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59.

「これは、クラーロ殿。いかがいたしました?」


「ロックフォード様……こちらこそ、お伺いしたい。一体、中で何が起こっているのですか?我が娘は無事なのでしょうか?何の説明も頂けず、こうして外で待てと言われましても、はいそうですか。と従うわけにはまいりません!」


 二人は対峙したままお互いを睨み合った。この国の宰相相手だというのに、父の衣着せぬ物言いに三人の息子たちはハラハラしながら、睨み合う二人の男をただ見守るしかなかった。しかし先に目をそらしたのは、ロックフォードだった。


「ふ……、さすがクラーロ殿だ。相手が誰であろうとも、自分の信念を曲げたりはしない。貴方には負けました。ご令嬢はご無事です。さあ、こちらに。」


 ロックフォードは入り口の兵士を下がらせ、ザックと息子たちを中に案内した。


「ただし、これから目にするものに驚かれぬように。」


「い、一体それはなんなのですか?」


 ザックが珍しく怯むのが愉快だったようで、宰相は「それは見てからのお楽しみで……」と意味深な笑みを浮かべ、呟くだけだった。途中、華やかな音楽と人々の談笑する声が聞こえ、ザックがその方向に目をやった。それに気づいた宰相は彼に初めての事の真相を伝えたのだった。


「そんな事になっていたのですね……。女王の舞踏会でなんと恐ろしいことを!それで、ルルドール様のお怪我の具合はいかかなのでしょうか?ま、まさか、大怪我をされてはおりませんよね?」


 ダンの言葉にザックも兄たちも宰相に詰め寄り答えを待つ。ロックフォードは苦笑いしながらあわてふためくクラーロ家の男どもに言い放った。


「大丈夫だ。少し出血は多かったものの、大事には至らなかったし、もしそうであれば、私がのんびりとご貴殿たちを案内しているわけがなかろう。ルルドール殿下は今、女王陛下と第二会場で、その……お楽しみ中だ。しかし、まだ16だというのに、大したお方だ……」


 立ち止まったロックフォードは、音楽の聞こえてくる方向を振り返り満足そうに頷いて見せた。そしてザックたちを案内する為にまた歩き始めた。


 何度目かの角を曲がった奥に貴賓室が見えてきた。

 

「着きましたぞ、さあどうぞ。」


 ロックフォードに言われてザックは扉の前に立った。

 

「この中にアニスがいるのですね。」


 宰相は頷き、ザックたちに中に入るように促す。中からは何やら話が聞こえてくるが、この重厚な扉に阻まれて内容までは聞き取ることは不可能だった。『 これから目にするものに驚かれぬように。』先ほどの宰相の言葉が頭の中によぎる。ザックは少し躊躇いを見せた後、意を決してドアをノックしたのだった。 


 暫くするとカチャリと扉が開き、中から若い女性が顔を出した。    


「カ、カサンドラさん!」


「ダンさん、……それにクラーロさん!?」


 ダンはともかく、ザックまで目の前にいることにカサンドラは驚き、咄嗟に中に目配せをしたのだった。ザックはそれにすぐに気付き、カサンドラを押しやるように中に入る。


「失礼するよ。」


「あっ、クラーロさん!!」


 慌ててカサンドラが止めようとしたが、時すでに遅く、ザックは部屋の中にするりと入り、辺りを見回した。すると、最愛の娘が晩餐用のテーブルの奥にあるソファーに座っているのが見える。娘の無事を確認できたザックは胸を撫で下ろした。


「アニスっ!無事でよか……」


 よく見るとアニスの隣には赤毛の男が座っており、少女の小さい手をぎゅっと握りしめて寄り添っていた。後から入ってきた息子たちは酸欠の金魚のように、口をぱくぱくさせ、驚いている父を見て天を仰いだのだった。


「父さん、しっかりしてください!!」


 長男カイルに叱咤され、ザックははっと我に返った。  


「お、お父様!何故ここに?」


 アニスはソファーから立ち上がり、驚きの声を上げた。『何故』とは、こっちが聞きたい!ザックは怒鳴り散らしたいのをなんとか堪えて、アニスがいるソファーまで歩いていった。


「……アニス。兄さん達から話は全て聞いた。無事でよかった。」


「お父様、心配かけてごめんなさい。私はこの通り、大丈夫よ。それに……」


 アニスはほんのりと頬を染め、隣にいる男を見つめていた。そして赤毛の男はゆっくりと立ち上がると、ザックに挨拶をしたのだった。



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