67.
ガロン・ロックフォードはため息をついた。今日の舞踏会は彼にとってもかなりヘビーな仕事だった。忽然と姿を現した妖精王子の女王への求婚、ローダスの襲撃、ラドハルト王やランド公爵の突然の訪問……さすがの彼も目が回る忙しさだった。しかも、ガロンがラドハルト王を初めとするアムダルグ皇子やクラーロ令嬢の部屋の手配諸々をしている間に、なんと、女王と若い婚約者が二人して姿を消していたのだった。ガロンが会場に戻って来た時には二人は会場を去った後で、周囲の人間の下世話な話によれば、二人は「ヤりに行った」そうだ。
「はあ、もう少しだけ辛抱すればいくらでも……。まあ、仕方がない。あんなお若い殿下が我慢できるはずもない。女王の御年からすれば、早くお世継ぎが出来るのは喜ばしい事だが、婚儀前にお子が出来てしまっては……ええい、仕方がない!早々に大臣たちを召集して婚儀の日取りを決めるしかない!!」
ガロンはそうと決めると早速大臣たちへと伝令を出した。……そして深夜の会議には眠い目を擦りながら、ランド邸に宿泊していたリカルドも呼び出されたのだった。
そして、早朝。アビゲイルの全てを食べ尽くしたルルドールが幸せ一杯の顔で現れると、そこには、目の下にくまを作った宰相率いる大臣軍団プラス父王、リカルドが待ち構えていた。それから彼は寝不足の男たちに取り囲まれ、これでもかと言うくらいに全員からお説教を食らう羽目になった。それでもルルドールは幸せそうな顔を崩すことはなく、お小言を嬉しそうに聞き流していた。
『ああ、アビー。すごく綺麗で可愛かったなー。』
昨夜、ルルドールの留まるところを知らない若さに、アビゲイルは音を上げ気絶するように眠りについた。そんな彼女をルルドールが部屋の備え付けの風呂に運び、体を清めてベッドに寝かしつけたのだった。本当に彼女は無垢なままだった。それを確認したルルドールは狂喜し、思いのままに彼女を貪ってしまった。
大好きな人と肌を重ねることがこんなに気持ちの良い事だったとは。生まれて初めての体験に、ルルドールは眠る暇さえ惜しく思え、健やかな寝息を立てるアビゲイルの無防備な横顔を、飽きることなく朝まで見つめていた。
「うーん…ルル?今何時?」
途中、アビゲイルが一度目を覚ました。早朝にアムダルグに出立するソルシアンたちの事が気になるのだろう。
「アビー、大丈夫?初めての君に無理をさせてごめん。僕が彼らを見送るから、アビーは寝ていて。」
「ダメよ。私も顔を出さなくては…」
「無理だよ。そんな体で立っていられるの?今日は良い子に僕の言うことを聞かなきゃ駄目、妻は夫に従うものだよ。それに、こんな色っぽいアビーを誰にも見せたくないよ。」
ルルドールがアビゲイルの唇を吸う。
「う……んっ」
「さあ、もう一度目を閉じてごらん。」
優しく囁く声に女王は素直に従い、やがてまた静かな寝息を立て始めた。眠る彼女の顔はまだ少女のような、頼りないあどけなさをルルドールに感じさせた。思えばアビゲイルは16歳の時から、誰にも頼ることも出来ず、どんなに辛く寂しくても一人で耐えてきた。
「今まで、アビーは頑張ってきたんだね。これからは僕が君を守るよ。だからアビーは安心して僕の腕の中で休んでいいんだよ。」
プラチナブロンドの髪に口づけをして、ルルドールは眠る彼女に優しく語りかけた。
「ルルっ!!聞いているのか!?」
父王の声にルルドールは夢から覚めたように顔を上げた。
「全く!何を考えていたんだ?」
「す、すみません。つい」
「ラドハルト国王陛下、こうなったら婚儀を早急に進めませんと、女王陛下にお子が出来たやもしれません。」
「い、今なんと?……子、だと申したのか?」
「!!…アビーと僕の赤ちゃん……出来たかな?」
「私の初孫……ラドハルトの」
「いいえっ!イール国の未来の国王陛下でございます!」
「アビーが僕の赤ちゃん産んでくれる!」
ラドハルト国王、イール宰相、妖精王子。三者三様、訳の分からない事を言い出した。
「……あのー、なんだか夢を見ている所に水を差すようで悪いのですが、そろそろ私たちもアムダルグに出発したいのですが……」
先程から皆の様子を伺っていたジェイルが堪らず口を挟んできた。このまま終わりの見えない不毛なやり取りに付き合う暇はない!ジェイルは内心、舌打ちをしながらやんわりと三人に言った。
「ああ、そうだった!ジェイルよ、本当に行くのか?」
「もちろんですよ。ラドハルト国国王の父上がお引き受けになられた案件ですので、息子の私が責任を持って見届けなくてはなりません。」
「うっっ!!」
リカルドがぐうの音も出ないような痛烈な嫌みをジェイルがさらりと言ってのける。
「……よろしく頼む」
「はい、お任せください、父上。」
「兄上、くれぐれもアニスを宜しくお願い致します。」
「ルル、大丈夫だよ。勝算はある。ふふふ。」
「……兄上、少し恐いですよ」
「ああ、すまない。アムダルグに行くのが楽しみで仕方ないんだよ。」
ジェイルはルルドールにしか聞こえない小さな声で囁いた。




