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44.

 ルルドール達が控えの間に向かった、ちょうどその頃、クリストファーは一人の男の動きに注目していた。その男は女王と若い婚約者が踊っていたのを、腕組みをして神経質そうに片足を踏み鳴らし、 鋭い目付きで睨み付けていた。女王が中座してからは、部屋の隅のカーテンの陰で、人相の悪い下男数名と、何やらこそこそ話をしている様子だった。


 クリストファーがまず、この男に目を留めたのは、プラチナブロンドの髪と金色の瞳だった。これはイール王家に生まれた者の特徴と一致するが、男のそれはどちらも少しくすんだ色をしていて、王族とは違うようにも見えた。服装は上流貴族の華美な格好をし、容姿もそこそこ整ってはいたが、時おり見せる人を見下した下卑た笑みには、王家の品格は一切見受けられなかった。


 クリストファーが男に気を取られていると、ふいに後ろから若い女性の声がした。


「あの、もしお時間がおありでしたら私と踊っていただけませんか?」


 振り向くとそこには一人の女性が立っていた。クリストファーは内心、面倒だと思ったが、女性からの申し入れを断るのは失礼にあたる。それに彼女の身なりから、貴族の令嬢だということが判った。もしかしたら、あの男が誰なのか、彼女が知っている可能性もある。


「喜んでお相手いたします。さあ、お手をどうぞ、美しいお嬢さん。」


 クリストファーは自分で言っていても、鳥肌が立つ様なキザな台詞で女性の手を取り、ダンスホールにエスコートしていった。彼のそつのないリードで女性は楽しそうに踊る。


 騎士であるこの男がこれほどまでにダンスが上手いのには理由があった。それは小悪魔王子、ルルドールの『お願い』でよくダンスの相手をさせられていたからだった。今までの恐ろしい経験からか、少年はクリストファー以外とダンスの練習をすることを嫌がった。


『この際だから、君も上手に踊れるようになったら?君だって貴族の子息なんだからさ。』


クリストファーはルルドールに無理やり仕込まれて、いつの間にやら男女どちらのパートも完璧にマスターしてしまったのだった。


 踊りながらクリストファーが女性に話しかける。


「イール国は素敵な国ですね。それに皆さん、親切な方ばかりで安心いたしました。特に、あのカーテンの側にいらっしゃる紳士には、大変お世話になりました。お嬢さんはあの方のお名前をご存知ですか?」


「え?まあ、珍しい!あの方が他人に親切にするなんて信じられないわっ!」


 今まで、うっとりとクリストファーと踊っていた彼女はあからさまに嫌な顔をして言い放った。


「貴女は彼とお知り合いなのですか?」


「いいえ!あんな方とは知り合いどころか目も合わせたくはありません。」


「おや、貴女のような美しく優しい女性に、それほど毛嫌いされるとは、彼は相当な悪党のようですね。」


「あの方、ローダス・イーリア様は前国王様の年の離れた異母弟君です。10年前に疫病が発生した当初、裏から手を回してご自分だけ船に乗ってお隣の大陸に避難されました。それなのに、国王様と王太子様がお亡くなりになり、疫病も下火になったのを見計らって帰国してきた上に、王位を要求してくるなんて、ありえません!」  


「なるほど、そんな経緯が彼にはあったのですね。では彼にとって今回の婚約話は面白くないでしょうね。これから先、何か妨害してきたりはしませんか?」


「それはないと思います。10年前ならいざ知らず、今の女王陛下にあの方が勝てるわけありませんもの。ふふふ!」


 彼女は軽快に笑って答えた。暫くして音楽止み、クリストファーは令嬢に礼を言い別れた。そして彼は先程の場所で男を見張りつつ、ルルドールが帰って来るのを待とうとした。ところが……


「……あの、私とも踊ってくださいませ。」


「えっ!?」


 クリストファーが振り向くとそこには、彼と踊る為の順番待ちの列が出来つつあった。そして、今もって自分の魅力に全く気づくことのない男は、この状況が理解できず心底驚いた。


「うわっ!えええー!?」


 男は軽く叫び声をあげてしまった。そして、厄介な事になってしまったと頭をかかえたのだった……


 ……そして、クリストファーがなんとかレディー達全員と踊り終わった時には、謎の男がメインの特番が組めるほどの情報を仕入れる事に成功していた。

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