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52.

 床に転がる男は紛れもなく前国王の弟、ローダス・イーリアだった。


「イーリア公爵!」


 ロックフォードが兵士に指示を出し、ローダスを立ち上がらせ、縄をほどいた。いくら女王を狙った犯人だとしても、前国王の弟を皆の前で縄を打ち引き立てて行くのは、王族の品位を損なうことになる。


「イーリア様、お逃げになろうとしても、無駄でございます。我々は貴方様に敬意を示し、ここからお連れしたいと思います。ただし、暴れたりなさるようでしたら再度皆の目の前で縄をかけることになりますので。」


「分かっている。逃げる気など、はなからない。好きにするがいい。俺の敗けだ。」


「イーリア公爵、叔父上!貴方が私の命を狙ったのか?そこまでしても王位がほしかったのですか?」


「ああ、ほしいさ。全てを手に入れて生を受けたおまえには一生解らないだろうよ。おまえさえいなければ、俺がこの国を自由に出来たのに残念でならない!」  


「……国を自由にするだと!?」


「そうだ。国を生かすも殺すも俺の思うまま。俺がこの国の神になるんだ!」  


「ふざけるな!この国は民のものであって、王族や貴族、ましてや貴方のような人間が思い通りに出来るものではない。」


「くくく……民だと?民とは虫けらのように地を這いずり回り生きている平民の事を指しているのか?」  


 ローダスは小馬鹿にしたような笑いを漏らすが、女王は全く動じることはない。


「その平民たちがこの国を支え、この国を豊かにしてくれているのが貴方には解らないのか!!……虫けらだと?彼らの生活にこそ、生きる喜びがあり、ささやかな幸せの中にこそ、なんのために生きているかの答えがある。そんなことも解らないなんて、貴方は本当に我が父上の弟なのか!?」


「なんだと!?おまえまで私に王族の血が流れていないと疑うのか?その髪と、その瞳で俺を馬鹿にしやがって!!……ふっ、そうだ。最後に一ついい事を教えてやろう。おまえが絶大なる信用を寄せているその男だが、はたして今回の件について完全に無関係だといえるかな?くくく……本人に聞いてみるといい。なあ、……ロックフォード!」


 ローダスの言葉に宰相の顔色が変わった。しかしすぐに平静心を取り戻し、彼は口を開いた。


「……女王陛下、これより罪人、ローダス・イーリアの取り調べを行います。裁きの塔に連行してもよろしいですか?」


「ロックフォード、そなたに任せる。」


「かしこまりました。連れて行け!私も後からすぐに行く。」


「はっ!」


 ローダスが兵士たちに連行されていく。それを見送ると宰相は女王とルルドールに向き合った。


「さあ、ルルドール殿下、早く手当てを。こちらに医務室がございます。」


 ルルドールは医務室で服を脱ぎ手当てを受けた。肩の銃創は出血の割には、周りの腱を傷つけてもおらず、銃弾も貫通していたお陰で後遺症が残る可能性は無かった。頬の傷はそれほど深いものではなく、時間が経てば元通りになると医師が言うと、皆の一同にほっと胸を撫で下ろした。そして彼が医務室にいると聞き付けたアニスとカサンドラは凄い勢いで駆け込んできて、血まみれのルルドールを見て、ワンワン泣き出したのだった。そしてその怒りの矛先は……


「ドルフ様っ!!一体どうしてこんな事になったのですかっ!!貴方は私に大丈夫だとおっしゃってましたよね?」


 すごい剣幕のカサンドラに『狂犬』ドルフの面影は全くなく、ひたすら頭を下げて謝りまくる。第一、ルルドールが無事なのはドルフのお陰だと言っても過言ではないはずだが、どうやら男の活躍を労ってはくれないらしい……


「あ、でも男にとってはこんな傷、たいした事ではない。しかも、女王を守っての名誉の傷。かえって箔が付いていいのではないか?」  


 なんだか納得いかない気持ちを抱きながら、しどろもどろで弁明をする男をカサンドラは一掃する。


「ルル様は兵士ではなく、妖精王子なのですよ!今さら箔なんて付けなくても十分なんです!!」


「あ、えっと、もう大丈夫だよ、カサンドラ。モードン殿のお陰で僕もアビーも無事だったんたよ。ありがとう、モードン殿。……ドルフって呼んでもいい?」


 傷だらけのルルドールも変わらずルルドールだった!ドルフはコクコク首を何度も縦に振り続けたのだった。




「ああそれにしても、ルル様のお顔にこんなひどい傷が!!ラドハルト国王と兄君たちが知ったら、怒り狂うわね、きっと。」


 アニスの言葉にアビゲイルが身震いする。確かにこんな失態が外に漏れたらイール国の恥になる。しかもあの美しい妖精王子の顔に醜い傷を作ったとなると……。ぶるぶるっ!!女王の様子にルルドールは心配そうに尋ねた。


「どうしたの、アビー?震えているようだけど寒いの?僕の上着、かけてあげたいけど、血まみれで。ああ、アニス。せっかく素敵な服をプレゼントしてくれたのに、ほんとにごめん!」


「いいのよ、ルル様が無事なら服の一枚や二枚、どうってことないわ。でも、替えの服がもうないわ。また女装するわけにもいかないし……」


 するとロックフォードが助け船を出した。


「それならゲスト用に用意してある服がございます。今からこちらに持って参りますのでしばしお待ちください。」


「ロックフォード殿、助かります。ありがとうございます。」 


「……いや、その必要はない!」


 突然凛とした威厳のある声が部屋の入り口から聞こえてきた。

 

「…………あれ?この声はまさか!」


ルルドールが声のする方を恐る恐る振り向くと、


「……え?ええーーー!?ち、父上ぇっ!?」


 そこにはこめかみに太い青筋を立て、仁王立ちをしているラドハルト国王がいたのだった……



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