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47.

 それからというもの、男は頻繁に屋敷に入り浸るようになった。母は男の髪を茶色に染め、眼鏡をかけさせた。そして男に金を与える代わりにローダスとの接触を禁止した。男はローダスが外出している間にこっそりと現れ、去っていった。


 ローダスは生まれてからずっと自分が母親に似ているものだと思っていたし、実際、今は亡き前国王からもそう言われた事があった。だから髪の色のくすみや、瞳の色の濁りは父に似なかっただけだと納得していた。


 しかし、異母兄を見た時、彼と自分には決定的な違いがあると感じ取った。そして、あの男を見た時、その違いが異母兄と自分のルーツの違いだと思い知らされたのだった。自分に王家の血が流れていないことにショックを受けたが、それよりも真実がばれてこの生活が送れなくなることが、一番怖かった。


 とにかく母に全てを白状させてから、これからのことを考えるしかない。意を決したローダスは酔いつぶれた母親を問い詰めた。


「おまえの言う通り、あのじいさんはおまえの本当の父親じゃなかったのさ。あははは。おまえが腹にいるって言った時は泣いて喜んでたっけ。全くおめでたいったらありゃしない!」


 母は酒のせいか、聞きもしないことをペラペラと喋ってくれた。侍女を金で買収し、王妃を毒殺したこと、前国王にも少しずつ毒を盛っていたこと全てを告白したのだった。


 自分が王家の血筋ではないことは薄々気が付いていたのでそれほどのショックはなかった。それより、王も王妃もこの母親が殺していた事実の方が衝撃だった。しかもこんな大罪を犯しておきながら、それをいとも簡単に白状してしまうあたり、浅はかで愚かしい娼婦そのものというしかなかった。ローダスは母親がこの事実をうっかり誰かに漏らしてしまう事を危惧していた。それに加えてあの男、ローダスの実父の存在も彼を悩ませた。


 生まれてからこのかた、少年は両親からの愛情を感じたことがなかった。寝たきりの父、酒浸りで男狂いの母、どちらも自分の事で精一杯で子どもがいることすら、覚えていないんじゃないかと思うほどに、ローダスに無関心だった。もともと寂しさを感じてはいなかったし、何の束縛もなく思いのままに生きてこれた。彼を邪魔するものは何もなかった。……そう、今までは。




 それから5年の月日が過ぎていった。35歳になった現国王である異母兄は、既に6歳になる王子と今年生まれたばかりの王女の二人の子どもを授かっていた。王妃も子どもを二人も出産したとは思えない美しい体型を保ち、その美貌は衰えることはなかった。そして夫婦仲もとても良く、幸せな国王一家は国民の平和の象徴だった。  


 ローダスも15を迎え、あと一年で成人となる。学ぶ事といえば、カードやルーレット、喧嘩の勝ち方くらいで、全くといっていいほど学問には興味を持たなかった。それでも異母兄はこんな弟を気に掛けており、成人のあかつきには、公爵の地位を与える約束までしていた。そして国王は弟の為にその用意を着々と進めていた。


 そんな兄の気持ちも知らず、ローダスは相も変わらず、悪友たちとの遊びに明け暮れる日々を過ごしていた。母は今までの不摂生がたたり肺を患い、今はラークよりもっと南にある海の見える保養所で療養中だ。『いっそのこと、死んでくれ!』ローダスはなかなか死んでくれない母親に呪いの言葉を口にした。そして、実父はというと、脅迫する相手を『元国王の愛人』から『将来の公爵』に変更していた。


「なあ、ローダス様よ。俺もだいぶ年を取って、体のあちこちにガタがきちまった。そろそろまとまった金を持って隠居生活でも送ろうと思うんだ。おまえさんが今の生活が出来るのは俺が口を閉ざしているお陰だって事を忘れちゃいないよな。ローダス、この哀れな父親に救いの手を差しのべてくれるだろ?」


 父親だと?反吐が出る!!ローダスは今、この場でこの男を殺してくれるなら、悪魔に魂をくれてやってもいいとさえ思った。





「殺したい男がいるんだ。」


 ローダスが仲間といつもの酒場でカードをしながらポツリと呟いた。


「……若い男か?」


「いいや、年寄りさ。だが、俺が公爵になるのに邪魔になる男なんだ。」


「そりゃ困るな。……じゃあ、俺たちに任せておけよ。それで、そいつはどこの誰なんだ?」


 尋ねられてローダスは男の必要最小限の情報を仲間に伝えた。


「あいつは今日、屋敷に泊まって明日の朝、王都に帰るつもりだ。ところで奴をどうするつもりなんだ?」


「それは聞かない方がいいんじゃないか?なあ?」


「くくく、ああ、おまえは何も知らない方が身のためさ。だが、この貸しは高いからな。さあ、少し早いが今日はこれでお開きだ!行くぞ。」


 三人の悪党はローダスを残して席を立った。


 そして王都への帰り道だった男の馬車が崖下から発見されたのは次の日の夕方のことだった……


 一年後ローダスは無事、イーリア公爵になった。母も彼の願い通りに闘病の末、この世を去った。これでこの男の秘密を知る人間はいなくなった。


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