方だった。私はルルと同じ16歳だったが、貴方と違い、なんの力も持たない非力な小娘に過ぎなかった。彼との婚約でロックフォードの後ろ楯が出来た。私はロックフォード家に守られたから王の道を進んでこられたんだ。」
「ふーん。シーザー・ロックフォード……立派な男だったんだね。なんか妬けるなー!」
「ふふふ。『妖精王子』に妬かれるなんて、女冥利に尽きるな。」
アビゲイルが笑いながらおどけて見せた時、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。
「アビゲイルっ!!無事か!?」
突然姿を現したのは女王の婚約者候補の一人だった、ユノール国のクライブ・レントリーだった。
「ク、クライブ!?」
長い髪を振り乱し、息を切らして部屋に駆け込んできた男は、この男の突然の乱入に驚き、立ち尽くしている女王に駆け寄り、そして力一杯抱き締めたのだった。
「ああ、アビゲイル!無事でよかった!!」
そんな二人の姿をルルドールは静かに見守っていた。その瞳に炎を宿しながら……




