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56.

 ルルドールが夢のような時間を過ごしている頃、リカルドは悪夢のような現実に頭を抱えていた。宰相の指示で貴賓室に案内された一同は、最高級のもてなしを受けながら、これからのことを皆で話し合う。


「大体、私にあのアムド二世を説得することなど、本当に出来るのであろうか?」 


「父上、初めからそんな弱気でどうしますか!ここは愛する二人のためにガツンとやってください!」 


 なぜだかジェイルが俄然やる気を出し、父王をけしかける。


「……何をだ?」


「はい?」


「だから何をやればいいのだ?そもそも、ソルシアン皇子はアビゲイル女王と婚姻を結ぶためにこの国に来たのだぞ。それを違う娘を娶りたいそうだから、許してやってほしいと私が言ったところで、あの男が首を縦に振ると思うのか?


 しかもその息子はまんまと女王の婚約者に収まっているのだぞ。そんな男の話をあやつが素直に聞き入れるとでも?それどころか、私がクラーロ家と結託し、 ソルシアン皇子を唆したと思われるのが関の山ではないか!」


「うーん……じゃあ、思いきって二人ともラドハルト国に亡命させちゃいましょう!」


 ジェイルが世にも恐ろしい事を言い出したので、父王は椅子から飛び上がるほど驚いた。


「なにっ?そ、そんな恐ろしいことをしたら、確実に両家から命を狙われるぞ!!」


 しかし、その言葉をアムダルグの皇子は聞き逃さなかった。


「亡命か。なるほど、その手があったか!アニス、父上たちに反対されたら、私とラドハルトに行ってくれるかい?」 


「ソルが一緒ならどこにでも行くわ。」  


「お、おいっ!!二人とも私の話を聞いていたか?亡命は無理だっ!新婚旅行なら歓迎するが、亡命だけはやめてくれっ!!なっ!」


「父上……」


 すっかりラドハルト国国王の威厳もなにもかもかなぐり捨て、リカルドが若い二人に懇願する。そんな悲壮感漂う父王の姿を息子のジェイルは哀れんだ目で見つめるのであった。


 だがしかし意外にもリカルドのその言葉にソルシアンは反応した。


「し、新婚旅行……!アニスとふたりっきりの新婚旅行!!」


 してやったり!ラドハルト国王は内心ニヤリとほくそ笑み、まるで旅行代理店のスタッフのごとく、彼らに一層魅力的なプランを提案する。


「今の季節、野山には美しい野ばらが咲き乱れ、それは良い香りがするぞ。それに、美しい湖のほとりには我が自慢の別邸がある。夜には月が湖面に映り、ふたりきりでロマンチックに過ごすことができる、最高の場所だ。どうだ、行きたくはないか?」


「……是非、お願いいたしますっ!」


「分かった。その代わり、亡命は無しということで。」


 ソルシアンがテーブルから身を乗り出して頭を下げれば、リカルドはすかさず約束を取り付ける。こうしてまだ両家に許しどころか、結婚の報告もないままに、新婚旅行の行き先だけが決定したのだった……





 そして、クラーロ三兄弟は……もう長いこと馬車の前で揉めていた。はじめ、兄二人から事の顛末を聞いたダンは慌てふためいた。


「ど、どうしよう、父さんが知ったら大変な事になる!大体、兄さんたちは何をしていたのですか!」


「俺たちのせいにするなっ!もとはといえば、おまえがアニスをルルドール様に引き合わせたのが悪い!ダン、なんとかしろ!」


「そうだよ。僕らは急遽、舞踏会に参加しただけでアニスの事はおまえに全て任せていたじゃないかっ!」


 薄情な兄たち二人によってたかって責められ、ダンは項垂れた。しかし、このままでは父の怒りの雷は間違いなくダンの上に落ちてくるだろう。舞踏会がお開きになるにはまだまだ長い時間がある。ダンが今から屋敷まで往復してもなんの問題もなかった。


「兄さんたちはここで待機していてください。私はこれから屋敷に戻り、父さんを連れて来ます。」


 ダンはそう言って二頭立ての馬車から一頭の馬の手綱を外し、その上に鞍の無いままヒラリと飛び乗った。


「え?と、父さんを連れてくる気なのか?」


「仕方ないじゃありませんか。あのアニスの性格じゃ、ソルシアン皇子を諦めるわけがない。思い込んだら一途なところは一体、誰に似たのでしょうね。とにかく私が父さんを連れてくるまでの間、よろしくお願いします。」


 そう言ってダンは城下町に続く表門に向けて馬を走らせた。


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