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51.

 三度目の銃声でその位置を確実に捉えたドルフはそっと男達の背後から忍び寄り、暗闇でも夜目の利く鋭い瞳で敵の人数を確める。全部で四人、二人が木の上から、もう二人がその下から会場を狙っていた。彼は素早く下にいる男一人の口を手で塞ぎ、暗がりの広がった草むらに引きずり込んだ。すかさず首に短剣を押し当てて、なんの躊躇いもなく引く。男は断末魔を上げる隙さえなくその体を草むらに横たえた。


 そしてすぐさま木の上の二人を銃で狙い、引き金を引いた。しかし時既に遅く、木の上の男が四発目の銃弾をルルドールに向けて発射した直後だった。


「ちっ!」


 ドルフは舌打ちをしながら、転がり落ちてくる男達には目もくれず、最後の一人、ローダス・イーリアに峰打ちを喰らわせた。ローダスは何がなんだか分からないまま、仲間三人を次々と殺され、気付いたときには縄で縛られ、草むらに転がされていたのだった。そして……


 四発目の銃弾はルルドールの背後に迫っていた。このまま直撃すれば致命傷にもなりかねない。しかし彼は覚悟を決めていた。まだ幼かったあの頃、アビゲイルに守られ何も出来ない自分に失望した。だからルルドールは今まで頑張ってこられたのだ。今度は絶対に自分が愛する人を守るのだと。


『ああ、やっとアビーを守ることが出来た。撃たれてちょっと痛いし、死ぬのも嫌だけど彼女が生きていてくれれば、それで僕は幸せなんだ。……母上、ごめんなさい。せっかく命を懸けて僕を産んでくれたのに。でも、僕、後悔してないからね。あー、本当に幸せだった!』


 そんな感傷に浸りながら、女王に生まれて初めてそして、最期になるやもしれない口づけを贈ったルルドールの周囲が急に静かになった。


 ……まるで時間が止まったような静寂の中に二人は取り残されていた。


「あ、あれ?」


 異変に気付いたルルドールはアビゲイルから唇を離し顔を上げた。女王も同様に周囲を見回す。……人々は石像のように動きを止め、傾いたテーブルから落ちた水差しは空中でその姿を留めていた。


「……ルル、一体何が起こってる?私には時が止まってしまったように見えるのだが……」


「……うん、そうみたいだね。僕と君以外は誰も動いていないもの。それに……」


 ルルドールは後ろを振り返る。彼の背中ギリギリの所に銃弾が空中で止まっていた。


「ルルっ!!」


「大丈夫!当たっていないよ。」


 そう言って銃弾を指で摘まむと誰もいない方に向きを変えた。それを見てアビゲイルはほっと胸を撫で下ろした。


「しかし、なんでこんな不思議な事がおきたのだろう?ルル、心当たりはある?」


「……うん。今回みたいな事は初めてだけど、今までも身に危険が迫った時には、目に見えない何かがいつも僕を守ってくれていた気がするんだ……あっ!!」


 ルルドールが話の途中で叫び声を上げた。驚いている彼の目線を女王が追うと目映い光の中に人影が浮かんでいた。その影は次第に濃くなり、一人の美しい女性が姿を現した。


「え?ルル!?」


 ルルドールに瓜二つの女性にアビゲイルは驚いた。


「!!……は、母上?」


 妖精王子の声が震えている。その女性は何も言わず優しい笑みを浮かべ、暫くの間、二人を慈愛の瞳で見つめていた。


「母上!!ずっと……ずっとお逢いしたいと思っていました。いつも僕の側にいてくれたのですね…僕を守ってくれていたのですね!!母上が僕を愛してくれていた!!僕はなんて幸せなんだ!……僕を……僕を産んでくれてありがとう!!」


 ルルドールのサファイアの瞳が暖かい涙で濡れる。母はもう一度微笑むとゆっくり頷き、光の中に徐々に溶けてゆく。


「ああっ!母上!!今までありがとうございました!貴女の子供に生まれて僕は本当に幸せです。ありがとう、母上!!」


「お義母様、私たちは必ず幸せになります。私の大切なルルドールを守ってくださり本当にありがとうございました。」


 母は笑いながら最後に大きく手を振って光の空間と共に完全に消え去った。少しの間、二人は固く手を繋いだままその場に立ち尽くしていた。


「母上、ありがとうございました……さあ、アビー、行くよ。」


 涙を拭いルルドールがアビゲイルを安全な場所まで移動すると、時間がなにごとも無かったかのように流れ始めた。とたんに、誰もいなかったテーブルのグラスに銃弾が当たりパンと砕け散る。


「ルルっ!!!」


 クリストファーが苦悩に満ちた叫び声を上げた。


「なに?クリストファー。」


「………………」


「だからー、なにさ?」



「……えっ?…………ええー!?ル、ルル?」


「うん、そうだけど。」


 いつの間にかクリストファーの側までやって来ていたルルドールを、彼は信じられないものでも見たかのように目を丸くして見つめた。そして、


「っ!!ルルっ!……ああ、無事でよかった!ルル、ルルドールっ!!」


 突然男は目に涙を浮かべて、ルルドールを力一杯抱きしめたのだった。


「……クリストファー、い、痛いよ。僕、撃たれて怪我してるんだよ!」


 はたと我に返り、クリストファーは周囲を見渡す。アビゲイルがルルドールの隣でじとっとした目を男に向けてくる。


「うっ!わ、悪い。ってかなりの出血じゃないかっ!!早く手当てをしないと!!」


 ロックフォードも驚きながらこちらにやってきた。


「いつの間にお二人はこちらにおいでになられたのですか?それはさておき、ご無事で安心いたしました。ルルドール殿下、女王をお守りいただき感謝いたします。さあ、まずは出血を止めませんと。」


「僕は大丈夫です。それより賊を一刻も早く捕まえてください。このままでは女王の御身が心配でしかたありません。」


「それには及びません。賊はこの通り、私が確保いたしました。ああ、まあ他の三人はもう、口も聞けなくなりましたがな……くっくっくっ……」


 割れた硝子戸からドルフが一人の男を担いで入って来た。ドサリ。縄でぐるぐる巻きの男を投げ落とす。


「うっっ!」


床に乱暴に落とされた男が呻き声をあげた。



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