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60.

「お初にお目にかかります。私はアムダルグ帝国第二皇子、ソルシアンと申します。アニス嬢を一目見た時から、彼女の虜になりました。知り合って僅かではありますが、是非とも我が妻に迎えたいのです。彼女を泣かすようなことは絶対にしません。必ず幸せにします、義父上。」


「ち、義父上……」


 ダンに話を聞いていたので、それなりの覚悟はしていたつもりだが、昨日までは浮いた話一つなかった愛娘にいきなり恋人が現れた。そして今、父である、自分に「お嬢さんを下さい」と乞う若者に、ザックはなんだか腹が立ってきた。


「どうか、アニスを私に下さい。」


 礼儀正しくソルシアンが頭を下げる。それは感動的な場面になるはずだったのだが…


「………………………いやだ!」


「ええっ?と、父さん!?」


「絶対いやだ!!」


 父さん、さっきと話が全く違うのではないですか?とダンが目を丸くして父を見つめる。亡き妻とも約束した。息子たちにも偉そうなことを言った。だが、嫌なものは嫌なのだ。


「お父様……」


 父の拒絶の言葉にアニスの瞳に涙が浮かび、息子たちの非難の目がザックを刺す。


「ううっ!!」


「義父上!!」


「っ!義父上と呼ぶなっ!!」


 ザックは思わず赤毛の皇子に怒鳴り声を上げた。


「なっ!!父さん、アムダルグの皇子に何て失礼なことを!」


 ダンが父の愚行を咎めようとすると、ソルシアンがそれを止めた。


「いいのです、兄上。私が娘を持つ父なら同じ態度をとるでしょう。私とアニスの娘が……ああっ、想像するだけでも苦しくなってくる!くぅっ!!」


 ……それは考えすぎだとカイルもサンダートも思った。が、


「あ、兄上……」


 妹はいるが、弟はいないダンが『兄上』という言葉に反応する。


「父さん、ソルシアン殿下はとても気さくな良い方ではありませんか!私は二人の結婚に賛成します。貴方は一体何が嫌なのですか?」


「そ、それは……、そ、そうだっ!アニスはイール国から出たことがない。きっと異国で苦労する!」


「それでしたら、私がイールで暮らしましょう。」


 ソルシアンが間髪いれずに答える。


「で、でも身分の差があり、アニスが辛い思いをするかもしれない!」


「幸い私は嫡男ではありません。王族を抜けても何の問題もありません。」


「しかし、ソルシアン殿下は大勢の……その、女性と関係があると聞きました。大事な娘を愛人や妾になどするつもりはありません。」


「もちろんです!……私は……私は今までに大勢の女性と関係を持ちました。その過去は消せません。しかし、これからはアニスだけです。それに、アニスを愛人や妾になんてする気はありません!先ほど私はアニスを我が妻に迎えたいと申しました。私の一生でただ一人だけの妻になってもらいたいのです。」


「ぐっ!し、しかし……」


「そこまでだな、クラーロ。」


 聞き覚えのある低い声がザックの横から響く。その声の方に顔を向けると


「ラ、ラドハルト国王陛下っ!!いつからこちらに!?」


「そなたが気付かなかっただけで、ずっとここで見物しておったぞ。ククク…」


「はぁ…」


 ザックはなんとも気の抜けた返事をした。クラーロ商会はラドハルト国の鉱山発掘権を所有しており、ザックもふた月に一度は現地に赴く。もちろん、国王への謁見は欠かさず行っている。


「ところで、陛下はどうしてこちらにおいでになられたのですか?やはり、ルルドール様がご心配で?」


「まあ、そなたとあまり変わらぬ理由だ。それより、あれがそなたの家で世話になったそうだな、あらためて礼をいう。しかし子を持つ親というものは本当に心配が絶えぬものよな。たが、親の心配を余所にいつの間にか子は成長しておる。ふっ、そういえば私も先ほど、ルルドールにやり込められたばかりだ。」


「うっ!わ、私はやり込められたわけではありませんし、まだまだ納得もしておりません!」


 頑固なザックの言葉にとうとうアニスの堪忍袋が切れた。


「お父様がそれほどまでに反対なさるのなら、私たちはラドハルト国に亡命いたします!」


「え!?ま、待て!それは駄目だと言ったであろうが!!クラーロ!いい加減、敗けを認めたらどうだ?往生際が悪すぎだ!」


 ザックは皆を敵にまわし、苦戦を強いられていた。これでは自分に勝ち目はない。しかしそこで男は気が付いたのだった。自分には最強の味方がいることを。


「……私はアムダルグとも取引をしておりますが、この結婚をアムダルグ皇帝陛下がお許しになるとは到底思えません。ではソルシアン殿下がお一人でお父上をご説得されるのであれば、このザック・クラーロも二人の結婚を認めようではありませんか。ただし、円満にですぞ。亡命も、縁切りも論外です。」


 さすがのソルシアンも言葉に詰まった。まだレベルアップ中の戦士が周囲のサポート無しでいきなりラスボスとサシで戦わなくてはならないからだ。しかもリセットは効かない一発勝負、あの、父相手に食うか食われるかのガチバトルだ。


「では、私も共に参ります。」


「アニス!」


「お父様、止めても無駄です。これはソルシアン様と私の問題ですので。」


「す、好きにしなさい!泣く羽目になっても私は知らないからな…」


 最後の方は尻窄みになりながらも、ザックは強気に言いきった。


「私はソルシアン様の護衛ですので、お共いたします。……キャシー。少しの間、良い子で待っておいで。土産に君に似合う指輪を買ってこよう。」


 当然のごとくドルフが名乗りを上げた。しかしそんなことより、いつの間にやら男がカサンドラを愛称で呼んでいることの方が皆、衝撃だった。そして……


「じゃあ、私が第三者として同行し、二人の立会人になりましょう。」


 なぜだかラドハルト国第二王子ジェイル・ファサーが立会人を自ら引き受けたのだった。



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