69.
「うーん……」
鳥のさえずりでアビゲイルは目を覚ました。
「今、何時だ?」
窓の方に目をやると、日の光が完全に室内を明るく照らしており、既に太陽が高く登っているのが判る。そこでアビゲイルは昨夜、ルルドールと愛を交わしたことを思い出した。はっとして、上半身だけベッドから起き上がってみると、体は清められ、夜着まできちんと着せられている。
「……ルル?」
しかし辺りを見回してみても愛しい婚約者の姿はなかった。そういえば、ソルシアンたちはアムダルグに帰国したのだろうか?女王がベッドから立ち上がろうとしたその時、扉がゆっくりと開いてルルドールが部屋の中に入って来た。
「あれ、アビー起きていたの?まだ眠っているんだと思ってノックしなかったのに。ざんねーん!」
「……え?なにが残念?」
「だってー、眠るアビーを目覚めのキスで起こしたかったんだもん!」
ルルドールは口を尖らせブツブツ文句を言いながら、ワゴンを押してアビゲイルのベッドまでやって来た。
「まあ、起きているアビーも可愛いからいいか……じゃあ、仕切り直して。……おはよう、僕の女王さま!」
そう言いながら、ベッドに座る彼女を引き寄せ、ちゅうっと口づけをした。幾度となくバードキスを繰り返したあと、ルルドールが額、瞼、頬と顔のいたるところにキスの雨を降らすのを、アビゲイルはされるがままに受け入れる。
そしてひとしきり口づけを終えるとルルドールは『朝の儀式』に満足したように、ワゴンの上にある、みずみずしいフルーツや焼きたてのパン、暖かいスープなどを部屋のテーブルに手際よく並べ始めた。
「アビー、喉乾いたでしょ?冷たいジュースも持ってきたよ。」
軽めの朝食を並び終えるとルルドールは彼女を横抱きにして椅子まで運び、そっと座らせた。
「アビー、体は大丈夫?昨日は無理させちゃってごめんね。今朝はあんまり寝てなくて食欲ないと思ったから、フルーツとスープにしたよ。はい、ジュース。」
「ありがとう、ルル。実は喉がカラカラなんだ。」
アビゲイルが受け取ったジュースを口に含むと、よく冷えた果実の爽やかな味が口一杯に広がった。その一口で喉の乾きを再確認した女王は、残りのジュースを勢いよく飲み干した。それを見たルルドールはすぐに空になったグラスに新しいジュースを注ぎ入れた。
「さあ、アビー。ジュースだけじゃダメだよ。このスープも飲んでみて。あーん…」
ルルドールはいつの間にやら、女王の隣に椅子を並べて甲斐甲斐しく彼女の世話をやきだした。彼にフーフー、アーンされてスープを飲むアビゲイルは聞かなくてはならない、大切な事を思い出した。
「あっ!そういえば、ソルシアン皇子たちはどうしたの?」
「ああ、とっくの昔にアムダルグに旅立って行ったよ。」
「ルルったら、起こしてくれればいいのに。」
「だから、ダメだって。アビー、フラフラだったでしょ?」
「そ、それはルルが手加減してくれないから……」
アビゲイルは上目遣いにルルドールを睨む。しかし、その瞳は潤み、頬は赤く染まっている。
「……ごくん!」
ルルドールの喉が鳴り、その瞳に欲望の色が宿る。カチャリと少し乱暴にスプーンを置くとアビゲイルの唇をいきなり奪った。
「んん…ル、ルル?」
「アビー、今僕を煽ったのは君だよ。どうなっても知らないからね。」
「ちがっ…そんなこ…てない……」
執拗な口づけの合間、切れ切れに否定の言葉を口にするアビゲイルを、ルルドールはサファイアの瞳をギラつかせ、再びベッドに運んでいった。
「ちょ、ちょっと、ル……んんっ!昼間からダメ!」
「大丈夫。さっき部屋には鍵をかけていたし、昨夜のパーティーの片付けで皆忙しいから、僕らの事はそっとしておいてくれるさ。」
アビゲイルは欲望丸出しの目をして自分に迫ってくる、10歳も年下の若い婚約者が、男女の事に長けている百戦錬磨のベテランに見えてきた。このままでは骨すら残らないほど食い尽くされてしまう!
そんな甘い予感に身を震わせながら、ひたすらルルドールの優しい攻撃を己の体で受け止める女王であった……




