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66.

 ルルドールはアビゲイルを抱えたまま、ゆっくりと中に入って行く。


「この先はイールの王族だけが住む場所だ。ようこそ、ルルドール。貴方が私と生涯暮らす後宮へ。」


「後宮……」


 後宮。それは王妃の他にも王の寵愛を賜った妃、愛妾などが共に住む場所だ。いわば国王のハーレムの事を言う。


「ああ、勘違いしないで。後宮とは名ばかりで、現在は王宮と言った方が正しいな。先々代はここに正妃以外に妾を住まわせていたけど、私の父は死ぬまで母一人を愛したし、私も他の男と契る気など、絶対にない。部屋は沢山空いているが、将来私たちの子どもの部屋にすればいい。」


「……僕たちの子ども…うん、すごく欲しい!でも無理はしないでね。母上は僕を産むために命を落としてしまったんだから。アビーにもしものことがあったら、僕も生きてはいけないよ。」


「大丈夫。私はこう見えて結構しぶといから。疫病にだって負けなかった丈夫な体だ。子の一人や二人産んで見せる。」


「うん、分かったよ。じゃあ、部屋が足らなくなるくらい、僕の赤ちゃんを産んでね!」


 キラキラした瞳で言い切られて、アビゲイルは少したじろぐ。


「え?そ、それはちょっと……」


「ふふふ…。じゃあとりあえず、一人目、作ろうか。」 


 ルルドールが本気なのか冗談なのか分からない事を笑って言いながら、中に進んでいく。中庭には美しい花が咲き乱れ、周囲は良い香りで包まれている。中央には噴水の水が外灯の光にキラキラと光り、夜の中庭は幻想的な空間を創り出していた。


「美しい中庭だね。」


「私の母上のお気に入りの場所だった。私もこの場所が大好きなんだ。」


「うん。アビーがここを好きな気持ち、よくわかるよ。ここにいると気持ちが落ち着くね。それにラドハルトの裏庭にとてもよく似ているんだ。」


「……ああ、そういえば似ているな。」


「え?アビーはラドハルトの裏庭を知っているの?なんで?」


「ふふ。それは秘密だ。」


「えー?なんで?アビーのケチ!」


 そんな他愛のない話をしながら、二人はお互いの緊張を解きほぐすように奥へと進んでいく。女王の道案内で中庭を過ぎ、建物の最奥の部屋までたどり着くとルルドールはそっとアビゲイルを降ろした。いつもいるはずの警備兵はおらず、女王が自ら扉を開けた。すでに朝までこの部屋には近づくなと、人払いはしてある。


「ルル、ここが私の部屋だ。……おいで」


 柔らかな手がルルドールの手に重なる。瞬間、彼の手が小さく震える。


「ごくん!」


 ルルドールは唾を飲み込み、手を引かれてアビゲイルに誘われるまま、その扉の奥に消えていった。


「パタン」


 扉は静かに閉まり、日が登るまで開くことはなかった。


  

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